第29話 島の復興を命じる
「頼むぞ、ペンダント!! 行け、俺の百足!!!」
そう叫ぶと、何処からともなく百足が現れる。
彼女は百足の姿を見るや、ワナワナと震える
「な、何故神獣のセンティパーダを呼び出せるっ!? こっちは毎回あれだけ苦労して山へ爆薬を仕掛けたというのにぃっ!!」
あ、やっぱりこいつも神獣だったか。
あとやっぱり手間かけすぎだろ。
「一応、俺の特技みたいなものだ」
そう二人で話している間、畑を舞台にして百足VSモグラが始まる。
「な、なるほど、貴様は我らが黒鉄団の障害になる者らしいなぁ」
そう言うと、ワナワナと震えつつ、彼女は剣を構える。
「悪いが、死んで貰おう!」
構えを見て、俺も拳を構える。
「……舐めるなぁっ!!」
斬りかかってくる彼女の剣を、そのままガシッと受け止める。
秘技、真剣白刃取り改。
人差し指と中指だけで白刃取りをする技だ。
「き、貴様!!」
「俺の名前は田中雄平だ。貴様じゃない」
そう言うと、俺は指を離して、彼女の足を払う。
姿勢を崩すが、直ぐに態勢を立て直して剣を構え直す。
なるほど、確かに彼女は間違いなく出来る。
……問題は、ちょっと知恵が足りないだけかもしれない。
一方、百足とモグラの戦いもほぼ決着がついたらしい。
モグラの方が一方的に百足に巻き付かれると、刺されたらしくそのままもがいて逃げ出そうと必死になっている。そして、百足が巻き付くのをやめて更に噛もうとにじり寄るが、モグラは戦意を失って逃げ出した。
「わ、私のモモちゃんがっ!」
ペットなんかい!!
「こ、この借りは必ず返すぞ! 私の名前は黒鉄団のエルザ!!」
そう言うと、モグラに乗って彼女は海へとダイブする。
「いや、モグラって陸生動物じゃ?」
その後を追うと、モグラは悠々と海を泳いでゆく。
しかも、かなりの速度で。
この世界じゃ、モグラは両生動物らしい。
「ったく、追いかけて正体を掴まないと」
アレックスを呼ぼうとしたのだが、そんな時だ。
百足の方がこちらに向かって来るや、俺の体にまとわりつく。
「ギチギチ♪」
親愛の証なのか、顎を震わせて挨拶してくる。
が、滅茶苦茶怖い。
「わ、分かった! ありがとうな、ムカちゃん」
人懐っこい百足を相手にしている間に、エルザは取り逃がしてしまった。
その夜、酒場で街の人から祝杯を挙げて貰った。
「いやーっ!! あんたは立派な貴族だ!! 街の人間を代表して俺が奢る!」
「俺にも一杯奢らせてくれ!」
そんな中、タンヂも何故か勝手に自分が島を守った事を女相手に喧伝している。
「えーっ! じゃあタンヂ様があの百足を?」
「ふふっ、そうさ! 何たって私は貴族でありつつも鉱山技師をしていてね、山のちょっとした動きで何の動物が住んでるかも分かるんだ」
背中を見せて即座に逃亡したくせによくいうよ。
そんな宴会の中、オスカーが隣に座る。
「いや、今回の件は本当に助かりました。感謝しております」
そう言うと、グラスで軽く乾杯する。
「何分この島は農業と鉱山で交易することで繁栄してきた島。これで去った人もまた戻ってくるでしょう」
確かに、その死活問題を解決したというのは大きいだろう。
「島の者を代表して、私からも感謝したい。本当にありがとうございます」
その礼を受けつつ、俺はある疑問を呈する。
「あのオスカーさん、黒鉄団とは一体なんですか?」
「は、はぁ黒鉄団ですか? 窃盗とか、海賊をやっている連中ですよ。ここいらでも交易船には運悪く襲われたことがあるやつもいまして。でも、バックにはどこかの国が関わってるんじゃないかとは聞きますね」
「なるほど……」
グラスを傾け、俺はその事を記憶に刻むことにした。
それから三日後、本国からの伝書鳩が届いた、
俺の方から、事が解決したことを知らせたのが、その返答であろう。
中の手紙には、引き続き島の復興を命じる、とある。
……でも、俺のやれること言ったら農業しかないしなぁ。
それも、元々働いて人が戻ってくれば余り意味がない。
とりあえず手を付けるのは除草。
大鎌で丈の高い草を刈って行く。
これは要領さえ掴めばスイスイ行ける。
あまりに量が多い時は、アレックスに草を食べて貰う。
雑食で結構量も食べるので、運動にもなるし丁度いい。
そんでもって、モグラが通って破壊したらしい畔も修復。
……こんな端から端を行き来して、わざわざ破壊工作していたのを考えると、本当に忍耐強いやつだったんだな、と恐れ入る。
