第57話深夜のお茶会③
茶器に用意してあった紅茶が底をつき、今度は清宏が新しい紅茶を用意する。
清宏は茶葉を蒸している間に、アイテムボックを開いて生姜と蜂蜜を取り出した。
「最近は冷えてきたし、ちょっと趣向を変えようと思う」
「蜂蜜はまだわかりますが、生姜は何に使うんですの?」
ルミネは生姜を手に取って調べながら尋ねる。
「紅茶に入れるんだよ」
「こ、紅茶にですか・・・」
清宏の発言に。ルミネは顔を引きつらせた。
ルミネが不安になるのには理由がある・・・こちらの世界では、紅茶を飲む時には基本的にアレンジは加えず、ストレートで飲むのが一般的なのだ。
国や地域、民族によって使う茶葉は違うが、他の物を入れて味を変える習慣は殆ど無いようだ。
それは、砂糖の生産量が少ない事も一つの要因となっている。
砂糖の原料となるのは、地球と同じくトウキビ、てん菜などが使われているのだが、それらは全ての国や地域で生産・加工されている物ではなく、採れない国では輸入に頼るしかない。
こちらの世界は地球のように交通の便が発達していないため輸送費などが嵩んでしまい、一般の家庭では手に入れる事自体が困難なのだ。
よって、一般的な甘味料は蜂蜜や楓蜜などが主流になるが、紅茶に入れて使うような贅沢な使い方をするのは金持ちや貴族などの上流階級の楽しみ方だ。
「私も蜂蜜は何度か入れた事はありますけど、流石に生姜は初体験です」
「本当に美味しいんですの?」
ルミネは、手際良く用意をしている清宏に疑いの目を向けながら茶菓子を摘んでいる。
「まぁ飲んでみろって!ハニージンジャーティーだ!」
清宏は2人にカップを差し出す。
「な、名前だけは美味しそうですわね・・・でも、私は騙されませんわよ!?」
「ルミネ様、もう少し素直に楽しみませんか?」
身構えるルミネを見て、アンネは呆れて笑っている。
「ちなみに生姜と蜂蜜は一緒に摂る事で抗菌作用が上がるだけじゃなく、生姜には温熱・発汗や代謝向上によるダイエット効果、蜂蜜には美肌効果・整腸作用・安眠効果があるんだけどな・・・」
「アンネロッテさん、何をグズグズしていますの!早速いただきましょう!?」
「チョロいなあんた・・・」
清宏はルミネに対し、心底呆れてため息をついた。
ルミネとアンネはカップを手に取って口に運ぶ。
「こ、これは!美味ですわ!!」
「そうですね・・・生姜の風味と辛みが良いアクセントになっていますね。
これは果樹系の蜂蜜でしょうか・・・甘さの他に、ほのかな酸味も感じます」
「お、流石アンネ!料理スキル持ちは感想が違うな!」
清宏は満足そうに頷いて笑っている。
「そう言えば、普段は清宏さんも食事の用意をされてるんでしたわよね?」
「折角の調理系スキルだし、腐らせとくのは勿体ないからな!
