第四話 幼女、参戦する

 アスモデスが幻影のアカツキに向けて放とうとした黄色い光は、無数の石礫となり狙いが大きくズレて、飛んでいく。

偶然ではあったが、その向かう先にはリュミエール達がいる丘が。

直撃にはならないが、アスモデスとの距離があるために石礫は広範囲に広がっていた。


“障壁!”


 突然リュミエール達の前に光の壁が出来上がり、石礫を弾いていく。


「弥生お姉ちゃん、ルスカちゃん!」


 セリーは、丘を駆け上がってくる虎型の魔物の上に乗る二人の人物を見て目を輝かせる。

ゴッツォは、魔物の出現に驚きながらも背に乗るルスカを確認すると、ホッと胸を撫で下ろす。

丘へと辿り着いたルスカ達は、虎型の魔物に擬態した流星から飛び降りると、丘からアスモデスへと目を向けた。

ヤケクソ気味に暴れるアスモデスが、着実に此方へと向かって来ることから、アカツキが上手く惹き付けてくれているのであろう。


「もう少し後ろに退くのじゃ。ヤヨイーは、皆を頼む」


 ルスカは丘の先端に立つと、いつもの茶けたローブを脱ぎ捨てて、その目付きが鋭くなる。

白樺の杖をアスモデスの方に向けると、大きく息を吸い込み静かに吐き出す。

ルスカの周囲に漂う空気が静かに重くなっていくのが、弥生や流星だけでなくセリー達にも感じ取れた。



◇◇◇



 一方、アスモデスに対して強烈な二発をおみまいしたアイシャは、両拳を痛めてしまい、アカツキがアイテムボックスから取り出して渡された回復薬を飲む。


「幻影魔法の効果は、まだ続いています。アカツキさん、行ってください!」


 アイシャに見送られ、アカツキはアスモデスをからかう様に、四本の蔦を猫じゃらしみたいにユラユラと動かして先導していく。

幻影魔法の効果が効いているアスモデスは、アカツキ目掛けて拳を振るうが手応え無く煙の様に消えて見失うと、アカツキの姿は別の場所に現れる。


 理性を失ったアスモデスでも、遊ばれていると怒りを感じているのだろうか。目の前に映るアカツキの姿を、ただただ必死に追いかけ続ける。


 壊れたリンドウの街を越えて丘へと近づくアスモデスに、リュミエール達もその大きさに驚く。目の前で見ると、遠くから見るとでは、迫力が違った。


 しかし、ルスカの方も準備万端である。


“闇の聖霊よ あまねく外界を蠢く影よ 我が形となれ 我が声となれ エンシャドーダブル”


 ルスカの影が三つに別れると、その内二つがルスカを型どり起き上がる。


“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を”

“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を”

“光の聖霊よ 闇を食らいし魂よ 我と汝らの力をもって 大いなる道を築かん 全てを噛み砕く愚かな牙を”


 三人のルスカが詠唱し始める。セリー達は、弥生の背中に隠れて見守る。

シャインバーストの三連打。それも最大限まで力を溜める。

まずは、丘を駆け上がって来たアカツキがルスカの脇を通り抜けていくと、すぐに目の前にアスモデスの上半身が近づく。

狙いは、頭から肩にかけて。充分に力を溜めて魔法を使う為に、ルスカは見晴らしのいい場所を探していたのだ。


「ルスカ! あとは任せました!」

「任されたのじゃあ! くらえっ!」


“シャインバースト‼️”

“シャインバースト‼️”

“シャインバースト‼️”


