第42話S級パーティ

 清宏は不貞寝から目覚め、気を持ち直して魔道具製作を再開し、アリーはその間ずっとルービックキューブで遊んでいた。

 すると、グレンから緊急の連絡が入った。


 『ダンナいるか!?ヤベーのが来やがった!!』


 「どうした、何かあったのか?」


 清宏が拡大鏡を外して通信機で問い掛けると、グレンは息を切らしながら叫んだ。


 『S級の冒険者だよ!今は何とか逃げられてるが、このままじゃ追いつかれちまう!』


 慌ててマップと水晶盤でグレンの状況を確認した清宏は、グレンに指示を出す。


 「その先の角を曲がってくれ・・・すぐに壁を設置するから、そいつらを足止めしている間にどこか部屋に入って広間に戻れ。

 ローエンとレティも一旦戻って来てくれ・・・俺が足止めしている間に話を聞きたい」


 『了解でーす』


 『了解』


 グレンが角を曲がるのを見計らい、清宏は壁を設置する。

 グレンを追っていた冒険者達は、止まり切れずに急に現れた壁に衝突したが、大したダメージは受けていないようだ。


 「お前達も聞こえたな、広間に戻ろう。

 ウィルとシスはついて来てくれ、アンネはリリスとアルトリウスを呼んで来てくれたら助かる」


 清宏は3人に指示を出し、ルービックキューブで遊んでいるアリーを抱き上げて工房を出た。

 広間に戻ると、ローエンとレティが息を切らしてしゃがみ込んでいるグレンに事情を聞いていた。

 グレンの身体にはいくつもの傷があり、血を流している。


 「よく無事に逃げ切ってくれた・・・これを飲んで落ち着いたら説明を頼む。

 レイス、リリに待機しているビッチーズ達に部屋を隔離すると伝えて来てくれ。

 俺はオスカーを捜してフロアを隔離する」


 グレンは清宏からヒロ◯ンとポーションを受け取って飲み干し、レイスはリリの元に向かった。

 清宏はオスカーを捜し出し、部屋にいるのを確認して隔離した。


 「シス、オスカーを連れて来てくれ。

 また逃げられたら困るから、ちゃんと見張っておいてくれ」


 シスは清宏に頷き、オスカーを迎えに行った。


 「はぁ、生きた心地がしなかったわ・・・アルトリウスのダンナに鍛えられてなきゃ死んでたな」


 「怪我は大丈夫か?」


 清宏はグレンの傷の具合を確認していると、アンネに呼ばれ、リリスとアルトリウスも広間にやって来た。


 「あぁ、ダンナのポーションは効き目が段違いだからな!

 それより参ったわ・・・まさかあいつらが来るなんてな」


 「知り合いなのか?」


 苦笑していたグレンは、清宏の問いに真面目な表情をする。


 「いや、知り合いじゃない・・・ただ、あいつ等は冒険者の間ではかなりの有名人だよよ。

 7年程前、俺達がまだ駆け出しだった頃に一度だけ会った事があるけどな・・・。

 確か15年前だったか・・・隣国でレッドドラゴンが暴れてな、そいつを討伐して最年少でS級に昇格したのがあいつ等さ。

 正直、今の俺達じゃ手も足も出ないだろうな・・・ここであいつ等に勝てるとしたら、あんたかアルトリウスのダンナくらいだろう」

 

 グレンは立ち上がって伸びをして清宏を見ている。


 「あいつらは罠に掛かってくれそうか?」


 「正直わからん・・・レティ程じゃないみたいだが、向こうの雇ってるシーフも罠の解除に関してはかなりのやり手みたいだからな」


 グレンの答えを聞き、清宏は深くため息をつく。

 すると、アルトリウスが進み出た。


 「私が相手をいたしましょうか?

 あの程度の人数、私ならば1人でも十分かと思いますが・・・」


 清宏は首を振り、アルトリウスの進言を否定する。


 「いや・・・確かにお前なら1人でも大丈夫だろうが、お前が戦えば他の侵入者達も巻き込んでしまう可能性が高い。

 俺がやってみてダメそうなら、あいつ等を適当な部屋に招こう・・・話し合いで解決出来るなら、それに越した事は無いからな」


 「ならば、その時は私がお供いたします・・・清宏様であれば問題無いかとは思いますが、私がいれば相手もおいそれと手出しはしないでしょうからな」


 清宏はアルトリウスの提案に頷いて了承し、水晶盤を見る。

 S級冒険者達はグレンを追うのを諦め、城内の探索に戻ったようだ。


 「こいつらは有名人なんだろ・・・この中で、誰が一番厄介なんだ?」


 「ゴテゴテした派手な錫杖を持ってる女がいるだろう?

