第135話 集会所
ラフタリアとペインが里に戻ると、目の前を見覚えのある少女が鳥を追いかけ、走り去って行った・・・マーサだ。
そして、それを追うようにラフタリアの父親が走り抜けて行く。
「マーサ!待ちなさい!!」
「鳥さん待ってー」
ペインは大きなため息をつくと、マーサの前に回り込み抱き上げた。
「これマーサ!家族を心配させてはいかんであろう!?」
「だって鳥さんがー」
「鳥と家族のどちらが大事なのであるか!」
「家族ー」
「ならば鳥は諦めるのである」
「わかったー」
ジタバタと暴れていたマーサは、ペインに諭されて大人しくなる。
すると、やっとの事で追いついたラフタリアの父親が、息を切らせながら近寄ってきた・・・その後ろにはラフタリアも居る。
「昨夜に続き、妻がご迷惑をおかけして申し訳ありません・・・なんとお礼を言えば良いか」
「別に構わないのであるよ・・・何故マーサがこのようになってしまったかは、先程ラフタリアから聞いたのである・・・難儀であったな」
ラフタリアの父親は、それを聞いて申し訳なさそうに俯いた。
「そうでしたか・・・ご迷惑をおかけした貴女には、後程お話しようとは思っていましたが、すでに娘から聞いてらしたのですね」
「そう落ち込んではいけないのである。
真実の眼などと言うスキルが発現して、命があるだけでも幸いと思わねばならぬであろう?
マーサは常に笑っているのである・・・ならば、此奴にとって今の生活は満足いくものなのであろう。それは其方をはじめ、この里の者達がそれだけマーサの事を思い、大切にしているからである」
「そのように言っていただけると、我々も救われる思いです・・・」
「そう言えば、まだ其方の名を聞いておらんかったのであるな?我輩はペインである」
ペインが名乗ると、ラフタリアの父親は慌てて居住まいを正した。
「自己紹介が遅れてしまい申し訳ありません・・・私の名はハミルと申します。
ペイン殿には、娘を送って頂いたとお聞きしました・・・。
ラフタリアはやんちゃな娘で、何かとご迷惑をおかけするかとは思いますが、本来は優しい性格の子です・・・ペイン殿さえ良ければ、どうかこれからも仲良くしてやって下さい」
ハミルに握手を求められたペインは、快くそれに応える。
「父様・・・そういうのを本人の前で言うのは、恥ずかしいからそろそろやめて欲しいんだけど?
それより父様、集会所には皆んな集まってるのかしら?」
ラフタリアは恥ずかしそうに咳払いをし、話を変える。
ハミルはそんなラフタリアを見て苦笑し、頷いた。
「あぁ、もう皆んな集まってくれているよ・・・まぁ、私はマーサが鳥を追いかけ出したから、慌てて出てきたんだけどね。
そう言えば、ペイン殿は朝食は食べられましたか?妻の恩人に、あの様な形で申し訳なく思っております・・・」
「いや、我輩こそ申し訳ないのである・・・其方達には其方達の掟があると言うのに、我輩の為にそれを破らせてしまったのであるからな」
「別に良いんじゃないの?どうせ狩っても埋めるだけなんだし、あんたが食べてくれたから埋める手間が省けたわよ。
かなり深く掘らないと他の動物や魔物が掘り返すから、結構面倒くさいのよねあれ・・・」
「そろそろ降りたいー」
3人が話しながら集会所に向かっていると、それまで大人しくペインに抱かれていたマーサが、つまらなそうに呟いた。
「ここが集会所になります。
私は昨夜ラフタリアから簡単には聞いたのですが、あまりに量が多く、皆の同意が必要になるため集まって貰っています」
「そうであったか・・・すまぬな、米が食いたいとやたらうるさいのが居るのであるよ」
「米は良い物ですからね・・・我々エルフ族はパンが食べられないため、主食となる物が少なく困っていたのですが、偶然迷い込んで来た隣国の商人が分けてくれたことで、米を主食としたのですよ。
パンに比べれば米の栄養価は低いですが、生のままでなら保存もききますからね。
炊いて食べるのも良いですが、米の種類によっては餅と言う物に加工して食べる事も出来ますし、お酒の原料にも出来ますから色々と便利なのですよ」
ハミルは可笑しそうに笑うと、エルフが米を主食とした理由を話した。
「ふむ・・・なかなか興味深いのであるな」
「お米は美味しいのよー」
「普段肉しか食べないあんたでも、食べてみたら何か変わるかもよ?清宏だっていつも言ってるでしょ、好き嫌いするなってさ」
「それを言ったら貴様だって・・・いや、我輩の場合はただ食わず嫌いなだけであったな」
ハミルに招かれ、ペインが苦笑しながら集会所に入ると中には20人程のエルフの男女が待っていた。
ペイン達が来たのを見て、年長者らしきエルフの老人が立ち上がり、深々と頭を下げる。
老人は4人が座るのを確認すると、もごもごと口を動かし始めた。
「ようこしょおいで下しゃいました・・・私はこのしゃとのおしゃのナハルと申しましゅ」
(・・・何と言ったのであるか?)
(よく来てくださいました、私はこの里の長のナハルと申しますって言ったのよ・・・長は歯が抜けてて喋りにくいの)
(そ・・・それは難儀であるな)
ナハルの言葉が理解出来なかったペインは、隣にいるラフタリアに尋ねて冷や汗を流した。
自分には理解出来ないとでも思ったのだろう。
「しょれにしてもペイン殿は良い物をお持ちのようでしゅな!エルフの女達は皆おうとちゅがしゅくないので、目の保養になりましゅよ!」
「黙れエロじじい!!」
手で胸の大きさを表しているナハルの顔面に、ラフタリアの投げたブーツがめり込む。
「こりゃ!年寄りをもっと労らんか!しょんなんじゃから、きしゃまはいまだに男にモテんのだじょ!?」
「やかましいってのよ!こう見えてもファンクラブだってあんのよ!!」
ラフタリアはナハルに掴みかかり、乱闘寸前になっている。
「わたしはここに座るのー」
「何なのであるかこれは・・・」
「申し訳ありませんペイン殿・・・長は無類の女好きでして・・・」
マーサは椅子から立ち上がってペインの膝の上に乗り、ハミルは気まずそうに呟いた。
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