第十三話 元魔王と魔王だった者、決着は……

 アドメラルクやアスモデスなど歴代の魔王が住んでいた居城は、最早瓦礫の山と化し、悲鳴が周囲から鳴り止まない。

足首が削り取られ、態勢を崩したアスモデスは、すぐに再生を行いアドメラルクを視認する。


 大きく拳を振りかぶり、アドメラルクへ向けて振り下ろす。風切り音から推測したアドメラルクは大きく後方へ飛び退く。

周囲の家を破壊しながら、轟音が鳴り土煙が舞う。

軽く凹んだ地面から、その威力が伺えた。


 一瞬自ら舞い起こした土煙によりアドメラルクの姿を見失ったアスモデスは戸惑うが、土煙を突破して自分の腕を駆け上がってくるアドメラルクを見つけると、咆哮し魔法の準備に入る。


「舐めるなよ。魔法ならば感知出来るぞ」


 アスモデスは自らの腕ごと吹き飛ばそうと赤い光をアドメラルクへと向けて放つ。


“フィジカルブースト!”


 アドメラルクは魔法が放たれたのを確認してから、身体能力を引き上げて駆け上がる速度を更に増す。

二の腕まで駆け上がったアドメラルクの後方で爆発が起こり、アスモデスの肘から下は吹き飛んだ。

躱したはいいものの、アドメラルクは背中に爆風を受けて体が浮いてしまう。


 しかし、それはアドメラルクの狙いでもあった。

浮いた体は一気にアスモデスの肩を越える。

捜索に付き合ってくれた魔族から巨人だと聞いた──目が見えないアドメラルクは、それならば体の作りは変わらず、咆哮を聞くことで顔の位置、体の大きさを推測していた。


「ドンピシャだ!」


 横薙ぎに放った剣は、見事アスモデスの太い首を捉える。当たった瞬間に力を込めて一気にアスモデスの首の半ばまで斬り払う。


「まだだっ!」


 アドメラルクは、落ちそうな首の裏を通り抜けて片身の剣の踵を返すと、再び剣を薙ぎ払う。


 アスモデスは頭を後ろに落としながら、前のめりになり倒れていく。


 剣を鞘に納めたアドメラルクは、アスモデスを見えない目で一瞥すると背を向けた。


「くくく……いやぁ、流石魔王様だわ。お見事、お見事」


 上空から嫌みたらしい語り口調と拍手が聞こえてくる。アドメラルクは、空に向けて魔法を放つが、途中で掻き消える。


「チッ!」と、舌打ちして声の聞こえた方を睨むアドメラルク。


「くくく……俺なんかに構っていていいのか、魔王様よぉ」


 背後で咆哮が聞こえるも、馬渕の癇に障る声が耳に残る。

振り向くと、アスモデスの顔がこちらを向いて口を開けていた。


「この状態で動けるのか!?」


 アドメラルクは、軌道上から逃れるべく横へと走り出すが、そのアドメラルクを捕まえようとアスモデスの腕が迫って来ていた。

大きな何かが迫る音を聞いてアドメラルクが一瞬躊躇してしまう。と、同時に魔法が放たれた。


「くそっ!」


 迫る腕を避けて、後方に飛び退くが赤い光は側まで来ている。アドメラルクは、右腕を前に突き出して同じく赤い光を放つ。

光同士が、アドメラルクの側でぶつかり爆発を起こして遥か後ろへ跳ばされたアドメラルクは地面を転がっていく。


──ズキンッ、と右腕の痛みに顔を歪めながらも剣を抜こうとするが、右腕が動かない。

咄嗟にアドメラルクは、左手で逆手に柄を掴み抜剣する。


「くくく……無様だなぁ、魔王様よぉ。所詮は立場だけを受け継いだ張りぼて魔王だぜ」

「そうなのですか? マブチ様」

「あぁ、本来魔王と呼べるのは、あのルスカってガキだけだ。なぁ、魔王様ぁ?」


 馬渕の呼び掛けに忌々しく思いながらもアドメラルクは、立ち上がろうとしたアスモデスの胴体に立ち向かう。

アスモデスの首が咆哮し白い光を飛ばしてくると、アドメラルクは振り下ろされる腕を避けながらも辛うじて躱す。


 アドメラルクは目が見えない為にアスモデスの首と胴体の再生は始まっていた。

その事をわざわざ馬渕は、嬉しそうにアドメラルクに教えてやる。

癇に障るその声に、アドメラルクは苛立ちを覚え始める。


「ほらほら、そっち逃げると腕が迫ってるぞ、張りぼて魔王」


 馬渕の言葉など信じられるかと、そのまま進むが近くに腕が迫り空気を切り裂くのがわかると、慌てて横へと飛び退く。


「そんなんじゃ、魔王になれねぇぞ。まぁ、魔王としての役割は担えねぇけどなぁ」


「あやつ、何故そこまで……? そうか、レプテルの書か!」


