第149話 歓迎会

 清宏達が話を切り上げて工房から出ると、広間には豪勢な食事が用意されていた。

 昼の間に準備を済ませ、温め直せばすぐに食べられる状態にしてあったのだ。

 今日はヴァルカン達の歓迎会という事で、普段は食事を摂らないビッチーズ達も広間に集まっている。


 「これはまた豪勢だな」


 「まさか、私達のために用意してくれてたのかしらぁ?」


 「うむ!お主等は客として訪ねて来たんじゃし、妾達はこのくらいしか持てなせぬが、今日くらいは食べて飲んで楽しんで欲しくてのう・・・どうせお主等は普段はあまり食べんのじゃろう?」


 2人が驚きつつも嬉しそうに笑うと、先に広間で待っていたリリスが2人を席に案内した。

 清宏は席に着く前にレイスに話しかけている。

 

 「準備を任せきりにしてすまなかったな、問題無かったか?」


 「はい、レティ様はこれまでにも料理の経験があったらしく、安心して準備が出来ました」


 「そうか、あいつも真面目にしてりゃあ良い奴なんだがなぁ・・・まぁ、何はともあれ助かったよレイス」


 「いえ、私はこのくらいの事でしか貢献出来ませんので・・・」


 「レイス、そういう言い方はするな・・・俺が一度でもそれを責めた事があるか?

 お前は十分過ぎるくらい頑張ってくれている・・・だから、二度と言わないでくれ」


 「ありがとうございます」


 「あらぁ、凄いわねぇそれ・・・」


 清宏とレイスが話していると、いつの間にかアルコーが隣に立っていた。

 アルコーはレイスの魔道具を見て目を輝かせている。


 「驚かせないでくださいよ・・・」


 「だってぇ、清ちゃんがしきりにスケルトンに話しかけてるから気になったんだものぉ・・・まさか、こんな形で意思疎通が出来るようにするなんて驚きよぉ!あとで詳しく教えて欲しいわぁ!」


 「わかりました、じゃあまた明日にでもレイスと3人で話しましょう・・・正直、口で説明するより、実際に見てもらった方が早そうですからね」


 清宏は、レイスに食いつかんばかりのアルコーに苦笑し、何とか引き剥がして席に着いた。

 リリスはそれを見て席を立ち、咳払いをした・・・皆の視線がリリスに集まる。


 「さて、皆席に着いたようじゃな・・・皆も知っての通り、今日は特別な客人が来ておる。

 さっき紹介出来んかった者もおるゆえ、改めて紹介しよう・・・魔王ヴァルカンとアルコーじゃ。

 2人はそれぞれ武具と魔道具に精通しており、自身も職人としてかなりの腕を持っておる・・・恐らく、冒険者であるローエン達ならば知っておるだろう。

 2人は普段はあまり人前に姿を現さぬゆえ、初めて見た者も多いとは思う・・・じゃが、魔王とは言ってもガングートのような戦闘狂とは違うから心配はいらんぞ?妾以外の魔王と接することの出来る貴重な機会じゃから、皆も親交を深めて貰いたい。

 では、2人からは何か無いかの?せっかくじゃし何かあればこの場で言ってみたらどうじゃ?」


 挨拶を終えたリリスに話を振られ2人は苦笑したが、ヴァルカンが立ち上がって皆を見た。


 「俺の名はヴァルカンだ・・・まさか振られるとは思っていなかったため、上手く話せるかはわからん。

 皆には、急な訪問となり申し訳なく思っている・・・このように、他の魔王が訪ねて来る事自体が珍しく、不安に思う者も居ることだろう。

 だが、我等は今日ここに来て多くの事を学び、そして気付かされた・・・それは、魔王リリスの副官である清宏のおかげだ。

 我等は、ここに来るまで全ての人族に対して偏見や恨みを持っていた・・・だが、今日我等に対して多くのものを与えてくれたのは、その人族だったのだ。

 先程魔王リリスが言っていたが、ここには人間の冒険者が居るのだろう?良ければ、武具に対する意見などがあれば聞かせて貰いたい・・・俺は、ここで皆から聞いた事を今後に活かせて行けたらと思っている。

 このくらいで良いか?正直、俺は話すのは得意じゃ無い・・・」


 アルコーは、滝のような汗を流しているヴァルカンを見て笑って席を立つ。

 ヴァルカンは深いため息をついて席に着いた。


 「私はアルコー、魔道具製作が得意よぉ。

 今ヴァルカンも言ってたけど、正直私達は人族に対してあまり良い印象は持ってなかったわぁ・・・でも、ここって不思議よねぇ。

 私は、最初は何で人族なんかにって思ってたのに、いざ話を聞いて作業風景を見てたら、そんな事を気にしてた自分が馬鹿らしくなってきちゃったのよねぇ・・・魔族のアンネちゃんと人族のシスちゃんが仲良くしてたのもあるけど、皆んな普通に過ごしてて、私の方がおかしいのかと思ったわよぉ。

 私達はエルフとドワーフの混血だけど、魔王の証を持って産まれてしまった所為で、人族から迫害され、両親を殺されたわぁ・・・最初はただ憎み恨んでいたけど、最近では人族を見返したい一心で製作に打ち込んでたのぉ。

