第17話粋な計らい

 休み4日目の早朝、今日も今日とて暇を持て余している清宏は、アンネとレイスによるビッチーズの指導を眺めている。


 「うん、やっぱり見た目の整ってる女性がキャッキャウフフしてる姿は良いねぇ・・・めちゃくちゃ暇だけど」


 アンネは清楚な美少女、ビッチーズ達は妖艶な美女から小悪魔的な美少女、肌の色も褐色や色白など、幅広い層に受けそうな容姿をしている。

 

 「あんた何してんのよ・・・」


 清宏の視線に気付いたリリが話しかける。


 「いや、アンネのお宝シーンをこの目に焼き付けようと思ってな。

 まぁ、拝めそうにはないけどな・・・」


 「はぁ・・・あんたの事だから、どうせ様子を見に来ただけでしょ?

 流石に昨日の今日で問題なんか起こさないわよ」


 リリの言葉を聞き、清宏は笑っている。


 「様子を見に来たってのは建前で、ただ暇を持て余してるってのが本音だけどな」


 「まったく、真面目に話したり戯けたり、どれがあんたの本音なのかしらね・・・」


 リリは、笑っている清宏を見て呆れている。


 「俺はオンオフはしっかりする性格なんだよ。

 それにしても、レイス組は凄いな・・・正直、アンネ組より遅れると思ってたんだがな」


 「あぁ、あれね・・・正直私も意外だったわ。

 レイス組の子達に聞いたら、レイスは喋れないうえに表情が読めないし、黒板に要点だけを詳しく書いていくから、喜怒哀楽もわからないって困惑してたわ・・・無言の圧力が半端ないってさ。

 だから、真面目にやらないと何があるかわからなくて怖いって言ってたわ」


 リリは黒板に文字を書き、身振り手振りで指導しているレイスを見て苦笑した。


 「レイスはあぁ見えて結構面白い奴なんだけどな・・・まぁ、慣れれば仕草で何が言いたいか解るようになるよ」


 「あんたとリリス様は、本当にレイス大好きよね?」


 「そりゃ当然だろ?俺にとっては一番弟子だし、こっちで初めて出来た友達なんだからさ。

 リリスにとっても、俺を除けば初めての配下なんだから可愛くて仕方ないんじゃないか?」


 真顔で答える清宏を見て、リリは可笑しそうに笑っている。


 「スケルトンを友達って言ってる人間を初めて見たわ・・・本当にレイスは幸せ者ね」


 「笑うなよ・・・俺は至って真面目だぞ?

 あいつはあいつなりに俺やリリスの事を考えてくれてるからな・・・日頃の感謝を込めて、今あいつに内緒でプレゼントを製作中だ」


 「あら、何を造ってるの?」


 「そんなん言う訳ないだろ?どんな物かは、あいつが最初に知るべきだからな!」


 「それもそうね、なら私も楽しみにしてるわ!」


 2人はしばらく取り留めのない会話を楽しみ、リリは仕事に戻って行った。

 そのため、再び清宏に暇な時間が訪れる。


 「おーい、清宏はおるか?」


 清宏が再びビッチーズ観察をしていると、リリスが広間に現れた。

 彼女の後ろにはアルトリウスも居る。

 召喚されてからというもの、アルトリウスはリリスと共にいる事が多い。

 彼にとってはリリスは守るべき主人なのだから当然と言えば当然である。


 「うーい、ここに居るぞ?どうした?」


 「なんじゃ、暇そうにしとるの?」


 「お前が休めって言ったんだろうが・・・娯楽は無いし、唯一の趣味になってたアイテム作成は禁止され、俺は何をすれば良いんだよ?」


 むくれる清宏を見てリリスが笑う。


 「まぁ、しばらくは我慢してくれ」


 「で、何かあったのか?」


 「それがの、食料が心許ないんじゃよ・・・ビッチーズが来て一気に消費量が増えたじゃろ?

