第20話冒険者

 清宏は槍使いに案内され、建物に入る。

 建物の中には、丸いテーブルがいくつかあり、奥にはカウンターもあるようだ。

 薄暗いため奥は見えにくいが、棚には酒の瓶などが並んでいるようだ。


 「ここは?」


 「この街で俺達が拠点にしてるバー兼宿屋だよ。

 まぁ、汚い店だが我慢してくれ」


 清宏が尋ねると、槍使いは笑いながら説明する。


 「汚いは余計だ馬鹿野郎・・・文句があるなら叩き出すぞ?」


 「冗談だよマスター・・・で、あいつ等は奥か?」


 槍使いにマスターと呼ばれた小太りの男はため息をつくと、頷いた。


 「あまり面倒事は起こすなよ?これ以上ギルドに睨まれたら商売にならんからな」


 「ありがとなマスター」


 槍使いはマスターに礼を言い、奥の部屋向かう。

 清宏とヒーラーはその後に続く。

 ヒーラーは何か言いたげだったが、清宏と目が合うと慌てて目を逸らしている。


 「おう、遅かったな・・・ギルドの奴等は付いて来てねえだろうな?」


 部屋に入ると、椅子に座っていた剣士が槍使いに確認する。

 魔術師は部屋の隅から清宏を観察している。

 

 「問題ねぇよ・・・それにしても、お前のその短気な性格はどうにかしろよ。

 これ以上問題起こしたら、この街にいられなくなるぞ?

 マスターから小言を言われる俺の身にもなれ・・・」


 「わかってるよ・・・それより、そいつも連れて来たんだな」


 剣士は槍使いの小言にウンザリした表情し、清宏を睨む。


 「こいつが居なけりゃ、今頃この馬鹿はギルドに連行されてただろうよ・・・。

 まぁ、今回ばかりはこいつに助けられた訳だから、お前も絡むなよ?」


 槍使いは清宏から変態シーフを受け取ると、椅子に縛り付けた。


 「ふん・・・まぁ、あの馬鹿に関しては礼を言う。

 で、お前は何しにこの街に来た?」


 剣士は清宏を睨んだまま質問した。


 「資金と食材の調達だよ。

 最近はうちも大所帯になったからな・・・食材の消費が増えてんだよ。

 それで、お前達こそ何しに街に帰ってきてたんだ?

 ここ最近は、ほぼ毎日城に来てたじゃないか」


 「俺達も食糧の補充だよ・・・とりあえず座ったらどうだ?」


 槍使いは清宏に席を勧める。

 ヒーラーは、気絶したまま縛り付けられているシーフを診ているようだ。


 「で、色々と聞きたい事があるんだろ?

 俺に答えられる範囲でなら構わないぞ」

 

 「そうだな、とりあえずまずは自己紹介でもするか?

 俺はグレン、見ての通り槍を使う。

 お前に突っかかって行った剣士が一応俺達のリーダーのローエン、向こうがヒーラーのシス、魔術師のウィル、あの変態はシーフのレティだ。

 まぁ、あんたは信じられないかもしれないが、ギルド内でのランクはA、この街にいる冒険者の中では最上位ランクだ。

 で、あんたは何者で、何故俺達を殺さなかったのか教えてくれるか?」


 グレンは一人一人手短に紹介し、清宏に尋ねた。


 「俺は清宏、あの城の管理人みたいなものだ。

 あんた等や他の侵入者を殺さない理由は、オーナーに絶対に殺すなとキツく言われてるからだよ」


 清宏が答えると、グレンは椅子を立って清宏の前でしゃがんだ。

 グレンは真っ直ぐに清宏の目を見る。

 

 「なぁ、実は俺達はこの辺の産まれじゃないんだ・・・初めてあんたに会った時も偶然立ち寄っただけだった。

 それで、あんたに追っ払われた後この街に来て、ここを拠点にした。

 最初は俺もあんたに追っ払われた事に意地になってたってのもあるが、ローエンとレティがどうしてもって言うから俺やシス、ウィルも仕方なく付き合ってたんだけど、その間、俺はあの城について色々と調べた。

 あの城、かなり昔に魔王が住んでたらしいな・・・本来魔王が死んだ場合、時間は掛かるが城はいずれ無くなる。

 それが、だいぶ寂れてはいるがまだ残っていて、最近はまた宝なんかも取れるようになった・・・率直に聞くが、あそこにはまだ魔王がいるんじゃないのか?それとも、お前がその魔王なのか?だからはぐらかしてるんじゃないか?」


 グレンは目をそらす事なく清宏を見ている。

 清宏はしばらく沈黙していたが、根負けしてため息をついた。


 「仕方ないな、この街の連中には言うなよ?

