第120話 サンダラーの剣
ラフタリア達はサンダラーに連行され、謁見の間へと通された。
本来ならば、ラフタリア達は問題を起こしたため聴取などを受けねばならないのだが、リリとペインが魔王リリスの配下である事を考慮し、オライオン自ら話をしたいと場を設けたのだ。
オライオンは数名の騎士に指示を出し、リリとペインの手枷を外させた。
「リリ殿とペイン殿であったか・・・話を聞かせていただく前に、まず手荒な形でご足労頂いたことを謝罪させていただきたい。
我々としても、異変を察知し騎士団を動かしたとなれば、民の目もあるためあのような形でお越し頂くほかなかったのだ」
オライオンは苦笑しているが、広間に集まっている騎士達は殺気立っている。
「こっちこそ悪かったわね・・・うちの馬鹿が想定していた以上に馬鹿だったせいで、迷惑を掛けてしまってごめんなさいね・・・」
リリは、隣にいるペインを小突いてオライオンに謝罪した。
ペインはリリに馬鹿呼ばわりされるたび、申し訳なさそうに身体をもじもじとさせ、小さくなっている。
「ふっ・・・まぁ、儘ならぬ事など良くある事であろう?大事なのは、その儘ならぬ事が起きた時にどう対処するかだ。
それでは、其方達について詳しく聞かせて貰いたい・・・理由についてはルミネから聞いたのだが、改めてお聞きしたいのだ。
ラフタリアと共に居たということは、其方達は魔王リリス殿の配下ということで良いか?」
「えぇ・・・私はリリアーヌ、サキュバスよ。
こっちはまぁ・・・名前はペインって言うんだけど・・・」
口ごもったリリを見て、オライオンは小さく笑う。
「構わぬ、先程の事で大体は察しておるからな。
あれ程ともなれば候補は限られる・・・魔王か真祖の吸血鬼か、竜族か・・・まぁ、粗方竜族の上位種と言ったところであろう、吸血鬼は人に紛れる為あのような事はせぬからな。
それにしても・・・リリ殿はサキュバスと申されたが、これ程近くに居ると言うのに騎士達が誰一人として魅了されていないのには何か理由があるのかね?」
「えぇ、貴方の予想通りペインは竜族よ。
私の魅了に関しては、指輪型の魔道具で外に漏れないように中和してるのよ・・・まぁ、私の場合は最近また漏れ出したから数を増やしたけどね」
「それは、人に紛れる為かね?」
リリはオライオンの質問に、首を振った。
「貴方もリリス様からの手紙を読んだなら知っているのでしょう?これは、私達が生き残る為・・・そして何より、人族と共存するためよ」
「其方達もそれを望んでいると?」
「えぇ・・・と、言いたいところなんだけど、リリス様に召喚されるまでは考えもしなかったし、正直私は別にどっちでも良いと思っていたわ」
「今は違うと?」
「そうね・・・今でも本質的には変わってないのかもしれないけど、それも悪くないとは思えるようにはなったわね・・・まぁ、うちに居る人族が特殊な奴ばかりたから、私が思い違いをしているのかもしれないけれどね」
「ペイン殿はどうかね?先程から黙っているようだが、体調を崩しているのであれば無理にとは言わないが・・・」
ペインがリリを見ると、リリは頷いた。
「別に体調が悪いと言う訳ではないのであるよ・・・ただ、余計な事を喋るなと釘を刺されたのである。
まぁ、理由はそれだけではないのであるが・・・」
ペインはそう呟くと、オライオンの脇に控えていたサンダラーを見て笑った。
「王よ、貴様の前にその男と話をさせて貰いたい・・・。
貴様、サンダラーと言ったか・・・そうやって刃を向けられていては、話せるものも話せないのであるぞ?」
オライオンが頷くのを見て、ペインは改めてサンダラーを見た。
「おっと、気付かれてたのか・・・やっぱりあんた、油断ならねぇな」
サンダラーは肩を竦めると、両手を上げた・・・その手には、刃の無い剣の柄が握られている。
ペインはその剣を見つめ、目を細めた。
「なぁサンダラーよ、貴様はそれを何処で手に入れた?もし良ければ、それを我輩に譲ってはくれぬか?」
「いや、こいつはやれねーな・・・こいつを譲っちまったら得物が無くなっちまう。
あんたこそ、何でこいつが欲しいんだい?」
「それは、我輩の古い友が造った物なのである・・・其奴はそれを造ってしまった事を後悔しておってな、見つけたら回収してくれと今際の際に頼まれたのである。
それは、騎士である貴様が所持するにはあまりにも相応しくない・・・それは、騎士の矜持も己の努力も全てを意味無き物にするのである」
「はぁ・・・友人の頼みか・・・こいつの性能を知ってるって事は、嘘って訳では無さそうだな」
「うむ、それは使用者の殺気を刃とし、敵を斬る・・・厄介なのは、狙われればその刃を防ぐ手立てが無いと言う事である。
唯一の対策は、軌道を予測し斬られる前に回避する他ない・・・。
それは厳密に言えば剣では無く魔道具あり、使用者の見た物や見た場所のみを、魔力で練り上げた殺気により斬り裂く術式を付与されているのである・・・熟練者であれば、正確な位置がわかりさえすれば、視線を向けずとも使用可能である・・・先程、影で構えておった貴様のようにな」
「その通り、確かにこいつは騎士にゃあ相応しくねー代物だよ。
だがよ、こいつは俺のお師さんの形見でな、譲ってくれって言われても簡単には手放せねーんだよ・・・あんたには申し訳ないんだけどな」
ペインは苦笑し、アイテムボックスから一振りの剣を取り出した。
騎士達が身構えたが、オライオンがそれを止める。
「形見であれば渡せぬよな・・・ならば、今後それを使用せず、貴様が死んだ時には我輩に譲ると約束して欲しいのである・・・その代わりとしては何だが、手付金代わりにこいつを貴様にやろう。
この剣は、それを製作した者が打った業物である・・・銘はアロンダイト、特化した属性は無いが、如何なる物を斬っても折れず、曲がらず、切れ味が落ちる事も無い。
どうである、騎士である貴様にはもってこいの剣であろう?」
「あーもう、分かったよ!そこまで言われたら俺が悪者みてーじゃねーか!!
