第十五話 原田、嗤う!

 椅子にふんぞり返りながら、骨付き肉をむしゃぶり付く原田勇蔵を含め、部屋の中には五人の人間がいた。

食べているだけなのに汗だくの原田を大きな葉を加工した所謂おうぎで後ろから扇ぐ三人の女性。

ゆったりと扇ぐその姿は、三人とも上半身は何も身につけておらず、露になった白い二つの山を恥ずかしげもなく出している。

下半身も下着のようなものを身につけているだけにも関わらず、嫌な顔をしておらず強制されている訳では無さそうであった。


 原田は、占いで使いそうな丸く磨かれた水晶の石に映る映像を見て下卑た笑みを満足そうに浮かべる。


「ぐふっ、ぐふふ。このチビが、あの馬渕を倒したのか……」


 水晶に映るのは、馬車の中でキョロキョロと視線を変えるルスカの姿。


「お前を馬渕から買い取って正解だったぜ」


 原田が足元をチラリと視線を移すと、そこにはこの部屋にいる最後の一人が。

首には首輪が付けられその鎖は原田の座る椅子に繋がれており、身につけているものはたったそれだけ。

痩せ細りあばらは浮き出ており、もはやこれが女性だとは全裸でなくては気づかれないだろう。

原田の声に反応なく虚空を見つめる目には、生きる気力という光は感じられない。


「あぁん? くそっ、この肉は食べるとこが少ないぜ。ほらよ、残りはお前にやるよ」


 ポトリと床に食べるところを失った骨を落とすと、その鎖に繋がれた女性は犬のようにしゃぶりつく。

例え生きる気力が無くなったとしても空腹という本能には逆らえない。

原田は、それを利用して彼女をギリギリのところで生きながらえるようにしていた。


「ハラダ様」


 部屋の外から扉越しに声が聞こえてくる。


「あぁん? 食事中だ」

「失礼しました。例のしくじった者の家族の首を持って来たのですが」

「そんなもん、見せにくるな。飯が不味くなる」

「はっ。それでは街中にでも晒しておきます」


 会話を終えた原田は、みるみる不機嫌な顔をする。先だって目的のを手に入れられなかった事を思い出していたのだ。

苛立ちのあまり、足元で骨をしゃぶりつく女性の顔を強く踏みつける。

女性は、それでも骨に無我夢中だ。


「おい。三田村を映し出せ……おい! 聞いてんのかぁ!」


 女性の顔を床にめり込ませるが如く、グリグリと踏みつけを強くする。

すると、水晶の映像はルスカから弥生へと変わる。


「くそぉ~、あと少しだったんだがよぉ。とっとと拐えば良かったのに、結局あの赤ん坊に邪魔されてよぉ。待ってろよぉ、三田村ぁ。邪魔なガキと田代の首の側で可愛がってやるからよ。ぐふっ、ぐふふ」



◇◇◇



 スキル“鷹の目”。これは、原田の足元にいる女性の能力である。そう、この女性も転移者、原田やアカツキ達と同じクラスメイトだった。

馬渕に騙され改造魔族の実験材料にされそうなところを、原田は馬渕から買い取ったのである。

名前は月ヶ岡百合。

しかし、あらゆる尊厳が剥奪され彼女自らも名前を思い出せないほどであった。


 満腹になり重い体を無理矢理起こし立ち上がった原田は、百合を残して一人部屋を出る。

大きなバルコニーに出ると喧騒が大きくなり、原田の眼下には人々が集まり始め屋敷の庭を埋め尽くす。


「ハラダ様を称えよーーっ!!」の一声に「ハラダ様ぁ!」と次々と人々は届かぬ手を伸ばして、原田を敬う声が巻き起こる。


 満足気に原田は手を振り応える様子は、まるで独裁者か神にでもなったようである。

一通り、応え終えた原田は再び屋敷へと引っ込む。


「ぐふっ、ぐふふ。馬渕は、何でも一人でやろうとしたが、俺は違う! 利用出来るものは絞りきるまで使い古してやる。ぐふふ……そして、俺は神として崇められるのだっ!」


 屋敷の廊下でそう叫ぶ原田。もちろん、屋敷の廊下には原田に仕える者が何人もいる。あまりにも傲慢で他人が聞いたら鼻で笑うような叫びだが、そこに立ち会っていた者は、誰一人おかしな顔をせず、むしろ当然だという表情をしていた。


 原田は笑いながら屋敷の地下へと一人向かい、頑丈な扉で封鎖された地下室へと入っていく。


「誰も入れるなよ」

「はっ!」


 警備をしていた者は、扉から離れて階段を上がっていく。それを確認した原田は、扉を施錠して地下室に一人残った。

小部屋と言っていいだろう。その地下室には祭壇のような物があり神聖で荘厳な雰囲気を醸し出している。

蝋燭の灯りだけの薄暗い空間が更に助長していた。


「くくく……はーっはっはっは!! もうすぐ、もうすぐだ。我が新たな肉体に完全に馴染むまで、あと少し! 我を追い出した神々よ! お前らの可愛い子羊どもが憐れに死んでいく様を指を咥えて見ているがいい!! はーっはっはっは!!」


 一人、地下室で高笑いをする原田。しかし、その表情は先ほどまでの下卑た笑みなどではなく、腹の底からの高笑い。


 そう──まるで別人かのように……。

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