 馬渕の事が気になり、アスモデスに集中出来ないアドメラルク。何度かアスモデスの足元まで迫ったが、片腕だけでは深く斬りつけることが出来ない。

魔法も効かない為に成す術がなく、逃げるアドメラルクは、なんとか活路を見出だそうと考えを巡らせるが、その都度馬渕の声に考えが掻き乱される。


「ぐっぅぅううう……!」


 アドメラルクは逆手に持った剣の柄に力を振り絞り痛みの激しい右腕を強引に動かして、添える。

これで、斬り込んでも自らの体重で押し込める。

アドメラルクは、既に再生していたアスモデスの腕を先ほどと同じように駆け上がって行く。


 肘の近くまで登ると、右の方からアスモデスの腕が迫ってくるのを感じとる。


「気を付けろよ。左から腕が迫っているぜ」


 再び馬渕の言葉が耳に入るが、これは明らかにおかしかった。自分の耳には右から空気を切り裂く音がする。左の筈はない。

アドメラルクは速度を落とすことなく、駆け上がり躱すつもりであった。


「あぁ、すまん。左から来るのは俺だったわ」


 アドメラルクのすぐ側で馬渕の声が耳に入る。全く予想出来なかった為にアドメラルクの頭は混乱する。

その直後、リリスに脇を抱えられた馬渕の蹴りがアドメラルクの脇腹に入り、アスモデスの腕の上から落とされる。


 普段のアドメラルクならば、こんなミスはしなかったであろう。しかし、視力を失い耳に頼ったこと、癇に障る声に苛立ったこと、虚実を混ぜた馬渕の巧みな誘導と、様々な原因がアドメラルクの現状を作っていた。


 そして、アドメラルクはアスモデスに、とうとう捕まる。空中じゃ身動きが取れなく仕方のないことであった。


「ぐううっぅぅぅぅ……!」


 苦痛な表情のアドメラルク。身体中の骨が軋む音が聞こえてきそうであった。


「くくっ……苦しそうだなぁ魔王様。な~に、安心しろよ。全身の骨が砕けた所で助けてやるからよ」


 耳元で囁く馬渕だが、アドメラルクは苦痛で馬渕の方を見ようともしない。


「父子揃って改造してやるからな。おい! アスモデス、さっきの須藤みたいにバラバラにするなよ!」


 馬渕の声が聞こえていないのか、アスモデスは握る力を明らかに強め出す。


「ちっ! これ以上だと、またバラバラにされかねんな。仕方ない」


 馬渕は腰の刀を抜くと、リリスにアドメラルクの側に寄るように命令する。


「ま……」

「あん? まだ喋れるのか?」

「まぶ……ちぃ……」


 苦痛に顔を歪めながらも、閉じていた瞼を開き、見えない目で睨み付けるアドメラルク。

その瞳には、くっきりと魔王紋が刻まれていた。


 周囲の聖霊達が逃げ出し始めているのに馬渕も、やっと気づく。

その逃げ出す聖霊を強引に己の元へと集めるアドメラルク。


「マブチぃぃぃ……魔王の矜持を舐めるなよぉぉぉぉ‼️」

「リリス、急いで上昇しろ‼️ 早く‼️」


 珍しく慌てる馬渕の様子に、リリスは全力で空へと翔上がる。


「遅いわぁぁぁ!」


 アドメラルクの体内を中心に赤い光が広がっていく。


「すまぬ。ルスカ……せめて、せめて息子だけは!」


 アドメラルクを中心に広がった赤い光は、アスモデスだけでなく、城下町一帯まで広がりをみせる。


 そして──一瞬の静寂から一転して、遠くに避難していた魔族達の鼓膜が破れそうなくらいの爆音を鳴り響かせて、周囲一面を吹き飛ばした。


「きゃああぁぁぁぁぁっ‼️」


 リリスが悲鳴を上げながら、爆風を受けて空を回転しながら舞い上がっていく。

それでも、リリスは馬渕を放さなかった。


「くそっ! 自爆とは……これが魔王の矜持か。やってくれたな、魔王様よぉ!」


 馬渕は眼下に映る景色を見て、悔しそうに唇を噛む。

城や城下町があったところは、綺麗に跡形もなく、大きなクレーターが一つ残されていた。

アドメラルクは勿論のこと、アスモデスの姿形もない。


「くそっ! 折角のオモチャを……やってくれる」

「残念でしたね、マブチ様……」

「ああ……いや……くくくっ……はははっ!」


 何も無いと思われたクレーターの中で蠢く肉片。それを見て馬渕はニヤリと不敵な笑みを浮かべるのであった。

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