第26話君たち二人は、少し特別なのだ

「……数十年前、その〈ガシャの根〉が発見されて以来、我が社は秘密裡に研究を続けてきた。数年ののち、その不思議な根は、夢の底へ行く触媒だということが判明した」


「……夢の底?」


 初めて聞く言葉に、アオイは首を傾げた。


「そうだ。まず、個人が普通に見る夢を〈第一夢層〉、そしてその奥にある人類共通の夢を〈第二夢層〉と名付けた」


 それを聞き、ふとアオイの頭の中には、ハルキがよく言っていた変な夢の事が浮かんだ。


「我々はその〈ガシャの根〉にアクセスすることに成功し、自由に〈第二夢層〉と行き来することが出来るようになった。……そしてだ、今世間で話題の新型ナルコレプシーを発症した人々が〈第二夢層〉で数多く発見されている」


「……それってどういうことですか?」


 いまいち理解しきれないアオイは眉を寄せながら質問した。


「つまり、身体は病院にあるが、精神は人類共通の夢、〈第二夢層〉まで落ちてしまっているということだ」


「じゃあ、ハルキの精神はそこに……」


 簡単に納得できる話ではなかったが、ほんの少しでも事が前進するのなら、それはアオイにとって希望だった。


「いや、〈第二夢層〉のさらに奥に、別の世界があったのだ。遥かなる夢の底を抜けると、この世界と対を成す、もう一つの世界がある。だがそこは夢ではなかった。現実の世界だ。我々はそこを〈第三夢層〉と名付けた。ハルキの精神はそこにいる」


「ちょっと、待って下さい……もうなにが何だか」


 信じられない説明を聞き、パニック寸前だった。アオイは苦笑を浮かべ、頭を抱えた。


「誘拐されたハルキ君の身体の方は、もう特定済みだ」


 リュウが口を開く。


「犯人は、この国の政府……と米国。奴らも最新のテクノロジーを使って、夢の世界に進出している。……ハルキ君の次に狙っているのは、君だよ」


 レイイチは真剣な瞳をアオイに向けた。


「私? なんで私が?」


「……事情があるのだよ。君たち二人は、少し特別なのだ」


 ウエムラの目はアオイを見ていたが、心はどこか遠くを見ているようだった。


「その事情を教えてはくれないんですか?」


 アオイは食い下がったが、ウエムラは首を横に振った。


「今から君にはやらなければならないことがある。話している時間はない」


 そう言い、ウエムラはリュウに目配せした。


「新型ナルコレプシーの原因は〈第三夢層〉にある。〈第二夢層〉に落ちた人々の精神体は、ほとんど〈第三夢層〉から来た〈シャド〉と呼ばれる化け物に連れて行かれてしまうんだ。君が今夜眠りに就いたら、〈シャド〉に引っ張られて〈第三夢層〉に連れて行かれる可能性が高い。向こうも君を探しているからな。だからそうならないよう今日中に〈第二夢層〉で訓練してもらう」


「え、でも――――」


「心配はいらんよ。学校にも施設にも連絡はしてある。君とハルキの身柄は、アトランティカグループが責任を持って預かる。ちなみに、今後しばらく外出は禁止だ。政府の連中に見つかるかもしれんからな。……わしらのことが信じられないなら、政府側に行ってみなさい。どちらが正しいか分かるはずだ」


「その時にはもう手遅れですよ。奴らは何も知らない」


 レイイチはそう言って、アオイに微笑んだ。

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