 でも、今日ここに来て気付かされたわぁ・・・例え種族や立場が違っても、同じ志を持つ者なら教え教わることが出来るのねぇ・・・魔王として長いこと生きて来たのに、自分の視野の狭さに嫌気がさしたわぁ。

 流石に、全ての人族と今すぐ分かり合えって言われても困るけどぉ、今ここに居る人族とは仲良くなれそうな気がしてるわよぉ・・・だから、今日は私達が魔王とか気にせず話が出来たら嬉しいわぁ!」


 アルコーがウインクをすると、ローエンとグレンが感嘆の声を上げた。

 そんな2人に対してシスが虫を見る目をし、清宏も呆れてため息をついた。


 「お前等は本当に逞しいな・・・アルコー様は確かに美人でスタイル抜群だが、魔王であり大切な客人だからな?もし何かやらかして問題になったらただじゃ済まさねーから覚悟しとけよ。

 そんなに欲求不満なら、今夜はビッチーズの部屋で寝ると良い」


 「仕方ねーだろ!見知らぬ美人のウインクに反応しないのなんて、魔道具で性欲抑えてるダンナくらいのもんだ!俺達は悪くねぇからな!?」


 「はいはい、いい加減飯にしようや・・・せっかくの夕飯が冷めちまう。

 そういえば、お2人はお酒は大丈夫ですよね?あと、肉類はどうです?もしダメなら、ラフタリアとマーサと同じ物をご用意しますよ」


 清宏は、抗議をしているグレンを軽くあしらい、ヴァルカン達に確認する・・・だが、2人の目が酒に釘付けになって聞いておらず、清宏は諦めてグラスを持った。


 「んじゃまぁ、今日の客人は酒好きみたいだから飲み放題って事で・・・乾杯!」


 「っぷはぁ!やっぱり、1日の終わりにはこれよねぇ!」


 「それに関しては同感だ・・・まぁ、俺は作業中も飲んでいるがな」


 「早っ!?ピッチャーサイズですよそれ!!」


 乾杯の音頭と共にエールを飲み干した2人に、清宏は呆れながら2杯目を注いでいる。

 ドワーフの血が成せる技なのだろうか、2人のペースは異常な程に早い。


 「ねぇ清ちゃん、他には無いのかしらぁ?やっぱり、醸造酒よりも蒸留酒の方が飲み甲斐があるのよねぇ・・・」


 「蒸留酒なら、最近焼酎を手に入れたのでお出ししましょうか?」


 清宏はアイテムボックスから亀壺と小さめのグラスを取り出し、2人に渡す。

 エールやワインなどの醸造酒と違い、焼酎やウイスキーなどの蒸留酒はアルコール度数が高い。

 ウイスキーならばロックや炭酸割り、焼酎ならばロックや水割り、お湯割り、炭酸割りが一般的な飲み方だ。

 蒸留酒はアルコール度数が高いが、その分水や炭酸などで割る事が多いため、コンジナーを多く含み、割る事が少ない醸造酒よりも悪酔いしにくいという利点がある。


 「あら、良いわねぇ!芋かしら?それとも米?麦、黒糖、紫蘇とか色々と楽しめるのが焼酎の良いところよねぇ!!」


 「おっ、流石に詳しいですね。これは芋焼酎ですよ」


 「まさか、ここで芋焼酎が飲めるとはな・・・焼酎自体が特定の国でしか出回らないのが難点なのだが、今日は良い事尽くめだな」


 ヴァルカン達は嬉しそうにグラスを受け取ると、真面目な表情で清宏を見た。


 「さて、清ちゃんはどんな飲み方をお勧めしてくれるのかしらぁ?」


 「ふふふ・・・不肖清宏、ここはロックが良いと思いますがいかがでしょう?やはり、割ってしまっては風味が減りますし、ちびちびと楽しむのが乙かと・・・」


 清宏がグラスに氷を入れて焼酎を注ぐと、2人はニヤリと笑った。


 「ふっ・・・流石だな」


 「わかってるわね清ちゃん・・・貴方を名誉ドワーフに認定してあげるわぁ!」


 「ありがたき幸せ!では、改めて乾杯を!!」


 3人はグラスを掲げ、一口飲んで息を吐いた・・・周囲に芋焼酎特有の匂いが広がる。


 「清ちゃん、焼酎に合うおつまみはあるのかしらぁ?」


 「無論、用意しております!」


 清宏はラフタリアが持って来たぬか漬けと豚の角煮を差し出した・・・風味が濃い芋焼酎には、味がしっかりとしたつまみが良く合う。

 ヴァルカンはぬか漬け、アルコーは角煮を口に含むと、幸せそうに笑った。


 「清ちゃん、シェフを呼んでちょうだい!」


 「目の前に居りますが?」


 清宏は自信ありげに胸を張り、笑っている。


 「貴方、本当に何でも出来るわねぇ・・・」


 「これは癖になるな・・・よし、帰りは寄り道して焼酎を買って帰るか。

 すまないが、この漬物を譲ってくれたら助かる」


 「あら、そっちも頂こうかしらぁ」


 3人は、しばらく他の者達そっちのけで焼酎とつまみを楽しみながら会話をし食事が終わる頃には顔が真っ赤になっていた。

 



 

 

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