 先日、偵察のついでにアルトリウスが仕入れて来た食料だけでは足りなくなってしまっての・・・」


 リリスは腕を組み、唸っている。

 ビッチーズ計画が本格化すれば、ビッチーズ達は食事を摂らなくても良くなる。

 それは、男性から搾取した精が主食になるからだ。

 だが、貞操を守るリリは精を得られず、アルトリウスとアンネロッテは血を吸えば人を殺してしまうため、吸血行為は出来ない。

 そんなリリやアルトリウス、アンネロッテにとって、その代わりとなるのが食事なのだ。

 彼等の場合、本来人間と同じ物では栄養を得ることは出来ないが、魔石を一緒に摂取する事で、足りない分を補うことが出来るのだ。

 彼等にとっての魔石は、人間で言うサプリの様なものだが、それだけでは腹は膨れない・・・腹の足しになる物が必要なのだ。


 「なら、買い出しに行かなきゃならないか・・・アルトリウス、ここから一番近い街までどのくらいだったっけ?」


 「徒歩なら4日、馬を走らせて2日で往復できますが、私なら早ければ半日で往復出来る距離ですな」


 アルトリウスは、清宏の質問に簡潔に答えた。

 比較的近い場所に街があるのには理由がある。

 本来、魔王の住む城がある場合近くに街は出来ないのだが、この城はリリスの父親が死んでから長い年月が経ち、現在まで周辺への被害が殆ど無かったのが街が出来た理由だ。

 城の宝を狙う冒険者達が集ったため、人が集まって街が出来たのだ。


 「ふむ、じゃあアルトリウスに頼むかな?」


 「了解いたしました」


 清宏に頼まれ、アルトリウスが外に出るために窓際に行こうとすると、リリスがそれを止めた。


 「清宏、気分転換にお主が行ってみるか?」


 リリスの言葉を聞いて、清宏は首を傾げている。


 「あのさ、ダンマスの俺が行ってどうすんだよ?」


 「暇なんじゃろ?なら行ってみれば良かろう?」


 「いや、だから俺が居なくて大丈夫なのか?」


 清宏に問われたリリスはしばらく考えたが、笑顔で首を振り清宏を見た。


 「まぁ、今はまだ忙しいという訳でもないしの・・・。

 罠に関しても、朝昼2回アンネとレイスが補充するだけで十分足りておるし、何よりあの変態シーフもここ2日程来とらんからな。

 お主はここに来てから、城の外に出ておらんじゃろ?

 折角じゃし、忙しくなる前に外の世界を少しでも見てきたらどうじゃ?なんなら1泊して来ても良い。

 行きと帰りはアルトリウスを使いに出すから、お主はゆっくりしてこい。

 お主は人間じゃから怪しまれる事も無いじゃろうし、今後の為にも、余ったアイテムなどを売って資金調達もして欲しい。

 どうじゃ?忙しくなったら行く事は出来んぞ?いつ行くんじゃ?今じゃろ!?」


 リリスは清宏を気遣って提案しているようだ。


 「了解、んじゃまぁ俺が行ってくるよ・・・ありがとな、リリス」


 「何の事かの?妾は礼を言われるような事は何もしとらんぞ?

 暇人に仕事を恵んだだけじゃよ」


 リリスは清宏に礼を言われると、顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。


 「うーん、行くのは良いけどやっぱり心配だな・・・まだ誰も来てないし、しばらく城を閉めるか?」


 「心配性じゃなお主は・・・好きにするが良い。

 じゃが、どうするんじゃ?」


 清宏はリリスに問われ、一度自室に戻って大きな板を持って来た。

 清宏は板を床に置き、ペンキで何やら文字を書いていく。

 広間にいたレイスやアンネ達も何事かと思い近寄って来た。


 『誠に勝手ながら、本日より店舗改装のためしばらくお休みさせていただきます。

 営業再開は4日後を予定しております。

 ご来店いただいたお客様には大変ご迷惑をおかけしますが、何卒ご理解、ご協力をお願いいたします。』


 板に書かれたのは、休業のお知らせだった。

 それを見たリリス達は呆れている。


 「なぁ清宏や、本当にこんな文面で良いのか?」


 リリスは睨んでいるが、清宏は満足気に笑っている。


 「このくらい馬鹿にしてた方が反抗心を燃やしてくれるかもしれないだろ?

 これを城門に吊るしとけば良いさ」


 清宏は笑いながらもう一度自室に戻ると、手早く準備を済ませて広間に戻って来た。


 「まぁ、ゆっくりしてこい。

 面白い情報などあったら調べてきてくれ」


 「ういっす!んじゃ、アルトリウスよろしくな!」


 清宏は敬礼し、アルトリウスを連れて城を出ると、城門に看板を掲げる。


 「なかなかの力作・・・」


 「訪れた者達は皆悔しいでしょうな」


 「そうなったら、俺の思う壺だな!