 三人のルスカから白い光が放たれ、闇夜とは思えないほど眩く白い光にアスモデスの上半身は包まれる。


 セリーや弥生が決まったと喜び、思わず両手を握りしめ合う。ルスカも、同じように思ったのか、周囲の重くなった空気が緩む。


 しかし──ただ一人、アカツキだけは警戒を怠らなかった。


 理由は、些細なこと。ルスカが使った魔法が、自分が思っていたものと違ったからだ。


 てっきりアカツキは、初めて遭遇した改造魔族に使った聖霊王の従者を召喚する“ナイトオブホーリースピリット”だとばかり思っていた。

もしかしたら、それよりも“シャインバースト”三連打の方が威力があるのかもしれない。

それは、アカツキには判らないが、ルスカは余力を残したように思えたのだ。


「危ない‼️ ルスカ‼️」


 ルスカの本体がアカツキの蔦によって引っ張られアカツキの傍に連れてこられると、間一髪、アスモデスの手がルスカの影を掴むと握り潰す。


「なっ!?」


 驚くしかなかった。狙いは上半身であった。もし、魔法が効いていれば肩すら失い腕を動かすことなど出来ないはずであった。


 二つのルスカの影が消えると“シャインバースト”の白い輝きが一気に弱まり、遂には霧散してしまう。

悔しそうに唇を噛みしめるルスカ。


「す、すまぬ。アカツキ。ワシとしたことが、考えが甘かったのじゃ……覚悟が足りなかった……」


 アスモデスも無傷ではなく肩の一部や頭の一部は消しとんでいたが、補うように修復、再生していく。

再生を補うために見た目からは分からないほど縮んだアスモデスが、再び襲いかかる。


“障壁!”


 アスモデスの拳から、“障壁”でみんなの身を守る弥生。その威力は、強化された弥生の“障壁”をも押し返してくる。

以前の様に簡単には割れはしなかいが、防ぐので精一杯であった。


「ルスカらしくないですよ。私が気を逸らしますから、その間に」


 アカツキは剣を抜くと、アスモデスに向かって行く。四本の蔦をアスモデスへと伸ばすが、鬱陶しそうに弥生達に向けていた拳で払い退ける。


「くっ……!」


 いとも容易く弾かれ、丘の上から滑り落ちていくアカツキ。既に幻影魔法は切れていた。先ほどから自分を苛立たせるアカツキに狙いを定めたアスモデスは咆哮する。


 蔦を地面に突き刺して体勢を立て直したアカツキは、そのまま残りの蔦をアスモデスの顔へ目掛けて伸ばす。

口元へ集まる赤い光を突き抜けて、蔦はアスモデスの口の中へ。

赤い光は放たれること無く、アスモデスの口元付近で爆発した。


「ぐぅっ……‼️」


 再び丘の中腹から滑り落ちそうになるアカツキは、地面に突き刺していた蔦により耐える。アスモデスの口から戻って来た蔦は、その大部分を失っていた。


「アカツキ!」


 ルスカは、覚悟を決める。今は先の事は考えずに、目の前のアスモデスを倒そうと。


「ヤヨイー、もしワシが暴走したら、また止めて欲しいのじゃ」

「えっ……」


 ルスカは、おもむろに上半身の服を脱ぎ出す。突然のルスカの奇行に一同は唖然とする中、更に履いていた水色の短パンも脱ぐと、お尻にはリアルに描かれた熊印のパンツ一枚になる。


「ア゛ア゛ア゛ア゛ァァァァーーッ‼️」

「これって……もしかして」


 弥生が以前に聞いた声、アカツキが倒れて暴走し始めた時のルスカらしからぬ、つんざくような声。ルスカの体が軽く浮き上がり地面とルスカを結ぶ黒い鎖が現れると、迷うことなくルスカは、その鎖の一本を無造作に引きちぎった。


 一気に周囲にどす黒い魔力の嵐を巻き起こす。


「これは、一体!?」


 当時意識の無かったアカツキはルスカの異変に驚き、急ぎ駆け寄る。

ルスカの浮いた体が地面に着くと、纏っていたどす黒い魔力の嵐は無くなり、脱いだ服と短パンを、何事も無かったように再び着用するのであった。

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