こっちに来る前は一人暮らしで自炊してたし、料理は何気に得意だぞ?まぁ、節約重視の男飯だったけどな・・・。
こっちは食材も安くて新鮮なの多いし、うちは大所帯だから作り甲斐があって楽しいよ」
ルミネの質問に、清宏はお茶を飲みながら笑って答えた。
ルミネは感心しているのか、笑っている。
「貴方は不思議な人です・・・人を馬鹿にした行為をしたかと思えば仲間を大切にし、斬新な発想で物造りにも情熱を持ち、知識も豊富です・・・それに、私達の知らない事をいくつも知ってらっしゃいます。
こっちに来てからと言っていましたが、先程から話の中に出てきている貴方の故郷とは、いったいどういった所だったのですか?」
ルミネが真面目な表情で尋ね、清宏はカップを置く。
アンネは不安そうに清宏を見た。
「正直、あんたが聞いてこなければ話すかどうかは迷っていたんだがな・・・。
その前に、あんたにひとつだけ念押ししたい」
「何でしょう?」
「今から話す事は、あんたが絶対に必要だと思う時以外は他言無用に願いたい・・・」
ルミネは清宏の真面目な表情に気圧され、頷いた。
清宏はそれを見て居住まいを正し、自身の出自について話し始める。
「俺はこの世界の人間じゃないんだよ・・・俺ねいた世界には魔法は無くて、代わりに科学が発展していたんだ。
だから魔法なんかとは無縁な生活だったし、こっちにはない知識を持っている。
俺があんたに黙っていて欲しいと言ったのは、その知識を利用されるのを避けたかったからだ・・・日常品なんかを造って世間に広める分にはまだ良いが、それ以上のものを求められても困るんだよ。
例えば、向こうの兵器や武器の製造を求められたらどうする?幸いそっちに関する知識は乏しいが、どう言った物があるかはある程度だが知っている。
それに目を付けられたら、あとはこっちの技術で近い物を再現すれば良いだけなんだよ・・・。
武器ってのは、造っちまえば性能を試したくなるもんだ・・・それは、戦争って形で人々を苦しめる。
俺はリリスの意思を尊重し争いを望まないし、そのキッカケにもなりたくない。
だが、俺の知識を利用する為に仲間を盾にとられた場合、俺は手加減はしない・・・俺には仲間を守る責任があるからな。
交渉材料に使えればと思っていたんだが、扱いに困る内容だからな・・・どうするかはあんたの裁量に委ねる」
ルミネは固唾を飲んで話を聞き、ため息をついた。
「ちなみに、清宏さんの知ってらっしゃる兵器の中で最も危険な物は、どれ程の威力があるのですか?」
「そうだな・・・こっちじゃ再現は不可能だろうが、俺の住んでいた国で2度使用された事のある兵器で、原子力爆弾と言う物がある。それは放射性物質と言う物を使った爆弾だ。
1度目の被害で言うなら、半径4kmは吹き飛んだ・・・爆心点の温度は数百万度、死亡者数は9万〜16万人とも言われている。
被害はそれだけではなく、放射能による被曝などでさらに多くの犠牲者が出た・・・。
たった1kgの放射性物質の核分裂でその威力だ・・・魔法にも広範囲魔法などあると思うが、原爆は下手すりゃしばらく放射能のせいで人の住めない死の大地になる。
他にも毒ガスを利用した科学兵器では、4年程の戦争期間でおよそ100万人が犠牲になったらしい。
まぁ、どちらも造り方は知らないし、もし知っていたとしても設備がないから再現出来ないけどな」
清宏が話し終わると、ルミネとアンネは押し黙った。
それを見た清宏は小さく笑ってため息をつく。
「心配せんでも俺は造らんし、誰にも造らせんよ・・・それに、今話した内容を俺達が黙っていれば良いだけだろ?」
口の前で人差し指を立てて清宏が笑うと、2人も小さく笑って頷く。
すると、ルミネはすぐに困った表情をして腕を組んで唸った。
ルミネの豊な胸が持ち上がり、性欲が無いとは言え、清宏は目が釘付けになった・・・男としては仕方のない事をだが、アンネはそれが面白くないらしく、自分の胸と見比べている。
「それにしても、魔法ではなく科学の発展した世界ですか・・・知識の探求、技術の進歩・・・人の業とはかくも恐ろしい物ですわね」
「俺からすれば、こっちの方が異常だと思うがな・・・薬一つで傷が治るとか、俺のいた世界じゃ有り得なかったからな。
俺の造った魔道具だって本来なら複雑な構造なのに、魔石と使用用途に沿った魔術回路さえあれば大抵のことは再現出来ちまう・・・まぁ、それはそれで少々面倒ではあるけどな。
複雑な物になればなるほど色々と書き込まにゃならんし、そうするとどうしてもデカくなるんだよな・・・」
清宏が頭を掻いて唸っていると、アンネが首を傾げて尋ねた。
「怪我や病気はどうしていたのですか?」
「怪我は状態によるが、普通に薬で治療したり、傷が深ければ縫ったりするな。
病気も症状によって変わるが、こっちの世界とは違って詳しく調べる技術があるから、治療法は充実してると思う。
体内に腫瘍があった場合でも、こっちじゃ身体に異常を感じても外見では判断出来ないが、向こうは体内を調べる技術があるから対処しやすいんだ」
「どっちもどっちですわね・・・外傷の場合、こちらはポーションのランクによっては四肢欠損以外なら基本何でも治せますが、病気は発見が遅れて手遅れになる事が多いですから・・・」
ルミネは悲しげに呟いてお茶を飲んだ。
「確か、エリクサーなら何でも治せるんだっけか?」
「そうですわね・・・あれは万能薬ですから、死んでさえいなければ、全ての状態異常、病気、怪我に有効です。
私も実物を手にしたのは一度だけですが、龍に襲われて下半身を失った冒険者が、息を引き取る直前にエリクサーを飲んで完全に回復したと言う実話があります」
「凄いなエリクサー・・・そりゃあリリスがめちゃくちゃ貴重って言う訳だわ」
「えぇ、1個でも手に入れられたなら、一生遊んで暮らせる程の価値があります・・・。
先程話しましたが、私も一度だけ手に入れた事があったのです。
それは依頼品だったのですが、もっと早くに在処を知って、自分で手に入れていればと悔やんだ事があります・・・いえ、今も悔やみ続けています」
ルミネは悲痛な表情でペンダントを握り締め、言葉に詰まった。
「何かあったのか?辛い事なら別に聞く気はないぞ?」
「お気遣い感謝いたします・・・ですが、私はお2人の過去と秘密を知りました・・・私もお話しするのが筋でしょう?