 で、どうやって行くんだ?空でも飛ぶのか?」


 「しばしお待ちを・・・」


 清宏が尋ねると、アルトリウスは清宏から距離を置く。

 すると、みるみるうちにアルトリウスが狼の姿へと変化した。

 狼となったアルトリウスは、彼の髪の色を思わせる目が覚めるような金色の毛皮を持ち、座っている状態でも清宏と同じくらいの大きさだ。


 「では清宏様、私の背に跨っていただけますか?」


 「お、おぅ・・・正直思考がついていかないわ」


 清宏はゆっくりとアルトリウスに跨る。


 「何だこれ・・・何だこのモフリティーは!?やっべ、ずっと触っていたい・・・」

 

 「ふふふ、お判りいただけますか?

 この毛並みを維持し続けるのは、並の努力ではございません・・・。

 まぁ、最近では清宏様の発明されたドライヤーのおかげで、かなり楽にはなりましたがな!

 あれは素晴らしい発明でございます!アンネもたいそう気に入っておりましたからな!」


 アルトリウスは嬉しそうに頷き、走り出す。

 結構なスピードが出ているが、まったく揺れていない。

 背に跨っている清宏も安心した表情で寛いでいる。


 「なぁアルトリウス・・・お前とは最悪な出会いだったけど、今じゃ感謝してるよ。

 正直、最初お前が召喚された時、何だこいつって思ったけど、今は俺の代わりにリリスの側に付いていてくれて助かってるよ」


 清宏は走るアルトリウスに、感謝の言葉をかける。

 

 「ははは・・・まぁ、私も清宏様には無礼を働きましたからな!お互い様でございましょう?

 私をはじめ、吸血鬼の真祖は皆何かしら執着している物がございます・・・私の場合は美しいものですな。

 それ以外の物にはまったく興味を示さず、またそれを侮辱されると相手を完膚なきまでに叩き潰すのが常、それが我々真祖でございます。

 清宏様に殴られた時、私は即座に自分が負けた事を理解しました・・・私の防御を遥かに上回る攻撃を受け、最も大事にしていた顔を損傷し、この傷は癒える事は無いだろうと半ば諦めておりました・・・。

 ですが、清宏様は無礼を働いた私を許し、気絶していた私のため、大事な物が失われぬよう処置してくださいました。

 私が目覚めてからも、私を気遣い何事も無かったかのように振舞ってくださり、目の覚める思いでございました・・・。

 さらには、私の配下であるアンネロッテにまで本当に良くしていただいております。

 私とアンネロッテは、このご恩を生涯忘れることはございません・・・リリス様と清宏様のため、この命尽きるまで誠心誠意お仕え致します」


 アルトリウスは清宏に思いの丈を伝えた。

 清宏は黙って彼の話を聞いている。


 「リリス様のご命令ゆえ、行きと帰りは私がさせていただきますが、清宏様が街に滞在している間の城の守りは安心して私にお任せください・・・。

 無理に侵入を試みる輩は、私が全て排除いたします」


 「あぁ、うちにはお前以上の適任はいないだろ?

 でも、絶対に殺すなよ?殺したらリリスに怒られるからな?」


 「えぇ、重々承知しております」


 清宏とアルトリウスは笑い合う。

 たったの一戦であったが、2人の間には確かな絆が生まれていたようだ。

 清宏との話を楽しみながら、アルトリウスはさらにスピードを上げる。

 山を駆け抜け、谷を飛び越え街に向かってひた走り、昼前には街の近くにある森にたどり着いた。


 「では清宏様、明日の昼にはお迎えにあがりますので、またこの場所にお越しください」


 人型に戻ったアルトリウスは、清宏に跪く。


 「あぁ、送ってくれて助かったよ・・・また走って帰るのか?」


 「いえ、帰りは飛んで帰るつもりでございます。

 そうすれば半分の時間で帰れますので、一刻もあれば城に着くでしょう」


 「そうか、じゃあ気をつけてな!」


 清宏はアルトリウスに手を振り、街に向かって歩き出す。

 アルトリウスは清宏の姿が見えなくなるまで見送ると、蝙蝠に変化して城に向かって飛び去った。





 



 

 

 

 

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