第156話 宇宙世紀の使者っ!?


「ユノン、デイジー、一旦距離を取って魔力を回復!」


 2人に向かって新しい神酒を放りながら声をかける。



・・サシハリっ!



 赤黒い色に染まった愛槍キスアリスを片角の青年の太股辺りへ突き刺した。浅くしか刺さらない。威力より苦痛に特化した模写技である。



 ギィアァァァァァ・・



 青黒い体液を撒き散らし、苦鳴をあげて青年が腕を振って俺を捉えようとする。



・・雷兎の瞬足



 青年の視界から消え去るなり、



・・毒蜂尖っ!



 背後から宙を駆け上がって、青年の耳裏めがけて毒々しい液体に濡れた穂先を突き刺す。


 からのぉ・・。



・・雷兎の蹴脚っ!



 地面すれすれに身を沈めて青年の腕をかいくぐるなり、自慢の蹴り足をすねに叩き込む。



(ボーナスタイム来たぁーーーっ!)


 薄暮の空に見えてきたのは、薄いがくっきりと丸い輪郭! 今夜は満月フルムーンだぜぇーーっ!


(くふぅ・・)


 にんまりと笑みがこぼれる。


 満月の俺は、ヤバいよぉ? お兄ちゃん、調子に乗って長居をし過ぎましたねぇ?


「うはぁぁぁ・・・キタキタキタァーーーー」


 額の角から膨大な力が流れ込み、疲労困憊していた肉体が急速に回復し、力がみなぎってきましたよぉ!


「行くよ?」


 愛槍キスアリスを構えて声を掛けるなり、俺は無造作に前に出た。



 シュドォォーーーーン・・



 一撃で、あれほど硬かった青年の胸板が貫かれて大穴が開く。愛槍キスアリスの一撃だ。霊刻も何も使っていない。ただの刺突・・。

 それだけで、青年を護っている不可視の膜を貫き徹していた。


「よおっ? 息してる?」


 青年の顔を間近に覗き込むなり、



・・破城角っ!



 顔面めがけて頭突きを叩き込んだ。


 鈍い破砕音をたて、青年の頭が首を支柱に背側へ折れる。


(・・まだ余裕で蘇生だろ?)


 分かってますって・・。


 愛槍キスアリスを手に距離を詰めるなり、胸から腹、脚・・と連続した刺突で穴だらけにしていく。


(ほら来たっ!)


 噴出していた青黒い体液がムチのように跳ねて、方々から俺めがけて伸びてきた。



・・邪兎の呪髪っ!



 黒髪を伸ばして迎え撃つ。

 もうね、次元を超えるとか、ヒネりのある攻撃じゃないと、今の俺をとらえるとか出来ませんよぉ?



・・雷轟っ!



 呪髪で貫き、切断したところへ、雷轟を撃ち放った。

 液体が蒸発し、肉片もけて炭化する。


(でも、精神体? 粒子かな? そんな感じで生きているんでしょう?)


 どんな形になったとしても、


・・月兎の猿叫っ!


 余所見よそみはさせないよ?


「カグヤ、捕捉しているか?」


 満をして、頼りになる軍服女子を召喚した。



『司令官閣下!』



 カグヤが後ろ手に腕を組んで胸を張った姿勢で現れた。



「こいつを封印、そして圧縮だ。可能な範囲で良い」



『はっ!』



 鋭い返事と共に、目の前に淡く光る立方体が出現し、急速に圧縮されて1メートル四方ほどの大きさになった。


 そして、当然のように、俺は立方体にかじりついた。リスが木の実をかじるかのように、高速で口を動かして、少しでも多く噛み砕き、呑み込もうと頑張る。



『封印解けます』



 カグヤが告げる。時間にして1秒ちょっとだったか。すでに8割近くが腹の中だ。



「十分だ」



 俺は高級ブランデーベースの神酒を個人倉庫から取り出して、カグヤに向けて放った。最高の仕事だぜ。



「かなり消耗しただろう、帰還して回復しておけ」



『感謝しますっ!』



 軍服女子が紋章入りの濃い緑色のボトルを抱えて満面の笑みを浮かべつつ、敬礼を残して消えて行った。


「さて・・」


 目の前で、白いモヤのようなものが集まって、人間のような形を生み出しかけている。言うまでも無い。俺が食い残した部分が再生だか復元だかを始めているのだ。


「ふむ・・」


 俺は、最初に折れて落ちた角を拾った。青鬼さんの立派な金色の角・・。


 じっと見つめる。


 そして、ボリボリ・・とかじって食べていった。角から何か生まれたら困るし?


(なんか、軟骨っぽい?)


 美味しくは無かった。ただ・・。


(なんだか体が熱くなるね。お酒・・みたいな?)


