第78話

 警備室から出た友里と名無しは、立体駐車用の方へと慎重に足を進める。


 そして、がいたのは、ショッピングモールの三階だった。


 二人が非常扉をあけ、通路をチェックした時。


「ちょっと!ここの数字、あっていないじゃない!やり直しよ、やり直し。」


 突如、甲高いヒステリックな声が、雑貨屋から聞こえてきた。


「……。」


 友里の瞳に、殺意が宿る。

 それもそうだ。を知っているのだから。


「チャイナ服の女吸血鬼……」

_______兄を、殺した吸血鬼……!!


 小さく呟く友里を、名無しは不安そうな目で見つめる。危うい雰囲気を醸し出す友里は、何をしでかすかわかったものではない。


 しかし、どこか冷静な友里は、ノートに文字を書き込んだだけで、視線を前へと戻す。


_______今、あの女の前に躍り出ても意味はない。


 友里は、気持ちを落ち着かせるために、目をきつく閉じる。

 手に持っていたボールペンが、手のひらのなかでパキリと悲鳴を上げた。


_______でも、。私は、貴女を許さない。許せない。


 見開かれた友里の瞳には、明確な意志さついが込められていた。


 ◇◆◇


 退屈そうに警備する二人の吸血鬼の前に、段ボール箱を持った名無しが出る。


「ん?どうしたんだ?」


 鉄パイプを持った吸血鬼が、名無しに聞く。

 名無しは曖昧な笑顔を浮かべて答える。


「すまない、一箱別のものが入っていたようだ。」

「そうか。気をつけて。」


 箱の中身を見ることなく、鉄パイプの吸血鬼はアスファルトの地面に腰をおろした。



 下見は、何事もなく終わった。

 友里は、段ボール箱に詰められたまま、考える。


_______ショッピングモールは、隠れられる場所が多い。余計な戦闘は避けつつ、確実に一人一人を撃破していけばいい……はず。


 まだまだ暑い日差しを全身に受けながら、友里と名無しは上里町を離れた。


 ◇◆◇


「_______成る程。吸血鬼アリサは、上里町のショッピングモールにいるのね。」

「うん。そうだよ。僕、言ったよ牧森まきもり中尉ちゅうい?約束、守ってね。」


 佐護はへらへらと笑いながら、女性に声をかける。

 女性、牧森は、冷たくいい放つ。


「最初に言った通りよ。釈放は認められない。出来るのは、死刑の先伸ばし。」


 そんな牧森に、佐護は鋼でできた手錠のついた両手をひらひらと振り、答える。


「わかっているよ。それで十分。」

_______いつでも、脱獄は出来るから、ね。


 ニコニコと屈託ない笑みを浮かべる佐護を、牧森は胡散臭げに見つめ、面会室を後にする。


 牧森はため息をつきながら、手元の資料を見る。


_______ずいぶん吸血鬼の数が少ないわ。これじゃあ、作戦を控えている十字会わたしたちは動けない。


 資料には、数枚の紙切れと、上里町にあるショッピングモールの写真。


「警察に頼むしか、ないかぁ……。」


 牧森はキリキリと痛む胃を押さえながら、携帯電話をバックの中から取り出した。

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