第194話 お宝は、鳥籠?


「ふうん・・まあ、町としては大きい方?」


 俺は眼下の町並を見回して呟いた。


 マリコの案内で、ギノータス連邦のマッカルボという町へ遊びに来ていた。

 ユノンとデイジー、フランナ、リリン、ファンティ、アヤというメンバー構成だ。


 上空から町並を観察してから、とりあえず領主の城館に向けて降下する。

 いつぞやの聖王国と同様、まずは首長の館から訪問するスタイルである。


 いや、滅ぼすつもりはありませんよ?

 危ないメンバーですけどね。


「この辺りだと一番大きいって、商人が言っていました」


 マリコが言った。


「ふうん・・宝物庫とか、どこかな?」


「この建屋の地下と、あちらの岩室に別れて存在するようです」


 ユノンが町から少し離れた岩山を指さした。


「そっか。じゃあ、まずはここの地下を見て、それから岩山に行ってみよう」


 俺達の目的は、チュレックの側面支援。ギノータス連邦の財政悪化による兵力ダウンを狙っている。直接介入すれば、一瞬で消し飛ばせるんだけど、この世の誰1人として、そんな事は望んでいないもんね。


(警備、ざるだなぁ・・)


 いつも思うんだけど、無警戒過ぎるでしょ。


 さくさくと進んで宝物庫になっている地下室に辿り着くと、片っ端から個人倉庫に収納する。まあ、いわゆる金銀宝石の類ばかりだ。


「もう無い?」


「はい」


 ユノンが頷いた。


「じゃ、次は岩山へ行こう」


「分かりました」


 ユノンが転移の魔法円を描く。それに、全員が跳び乗った。

 直後に、周囲の景色が変わって、ひっそりと闇に沈む岩山になっていた。


(・・なるほど)


 物音は控えられている。しかし、人間の心音はやたらと多く聞こえた。先ほどの城館より大勢の人間が警護に就いている。


(潜水艦でも作ってるのかね? 港から少し奥まっているけど・・)


 地下に海へ通じる水路があるのかもしれない。


 呪髪で掘り掘り岩肌に穴を開けて中へと入り込むと、内部は建物の居室のように調度品が置かれた部屋になっていた。感じからして、かなり身分が高い者のための部屋らしい。


「ふうん・・」


 手分けして物色する。

 糸でじた手記、書き付け、宝石やら鉱石やら・・。

 装身具らしい品もあったけど、めぼしいものは無かった。


「なんか、がっかりだね」


「隣室は祈祷きとう所のようになっております」


 デイジーがアヤと共に戻って来た。


祈祷きとう?」


 お祈りするの? 岩山の中で?


「供物受け、祭壇、護法陣・・こちらは、法具の破片でしょう」


 デイジーが木片のように見える物を拾った。ゴミにしか見えないけど。


「枯れ木のようですが、これは臓器の一部ですね」


「・・は? それが?」


「アルシェを連れて来なくて正解でした」


 ユノンが呟いた。


「なんで?」


「花妖とは違うようですが、恐らくは樹妖の身体から切除された物です」


「むぅ・・祈祷きとうって、なんか、そういう儀式なんだ?」


 どうやら、この場所で気味の悪い事が行われていたらしい。


にえを使う儀式となると、名の知られたところでは、シックリング神法か、ミドリス聖祈祷でしょうか」


 そう言ったのは、リリンだった。さすがはチュレック王国、宰相の娘さん。博識です。


「おぞましい感じなのに、神法とか? 邪神にでも祈ってんの?」


「シックリング神は風を司ると言われています。この辺りの船乗り達にとっては主神ですね」


 デイジーが教えてくれた。


「へぇ・・」


 まあ、帆船に乗る船乗りなら、風の神は無視できないよなぁ。


「ミドリス神は大地神です。しかし、樹妖を捧げたとなると・・呪法になりますね」


「呪法?」


「樹妖は大地神の申し子です。その樹妖を供物にしたという事は表術ではございません。裏の術法という事になります」


「なるほど・・」


 納得しつつ岩山の物音に耳を傾ける。

 これと言って、おかしな音は聞こえないようだった。


「気が変わった。ちゃんと調べてみよう」


 このまま帰っては、ここに居ないアルシェに申し訳ない気がする。


「では・・万呪怨マジュオン


 ユノンの呼びかけに応じて、部屋のそこかしこに眼が開いた。いつもながら、実に不気味な光景であります。


「この地をなさい」


 ユノンの命令を受けて眼という眼が、ユノンの足下にある影へと集まり潜って消えていく。


「術による隠蔽いんぺい万呪怨マジュオンが見つけます。私達は眼で見える物を調べましょう」


「うん、そうだね」


 お嫁さんに隠し事はできませんよ?


