第163話 今後の対策

 実験を終えた清宏達は、被害が出た箇所の修復と確認を済ませ、遅めの昼食を摂りながら今回の結果と今後について話し合っている。

 今回の実験では、城全体で見た場合、一番被害が大きかったのは土属性だったのだが、光と闇以外の他の属性は、どれも状況次第で天変地異を引き起こす可能性が高く非常に危険であるということが分かった。

 ただ、使い方次第ではどれも恩恵を受けられるものだ・・・水属性の魔召石は干ばつに苦しむ土地にとってはこれ以上ない効果を発揮し、火属性は逆に雨や雪の多い地域で重宝されるだろう。

 それ以外の属性も、使い方を工夫する事で暮らしを豊かにする大きな助けになる・・・だが、それは使い手次第で良くも悪くも変わってしまうものだ。

 属性付きの魔召石を暴走させるには魔王級の魔力量が必要であり、魔召石を作れるのも魔王のみで大量生産も出来ない・・・しかし、膨大な魔術回路と起動用に大量の魔石があれば、人間でも簡単な兵器くらいは作製出来る。

 そして、一番の問題は他の魔王達がそれを悪用する可能性だ・・・敵を攻める必要もなく、甚大な被害を引き起こす程の可能性を秘めた物を手に入れ、試したくないと思うだろうか?

 今まさに、清宏達はそこについて詳しく話をしている。

 

 「どうしましょうかねぇ・・・」


 「どうしようかしらねぇ・・・」


 清宏とアルコーは、デザートのアップルパイをフォークで突きながら頬杖をついている。

 突くタイミングもポーズもまったく同じなため、そんな2人を見ていたリリス達は苦笑した。


 「そっくりじゃなお主達は・・・そうやっておっても解決せんぞ?」


 「仕方ねーじゃねーか、お前ならあんな危険な物を気前良く渡せるか?仮に、属性付き魔召石を造る装置をお前とヴァルカン様達だけが持つにしても、それを利用した武具を悪用したり、魔道具から抜き出されたら意味無いんだよ・・・。

 人族だって、やり方次第では悪用出来るんだし、渡すのは信頼出来る相手じゃないと無理だ・・・それを言ったらクリスさんくらいのもんだろ?

 あの人なら、魔道具や魔石に対する知識もある上に人格も問題ないし、何より俺が頼んだら絶対に約束を守ってくれるだろうからな」


 「清宏、お前がそれ程の信を置くクリスとは何者だ?」


 清宏が、細切れになってしまったアップルパイを食べながらリリスに説明をすると、それまで黙って対策を考えていたヴァルカンが興味深げに尋ねた。

 口の中のアップルパイを紅茶で流し込んだ清宏は、ヴァルカンを見て意味深に笑った。


 「クリスさんは、魔道具や武具を専門に扱っているオズウェルト商会ってところの代表さんです。

 とにかく魔道具とかが大好きで、俺とも話が合う面白い人なんですよ・・・知識なら確実に俺より上ですし、たぶんお2人ともすぐに仲良くなれる貴重な人族です」


 「オズウェルト商会か、聞いた事があるな・・・結構手広く商いをしているのは知っているが、関わる事など無いと思っていた。

 貴様がそこまで言うならば、信頼出来る御仁なのだろう・・・一度直接話を聞いてみたいものだ」


 「私もそこなら知ってるわぁ!一度だけ変装して店を見に行った事があるけどぉ、魔道具の扱いが丁寧でなかなか良いところだったわよぉ!まぁ、流石に長居はしなかったけどねぇ・・・でもぉ、清ちゃんが信頼してる人族なら会ってみたいかもねぇ」


 「おぉ、是非紹介させて下さいよ!いやぁ、あの人の妙なこだわりとか聞きながら酒飲むのが最高なんですよ!普段は厳しい人らしいんですが、魔道具なんかの話になると、目を輝かせて子供みたいにはしゃぐ姿が可愛いんです!」