 最悪、毒だったとしても、女神様の加護で何とかなるでしょう。俺は再生しかかって肉体らしいものを形成し始めたものに近付いた。


 そして、


「・・いただきます」


 合掌して呟き、おもむろに口をあけて、再生中の物体にかぶりついた。



 キィアァァァ・・



 魔兎の尖歯で噛み砕き、咀嚼し・・。



 ギィアァァァァァ・・



 邪兎の呑口で口に入れた物は何でも呑み込み・・。



 ウァァァ・・



 神兎の胃袋で呑み込んだ物はすべて消化する。


 もしかしたら、神兎の快癒が密かに働いて、胃痛とか腹痛とかを癒やしてくれているのかもしれない。



 こうして、突然現れた双角の怪人は、俺に食べられて非業の滅亡を遂げたのだった。



(ふっ・・マズかったんだぜ)


 お腹をさすりつつ、静まり返った辺りを見回すと、お嫁さんとお妾さんが、ちょっと引きった感じの顔でボクを見ていた。


「はは・・ちょっと刺激が強かった? いや、仕方無かったんだよ? 食べたくて食べたんじゃ無いからね?」


 頭をきつつ笑って見せる。

 直後、俺は半身に身体を捻りつつ金粉をてのひらに集めて顔の前に突き出した。


 音はしない。

 ただ、強烈な熱がてのひらの向こう側でぜていた。


「ちょ・・何っ!?」


 強烈な熱と眼がくらむほどの光に顔をそむける。


 何処どこからか、俺めがけて何かが来て、そしてそれをてのひらで受けた。


 咄嗟とっさに理解できたのは、それだけだった。


「コウタさん!」


「コウタ様っ!」


 美少女と美女が悲鳴に近い声をあげて心配してくれる。


(こんなに嬉しいことは無い・・)


 とか、余裕をかましている場合じゃありませんでしたっ!


「・・っと?」


 遁光で回避する。


 視界の隅を、太い・・サーチライトのように収束された光の帯がはしり抜けて行った。


「ビッ・・ビーム!?」


 そうとしか思えないモノでしたけど・・?

 えっ? ビームとかあるんですか? そういう魔法?


 やや離れた場所にあとを残して消えた光を見つつ、俺はそれが飛来した方向に眼をらした。


「うそん・・」


 思わず、間の抜けた呟きが漏れた。


 漆黒の6対の翼を拡げた美少女・・あるいは、美少年が、どう見てもライフルらしき武器を構えて空に浮かんでいた。その繊細に整った美貌に、何となく覚えがある。


「まさかの・・宝石シリーズ?」


 金髪に、金瞳、白い肌・・。触れれば折れそうなほど華奢な体付きで、顔立ちからすると、仮に人間ならば12歳くらいか。


(ゴールドって、宝石じゃ無いよね?)


 内心で首を傾げた時、黒翼の少年の手元で光が瞬いた。


・・遁光っ!


 光の粒子となって回避する。3筋の光帯がはしり抜けていった。


(まんま、ビームじゃん。良いのかよ、そんな物・・)


 金粉で覆ったてのひらで受けた感じだと、かなり強力な火力である。まともに受ければ、即死とまではいかなくても、しばらく行動不能に追い込まれるだろう。満月の光を浴びている今の状態で・・。


(ヤバいな、こいつ・・)


 眉を潜めて、どう対処しようか考えていると、



・・シュバァー・・・シュバァー・・・シュバァー・・



 妙な音を俺の耳が拾った。


(へっ?)


 眼をぱちくりさせて、俺は固まった。


 黒翼の少年が、背中の辺りから、円筒形の飛翔体を連続して発射してきたのだ。


(・・って、ミサイルぅーー!?)


 顔面を痙攣けいれんさせつつ、受けるか避けるか考えていると、


「コウタ様っ!」


 デイジーが声をあげながら、俺の前に魔法障壁を展開してくれた。一瞬の間に、対魔法、対物理、双方を防げる障壁を幾重にも重ねて展開している。


 大抵の攻撃は防ぎ止めるのだけど・・。


「おぅのぅ・・」


 飛来した拳大の飛翔体ミサイルは、魔法障壁に接触するなり溶解させるように穴を開けて、ほぼ素通りで突っ込んで来た。


「くっ!」


 咄嗟とっさの動きで愛槍キスアリスを繰り出し、3つの飛翔体ミサイルを貫く。



 ドドドォーーーーン・・



 当然のように大爆発が起こった。

 肉体が砕かれるのと、デイジーの神聖術が掛けられたのが同時だったろうか。


「・・痛ぅ・・」


 苦鳴を漏らしつつも、何とか死なずに済んでいた。


(これ・・ビームも受けたら駄目なやつだな)


 小さな飛翔体ミサイルですら、この威力だ。


「いやっ・・違うっ! 何か間違ってる! 何だ、その武器は? おっかしいだろっ!」


 抗議の声を張り上げた俺めがけて、ビームが連続して放たれた。



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