第178話 尋問

 オーリック達と合流した清宏は、取り留めのない会話をしながら料理と酒を楽しんでいる。

 先程まで白目を剥いていたペインも匂いに釣られて目を覚まし、ラフタリアに一口食べさせて貰ってからは、配膳された料理を瞬時に丸呑みしては注文を繰り返し、厨房からは料理人達の悲鳴と怒鳴り声が聞こえてくる。


 「それにしても普通に美味いなこの店」


 清宏は自分の料理を食べ終え、一息ついて呟いた。


 「でしょ?これがまた飽きないのよねー」


 「この店は素朴な味付けですが、量に対して価格もそこそこですし重宝していますのよ」


 サラダを指で摘んで食べているラフタリアとは対照的に、ルミネは焼き魚をナイフとフォークで綺麗に切り分けながら上品に口に運んで清宏の呟きに答えた。


 「お前等は金持ってんだろ?それこそこの前の王様からの依頼で儲かったはずだし、もっと良い店で食べようとは思わないのか?」


 「いえ・・・確かに上位の冒険者は多額の報酬を得る事が出来ますが、依頼の難易度が上がれば、それに伴い支出も増えるのですよ。

 回復薬などの消耗品は勿論ですが、討伐依頼などでは、その討伐対象に応じた武具や魔道具を揃えなければいけませんし、依頼達成後もそれらの整備にお金が掛かりますからね・・・場合によっては赤字になる事もあるんです」


 「ええ、それ以外にもお金は何かと必要になりますし、私達も普段は節約しているんですの。

 だからこそ、ここのように安くて美味しいお店は冒険者に人気が高いんです・・・まぁ、私達の場合は結構名が知られていますし、個別の依頼などでちょっとしたお小遣いには困りませんが、それでも蓄えは大事ですから」


 清宏の疑問に答えたオーリックとルミネは、苦笑しながらお茶を口に含む。

 既に食べ終わっていたジルとカリスは、先程からずっと酒を飲み続けており、まったく話を聞いていないようだ。


 「個別の依頼ねぇ・・・確か、リンクスはそれで旦那を見つけたんだったか?ちなみに、お前等はどんな依頼を受けてんだ?」


 「一番多いのは要人の護衛ですが、私は貴族の子息に剣の稽古を行っています。カリスは力仕事を頼まれる事が多いようです」


 「なんか違和感無いな・・・で、ルミネとラフタリアは?」


 「私は司祭としての務めもありますし、護衛以外では特には・・・まぁ、私は元々あまりお金を使う方ではありませんからね。

 ラフタリアは低難易度の依頼を大量に受けているようですわ」


 「お前・・・」


 「何よその哀れむような目は・・・」


 「いや、別に」


 ラフタリアに睨まれ、清宏は真顔で答える。

 清宏が酒で口を潤すと、ジルが背後に忍び寄り、肩に腕を回した。


 「何で俺の事は聞いてくれねーんだよダンナ!」


 「お前は聞かなくても想像出来るんだよな・・・どうせ、本業かギャンブルだろ?」


 清宏が答えると、オーリック達の間に微妙な空気が流れ、ジルも目を逸らして口笛を吹き出した。

 

 「清宏殿、ジルはギャンブルを禁止されているのです・・・」


 「禁止か・・・ぼろ負けしたか、それともイカサマがバレたか?」


 清宏がジト目で睨むと、ジルは慌てて離れて勢い良く首を振る。


 「イカサマなんかしねーって!勝ち過ぎて出禁になったんだよ!!顔バレしてるから他の賭場にも行けねーし散々だぜまったく・・・」


 「おいおい、それはギャンブラーとしてどうなんだよ・・・馬鹿勝ちしまくりゃそうなるって分かんだろ普通」


 「それは言わないでくれよぉ・・・」

 

 清宏は、涙目で肩を落としたジルを見てため息をつくと、先程までとは打って変わり真面目な表情でオーリックを見た。


 「なぁ、お前等は俺に何か隠してる事があるんじゃないか?」


 「いえ、特にはありませんが・・・何故そう思われるのですか?」


 真っ直ぐ見つめてくる清宏に対し、オーリックは困ったように笑い、聞き返す。

 清宏は腕を組むと、オーリックを睨んだ。


 「いやな・・・俺達の事を報告したからには、絶対に何かしら問題が起きただろう?魔族との和睦ともなれば、反対する奴が必ず出てくるのは目に見えてるからな。

 国にしろ組織にしろ、人が多く集まれば必ず意見が食い違う奴が居るもんだ・・・それが何も問題無かったなんて信じられる訳ないだろ?」


 「確かに清宏殿の仰っている事は間違いではないのでしょう・・・ですが、貴方達とこの国の戦力の差を考えれば、下手に刺激して争うよりも、まずは話を聞く事の方が大事であると陛下が判断し、皆がそれに賛同したとなれば、特に怪しむ事などはないと思うのですが?」


 「ふむ・・・まぁ、時にはそういう事もあるんだろうな。だがよ、それで納得してくださいってのは無えんじゃねーのか?