凸凹になった土地も、アレックスに地均しさせることで均平にさせた。
加えて、地震のせいで崩れた石垣や農道を修復。
これは、アレックスの出番。
「ほらアレックス、こっちからあそこまで、このローラーを曳いてな」
「ガル!」
ローラーを曳かせて、地ならし。
石垣はきちんと計算して積まれているので、一旦それを崩してからまた新たな石を入れて積直す。
こう考えると、昔の城で石垣を作った職人の偉大さを知る。
次に、水路の掃除。
石を使った水路なのだが、老朽化している箇所があるので、そこを漆喰を使って補強する。
漆喰の材料になる石灰は、タンヂを使って手に入れた。
「なんでこの私がそんな願いを引き受けないといけないんだ?」
「うるせえ、お前の昨日の言葉を全部ヘレンに言うぞ」
この会話だけで、石灰がいとも簡単に手に入った。
やっぱり鉱山技師なだけあるな。
そして、その石灰を畑にも撒く。酸性になった土壌をアルカリ性に戻して、中和するのだ。
土をプラウで天地返しする。
天地返しとは、田んぼでも土壌改良を目的として行うもので、文字通り耕作地を深く耕して、作物が根を張るような場所の土を地表に出すことだ。
そこへ石灰を散布したら、またプラウで耕して地中と混ぜる。
これを三日かけて繰り返すことにした。
「うーん、ナイス」
三日もしたら、あの魔法試験紙も薄い赤から、白いままになった。
あと、技術指南書で見てみると、土壌設計には三要素だけでなく他にも必要なものがあるらしい。
メジャーな窒素・リン・カリだけでなく、硫黄、鉄、マグネシウムといったものだ。
作物の生育には確かに窒素を効かせるのが良いのだが、何年も化成肥料だけで連作すると、硫黄といった栄養源が枯渇してしまうのだとか。
「ふーん、なるほど」
と、いう訳で、そうした土壌に鉄粉などを撒くことにする。
幸い、鉱石は手に入るので、鉄鉱石のスラグを細かく砕いて、それを畑に撒く。
技術指南書によれば、製鉄所から出るスラグを田んぼに入れる、ということもあるらしい。
まぁ、製鉄所がないから、今回は鉄粉を作ったんだがな。
そんでもって、茶畑。
山間の土地を上手く生かして作ったこの畑も、かれこれ二百年くらいの歴史があるらしい。
ここのお茶は「サマーレー茶」として、王室や貴族に愛用されるお茶らしい。
が、この世界でのお茶は煎じて飲む緑茶形式。
「せっかくだから紅茶とかでも作って、特産品にしたらよくね?」
早速技術指南書で調べてみると、製法が記されている。
紅茶の場合は、茶葉を入念に揉みしだいた後、発酵する為の専用の部屋が必要らしい。
温度が外気温程度で、湿度が九十パーセント以上の場所が好ましいのだとか。
「……要するにサウナ作ればいいってことか?」
そんな訳で、紅茶を作る為の発酵小屋を作った。
それに、水を焚く釜から出る湯気を発酵小屋につなげ、十分に冷ましてから蒸気が入るようにする。
うーん、完璧。
これで紅茶葉が出来るので、後は乾燥させて出荷すれば良いだけだ。
そんなことをしながら三週間ほどすると、人も戻り始めてきた。
鉱山の方の修復も順調に進み、こうして俺らの役割は終わる予定だったのだが、オスカーからある提案がされた。
「折角ですから、地域の住人の為に野菜の作り方でも教えて貰えませんか?」
「まぁ、そりゃいいですけど」
そう答えると、タンヂも混ざって来る。
「それなら、私も鉱石の見分け方から、鉱脈探索について教えて差し上げましょう」
いや、それ住民は別に興味無いだろ。
「それじゃあ、屯所にこれからいらして下さい。皆さん、ユウヘイさんの話を聞きたがっていますから」
「ほんと? でもなんで?」
「島に来る商人の方が言うには、貴方は自分の領地を非常に豊かな農園にしたと聞きます。それもその島民にも技術を伝授しているのだとか。中々貴族の方はそうした事を教えてくれませんから、是非ともこれを機会に教えて下さい」
「うーん……、じゃあ分かった」
こうして、俺は園芸教室を持つことになった。
まぁ、技術指南書がありゃ何とでもなるだろう。
「そ、それでは私も一緒に行こうではないか」
と、タンヂも口を挟むが、
「いや、貴方は結構。もう船便も来ますからそろそろお帰り下さい」
と、オスカーからすげなく扱われる。
ションボリして港へ向かう彼を見て、ちょっとは同情……する必要もなかった。
※続きは8/26の12時に投稿予定です。
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