それに、私自身が貴方達に聞いて欲しいのです・・・心配させてしまうので、仲間達には弱い所を見せたくありませんから」
ルミネは今にも涙を流しそうな表情をしている。
だが、清宏はもう止めるつもりは無いようだ・・・近しいからこそ話せない事があるのを、彼も知っているからだ。
彼自身も、出会ったばかりのローエン達に思いと決意を吐露した事で楽になったからこそ、止める気にならなかったのだ。
「さて、どこから話しましょうか・・・。
そうですわね、先ずは質問を一つ・・・私達のパーティを見て、何か疑問に思いませんでしたか?」
「疑問でしょうか?私は特にこれといって何も・・・」
ルミネの質問に、アンネは首を傾げた。
「魔術師だろ?あんた達のパーティには、攻撃の要とも言える魔術師が居ない。
あんたとラフタリアが魔法なんかも使ってたみたいだが、明らかにバランスが悪い・・・」
「その通りです・・・流石と言っておきましょう」
ルミネは清宏の答えを聞き満足気に頷いたが、清宏は顔をしかめた。
「そんなん見てりゃ気付くわ・・・思ってもいないのに褒めるな」
「それは申し訳ありません・・・。
本当は私達のパーティにも居たんですのよ?神童とまで呼ばれた腕利きの魔術師が・・・」
「何で今は居ないんだ?」
清宏に尋ねられ、ルミネの表情が曇る。
胸のペンダントをきつく握り締め、ルミネは悲し気に笑った。
「亡くなりましたの・・・15年前の赤龍侵攻の時に」
「すまんな、配慮に欠けていた・・・」
「いえ、私もからかうような事を言ってましたもの・・・お互い様ですわ」
謝罪する清宏に笑って答え、ルミネは話を続ける。
その表情は、懐かしむような優しい顔だ。
「その魔術師は、私の姉でしたの・・・歳は3つしか違いませんでしたが、優しくて綺麗で、常に笑顔を絶やさない私の憧れの自慢の姉でした。
あまり裕福とは言えない家庭ではありましたが、近所に住んでいた2つ上の幼馴染のオーリックやリンクスも姉を慕い毎日遊びに来ていたので、とても幸せだった事を覚えています・・・。
ですが姉が10歳になった時、魔術の才に長けている事が判り、国立の魔術学院への入学が決まったのです・・・そしてその2年後、私自身も予知能力が芽生え、半ば強制的に教団へ入ることになりました」
「皆んなと離れ離れか・・・寂しかったんじゃないか?」
「そうですね・・・入団当初は、毎日泣いていました。
ですが、週に一度は実家に帰る事を許して貰えていたので、その時ばかりは皆んなで夜遅くまで遊んでいました」
ルミネの楽し気な笑みを見て、清宏とアンネも優しい顔になる。
「姉は、毎日の勉強と訓練で疲れていたはずなのに、実家に居る間は常に私の面倒を見てくれていました・・・私は我儘ばかりで、今思えば可愛くない妹だったでしょう。
それでも姉は努力を怠らず、成人と同時に魔術学院を首席で卒業しました。
私が身につけているペンダントは、その時にお祝いとして姉に贈った物です・・・」
ルミネはペンダントを手の平に乗せて見つめている。
懐かしむような悲しむような複雑な表情だ・・・清宏とアンネは黙ってルミネを見守る。
ルミネはそれに気付き、咳払いをして続きを話し始めた。
「ただ、そこで大きな問題が起きました・・・本来、魔術学院の成績優秀者は、宮廷魔術団に入る事が慣例だったのですが、姉はその話を蹴って冒険者になったのです」
「そりゃまた凄いな・・・宮廷魔術師なら、生活も安定するんじゃないか?」
ルミネは清宏の言葉に頷くと、ため息をつきつつ笑った。
「はい・・・私の生まれた国では、宮廷魔術師と言えば騎士より位は上でしたから、皆呆れていました。
私も訳が解らず姉に尋ねたのですが、姉はそれが一番人々の為になるからと言っていました。
