第130話 双子②
軽い食事を済ませた2人はその後は黙々と登り続け、3時間程で山頂付近に辿り着いた。
そこからの景色は見渡す限りの雲海が広がり、山肌には草木も生えていないため物寂しく感じる。
「本当にこんな所にあるの?」
「あると言っているのである!我輩が何度墓参りに来ていると思っているのであるか!?」
「で、何度目なのよ?」
疑われたペインは目の前で手を広げ、指を折りながら数え始める。
「ひー・・・ふー・・・みー・・・5回目である!」
「少な過ぎんでしょ!ヴェスタルが死んでいったい何千年経ってると思ってんのよあんた!!」
「うっ・・・我輩だって暇な訳ではないのである!こう見えても何かと忙しいのであるぞ!!」
ペインは額に汗をかきながら、上目遣いでラフタリアを見る。
「どうだか・・・どうせ食っちゃ寝してたか暇潰しになる相手を探してただけで忘れてたんじゃないの?」
「確かにそういう時もあったのである・・・だが、別に忘れていた訳ではないのであるぞ!
あまり我輩が頻繁に訪れては目立ってしまうし、奴等がゆっくりと休めぬと思っておったからで、誓って奴等を忘れた事などないのである!!」
ペインはいつになく真剣な表情で断言した。
それを見たラフタリアはため息をつくと、気を取り直して歩き出した。
「まぁ、あんたが目立つのは確かだし、ゆっくり休んで欲しい気持ちはわかるわ。
さてと、じゃあ早く済ませて行きましょう?」
「うむ!ゆっくりと感傷に浸りたい気持ちも無い訳ではないが、それは次の機会でも問題ないのである・・・我輩にはまだまだ沢山時間があるからな」
ペインはラフタリアに追いつき、ヴェスタルの剣を取り出した。
2人が歩き出し頂上に辿り着くと、そこは綺麗に整地されており、その中央には人の腰の高さ程の楕円形の岩が設置されていた。
「これがヴェスタルのお墓なの?飾り気が無くて寂しくないかしら?」
「ここはおいそれと人が来れる場所ではないが、出来るだけ誰の墓か判らないようにしたのであるよ・・・。
ラフタリアよ、これがヴェスタルの墓である事を、もし貴様が偶然にも知り得たとしたらどうする?宝があるかもしれぬとは思わぬか?」
「それは・・・ごめん、思っちゃうわね」
ラフタリアの答えを聞いたペインは、墓の前にしゃがんで小さく笑った。
「別に謝る必要は無いのである・・・冒険者であれば、そう思ってしまうのも理解出来るのである。
だが我輩も友人の墓を荒らされては見過ごす事は出来ないのである・・・我輩が怒りに任せて暴れれば、世界を破壊し尽くす自信がある。
そうならないようにする為にも、奴等の墓はこのような場所で誰にも知られないようにする必要があったのであるよ・・・我輩も、奴等の生まれ育ったこの世界を破壊したくはないからな」
「正直耳が痛いわ・・・私達冒険者はダンジョンだけじゃなくて古代貴族の墓所とかにも行くし、そこで得た物で利益を得たりするから」
「まぁ、それは職業柄仕方のない事であろうな・・・だが、それを快く思わぬ者がいるという事を忘れぬ事だ」
「えぇ・・・肝に銘じとくわ。
それで、どうするの?そのまま置いといたら誰かに取られるかもよ?」
ラフタリアは神妙に頷くと、ペインの持っている剣を指差した。
するとペインはおもむろに腕を振り上げ、無造作にその腕を振り下ろした。
「この辺で良いかな?」
「ちょっ!?親友の墓に何て事してんのよあんた!!」
ペインが硬い岩の地面に肩まで腕を突き刺したのを見て、ラフタリアは慌てて止めに入ったが、ペインは構わず地中を弄っている。
「お墓と剣が壊れたらどうすんのよ!?あんたがやってんの自体が墓荒らしじゃない!!」
「はっはっは!心配せんでもこの程度で壊れるようなヤワな造りではないのである!!」
「あああ・・・すっかり穴が開いちゃってんじゃない!どうすんのよこれ!!」
「こんな穴は魔法でどうにでもなるのである!!」
ペインは慌てるラフタリアを尻目に、近くから拳大の石を持って来て穴に詰め始める。
石が穴から少しはみ出るくらいまで詰め込んでペインが手をかざすと、ゆっくりと石の形が変わっていき、やがて穴を完全に塞いでしまった。
「あとはこのはみ出た部分を・・・ぺいっ!!
