第130話 なんか、生徒が減ったよね?


「コウタ先生、今、私が踏み込もうとする寸前を攻撃なさいましたが・・私には、どこか癖のようなものがあるのでしょうか?」


 リリン・ミッターレが訊いてくる。授業初日に手合わせをして以降、かなり積極的になっていた。


 俺やユノン、デイジーと繰り返し手合わせを行っている。その都度、ボロボロに傷んで転がるのだが・・。


(まあ、傷はデイジーがきっちり治療するからな)


 今も、ほぼ何もさせずに打ちのめしたばかりだったが・・。


「呼吸が変わる」


 俺は短く答えた。あまり長々と説明するとボロが出るというか・・ぶっちゃけ、正当な剣技も槍技も習ったことが無いので、それらしい事を勿体ぶって言うしか無いのである。


「呼吸・・そうか! そうなんですね!」


 リリン・ミッターレが、ハッ・・と息を呑んで考え込み、思い当たった顔で大きく頷いた。


「今は、小さな技をあれこれ使うより、シンプ・・単純に分かりやすい技を磨くべきだ。真っ直ぐに踏み込んで、真っ直ぐに突くか、真っ直ぐに斬る。きっちりと体重を載せるように」


「はいっ!」


「命を賭けられる一撃・・連撃でも良い、とにかく強引に自分を優位にする攻撃手段を最低でも1つ身につけないと、ただの芸達者で終わるよ?」


「命懸けの・・捨身の攻撃でしょうか?」


「違う。命を賭けなければいけない場面で、信じて頼れる一撃という意味」


「・・まだ今の私では理解が及ばないようです」


「うん、まあ、10歳だからね」


 年齢を考えれば異常なくらいに身体が動き、剣を扱えるけども・・。この子、ちょっとおかしいくらいに強いんだ。まだ攻撃が軽いし、リーチが短いから、格上の相手に落ち着いて対処されたら苦しくなるけど・・。


 少し手ほどきしただけで合気道の真似事らしき事をやれるようになってきたし、短刀を扱ったり、小盾を使ったり・・近接戦のセンスは抜群だ。ただ魔法は苦手らしい。デイジーに教わっている聖術は、なんとか初級の術まで習得しつつあるらしいが・・。

 ユノンの評価では、魔力の総量が少ないため、攻撃手段として魔法を使うのは難しいようだ。


 今年、10歳。女の子。チュレック王国、宰相の末娘。

 加護は無い。双子の弟は、司法神の加護を授かって生まれており、ミッターレ家の跡継ぎとして育てられているそうだ。

 上に6人の姉がいて、2人は嫁ぎ、2人は婚約済み、残る2人の縁談は難航しているらしい。リリンは、先日に反乱を企てて取り潰しになった伯爵家の次男と婚約していたため、婚約破棄の手続き中との事だった。


 貴族社会というのは、婚約した相手が罪人になったというだけで家の恥となるらしく、学校卒業後はミッターレ家から出され、独りで生きていかないといけないそうだ。それだけ婚約という契約は重い意味を持つのだろう。問答無用で寺院預けになる場合もあるらしく、こうして学校に通う時間を与えられただけでも恵まれているのだと言っていた。


 なんとか自立できるようにしてあげたいが・・。


(回復持ちの近接か・・)


 ひたすら場数を踏まないと一人前にはなれないだろう。世の中、背中から刺したり、隠れて弩で狙ったり、毒袋や油壺を投げつけたり、鋼線の投網を浴びせかけたり・・・そんな奴が山のように居るのだから。


「よし・・今日から一人一人に合わせてカリキュラムを組んでいこう」


「かりきゅら?」


「あぁ・・教える内容と順番、かける時間を個人個人に合わせたものにする。到達目標は変えずに、一人一人の力を引き上げていこう」


 俺は、ユノンとデイジーを見た。


「分かりました」


「畏まりました。この人数であれば、その方が良さそうですね」


 生徒は、当初の18人から減って4人になっていた。いや、死んだ訳じゃ無いよ? ただ、気持ちが折れちゃって、通えなくなったみたいだった。全部、デイジーが悪い。そういう事にしよう。


 さて、残った4人の内、加護持ちが1人、加護無しが3人。


「思ったより動けるし、最低限の体力があると思うけど・・どうかな?」


「野外での実習でしたら賛成です」


 ユノンが即座に答えた。


「人数も4人ですし、得手不得手で割り当てるなら、前衛1人、3人が後衛型・・悪くありません」


 デイジーが名簿を兼ねた考課表を見ながら言った。


(手伝いに来てくれているアーシェさんも治癒やれるし・・)


 近場に拘らずに実習場所を選んだ方が良いかも?


「あぁ・・そうか。良い迷宮があった」


 俺が育ててる迷宮種なら、かなり実戦的な訓練を積めるだろう。魔物の配置だけでなく、魔物の戦闘訓練まで施してある。あそこで戦えるようになれば本物だろう。


「まずは、3階・・順調に進んで2日かな?」


「3日はかかると思います」


 ユノンが言う。


「じゃあ、3日・・用意する物は各自が考えて申請しなさい。全て、俺達が準備する。質問は?」


 生徒達に声をかけると、


「予備の武具も、お願いできるのでしょうか?」


 パエルという赤毛の女の子が訊いてきた。低威力の魔法の連射を得意にしている子だった。


「あそこにある品なら、幾つでも用意するよ」


 俺は教室の棚に整然と置かれた武具を指差した。釘のような小さな刃物から両手持ちの剣、槍や斧、色々な形状の盾、弓に弩・・。防具も各種取り揃えてある。


「薬品類はユノンに申請。衣類や食料はデイジーが担当する。まあ、俺に言ってくれても良いけど忘れっぽいから止めておいた方が良いね」


「先生」


 シフートという栗毛の男の子が挙手した。多分、猫化の獣人の血が入っている。頭に猫っぽい三角の獣耳があるからだ。まあ、犬とか、熊の可能性も・・。


「迷宮内は3日・・以上だと理解しました。迷宮へ行きまでの旅程はどうなりますか?」


「30分くらいかな」


「・・了解しました」


「先生っ」


 ファンティという、ひょろっと背丈のある女の子だ。真っ白な髪に、怖いくらいに白い肌、真っ赤な瞳というアルビノっぽい外見だった。4人の中では唯一の加護持ちだ。


「私達の実力で、何日かかると予想されますか?」


「う~ん・・上手くいって10日かな? 今回は、初回なので6日で切り上げるけど」


「分かりました」


「あくまで授業の一環で場所を教室から迷宮に移すだけだからね」


「はい!」


「じゃあ、1時間後に出発だから各自で考えて準備を整えるように」


 俺の言葉に、4人の生徒達が固まった。


「返事はどうしました?」


 デイジーが微笑む。


「はいっ!」


 4人が揃った声を張り上げた。世の中には理不尽な事が溢れている。それを教える事も学校の役割だろう。


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