第六話 青年、ほくそ笑む

 ローレライ会議は、懐かしい面々と語り合う時間すら惜しむように開催される。


 テーブルの上座へ座るアカツキを中心に各要人が左右へと座る。奇しくもアカツキに対して一目を置いた者と批難し続ける者と綺麗に別れた。


「まずは、私の話を聞いてもらいます」


 アカツキが話を切り出す。自分の住むリンドウの街からそれは始まった。捕らえた空き巣がルメール教の証であるメダルを持っていたことから。只の空き巣は牢から忽然と姿をくらまし、同じことがほぼ同時期に、ここグランツ王国でも起こったことから。


「ルメール教? 確か、グルメール王国における邪教じゃなかったか?」

「違います!! 我がグルメール王国は、ルスカ・シャウザードのお力を借りてルメール教を追い出してから建国された国! 勘違いしないでいただきたい!!」


 エルヴィスは、顔を真っ赤にして、すぐさま反論する。隣に座っていたルスカはウンウンと頷くのであった。


 アカツキの話はグルメール王国アルステル領、森エルフの住み処、そしてレイン自治領へと及ぶ。


「これらを襲った者は忽然と姿を現しては消えます。離れた場所にも関わらず、それも短期間で襲われた。これは他人事ではなく、貴方達の住む場所もいきなり襲われる可能性もあるということです。そして、これらを襲った者達の正体は恐らく……」


 アカツキが明かしたのは、このローレライに住む者達の先祖が残した負の遺産とも言える消え去った歴史の一ページ。

そして、レイン自治領を襲撃した者の正体が皆に伝えられた。


 一同は驚愕する。誰もが黙りこみ自分の先祖が起こした行いを恥じるが、意外に最初に口を開いたのは、アカツキを批難する側の要人の男性であった。


「な、何故そんな昔のことを、お前が知っている!? どうせ口から出任せだろ!」

「レプテルの書……って知っていますか?」

「レプ……なんだ、それは?」

「神獣の一つです。そこには、このローレライの歴史のあらゆる事柄が収められています。例えば、貴方の不正……とかもね」


 アカツキを批難した男は、うぐっ……と言葉を詰ませる。それでもアカツキ批難は止まらず、せきを切ったかのように再び罵倒し始める。


 我慢の限界に来ていたのはルスカであった。テーブルをバンッと叩き皆を黙らせる。


「今は、そんな話をしている暇はないのじゃ! いかに対策を取るのかが先じゃろ!!」

「そうですわ。そんな非建設的な話をしている場合じゃないです。いつ、他の国や街にやって来るのかかわわからないのですから。今、こうしている間にも!」


 イミル女王もルスカに同調して声を荒げるが、アカツキは落ち着くように促す。


「別に協力しろとは言いませんよ。ただ、同じローレライに住む人間として警告をするだけです。貴方達は、通達で送ったところで聞く耳を持ったかどうか……だから、こうして集まってもらったのですよ」

「それで……奴らはどうするのだ。放っておくのか?」


 アカツキから見て一番奥の席に座っていた男が口を開く。ルスカ達アカツキ側の人達が一斉に怪訝な表情を浮かべたのは、その男がアカツキに対して批難側に座っていたからだ。


「どうにもこうにも争うのか話し合うのか……彼らの住む地へは普通には中々行けない。けれども、まずは会ってみないことには。そこで今行ける手段を作っているのですが、貴方達の中に魔石を知っている者はいませんか?」

「魔石?」


 アカツキはサンプルとしてアイテムボックスから取り出すと、テーブルの上に置く。各国の要人達は、その赤く輝く石を見て色めき立つが、特にこれと言って情報は出て来なかった。


「知っている人は、いない……ですか。それならば私から貴方達に協力してもらうことは一つ。近隣諸国との連携です。私達は、このグランツ王国中心に動くつもりでいますから、正直貴方達の国が襲われたとしてもグランツ王国からは間に合わないのです。ですから互いに連絡を密に取り合ってください。しょうもない争いなどせずにね」


 アカツキは、まるで子供をあやすように諭し、対応には自分達だけで当たると公言したようなものである。


「グルメール王国は、今やギルドの中心地ですからギルドと連携を。ドゥワフ国は、ドワーフ達は屈強ですし、まぁ、元勇者もいますから」

「待てぇーーっ!! 何か俺の……いや、ドゥワフ国だけ扱いがぞんざいじゃないか!」

「ロックさん……冗談ですよ。レイン自治領が失くなった今、どの国よりも遠いそちらにはモルクさん始め一部魔族が行ってくれるように頼んでいます。少し時間かかりますが」


 魔王を倒すべく偽者とはいえ選ばれた元勇者の元に魔王の配下の魔族が行く。ロックはその現実に思わず頬がひきつる。


「警告はしました。貴方達がこの後どうするかは、貴方達次第です」

「アカツキ様、それで良いのですか? もっと他に何か……」


 レイン自治領を滅ぼされたレベッカにとっては、アカツキの提案に不満を露にするのは当然であった。しかし、アカツキは彼らにこれ以上期待するのは無駄だと一蹴するのであった。


「馬鹿にするなよ、若僧!!」


 立ち上がったのは先ほどアカツキに対して質問をした男であった。中々凛々しい髭を蓄え、眼光も鋭い。体格よく、ワズ大公より少し若いが威厳も持ち合わせている。


「確か貴方は……」

「我輩は、最後まで帝国に抗ったザングル国大将、バッハだっ!!」

「なんじゃ……結局敗戦国の将ではないか」

「ええい、黙れ小娘っ!!」

「こ、こむっ……!!」


 ルスカに対して小娘扱いする者など、初めて出会った頃のワズ大公くらいである。どうやらバッハはルスカの事を知らないようで知っている者からしたら、なんと命知らずの事を言うのだと戦々恐々であったが、当のルスカは満更でもない。


「わかりました。それでは貴方が中心となって纏めてください。他に協力して欲しい事があれば、そのときは宜しくお願いします」

「任せよっ!!」


 こうしてローレライ会議は、なんてはた迷惑なとバッハを見る小国の要人達と、胸を張り大きな口を開いて笑うバッハと、ルスカに殺されないかバッハを心配するイミル女王達と、なんやかんや然り気無く協力を取り付け、ほくそ笑むアカツキとで、終了したのだった。

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