宮廷魔術団や騎士団は、国を守るのが役目です・・・有事の際、彼等が守るべきは国の要所であり、それ以外の場所は冒険者が守る事になっています。
冒険者は数こそ多いですが、実力にはバラつきがあり、装備も充実していません・・・それでは、いざという時に民を守る事が出来ないのです。
そうなれば、多くの力無き民が犠牲になってしまう・・・姉は、それが我慢ならなかったのでしょう。
姉はしばらくフリーで活動していましたが、オーリックやリンクスも冒険者になり、私も成人してから皆んなに合流しました・・・その時、初めて姉に叱られました。
とても怖かったですが、嬉しかったです・・・」
「カリスやラフタリアとは、冒険者になってから知り合ったのか?」
「えぇ・・・カリスは無口でしょう?彼はなかなか他の人達と打ち解けられなくて、見かねた姉が誘ったのがキッカケです。
ラフタリアと知り合ったのはまだ後ですね・・・彼女と知り合ったのは、赤龍により国が危機に瀕した時でした。
その時はまだ私達のパーティではありませんでしたが、姉とは仲が良く、姉の死後にパーティに加わりました」
「赤龍・・・あんた達が最年少でS級になったっていうあれか?」
清宏に尋ねられ、ルミネは深く頷いた。
その表情は、重い空気を纏っている。
「S級討伐対象・・・アルトリウスさんと同等の脅威ですが、清宏さんはそれがどれ程のものか想像出来ますか?」
「いや・・・国の危機と言っても様々だろうし、何とも言えないな」
「一口にS級と言っても、その中には細かいランク付けがあります・・・その中でも、龍族は最上位に位置づけられているんです。
それは、吸血鬼の場合は単体での戦闘力の高さが脅威と見なされるのですが、龍族の場合はそれだけではなく、従えている下位の龍族までもがその対象になるのです。
龍族が敵になった場合、ただでさえ個々の戦闘力の高い龍族が無数に押し寄せます・・・。
赤龍に攻められれば国は焦土と化し、全てが灰燼となります・・・後には何も残らないのですよ」
ルミネの言葉を聞き、清宏は息を飲んだ。
ルミネ達はそれを経験し、生き延びたのだ・・・それは、赤龍討伐の功績と引き換えに、最愛の姉を喪うという結末ではあったのだが・・・。
「私達はあの時、冒険者になってまだ数年でしたが、皆んなの実力と運もあり、既にA級になっていました。
その時私達が守備を任されていたのは王都から離れた小さな街で、騎士団や宮廷魔術団の手が回らないような場所でした・・・それでも、しばらくは何とかなっていたんです。
街の人達も皆協力し、助け合い、傷付き倒れても諦めずに自分達の家族や友人を守る為に戦っていたんです・・・ですが、それでも足りなかった。
半月も経った頃には皆疲弊し、冒険者の数も半数以下にまで減り、それからはただ地獄のような毎日でした・・・それでも、姉は常に笑顔を絶やさず、皆を励まし勇気付けていたんです。
私達だけじゃなく、生き残っていた全ての人にとって、姉は希望でした・・・それなのに、逃げ遅れた子供を助ける為に火龍の前に立ちはだかり、姉は炎に包まれました・・・。
私は止めたんです・・・姉が焼かれる未来が見えてしまったから!なのに、止められなかったんです・・・。
私達はすぐに姉に駆け寄り、オーリックとリンクスが火龍を倒しました。
私はただ、炎に焼かれて右半身が炭化した姉の姿を見て泣く事しか出来ませんでした・・・まだ息のあった姉は、自分が死ぬと解っているはずなのに、私に笑いかけ、今までありがとうとだけ言って亡くなりました・・・」
ルミネは幼子のように泣きだし、言葉が出て来なくなった・・・。
清宏とアンネは、掛ける言葉が見つからずただ見守るしかなかった。
「私は・・・姉に何も返せてなかった・・・ただ甘えて、我儘ばかり言って・・・!