 清宏は嬉しそうに2人に話をしているが、隣に座っているリリスは呆れている。

 それに気付いた清宏は、恥ずかしそうに椅子に座り直した。


 「すまん、話が脱線した・・・でも、お前もあの人なら信頼出来るだろ?」


 「それはまぁ、そうじゃな・・・だが、クリス殿は良くても、その下で働いておる者達の事は知らんからのう。

 オズウェルト商会は大きい・・・そうなれば、邪な考えを持ってしまう者が現れても不思議ではないじゃろ?」


 「まぁな・・・それは俺も思ってるよ。

 でも、石鹸の生産を国家産業としていくには、大量の電力が欲しいんだよなぁ・・・それには、雷の魔召石があった方が絶対に効率が良い。

 確かに管理は大変だし取り扱いには厳重な注意が必要だが、それを理由に全てにダメ出しなんてしてたら、俺達の事を認めさせるのなんて夢のまた夢じゃないか?」


 「むぅ・・・痛いところを突くのう。

 妾だってお主の言い分はわからんでもない・・・確かに、互いに信頼し合うにはどちらかが先に誠意を見せる必要もあるじゃろう。

 じゃが、アレはなぁ・・・少なくとも、うちの者を誰か責任者として常駐させるようにしなければ、いざという時に困るんじゃないか?妾が召喚した者であれば、尚更不正の抑止力にもなるじゃろう」


 「うーん・・・人数が少ないから、現状では難しいんだよなぁ。

 まぁ、その辺はまた今度話そう・・・今はどうやって他の魔王達に属性付き魔召石を悪用させないかだな」


 「俺から提案があるんだが、良いか?」


 清宏が話を戻すと、ヴァルカンが挙手をした。

 先程まで殆ど話し合いには参加せず、1人黙々と考えていたのだが、何か妙案でも浮かんだのだろうか?


 「俺は、属性付与の魔召石を造る装置を持つのは我等3人だけで良いと思う・・・それならば、流通を最小限に抑えられるし、属性付きの魔石ですら武具や魔道具以外で使う事など殆ど無いから、他の魔王にとっては旨味がない。

 だが、今朝言った通り、召喚用の魔道具ならば皆喉から手が出る程欲しがるはずだ・・・あれさえあれば、無駄な召喚を繰り返さずとも欲しい属性の配下を手に入れられるのだからな。

 あれをメインに他にも食い付きそうな条件をいくつか用意して悪用しないように交渉すれば、悪い結果にはならないだろう・・・もし条件を断るならば魔道具はやらんと言えば良いだけだからそんなに難しくはない。

 まぁ、一番の問題はまだ1回しか試していない事だがな・・・ちゃんと完成しているかまた実験するしかない」


 実験と言う言葉を聞き、清宏とアルコーは顔をしかめた・・・先程までの暴走実験が、相当堪えているらしい。


 「元々は俺もあの魔道具を利用するつもりでしたからね・・・ただ、他の魔王が何で喜ぶのかがわからないんだよなぁ。

 正直、時間が無いのにやる事いっぱいで泣きそうになるわ・・・」


 「お勉強なら私が付き合ってあげるわよぉ?」


 「アルコー様の個人授業・・・何それエロい」


 「清ちゃんが一問正解するたびにぃ、私が一枚ずつ脱いでいきまぁす!その後はぁ・・・」


 「いや、そう言うのはいりませんからね・・・それ以前に、今アルコー様が着てるのってビッチーズのドレスでしょ?それだと着てても中も合わせて3枚くらいじゃないですか」


 清宏が面倒くさそうに答えると、アルコーは妖しく笑って腕に抱きつく。


 「残念でしたぁ、1枚でぇす!不正解だったからぁ、清ちゃんは全部脱いでねぇ!!」


 「まさかの直!?なおさらやらんわ!!」


 清宏は慌ててアルコーを振りほどき、距離を取って身構える。

 アルコーはそれを見て笑い、ため息をついた。


 「冗談よぉ・・・私だってまだ死にたくないしぃ、協力するからには真面目に教えるわよぉ」


 「信用出来ないので、ヴァルカン様とペインも同席する事を要求します!!」


 「む?我輩もであるか・・・」


 「アルコー様が何か怪しい動きを見せたら取り押さえろ・・・報酬は肉だ」


 「ふははははは!泥舟に乗ったつもりで任せるのである!!」


 「それを言うなら大船だ・・・」


 ペインは得意げに笑い、ヴァルカンに小突かれて恥ずかしそうに俯いたが、肉を想像してヨダレを垂らしている。

 清宏はアルコーとの距離を保ちながら後退り、工房に入っていき、アルコー達もそれに続く。

 

 「あれぇ・・・まさか、妾は用無しなのか?」


 その語、1人残されてしまったリリスは、いじけながらヴィッキーと親睦を深めていた。

 

 

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