(隠し事なんかしないけどねぇ~ バレたら怖いしぃ~)


「コウタさん?」


「ぇ、ぁあ、いや・・じゃあ、調べながら最下層まで降りてみよう」


「はい」


 今のノルダヘイルにとって有益な物は無さそうだけど、ギノータス連邦が何をやっているのかぐらいは知っておいて良い。

 文字通りに、しらみつぶしに各層を調べながら下へ向かうと、ここがどうやら岩山をくり貫いて造った神殿らしい事が分かってきた。

 神官の類を見かけないけど、修道女らしき女達なら居た。全員を眠らせつつ下層へ降りると、途中からは神殿では無く、武器庫として使われていた。兵士用の寮、食堂らしき広間まである。


「この武器は、魔術の増幅器ですね」


 ユノンが手に取ったのは、眠らせた兵士が持っていた長剣だった。

 どうやら、兵士全員が似たような武器を所持している。


「腕輪、紋章なども、増幅器になっております」


 デイジーが言った。


「簡単に作れる物?」


「いいえ、非常に稀少な物なのですけど、どれも上質ですし、とても兵士が所持できるような物では・・」


「ふうん・・大量生産できるようになったってこと?」


 潜水艦とか造るくらいだし、技術力に優れた国なのかな?


「ギノータス連邦は兵士個々の武勇よりも数に頼った戦術を好むと聴いておりましたが・・」


 リリンが首を傾げている。


「兵士の練度はさほどではありませんね」


 ファンティが眠りの魔法を使うと、どの兵士もほぼ抵抗できずに昏睡状態におちていた。抵抗力も増幅されているだろうに・・。


「いくつか持って帰って調べてみよう。チュレックへの土産になるし」


「畏まりました」


 アヤが兵士の装具を剥ぎ取っていく。絶世の美少女がおっさん兵士を裸に剥いている。なんか、シュール・・。


「・・下着は要らないから」


「助かります。あまり清潔ではありませんので・・」


 アヤが剥ぎ取った下着を床に捨てた。


「うん、まあ・・武器と防具、指輪や腕輪・・くらいで良いかな」


「では・・」


 アヤがテキパキと仕分けを済ませる。実に手際が良い。


「ここから下は工房でしょうか。鉄の灼ける匂いがします」


 リリンが分厚い大扉を調べながら言った。すぐに、ファンティを振り返って小さく頷くと、扉の隙間へ長剣を抜き打ちに振り下ろして閂を切断し、扉を押し開ける。ほぼ同時に、ファンティの眠りの魔法で向こう側に居た兵士2人が崩れ落ちた。物音を立てないように2人の兵士を支えつつ、リリンがこちらを振り返った。


「警報は鳴って無いし、兵士の心拍数も変化無し」


「良かったです」


 リリンがホッと息をついて立ち上がる。入れ替わりに、アヤがしゃがんで兵士の装備品を剥ぎ取っていく。


(地下が何層あるのか知らないけど・・大勢の人が居るな)


 小走りに先へ行くリリンとファンティを道案内に、俺は考え事をしながらついて行った。

行く先々で流れ作業のように兵士が眠らされ、剥かれていく。


「ほう・・」


 地下に降り始めてから14階層は潜っただろうか。どうやら、兵器工廠に行き着いたらしい。

 換気も難しいだろう地下で、溶鉱炉が熱を噴き上げ、型枠に流し込まれた焼けた金属が滑車を使って吊られ、壁際の岩室へ入れられる。加工は魔法によって行われているらしく、技師らしい男達が杖らしい物を構えて魔法光を当てていた。


(・・ん?あれは・・)


 どう見ても普通じゃない妖気を漂わせる白衣の老人が座っていた。鳥籠とりかごのような形状の金属格子で閉じ込められている。


「魔人です」


 ユノンが言った。


「かなり強そうだけど、どうして牢から出ないんだろ?」


「牢に何か仕掛けがあるか、誓約や呪詛の魔法で縛られているかでしょう」


「ふうん、まあ、本人さんに訊いてみようか」


 俺の声を合図に、リリン、ファンティ、アヤが勢いよく駆け出して作業員達に襲いかかって行った。



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