第41話7×7×7とアリーの新記録

 オスカーが順調に侵入者達を罠に誘導していくのを見ていた清宏は、ため息をついて席を立つ。

 先程まで一緒にいたアンネは、清宏に頼まれ、工房でシスとウィルの手伝いをしている。


 「よし、後はオスカーに任せよう!」


 『待て待て!職務放棄すんなよ!?』


 グレンが清宏の言葉を聞いて慌てて引き止めた。

 清宏は再度席に座って水晶盤を見ると、グレンは隠し部屋にいた。


 「何でだよ・・・正直、オスカーは女相手には最高の囮だぞ?お前も楽が出来て良いじゃないか。

 それに、俺は他にもやる事が沢山あるんだよ・・・魔道具製作とか罠製作とか」


 『あぁ、それもそうか・・・』


 「工房にも小型の水晶盤を置いてあるから、何かあったらすぐに対応出来るようにはしとくよ」


 『了解・・・まぁ、ダンナの言ってた通り、俺の所に来るのは男ばっかりだから、女はオスカーに任せた方が良いのかもな』


 「可愛いは正義だからな!もふもふの誘惑には勝てんよ・・・。

 あ、分かってるとは思うけど、いくつかは宝を持ち帰らせてやれよ?」


 『そこら辺は気をつけてるよ。

 ビッチーズ達の部屋に入った奴等も、何人かはそのまま帰すようにしてるんだろ?

 俺も何人かは罠の無いルートに誘き寄せたりしてるから、赤字にならない程度には持ち帰らせてるよ』


 清宏はグレンの返事を聞いて満足そうに頷いた。


 「それで良い・・・ギブアンドテイクで行かなきゃ次に繋がらないからな。

 どのくらい持ち帰らせるかは、お前とローエンに任せる。

 どうするか迷った時には連絡してくれ」


 グレンがサムズアップをしたのを見て、清宏は笑って席を立った。

 すると、清宏の目の前にアリーが立っていた。


 「どうしたアリー・・・アルトリウスに遊んで貰ってたんじゃないのか?」


 清宏がしゃがんで話しかけると、アリーは笑顔になって清宏に抱きついた。


 「はいはい、次は俺か・・・やる事あるんだけどな」


 ため息をついた清宏は、アリーを抱き上げて工房に向かう。

 途中でアルトリウスとリリスが目に入ったが、アルトリウスは疲れ果てており、リリスがそれを見て笑っていた。


 「お疲れさん、子供の世話は大変だろ?」


 清宏が話しかけると座り込んでいたアルトリウスが顔を上げ、苦笑した。


 「はい、幼子の体力を侮ってはいけませんな・・・正直、戦っている方が楽だと思ってしまいます。

 ですが、これも良い経験と受け取っておきましょう」


 「それにしても、自慢の髪がボサボサじゃのう・・・お主は背が高い分、毎回肩車をねだられるからの。

 清宏も気をつけよ、アリーはとんだじゃじゃ馬じゃぞ・・・」


 アルトリウスは髪が乱れ、リリスも服がはだけている。

 相当アリーに揉まれたらしい・・・。


 「仕方ないさ・・・召喚されたからには家族だからな。

 アンネはアリーやオスカーには甘いし、俺が躾けるよ。

 まぁ、あまり効果があるようには思えないけどな・・・」


 清宏はアリーが来てからというもの、毎日にように叱ってはいるのだが、アリーはまったく堪えていない。

 怒られた事を覚えてはいるようだが、何故か清宏に毎日必ず甘えに来るのだ。


 「まったく、笑ってる場合かよ・・・お前、迷惑かけてる自覚ないだろ?」


 清宏が頭を軽く小突いたが、アリーは楽しそうに笑っている。

 それを見て、清宏達はため息をついた。


 「まぁ、まだ幼いからの・・・しっかりと教えればちゃんと覚えてくれるじゃろう。

 向こうに行く所を見ると、お主はこれから工房か?」


 「あぁ、例の魔道具もあと少しで完成するからな・・・早いとこ終わらせて、レイスに渡したいんだよ」


 「そうか、あと少しか・・・完成が待ち遠しいの!

 アリーが邪魔をする時には連れて来るが良い」


 清宏はアリーを見て苦笑しながら頷くと、リリスとアルトリウスに手を上げて工房に向かった。


 「おいーっす、進捗はどうだ?」


 「あ、清宏様!あれからオスカーはどうでしたか?

 あら、アリーも一緒なんですね?

 アリー、あまり皆様にご迷惑をかけてはいけませんよ?」


 「アリーちゃーん!私に会いに来てくれたのかな?

 可愛い子がいれば、ヤル気も倍増です!」


 清宏に気付いたアンネとシスが駆け寄り、アリーの頭を撫でる。

 アリーはくすぐったそうに笑っている。


 「3人いますからね、こっちは順調ですよ」


 ウィルはシスを見て呆れているが、作業を中断して清宏を向いた。


 「任せきりになってすまないな・・・ツクダも順調なようだし、オスカーが思いの外囮役として優秀だったからこっちの手伝いに来たんだが、手は足りているようだな。

 では、お前達は引き続き侵入者に持ち帰らせるアイテムや魔道具を造ってくれ。

 俺は個人的に造りたいのがあるから、そっちに専念させてもらうよ」


 清宏はアンネにアリーを預け、自分の作業机に座った。

 