 そいつが一番厄介だ・・・個々の実力も相当なものだが、あの女だけは桁違いと言っても良い。

 あいつ等が最年少でS級になれたのは、あの女のおかげだって噂だからな」


 清宏が尋ねると、ローエンが水晶盤を指差して説明した。

 ローエンは半ば呆れたような表情をしている。


 「何がそんなに凄いんだ?まぁ、確かに見た目も装備もいかにも実力者ですって感じはするけど・・・」


 錫杖の女の年齢は30代前半程に見えるが、大人の女性特有の落ち着いた色気を感じさせる見た目だ。

 だが、見た感じ特別な力があるようには見えない。


 「俺が実際に見た訳じゃないし噂でしかないんだが、予知系の希少スキルを持ってるって話だ・・・。

 だから、あいつ等の雇ってるシーフは罠を調べる必要がないんだよ・・・あの女が事前に見つけるから、罠の解除さえ出来りゃ良いのさ」


 「何だよ、その俺の天敵みたいなスキルは・・・」


 清宏が憎々しげに女を見ていると、リリスが隣にやって来て女を確認する。


 「ふむ、服装からして高位の神官クラスじゃな・・・また面倒なのが来おったわ」


 「神官とか居んのかよ・・・宗教関係には興味ないけど、だとしたら神様も居るっことか? 

 まぁ、魔王がいるんだから当然と言えば当然か・・・」


 清宏が呟くと、リリスはため息をついた。

 ただ、それは清宏に呆れた訳ではなく、女に対してだった。


 「簡単に説明すると、魔王と対になる存在は勇者と呼ばれるんじゃが、神とは勇者の上に立つ存在・・・要するに妾を含めた魔王よりも上になるんじゃよ。

 この女が神に仕える高位の神官ならば、何かしら加護を受けておってもおかしくはないじゃろうな・・・まぁ、それが予知なんぞと言うとんでもスキルとは恐れ入るがの」


 「魔族には、神と対になる存在は居ないのか?

 もし居ないなら公平じゃないし、魔族を生かしておく理由も無いだろ?」


 清宏が尋ねると、リリスは苦笑した。


 「居るよ・・・いや、正確には居ったと言った方が良いな。

 神と対になる存在・・・それは魔神と呼ばれておる。

 ただ、遥か昔に神によって殺されてしまったと言われておるがの・・・。

 その戦いで力を極端に消費した事により、神自身も現世に存在する事が出来なくなり、今では幽世より世界を監視し、力を持った魔王が現れた時にそれを討伐するためにのみ勇者を生み出すと言われておる。

 あとは先程言ったように、信心深い者に特別なスキルを与えるとも聞いておるが、これも言い伝えじゃから正直眉唾じゃな・・・希少スキルは持って生まれた才能と言う話もあるしの」


 リリスは清宏に説明し、鼻で笑った。


 「本当に面倒くさい世界だな!」


 「そう言ってくれるな・・・お主の居った世界とは違うんじゃからな」


 リリスが肩を竦めると清宏は笑い、再度水晶盤を見る。


 「まぁ良いや・・・とにかく、あの女をどうにかしないと全員を排除出来ないって前提で計画を練るよ。

 このまま大人しく帰ってくれたらありがたいんだが、あいつ等は探索する気満々だからな・・・。

 すまないが、ローエンとグレンにはもう一度囮を頼みたい・・・少しだけ姿を見せ、すぐに隠れて時間を稼いで欲しい。

 予知なんてとんでもスキルは、使い過ぎれば必ず何かしら反動が来る・・・精神的にも体力的にも追い込んでやれ」


 清宏は2人にポーションなどを大量に差し出してし、指示をする。

 すると2人はあからさまに嫌そうな顔をしたが、清宏が笑顔になると慌ててポーションを受け取った。


 「正直、ダンナの笑顔より怖いのは無いな・・・」


 「同感だ・・・何をされるかわからない分余計にな」


 「失礼だなお前等・・・頑張ってくれりゃあ報酬は弾むぞ?

 仕事に見合った報酬を払うのが俺のポリシーだからな!」


 清宏が腕を組んで断言すると、ローエンとグレンは笑った。


 「前金ですらあれだったからな・・・まだあの分の働きすらして無えのに、更に貰うのは流石に気が引ける。

 まぁ今回は格上相手だし、あの時の分と相殺って事で受けてやるよ!」


 「金にがめついローエンが珍しくこう言ってんだから、俺もやりますかね!」


 「頼んだぞ・・・お前達の逃げ場は俺が必ず用意してやる。

 だから、無理せず必ず帰って来い・・・良いな?」


 扉に向かう2人に清宏が念を押すと、2人は笑って手を上げた。

 


 


 

 


 

 


 

 


 

 


 


 

 

 

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