第100話 近衛騎士団長サンダラー
オーリック達がオライオンの自室に辿り着いて30分程が経った。
その間、オライオン自ら事の経緯を説明し、今後についての話を進め、あらかた方針が固まった頃、部屋の外から人の気配を感じてオーリックは身構えた。
「そう警戒するでない・・・余の部屋に、これ程堂々と近づいてくる者など1人しかおらん」
オライオンはオーリックにそう言うと、扉を見ながら笑った。
すると、ノックもせずに扉が開き、白を基調としたハーフプレートの鎧を身に纏った中年の騎士が現れた。
その騎士の右腕には、近衛騎士団を表す腕章がある。
「其方は相変わらずだなサンダラー・・・まぁ、それを許しておるのは余ではあるが、建前と言うものがあるであろう?」
「ははは!耳が痛いですな!ですが、私も公の場では弁えているつもりです。
それに、この部屋に来る場合は、友として接してくれと申されたのは陛下ではなかったですかな?」
「それはそうだが、今は客人もいるであろう?」
「ふむ・・・客人と言う割には、見知った者達ばかりですな?
久しいなオーリック、お前達も災難だったな・・・このお方は知れば知るほど曲者だから気を付けろよ?普段は真面目に公務をこなされているが、一皮剥けば冒険者時代の悪い癖がでるからな」
サンダラーと呼ばれた騎士は、オライオンと親しげに話をし、オーリックを見て笑いながら耳打ちした。
オライオンは、サンダラーの言葉が聞こえてバツの悪そうな表情をしたが、敢えて何も言わずに苦笑した。
「サンダラー団長、お久しぶりでございます・・・私も先程、陛下の意外な一面を拝見して驚いております」
「だろ?陛下は普段は猫をかぶってるからな!
まぁ、俺みたいな出自も分からないような奴を近衛騎士団の団長に任命するような人だ・・・その時点で相当な変わり者だよ!
それにしても、お前達が無事に帰って来てくれて良かったよ・・・ただでさえ近衛騎士団は出自より腕の立つ奴等ばかりで肩身が狭いってのに、お前達が居なくなったら更に居心地が悪くなっちまう。
で、どうだった?骨のありそうな奴はいたか?」
サンダラーは矢継ぎ早に喋りながらオーリックと無理矢理肩を組んだ。
オーリックは戸惑い、苦笑しながら頷く。
「骨があるどころか、私は一騎討ちで気絶させられましたし、ルミネ・ラフタリア・ジルの3人は危ないところを魔王の副官に助けられました・・・」
「おいおい、嘘だろ・・・天下のオーリック様ともあろうお方が一騎討ちで気絶?
そんな奴等とやりたくねーなぁ・・・そんなんを相手にしたら、年寄りの仲間入りしてる俺なんか見ただけで気絶しそうだ!」
「ご謙遜を・・・私が剣で絶対に敵わないと思っているのは陛下とサンダラー団長のお2人だけです。
何せ、お2人にはまだ一度も勝ったことがありませんから・・・ですが、それでも分の悪い相手である事は間違いありません。
まぁ、あちらには戦う意思は無いですし、むしろ和睦を望んでいますから、こちらから攻めなければ無害ではありますね」
サンダラーはわざとらしく身震いをすると、苦笑しながらオライオンを見た。
「魔族って言っても色んな奴がいるからな・・・俺も陛下に雇われる前、やけに人間臭い奴に会った事があるよ。
まぁ、それでも怒らせりゃあ危ないのに変わりは無いんだけどな!お前達も気を付けろよ?普段怒らない奴程キレるとヤバイからな!」
サンダラーはオーリックの肩を叩きながら豪快に笑い、オライオンもそれを見て感慨深げに頷いた。
「さてと・・・陛下、皆が集まりました」
「そうか、では行くとするか・・・」
ひとしきり笑ったサンダラーは、真面目な表情でオライオンに報告をした。
オライオンは静かに頷くと、ソファーを立ち上がってオーリック達を見た。
「サンダラー・・・オーリック達の武具を返してやってくれ。
流石に武器も無しで敵中に行くわけにはいなぬからな」
サンダラーがオライオンの支持を受けて扉を開けると、近衛騎士団の騎士達がオーリック達の武具を持って入って来た。
「まったく、羨ましい装備だよなぁ・・・陛下、俺達にももっと良いの用意してくださいよ?
オーリックの腕輪やルミネの鎖帷子、カリスの大盾なんて絶対に必要になりますって」
「無茶を言うでない・・・其方が欲しいと言った武具は、全て魔王の副官である清宏と言う人間が造った物だそうだ。
先程何人かの職人にも見て貰ったが、素材や性能から見ても、一つだけでも大金貨30枚はくだらんと言っておった・・・それに、施されておる魔術回路が複雑過ぎて複製は不可能だそうだ」
サンダラーは見るからに残念そうに肩を落とす。
「やっぱ、フリーの冒険者は良いよなぁ・・・お前達くらいになると、装備は騎士団の物より性能が上だしなぁ・・・」
「それは仕方ありませんわ・・・騎士団は多人数での戦闘ですが、我々冒険者は少数で対処しなければいけませんもの。
確かに装備の性能は良いのかもしれませんが、その分出費はかさみますし、整備をするにしても時間がかかるので大変ですのよ?」
隣の部屋で鎖帷子を着込んだルミネが、いじけているサンダラーを見て苦笑しながら諭した。
すると、サンダラーはため息をついてルミネを見た。
「あのなルミネ嬢ちゃん、俺だってそんな事わかってんだよ・・・でも、やっぱり良い武具ってのは羨ましい物なんだよ!」
「まぁ、それに関してはいずれ解決するかもしれません・・・清宏さんは魔道具に関する情報などは全て開示すると手紙に書いてありましたし、あの複雑な魔術回路も作成方法を聞けば教えてくださると思います」
ルミネの言葉を聞くと、サンダラーは嬉しそうに小躍りをし始めた。
「陛下、もし作り方がわかったら是非用意していただけませんか!?」
「其方が素材を用意するなら考えておこう・・・さて、皆準備は済んだようだな。
では、まずはマグラーに肩入れしておる軍部の者達にひと泡ふかてやろうではないか?」
オライオンは、再び落ち込んだサンダラーを見てため息をつくと、皆を振り返って不敵に笑った。
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