これで完璧なのである!!どうだ、全くわからないであろう?」
しゃがんでいたペインは、盛り上がっていた部分に手刀を繰り出して綺麗に切断し、腕を組んで満足そうに頷いている。
「手刀で岩を削るとか、本当に馬鹿なんじゃないのあんた・・・。
昔、酔っ払ったリンクスが中身の入った高級ワインの瓶を叩き斬って弁償させられた時以上の衝撃だったわ・・・馬鹿だ馬鹿だとは思ってたけど、まさか、 親友のお墓にこんな罰当たりな事をする程の馬鹿だったなんてね」
「馬鹿馬鹿うるさいのである!見栄えが良ければ奴等は何も言わんのである!!」
「そりゃ言わないでしょうよ・・・死んでるんだから」
「まさに死人に口なしであるな!!」
得意げな表情で笑っているペインを無視し、ラフタリアはヴェスタルの墓の前でしゃがみ、胸の前で手の平を組み合わせて祈った。
「む・・・律儀であるな」
「当然でしょ?私は直接は知らないけど、知り合いの友人のお墓なら祈りを捧げるべきだと思うもの」
「ふむ、ならば我輩も・・・むっ!?」
ラフタリアに倣って祈ろうとしていたペインは、不意に背後を振り返る。
「どうしたのよ?」
「ラフタリアよ、我輩の背後に隠れているのである・・・いざという時のため、弓も出しておけ」
ペインのただならぬ気配に、ラフタリアはすぐに弓を取り出して矢をつがえた。
すると、遥か彼方から黒と赤の2頭の飛竜が山頂を目指して飛んで来るのが見えてきた。
「真っ直ぐこっちに来るわね・・・あんた以外にここを知ってるのってさ、まさか・・・」
「まぁ、ヴァルカンとアルコーであろうな・・・あの2頭の飛竜は、奴等の子飼いの飛竜であるからな」
双子の魔王の名を聞き、ラフタリアは唾を飲み込み、矢をつがえる手に力を込める。
2人が構えていると、直上まで来た飛竜から2つの影が舞い降りた。
2つの影は、ラフタリア達の前に音もなく着地する。
「知らぬ顔だな・・・貴様等、この場所に何をしに来た」
ラフタリア達の正面右側に降り立った影は、訝しげに2人を見ている。
その影は、目深に被ったフード付きのマントの奥に無骨な鉄仮面を付けており、背丈は清宏より低いががっしりとした男のようだ。
「あら、背後にいるのはエルフかしらぁ・・・しかも、冒険者のようね?まさか、ここがヴェスタルの墓と知って荒らしに来たのかしらぁ?」
正面左側に降り立った影は背丈は男と同じくらいだが、マント越しにもわかる細身の体型をしており、顔を濃い黒のベールで隠した女性のようだ。
女性は声音は可笑しそうに笑っているが、明らかに殺意を向けている。
それに気づいたペインは、ラフタリアを守るように一歩前に出た。
「やはり貴様等であったか・・・久しぶりであるなヴァルカン、アルコー」
名前を呼ばれた2人は顔を見合わせたが、すぐに首を傾げた。
「・・・貴様なぞ知らん」
「私、記憶力には自信があるのだけどぉ・・・ごめんなさい、貴女の事は知らないわぁ」
「あれぇ!?」
ペインは2人の答えに驚き、目を見開く。
「うわぁ・・・これは恥ずかしいわ・・・」
固唾を飲んで3人のやり取りを見守っていたラフタリアは、ペインの慌てる姿を見て完全に脱力してしまった。
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