 あんたの言う通り、あの城には魔王がいる・・・それは俺じゃないし、先代が死んでからもずっとあの城に住んでる。

 今あの城をおさめてるのは、先代の娘だ。

 俺はそいつに頼まれてあの城を守っている。

 俺が誰も殺さないのは、その娘が殺すなと言ったからだ・・・俺はそいつと約束したから、絶対に殺さない」


 清宏の言葉を聞き、グレン達は息を飲んで沈黙した。

 キリがないと判断した清宏は話を続ける。


 「ローエンだったか、あんたは俺があんた等をナメてると思っているんだろうが、何度あの城に来ようが俺は絶対に真面目に相手をするつもりは無い。

 それじゃああいつとの約束を守れないからな・・・だから、諦めてくれ」


 ローエンは舌打ちをし、そっぽを向く。

 すると、グレンがもう一度清宏の目を見る。

 清宏は目を逸らさずにグレンを見返す。


 「なぁ、何でその魔王は侵入者を殺さないんだ?効率が悪いだろ?何か理由があるのか?」


 「殺さない理由は、一つ目は魔石確保の為だ・・・侵入者が来れば魔石を稼げるからな。

 殺したらそれでお終いだが、生かして返せばあんた等みたいに何度でもやって来る。

 二つ目の理由・・・それは不殺がそいつの信念だからだ。

 そいつは母親を幼い時に亡くし、父親を勇者に殺され、自分の命が危機に瀕してもなお不殺を貫いていた・・・本来なら復讐を誓ったりするんだろうが、そいつは憎しみの連鎖を断ち切りたいらしい。

 これ以上誰かが死ぬのを見たくない・・・

その信念を何百年もの間、ただひたすらたった1人で守り抜いて来たんだ。

 それを俺なんかの意思で曲げさせる訳にはいかないだろう?」


 話を聞き終えたグレンは、ため息をついて苦笑している。


 「嘘をついてるようには見えないな・・・その魔王も大概だが、あんたも十分おかしな奴だな。

 自分の命を懸けてでも信念を貫くか・・・カッコいいじゃないか?

 そんな事が出来る人間が今どれくらい残ってんのかね・・・その魔王の方がよっぽど自分に正直に生きてる」


 「ただ我儘なだけだよ・・・まぁ、嫌いじゃないけどな」


 「で、どんな感じの娘なんだよ今の魔王ってのは?」


 グレンは笑顔になって清宏に尋ねる。


 「どんなって、この間俺の近くにいただろ?あのガキンチョが魔王だよ」


 それを聞いていたシスは、勢いよく立ち上がった。

 シスが立ち上がる時に身体が当たったのか、気絶しているレティは椅子ごと倒れ、後頭部を強打した。


 「あの子が魔王だったんですか!?名前は・・・あの子のお名前は!?」


 シスは倒れたレティには目もくれず、興奮しながら清宏に詰め寄る。

 清宏はシスのあまりの勢いに飲まれている。


 「ちょっと待って!言うから!今教えるから落ち着いて!!」


 シスは我に返って清宏を離し、恥ずかしそうにしている。


 「すまないな、シスは可愛い子供に目がなくてな・・・」


 グレンは申し訳なさそうに苦笑し、シスを椅子に座らせた。


 「はぁ・・・あんたのパーティの女性陣はこんなんばっかりなのか?

