第11話〈ガシャの根〉

「ハルキ、後ろを見るな! 置いてくぞ」とリリーに腕を引っ張られ、がむしゃらに走ってようやくたどり着いたその場所には、天まで届く巨大な白い柱があった。


近くで見るとそれは植物の根のようだったが、質感は鉱石のようでもある。


上空にはすでにシャドが飛んでいた。オリビアが弓で落としているが、数は一向に減らない。〈構築師〉は先ほどよりも確実に距離を詰めてきている。


「早く背中をつけろ」


ハルキはリリーの動きを真似て、〈ガシャの根〉に背中を付けた。途端に根から白い菌糸のようなものが伸び、瞬く間に全身を覆ってゆく。


「うわああ! なにこれえ」


 未知の体験にハルキは情けない声を出してしまい、そして全身に鳥肌が立った。菌糸は身体の密着面を全て覆い、表側に伸びてくる。不気味だったが菌糸がプチプチと全身を這う感覚に痛みは無く、かすかにくすぐったい程度というのがせめてもの救いだった。


「大丈夫だ。この白いのに覆われれば助かる。目を閉じて静かにしてろ」


 そう言い放った真横のリリーを見上げると、すでに耳のあたりまで白く染まっていた。


〈構築師〉はすでに顔の分かる距離まで迫っている。たくさんの装飾具、ピアスや首輪や腕輪などが歩くたびにシャンシャンと音を立てる。それらは全て金色に輝いていた。坊主頭には幾何学模様の刺青が描かれていて、耳まで裂けている大きな口の入れ墨が、見る者に恐怖を与える。手には派手に飾り立てた槍を握り、その体躯は通常の人間よりだいぶ大きい。


背後には、今にも崩れ落ちそうな高層建築物群の廃墟が揺らめいていた。空は暗雲が立ち込め、浮遊するシャドがたくさん連なり、空中に大きな赤い川を出現させていた。その異質な景色は、少なくともハルキの知っている世界のものではなかった。


周りのシャドを片づけ、隙を見てエイルとオリビアも〈ガシャの根〉に背中を付けた。ただ一人、モルコだけがいまだにシャドと戦っている。


「モルコ! 早くして!」


オリビアの声に「先に行け!」とこちらを見ずに応える。


すでに顔以外、白い繭に包まれた格好のハルキは、モルコがたくさんのシャドに囲まれているのを見た。複数の紫色の手が伸び、モルコを掴んでその動きを封じる。


ハルキの視界が塞がる寸前、〈構築師〉が槍を構え、モルコに向かって投てきした。そこから先は視界が真っ白になって見えなかったが、モルコの名を叫ぶ誰かの声が、ハルキの耳にかすかに聴こえた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る