第167話 巨大な骸骨

 リリスは清宏から装置を受け取り、床に置いて手をかざす・・・だが、先程までと違ってまったく発動する様子がない。

 その代わり何故かリリスがプルプルと震え出し、後ろを振り返った。


 「ギャーギャー騒がしいぞお主等!集中せねばならんのは知っておるじゃろ!?」


 リリスが怒鳴ると、騒がしかった広間が静まりかえり、空中を羽毛が舞う。

 鎖で縛られた状態でシスに足蹴にされていたパンツァーは、諦める事なくスカートの中を覗き込み続け、頭に生えていた羽毛がすっかり抜け落ちてハゲワシになっている。

 清宏は無言でパンツァーに拳骨を食らわせて気絶させると、禿げ上がった頭にポーションをかけ、過去最大のため息をついた。


 「なんちゅう奴だよマジで・・・ある意味、ペインの比じゃねーぞ。

 こんなんで皆んなとやっていけんのか、正直不安になってきたわ・・・」


 「妾もじゃ・・・何でこう癖のありすぎるのばかり集まるんじゃ?」


 「類は友を呼ぶって言うからな」


 「お主が類か?」


 「おめーだ馬鹿・・・さて、やっと静かになったし続けるぞ。

 次は闇属性だったな・・・なんか、魔族って基本的に闇に分類されてそうだから、何が来るか想像つかないんだよなぁ」


 清宏が腕を組んで唸ると、リリスは苦笑しながら装置に向き直った。


 「お主の考えは、あながち間違いではないぞ?

 ただ、闇属性に属する者の殆どは、他の属性の者達よりも扱いにくいのが多いんじゃ・・・うちで言うならアルトリウスのような真祖の吸血鬼や、他にも不死の王と呼ばれておるリッチなどが代表的じゃな」


 「リッチって言ったら、魔法なんかに長けたスケルトンみたいな奴だったか?」


 「うむ・・・不老不死を求めて闇に堕ちた魔法使いがなる事が多いのう。

 長い年月を経た者は知恵と知識を兼ね備え、更には研鑽を積み重ねてより強力になっていく・・・不死者の中では力ならば吸血鬼じゃが、魔力量ならばリッチを超える者はおらんじゃろう。

 ちなみに骨の状態のリッチは男の場合のみで、女のリッチは肉体があるぞ?まぁ、その話はまた後ほどするとしよう・・・」


 リリスは再度手をかざし装置に魔力を送る・・・そして、またもや巨大な影が現れた。

 その姿を見たリリス達は、皆揃って首を傾げた・・・目の前に現れたのは、本来の姿のペインをも凌ぐ巨大な骸骨だったのだ。


 「や、やたらデカいスケルトンじゃな・・・」


 「巨人族のスケルトンなんて居たかしらぁ?」


 「奴等はスケルトンにはならんだろう・・・」


 「ならばゴーレムであるか?骨のゴーレムなぞ、意味の無い者を造って何になるのである?」


 リリスを始め、他の種族に詳しいであろう4人が揃って首を傾げる中、清宏は何かを思い出して手を叩いた。


 「たぶん、こいつ餓者髑髏だ!」


 「ガシャ・・・何じゃ?」


 「ガ・シャ・ド・ク・ロ!って奴だと思う」


 「何じゃそいつは・・・お主達は知っておるか?」


 リリスはヴァルカン達に尋ねたが、皆首を振っている。


 「清宏よ、知っているなら教えてくれ」


 清宏はヴァルカンに頷くと、身動き一つしない巨大な骸骨を見た。


 「餓者髑髏は、戦死者やのたれ死にした者なんかの、埋葬されなかった死者達の骸や怨念が集まって巨大な骸骨の姿になったと言われています。

 夜中にガチガチという音を立ててさまよい歩き、生きた人間を見つけると襲いかかって握り潰し、食らうらしいです・・・俺の考えが正しければ、こいつはたぶん信濃の居る東の方の魔物だと思います」


 「東か・・・向こうは文化も魔物も独自の進化をしているから、知らない奴が居ても不思議ではないな・・・だが、何故お前はそれを知っている?」


 「東端の国って、俺が居た世界・・・もっといえば、俺の故郷と似ているんです。

 まぁ、まだ行った事はありませんが、米が主食だったり醤油や味噌、焼酎なんかは向こうにもありましたからね・・・それに、信濃や鞍馬って名前の響きも、俺の国の言葉と共通していますしね」


 清宏が説明すると、ヴァルカンは申し訳なさそうに俯く。


 「すまなかった・・・」


 「構いませんよ!また一つ共通点らしきものが見つかったのは嬉しい限りですからね!

 それより、こいつは喋れないのかな・・・」


 「そういえばぁ、以前信濃が厄介な魔物が居て困ってるって言ってた気がするわねぇ・・・。

 何か話が通じない上にやたら凶暴でぇ、鞍馬と一緒に何とか封印したらしいんだけどぉ、年々力が増してていつ封印を破って出てくるか分からないから怖いって言ってたわぁ。

 それにしてもぉ、さっきからまったく動かないわねぇこの子・・・清ちゃんの話を聞いてこの子かと思ったんだけどぉ、もしかして違うのかしらぁ?人族が近くにいても襲わないしねぇ・・・」


 アルコーは巨大な骸骨に近づいて脛を叩くが、まったく反応しない。

 以前信濃が言っていた魔物がどの様な者かは分からないが、こちらの世界では埋葬されずに放置された死体には事欠かない・・・魔族による被害だけでなく、同じ人族によって殺されたり、行き倒れた死体も含めれば相当な数になるだろう。

 そして、その犠牲者達の骸や怨念が餓者髑髏の力を増す原因となっている可能性は十二分にある。

 もちろんこの巨大な骸骨が餓者髑髏ではないという可能性もあるが、先程からまったく反応しないため確認のしようがない状態だ。


 「まぁ、今のところ無害ですし、適当な部屋に放置しときましょうかね・・・。

 それにしても、パンツァー以外はやたらとダウナー系と言うか静かな奴ばっかりだな今日は・・・光はどうなるんだ一体」


 清宏は広間の隣に部屋を新たに2部屋造り、そこに寝太郎と巨大な骸骨を無理矢理押し込んで戻って来た。

 すると、リリス達魔王3人組が何やらヒソヒソと話し合っている。


 「なぁ、お主達は光属性の魔族を見た事があるかのう?」


 「聞いた事も無いな・・・」


 「一体何が来るか気になるわねぇ・・・何も起きなきゃ良いけどねぇ」


 3人の会話に聞き耳を立てていた清宏は、心の中で「またフラグ立てやがった・・・」と考えながら、装置を組み立て直していた。


 

 

 

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