ありがとうって言わなきゃいけないのは私の方だったのに・・・。
予知なんて・・・結果が解っても、引き止める力も無いなら意味なんて無い・・・こんな力より、姉さんに生きていて欲しかった・・・」
「馬鹿言うな・・・あんたの力があったから、今までオーリック達は生きて来れたんだろ?
その力が無かったら、あんたは大切な人達をさらに喪ってたかもしれない。
それに、あんたはお姉さんに何もして来なかった訳じゃない・・・お姉さんにとっては、あんたがただ側に居てくれるだけで良かったんだよ」
清宏が慰めの言葉をかけたが、ルミネは涙を流しながら睨んだ。
「解ったような事を言わないで下さい・・・!」
怒鳴るルミネを見て、清宏は自嘲気味に笑ってため息をつく。
「そうだな・・・俺には兄弟は居ないし、誰かを喪ったのなんて病気で死んだ爺ちゃんくらいのもんだ。
だが、家族に会えない辛さは解る・・・会いたくても会えないのは辛いよな。
いつも近くで見守ってくれた友人との約束をすっぽかして、いざ会えなくなってからその有り難みに気付いちまった馬鹿な男だけど、あんたの気持ちは少なからず解るんだよ・・・」
「・・・すみません、貴方も辛い境遇なのに」
「別に構わんよ・・・俺の家族や友人はまだ生きてるだろうし、本当の意味であんたの辛さを理解出来ていないのは事実だからな。
だが、これだけは言っておく・・・あんたのお姉さんは、そこで死んじまった事を後悔していないだろう。
お姉さんは最後に笑ってたんだろ?そこで死ぬのは本望じゃなかったかもしれないし、心残りもあっただろう・・・だが、満足してなけりゃ笑って死ぬなんて出来ないんじゃないか?
やりたいようにやって、やりたいように死ぬ・・・周りにとっては遣り切れないけどな。
あんたが悲しむのも解るし、後悔してるのも解る・・・だが、あんたは笑っててやんなよ。
いつまでもあんたが泣いてたら、お姉さんはいつまでたっても成仏出来ないぞ?」
「本当に勝手な事ばかり言ってくれますね・・・ですが、貴方の言う通りかもしれませんね。
でも、今日だけは許して欲しいです・・・」
ルミネはそう言ってまた泣きだし、しばらくすると泣き疲れて眠ってしまった。
アンネはルミネに毛布をかけ、清宏に紅茶を淹れる。
「ルミネ様はお姉様のことが本当に大好きだったのですね・・・そのようなご家族がいらっしゃった事が羨ましく思います」
家族の愛情を知らないアンネが、感慨深げに呟いた。
「ルミネ様がエリクサーを使いたかったのは、お姉様だったのでしょうね・・・」
「だろうな・・・さて、ルミネが寝てる間に作業でもしましょうかね?」
清宏は立ち上がると、ルミネの後ろに回ってペンダントを外した。
「清宏様・・・悪戯はダメですよ?」
「どんだけ信用無いんだよ・・・さっきから気になってたんだけど、何ヶ所か鎖が切れかけてるんだよ。
たぶん、肌身離さず身に付けてるから気付かなかったんだろう・・・。
このままにしてもし鎖が切れて無くしたら、ルミネは自殺しそうだからな・・・」
「やはり清宏様は優しい方です・・・では、私はこれで失礼いたします。
あまりご無理はなさらないでくださいね?」
清宏はアンネを見送り、ルミネの寝息を聞きながらペンダントの修復作業に取り掛かる。
「今日は完全に徹夜コースだな・・・」
清宏が窓から外を見ると、既に空は白み始めていた・・・。
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