第三話 急襲(1)
およそ百年前に自治領が成立して以来、ミッダルト=トゥーラン間の
ミッダルト星系とトゥーラン星系を結ぶ
トゥーラン側のステーション管制官であるペイリー・ジョクは、この道二十年のベテランである。管制室のオペレーター席に着席していたジョクは、恰幅の良すぎる
「ミッダルトからの定期連絡船は、まだ来ないのか」
船舶運航スケジュール情報を積み込んだ定期連絡船によるやり取りは、
その定期連絡船が、予定を大幅に過ぎても未だ姿を現さない。お陰で足止めを食らったまま待機中の船舶たちからは、航行再開の確認を求める連絡が殺到する有様である。
この仕事に就いて以来初めての事態に、ジョクは当惑せざるを得なかった。
「銀河ネットワークが完成したら、この仕事も取って代わられますからねえ。向こうの人たちも浮き足立ってるんじゃないですか」
眼前のホログラム・スクリーンやらモニタを眺めていた年若い部下の女性の言葉に、ジョクは大きな
「向こうの責任者は俺がひよっこの頃からこの仕事を続けている、管制官の鑑みたいな爺さんだぞ。あの爺さんがそんなへまをするか」
「でも定期連絡船なんて、せいぜいあと二年もすれば廃業ですよ。管制官の仕事も激減するでしょうし、そのお爺さんも自分の仕事が無くなりそうでショック受けてるんじゃないですか」
部下のぼやきは、決して彼女ひとりのものではない。
「管制官になれば食いっぱぐれはないと思ってたんだけどなあ。私も転職先探さないといけないかもですよ」
彼女はそれなりに有能なのだが、余計な独り言が多いのが玉に瑕だ。さすがに勤務中に転職を呟かれるのは目に余ると思って、ジョクが注意しようとしたそのとき――
「
唐突な部下の報告に、ジョクも慌てて彼女が注視するホログラム・スクリーンに目を向ける。
「ようやっと到着か。全く何をやってたんだか……」
肩の荷が下りたつもりで、大きく息を吐き出そうとしたジョクの耳に、今度はその定期連絡船からの通信が飛び込んでくる。
「管制に連絡! 緊急だ、応答してくれ!」
声の主は、ジョクも長年付き合いのある定期連絡船の船長だ。定型のやり取りを無視して、おおかた遅刻の釈明を大袈裟にするつもりなのだろう。そう思ったジョクは頭を掻きながら連絡船の呼び掛けに応じた。
「こちら管制、ペイリー・ジョクだ。どんな言い訳を聞かせてもらえるのか、首を長くして待ってたぜ」
「ペイリー、一大事だ!
船長からの通信は切羽詰まっていて、ジョクの冗談めかした言葉に付き合う余裕も感じられない。
「どうした、おい。お前らしくない慌てようだな。何があった?」
「航宙局の奴ら、ミッダルト側
船長の通信の意味が一瞬理解出来ず、ジョクは顔をしかめながら尋ね返した。
「閉鎖って、どういう意味だ、そりゃ?」
「文字通りの意味だよ。ミッダルト側
「連邦軍だと?」
想像を超える事態を告げられて、ジョクの顔色が変わる。不安げな部下の視線を頬に受けながら、ジョクは船長に再び尋ねた。
「もしかして攻撃を受けたのか?」
「いや、そういうわけじゃない。ただずっと拘束されていたのが、今頃になってお前たちへの連絡を頼まれて、ようやく解放されたんだ。俺たちは航宙局のメッセージを預かっている」
「なんだ、そのメッセージってのは?」
ジョクは背中に嫌な汗が滲むのを感じた。戦闘行為を受けたわけではない、だが軍艦が
「『これより
予想を的中させたジョクは、いつの間にかオペレーター席から立ち上がったまま、呆然とするしかなかった。
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