 「こら!アリー、ダメですよ!!」


 アンネの手を振りほどき、アリーが清宏の膝の上に座った。


 「はぁ・・・邪魔だけはするなよ?危ないからな。

 アンネも作業に戻ってくれ、アリーはしばらく俺が相手をしながら作業をするよ」


 清宏に注意され、アリーは笑顔で頷いた。

 アンネは申し訳なさそうに頭を下げると、自分の席に戻っていった。


 「ん!」


 「それは今は必要ないぞー・・・そいつは仕上げ用だからな?」


 「ん!」


 「おぉ、それそれ・・・正解したから良い物をやろう」


 清宏はアリーの差し出してくる工具を受け取り、代わりに玩具を渡した。

 清宏が渡したのは、正六面体のパズル・・・いわゆるルービックキューブだ。


 「お前にはまだ難しいかも知れないが、それが解けたらご褒美をやろう」


 「ん!!」


 「良い子だ・・・しっかり返事が出来て偉いぞ」


 頭を撫でられたアリーは元気に返事をすると、渡されたルービックキューブに熱中し大人しくなった。


 「清宏さん、子供は苦手って言ってなかったですか?

 なのに、何でそんなに扱いが上手いんですか!?私が言っても全然聞いてくれないのに・・・まぁ、そこがまた可愛いんですけどね!」


 シスが悶えながら清宏に尋ねた。

 清宏はそれを見て顔をしかめている。


 「向こうで親戚一同が集まる時には、小さい子供達の面倒を押し付けられてたからな・・・。

 子供ってのは、やめろって言っても大人しく聞かない生き物なんだよ。

 だから、物で釣るんだ・・・そうすれば大人しくなるし、餌を与えれば言う事を聞く」

 

 「ペットじゃないんですから・・・」


 清宏の言葉を聞いていたウィルが、呆れたように清宏を見ている。


 「わかってるよ・・・だからアリーには優しく接しようと気をつけてるんだよ。

 まぁ、悪い事をしたら厳しくするけどな・・・」


 「清宏さんは本当に厳しそうですからね・・・子供相手にも手加減しなさそうです」


 「俺は、体罰にならなきゃ拳骨くらいはするぞ?

 そのくらい痛い目を見なきゃ聞かないってんなら仕方ないだろ?

 まぁ、アリーのイタズラはまだ可愛いもんだからそこまではしないけどな・・・」


 「リリス様にはよく拳骨してますよね?」


 「あいつは特別だ・・・あいつはくだらない事ばかりやらかすからな」


 清宏がため息をつくと、3人は苦笑した。


 「魔王の副官って言えば忠誠心の塊ってイメージがありましたけど、リリス様と清宏さんを見てるとイメージが崩れますね」


 「俺は副官と言っても部下じゃないからな・・・言わば、互いの目的の為の協力者だ」


 「ん!!」


 「おぶっ!?」


 清宏が話しながら作業をしていると、ルービックキューブをしていたアリーがバンザイをした。

 すると、バンザイをしたアリーの拳が顎に当たり、清宏は舌を噛んで悶えている。


 「痛いだろアリー・・・一体どうした?」


 何とか痛みの引いた清宏が涙目で問い掛けると、アリーは完成したルービックキューブを差し出した。


 「嘘だろ・・・解きやがった」


 わざと時間が掛かるように崩していたはずのルービックキューブだったが、アリーはものの5分程で解いてしまった。

 清宏はそれを見て額に汗をかき、舌打ちをした。


 「俺でもコツを掴むまで時間が掛かったのに・・・。

 ま、まぁ良い・・・約束のご褒美だ。

 アリーは頑張ったから、飴ちゃんをやろう」


 清宏はポケットから魔石を取り出し、アリーの口に放り込む。

 アリーはまだ魔石を噛み砕けないため、飴のように舐めながら食べている。

 その間、清宏は解かれたばかりのルービックキューブを、最初よりさらに複雑に崩してアリーに渡した。


 「さぁ、再挑戦だ・・・さっきのは奇跡が起きた可能性も微レ存だからな!」


 「お、大人気ない・・・」


 シスが清宏を見て呟いた。

 アンネとウィルも呆れているようだ。


 「これ造るの大変だったんだぞ!?

 そんな力作を、こんな子供に解かれるなんてTENGA許しても、アタイ・・・許せへん!!」


 「どうしたんですか、キャラがブレまくってますよ?」


 「やかましい!俺はまだ6面揃えるのに10分くらい掛かるんだよ!

 ギギギ・・・くやしいのう!くやしいのう!!」


 ウィルに注意された清宏は、涙目で叫んだ。


 「ん!!」


 「はえーよホセ!!」


 先程よりも時間を短縮したアリーを見て、清宏が頭を抱える。


 「ふふふ・・・これまでのはまだ小手調べってやつだ!次は時間を測ってるからな!

 さぁ、こいつを解いてみやがれコンチクショー!!」


 清宏が差し出したのは、先程までの3×3×3の物ではなく、7×7×7のルービックキューブだった・・・年端もいかぬ幼女に対しても手を抜かないブレない姿勢は素晴らしい。

 アリーは、渡されたルービックキューブを超高速で回転させて行く。


 「ん!!」


 「世界記録超えてんじゃねーか!!」


 アリーは完成したルービックキューブを自慢気に掲げている。

 清宏の手元にある3分用の砂時計では、まだ半分程しか経過していない。

 7×7×7のルービックキューブのギネス記録は2分23秒だ・・・アリーの出した記録は、それを大きく上回る新記録だ。


 「んっんっんっー!」


 アリーはご機嫌になり清宏の膝の上で歌っているが、清宏は完全にヤル気を失い、そのまま床で不貞寝を初めてしまった。

 アンネ達の憐れむ視線が突き刺さるが、清宏は気付かないフリを貫いた。


 


 


 

 

 

 

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