第172話 社畜の精神
ヴァルカン達の見送りが終わり、皆はいつも通り各々の作業を開始する。
清宏は広間に残り、リリス・ペイン・ラフタリア・マーサを集めて話し合いを始めた。
「さてと、結局マーサの調子はどんな感じだ?
魔道具を造ったは良いが、色々と立て込んでてゆっくりと話を聞く時間が無かったからな・・・」
清宏が尋ねると、ラフタリアは気まずそうに俯く・・・マーサはまだ眠いのか、まだ瞼が開ききっていない。
「その反応を見るに、今のところ変わりなしか・・・アルコー様が造ったから大丈夫だとは思うんだが、今までが長かった分効果が出にくいのかもしれないな。
正直なところ効果が確認出来るまで居て欲しいとは思うんだが、あまり引き止めたら親父さんが心配しそうだし、この辺で一度帰らせたらどうだ?
米なんかの引き取りでペインには頻繁に向こうに行ってもらうつもりだし、その時確認させれば良いからな」
「確かにそれが良いかもしれん・・・うちもこれから忙しくなるし、下手に長居してお主達の村が何かと疑われたりしたら困るからのう。
それに、ヴァルカン達から話を聞いたじぃじが来る可能性もあるし、真実の眼を持っておる事はあまり広まって欲しくないのじゃよ・・・じぃじは大丈夫だとは思うが、強力なスキルゆえ他者にバレたら狙われかねん」
清宏とリリスに諭され、ラフタリアはマーサを見て頷く。
「それが良いのかもしれないわね・・・何だかんだで母様がここに来て10日は経つし、そろそろ父様が心配してそうだもの。
で、どうするの?私達も今日たった方が良いのかしら?」
ラフタリアに尋ねられ、清宏はペインを見た。
メジェドから受けた傷は癒えたとは言え、まだ本調子であるか分からないからだ。
ペインはその意図を察したのか、ニヤリと笑って頷いた・・・清宏はそれを見て、ラフタリアに向き直る。
「こいつは大丈夫そうだが、せっかくだし今日まで休んで明日出発したら良い。
それと、今回は俺もついて行こうと思う・・・マーサには世話になったし、送り出してくれた村の人達にも米なんかの件も含めて直接礼を言いたいからな」
「ふむ・・・妾もそれが良いと思うぞ!せっかくだし、お主も久しぶりの休暇を楽しんでくれば良い!!」
リリスは喜んで同意したが、清宏は苦笑した。
「別に休暇を取るつもりで一緒に行く訳じゃねーよ・・・他にも行きたいあるんだよ」
「何じゃ?」
「まずはマーサを送ってから王都に行き、会えるのなら王様に挨拶をしたいと思っているんだ・・・お前は会談で会うだろうが、俺まで一緒に行く訳にいかないだろ?副官の俺がまったく顔を見せないっても失礼になるだろうし、前もって挨拶に行っておきたいんだ。
あと、海沿いの街に行って海の幸の仕入れの段取りと、うちで働いてくれそうな魔族なんかの勧誘もしたい・・・コーラルは引き篭もっててあまり役に立たんから、湖に落とした侵入者達を助けるために何人か探したいんだ。
今のところ城に来てるのはスキルの充実している冒険者ばかりだが、今後一般人もターゲットにするとなると、溺れるのも少なからず出てくるだろう?問題が起きてから対応したって遅いし、不安の目は早めに潰しとかないとな・・・それに、王様には俺達がちゃんと安全に気を配ってるってアピールも出来るって訳だ」
清宏が説明を終えると、大人しく聞いていたリリスとラフタリアが深いため息をつき、ペインは呆れて笑った。
「何じゃ・・・要するにじゃぞ?お主は世話になった取引先への礼と、別の取引先への営業、そして仕入れの段取りと求人をしに行くと言いたいんじゃな?」
「そうだな・・・何か問題あるか?」
清宏は首を傾げて聞き返すが、リリスは呆れて首を振った。
「お主には、何を言っても無駄じゃという事が良く分かったわい・・・お主のようなのを社畜と言うんじゃな、また一つ学んだわい」
「本当よね・・・清宏、あんたって普通に別の仕事に就いても大丈夫そうだと思うわ・・・」
「貴様はつくづく働くのが趣味のような男であるな・・・その若さで枯れた人生まっしぐらとは恐れ入るのであるよ」
3人に揃ってダメ出しされた清宏は、拳を握って震えだし、椅子を蹴り倒して立ち上がった。
「他にやる奴が居ねーからじゃねーか!俺だって晴耕雨読の生活をしてーんだよ!!」
「晴耕雨読とは何であるか?」
ペインに尋ねられ、清宏は腕を組んで胸を張る。
「晴れた日には畑を耕し、雨の日には本を読んで過ごす生活の事だ!どうだ、贅沢な暮らしだろう!?」
得意げな清宏とは打って変わり、3人の表情はあからさまに引きつっている。
「結局、枯れておるのは変わらないのであるな・・・」
「あのさ・・・言い難いんだけど、今時エルフだってそんな生活してないわよ?」
「まさか、忙し過ぎて欲を忘れてしまったのかのう・・・本当に不憫な奴じゃ」
結局、清宏の主張は3人には理解される事が無く、いじけた清宏を丸一日掛けてアンネが甲斐甲斐しくフォローするだけで貴重な1日が終わってしまった。
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