 正直、俺は絶対に何かあったと疑っている・・・何も無かったって言うなら、それをちゃんと証明してくれよ」


 「形の無いものを証明しろとは、貴方らしい理不尽な要求ですわね・・・そんな事が出来ない事くらい貴方も分かってらっしゃるでしょう?」


 清宏の無茶な物言いに、ルミネはお茶を飲みながら答え、苦笑する。

 それに対し、清宏はオーリックから目を離さずに鼻で笑った。


 「まだしらを切るって言うなら、話しやすくしてやろうじゃないか。

 まず、お前等は国王からの依頼で俺達の城の調査に来たんだろう?その時、報告の義務があると言っていたし、さっき報酬の話をした時にも否定はしなかった。ギルドの依頼でも報告義務があるのは確認済みだ・・・俺もお前等に依頼し報酬を前払いで与えたからには、俺にも納得のいく報告を受ける権利があるはずだろう。

 さらに言えば、もし俺の考えが正しかった場合、お前等は俺だけではなくラフタリアにも隠し事をしてるって事になる・・・長年一緒に苦楽を共にした仲間に対して、それはあんまりじゃないかと思うんだがな?まさか、ラフタリアを信頼してないって事は無いだろうな?」


 清宏が話しを終えると、まだ食べ続けているペイン以外が押し黙った。

 清宏は相変わらず真面目な表情でオーリックを見ていたが、次の瞬間ニヤリと笑った・・・オーリックが一瞬だけ清宏から目を逸らしたのだ。


 「オーリック、お前に一つ良い事を教えてやるよ・・・嘘を見抜くにはコツがあってな、男ってのは嘘をつく時に無意識に目を逸らし、女は逆に相手の目を見つめて疑いを晴らそうとする。他にも間が長かったり過度に煽ったり、聞こえているのに聞き返す、答えずに意見を求めてくるなど結構色々とある・・・ただ、お前程の男がそう簡単に嘘だとバレるような行動をするとは思えないが、確かに今俺から目を逸らした。それは何故か・・・お前、今一瞬だけルミネを見たよな?お前等ならアイコンタクトも出来るだろうし、どうしようか意見を求めたんじゃないか?」


 清宏は勝ち誇ったようにオーリックを見ると、それまで黙って話を聞いていたジルが吹き出した。


 「ぷっ!あはははは!もうダメだわオーリック、これ以上はダンナには意味無えわ!!」


 「もう、本当に貴方は馬鹿正直ですわね・・・あそこで私を見たら、疑って下さいと言ってるようなものでしょう?ただでさえ清宏さんは曲者なんですから、少しは慎重になって貰わないと困りますわ」


 「面目ない・・・まさか、ずっと私を狙ってくるとは思わなくてな」


 ジルに笑われ、ルミネに呆れられたオーリックは項垂れてため息をついた。

 それを見た清宏は声を殺して笑い、オーリックにお茶を差し出す。


 「すまんな、お前が一番ボロを出しやすそうだって思ってな・・・カリスは無口で表情変わらんし、ジルは仕事柄尋問するのも受けるのも慣れてるだろ?ルミネは性格ねじ曲がってるから絶対にぼろは出さないだろうし、そうなると生真面目なお前以外居なかったんだよ・・・まぁ、かなり無理な通し方だったから、お前以外には通用しなかっただろうってのもあるがな。

 だが、お前等もお前等だぞ?今回は無事にしらを切り通す事が出来たとしても、どこから話が出てくるか分かったもんじゃない・・・もし俺が後から嘘ついてたと知ったら、タダじゃ済まさないからな」


 「申し訳ありませんでした。我々も迷ってはいたのですが、リリス様をはじめ皆さんには大変お世話になりましたし、これ以上ご心配をおかけする訳にはいかないと思ったものですから・・・陛下も我々を信じてくださり良い方向へと向かっている中、我々の問題に貴方達を巻き込む訳にはいかなかったのです」


 「馬鹿野郎・・・そこも含めて何かゴタゴタに巻き込まれたら必ず面倒見るって言っただろ?俺等の都合にお前等を巻き込んだんだし、そのくらいはさせてくれよ・・・さてと、何があったか詳しく聞かせて貰おうか?」


 「はい、全てお話しいたします」


 「ねぇ、ちょっと待ってくださらない?何気に今私の事を性格がねじ曲がってるとか言いましたわよね?」


 「お前も俺を曲者扱いしたじゃねーか!」


 ルミネに叩かれそうになっている清宏にオーリックは苦笑して頷くと、王都に帰還してから起こった全ての出来事を洗いざらい清宏に話し始めた。


 

 

 

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