 シスさんだったっけ、とりあえずあのガキンチョの名前はリリスだ。

 信念は立派だが、中身は世間知らずで若干おやじ入ってるよ」


 「リリスちゃん・・・見た目通りの素敵な名前・・・」

 

 シスは名前以外は耳に入っていないようだ。


 「なぁ、俺からもいくつか聞いて良いか?」


 恍惚としているシスを放置し、清宏はグレンに尋ねる。


 「あぁ、こっちの質問は終わったならな、何でも聞いてくれ」


 「さっき、あんた等は冒険者のランクがAって言ってたよな、冒険者のランクって何段階あるんだ?」


 清宏に尋ねられたグレンは腕を組み、説明を始める。


 「冒険者のランクは6段階ある・・・一番最初はDから始まって、C、B、A、S、SSって上がっていく。

 これは厳密には冒険者としてどれだけ実力があるかではなく、どれ程の事件や問題に対処や参加が出来るかって言うのが評価の基準だ。

 基本的には依頼をこなすが、ランクによって受けられる難易度は異なる。

 一番下のDやCランクってのは、雑用や比較的弱い魔物なんかを個別に対処する依頼が主な仕事になる。

 Bランクになると、村などの危機に対処しなきゃならない。

 俺達Aランクは、ここみたいな比較的大きな街や都市の危機への対処、下位ランクの指揮なんかを任される。

 Sランクは国家の危機の際に強制的に参加させられる。

 ただし、それ以下のランクは自由参加になる。

 最上位のSSランクなんだが、これは世界の危機だ・・・何十年、何百年に一度あるかないか位のもんだな。

 ごく稀にではあるが、数年以内に起きることもあるけどな・・・。

 SSランク相当の危機って言うのは、かなり特殊で、王クラスの魔族や魔獣の討伐や撃退になるんだが、これに対処出来るのは英雄と言われる一部の人間だけだ。

 そして、このSSランクにはもう一つ上の特殊な物がある・・・EXと呼ばれているものだ。

 それは、世界の危機と言う点や、起きる頻度は変わらないが、勇者にしか対処出来ない・・・」


 「勇者と英雄は違うのか?」


 グレンは清宏の質問に頷くと、説明を続けた。


 「あぁ・・・まず英雄と言うのは、時の運と実力さえあれば、俺達でもなれる。

 だが、勇者は違う・・・勇者って言うのは、覚醒するものなんだ。

 どう言った理由かは解っていないが、ある日突然、なんの取り柄もない若者が覚醒し、世界の危機に立ち向かえる程の力を持つ事もあるらしい・・・。

 勇者になった者は、英雄とは比べ物にならない程の力を手に入れ、人格すらも変わるって噂だ」


 「勇者が対処する世界の危機ってのは何なんだ?」


 「さっきSSランクの討伐対象が王クラスと言ったよな?

 それは、魔王、龍王、不死王、氷狼王などそれぞれの種族で最強と謳われる者だ。

 だが勇者が対処するのは、その中でも更に強力な力を持ち、全ての種族の頂点に立つ存在なんだよ。

 一体どう言った仕組みかは知らないが、勇者とそう言った存在は同じ時期に出現する。

 それが前回は、リリスって子の父親の時だったって事だな。

 まぁ、冒険者についてはこんな感じだな。

 他に聞きたい事はないか?」


 「いや、他は特にないな・・・ありがとう、勉強になったよ」


 「そいつは良かった!」


 清宏が礼を言うと、グレンは笑って頷いた。


 「話が終わったんならお前はさっさと帰れ・・・レティの目が覚めたら喧しくなるからな」


 ローエンが立ち上がり、外を指差す。

 すると、何処からともなく腹の虫の鳴る音が聞こえてきた。

 清宏がそちらを見ると、今まで黙って話を聞いていたウィルが、恥ずかしそうにお腹を押さえていた。

 それを見て清宏は笑い、グレンを見る。


 「そろそろ良い時間だし、夕飯でも奢ろう・・・冒険者について教えてくれた礼だ。

 そこの変態も起こしてやってくれ・・・ただし、手綱は握っててくれよ?」


 「お、じゃあ良い店があるんだがどうだ?」


 「ちっ・・・帰れって言ってんのによ」


 「なんだかすみません、ご馳走になります」


 グレンは清宏の提案に乗り、ローエンは愚痴を言いつつも席を立った。

 ウィルは清宏に礼を言い、シスはいまだに気絶しているレティを起こしながら頭を下げた。


 


 

 

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