ったく、まさか竜族と約束を交わす日が来るなんてなぁ・・・だが、ダチの遺言を守りたいって気持ちは分からないでも無えからな」
「かたじけないのである」
サンダラーはペインに近寄って自身の剣を渡すと、アロンダイトを受け取り鞘から抜いて惚れ惚れとした表情をした。
「凄えな・・・なぁ、こいつを打ったのは誰なんだ?」
「何だ、あれを持っていながら知らぬのか・・・それを打った者達の名はヴェスタルである」
「えっ・・・ヴェスタルって、今の属性武器製作の始祖って言われてるあの伝説の鍛治師のか!しかも、達って事は1人じゃないのか!?」
「あぁ、そう言えば奴等は名と種族を隠しておったからな・・・。
ヴェスタルとは・・・魔道具製作に長けておったが、鍛治に興味を持ったエルフと、鍛治師として優れた腕を持ちながら、性別を理由に認められなかったドワーフの夫婦が名乗っておった仮の名前なのである。
さて、王よすまなかったのであるな、我輩に答えられる事ならば答えよう・・・だが、あまり難しい話は避けて貰えたら助かるのである。
既に怒られる事は確定しているのであるが、これ以上余計な事をして、さらに清宏に叱られるのは勘弁したいのであるからな・・・」
ペインがまた肩を竦めて涙目になると、オライオンはそれを見て笑いだした。
「はっはっはっ!まさか、竜族の最上位種が恐れる人間が居るとはな!!
ペイン殿、気にせずともこれ以上其方に聞く事は無い・・・死んだ友の為に義理を果たしたいと言う其方の感情は、全てとは言わぬが我々人族の中にもあるものだ。
先程其方が話してくれたヴェスタルの事だが、常日頃いがみ合っているエルフとドワーフが夫婦となり、共に協力しあって一つの物を造り上げていたのだ・・・人族と魔族の争いの歴史は長く根も深いが、互いに意思を持つ者同士だ・・・其方達を見ていれば、和睦も可能ではないかという希望が見えてくるようだ。
お2人には、魔王リリス殿へ我々との話し合いの場を設けさせて頂きたいとお伝え願いたい。
日程と場所については、リリス殿からの返事を聞き次第決めたいと思っておる。
それとラフタリアよ、あまり無茶な事をするでないぞ?」
「最後の最後で私に振ってくるのね・・・分かりましたよーだ」
不満そうなラフタリアを見て、オライオンは立ち上がる。
「さて、ではここまでにしよう・・・お2人はすぐに帰られるのかね?」
「そうね・・・まぁ、こいつに何か食べさせてから帰ることになると思うわ。
あ、でも安心して・・・さっきみたいな事はさせないから」
「そうして貰えるとこちらも助かる。
では、また会談の場でお会い出来る事を楽しみにしておる」
オライオンが退室し、リリ達は騎士に案内されて城を出た。
外ではオーリック達が3人を待っていた。
「どうでしたの?」
「どうもなにも、ただリリとペインに質問して終わりだったわよ・・・まぁ、前向きに考えてくれてるみたいで安心したわ。
さてと、皆んなの無事もわかったし、ご飯食べて帰りましょうかね?」
「なら、ご一緒しても良いでしょうか?」
「良いんじゃない?あんた達と一緒なら、目立ちはしても怪しまれないだろうしね」
「我輩は、食べられるならどっちでも良いのである」
リリとペインが了承したのを見て、全員で飲食店街に向かう・・・結局、腹を空かしていたペインは、その店の食材を食い尽くしてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます