第四話 弥生、その意図は……
セリーやマヤに続き、遅れて弥生達も施設へと向かう。先に施設へと入っていたマヤは、豪華絢爛な衣装から施設で働いている人達と何ら変わらぬ質素かつ清潔感のある服へと着替えていた。
セリーもそれは同様で、髪の毛を束ねてキャップもしっかりと被っている。
マヤは服への不満を口にしながら、施設を取り仕切っている年配の女性のあとをついていく。
患者を見据え、明らかに怪訝な表情を浮かべていたが、年配の女性の話を聞きながら、手伝いをしていた。
一方、セリーはというと、積極的に自ら患者に話しかけている。割りと正常さを取り戻している患者には、親身になりながら話を聞いて、今何をして欲しいかを聞き出していた。
暴れる患者には、その身を投げ出すように押さえつける。
暴れて怪我をしないように注意しながら。
「はぁ、早くも差がついたな」
ワズ大公は、大きくため息を吐いた。余程見かねたのであろう。ワズ大公は、エルヴィス国王に一礼すると去っていった。
ナックとカホも、同様であった。既に決着はついたなと、ワズ大公のあとをついていく。
残ったのは、弥生とエルヴィス国王の二人。
(良かった、分かっているみたい)
ワズ大公らは、施設で働けばマヤが更正でもするのかと思っていたが、弥生の意図は、そこではなかった。
マヤがあまりにも、王妃はこうでなくてはならないとの固定観念を抱いていたものだから、現実はこういうものだと教える為であった。
そして、セリーと競わせることでエルヴィス国王からの信頼は自ら掴み取らなくてはならないのだと。
言うなればセリーは当て馬であった。セリーにとってはいい迷惑であるが、エルヴィス国王とは違い、弥生にはもう一つの意図が。
それは、国王という肉体的にも精神的にも辛い立場のエルヴィスを、マヤとセリーの二人で支えてくれることが、まだ幼い国王にとって重要なのだと見てもらいたかったのである。
一週間という期限は、弥生にとっては予想外であったが、エルヴィス国王は意図を汲み取りながらも、長い目で二人を見守るつもりでもあった。
◇◇◇
弥生とエルヴィス国王も皆が集まっている会議室へと戻っていく。
改めて弥生達は、今回の旅の目的を話す。歪みによる消息不明の者達、それの手がかりを求める為に、ルスカが魔石を集めていると。
「ったく、あの二人め! ナックもナックだ。何故首都に報せぬ!」
初めは奇っ怪なこともあり、ナックも楽観視していたところがあった。
ルスカ達が調べるならば、それほど大事にはならないだろうと。
「まぁ、まぁワズ大公。それで旧第一王妃の実家のあるアルステル領へと向かうのですね」
「はい。わたしの実家が近くにありますから、そこにあると思われる魔石を回収しに」
ダラスがワズ大公を慰めながら、テーブルの上に一枚の地図を置く。
ここ首都グルメールから真っ直ぐに西へと進めば、目的のアルステル領である。
その先にアイシャの実家があった。
地図は最新のもので、その途中には以前ルスカが魔法で森を横断するように切り開いた道も描かれていた。
「現在、アルステル領は、旧第一王妃だったアマンダの身内は麻薬の販売と栽培により処刑されており、全く関係ない人物が治めています。特に評判は良くも悪くもなく、恐らく何事もないと思われます」
「ならば、儂の馬車に乗っていくか? 次の目的地である山エルフの住む場所も儂の領地の近く故……」
「駄目ですよ、ワズ大公。国王の結婚式に出席しないつもりですか?」
またダラスに窘められるワズ大公は、ガックリと肩を落とす。その場にいた誰もが、その目的がフウカと一緒に居たいだけだと、わかりきっていた。
◇◇◇
領主不在のリンドウの街のことが心配だったナックであったが、ワズ大公が暫くは首都に滞在するために、様子を見に行くと約束をしてくれた。
もちろん、その代わりにフウカの護衛とフウカにあまり近づかないようにと、矛盾した念を押されてしまう。
翌朝、弥生とカホ、ナックとアイシャは、出かける前に一度施設の様子を伺う。セリーは変わらず、黙々と患者の立場に立って面倒を見ていた。
肝心のマヤだが、早朝にも関わらずやはり同じように現場へと出ていた。
たどたどしい手つきに、相も変わらない態度の大きさに患者も苦笑いをする。
しかし、暴れる患者を押さえつける事も下の世話も表情は兎も角こなしていた。
親身になってくれるセリーに反して、冷たい態度で突き放すも側に居てくれるマヤ。
麻薬を断ち切るには、厳しさと優しさの両方が必要なのだと、元患者の弥生は考えていたのだ。
そう言う意味では、二人は良いコンビであった。
あとは二人が、その事に気づけば……。
弥生達も急ぐ旅の途中。この日、弥生達は首都グルメールを出発する。それから暫くして、弥生達がアルステル領内に滞在中に一報が街を賑わす。
それはエルヴィス国王が王妃としてマヤを、そして側室としてセリーを迎えるという報せであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます