第十一話 アイシャ、奔走する

戦争の背後に散らつく馬渕の影にルスカは、苛立ちを隠せない。



「全く!! なんなんじゃ、あやつは!?」



 その答えを持ち合わせている者は、ここにはいない。唯一無二、馬渕のみが、答えることが出来る。


ルスカを落ち着かせるために、弥生はルスカを抱きかかえると頭を撫でてやった。



 興奮冷めやらぬルスカは、ウーッと唸り声を上げて口をへの字に結ぶ。


事情の飲み込めないチェスターの母親を連れて、人に聞かれないように家の奥へと入り、これからの対策を練り始めた。



 事情を教えてもらったチェスターの母親は顔を蒼白にさせる。


無理もない、チェスターの父親のいる戦場に魔王が帝国側としていると聞いたのだ。


一刻も早く父親に知らせなければと焦るが、ルスカ達に止められる。


もし、他の人に知られれば軍は混乱をきたす。


混乱を収めるために、チェスターの父親を殺すかもしれないと。


チェスターの父親のことは、誰かが直接行って知らせなければ他人に漏れる。


始めチェスター自身が名乗り出るが、それではこのグランツリーに来た意味がない。


ならばと、名乗り出たのはチェスターの母親だった。



 次に問題は第二王女との接触である。王女なのだから、城に行けばいるだろうが、ここのメンバーで城の中へと簡単に通してもらえる人はいない。



「出来れば、王女一人の時に会いたいのじゃ」


「難しいよ。外に出れば誰か警備していると思うし」



 全員が頭を悩ませる中、「あの……」とゆっくり手を挙げたのはチェスターの母親だった。



「早朝の暗い内なら、教会で会えるかも」



 チェスターの母親はチェスターが旅に出てからというものの心配して毎日教会に足しげく通っていた。自身の時間はまちまちなのでハッキリとは言えないが、第二王女とは、朝の早い時間帯によく出会うという。


何度か一人で祈る姿も目撃したらしい。



「警備している兵士はいたけど教会の外で待機していたわ」



 これならば教会内で一人の時に話す事が可能だと。


だが、問題はまだある。それは教会にいる神父の存在。教会は王室だけでなく、かなりの貴族と親しい。


口外される恐れがあると、チェスターの母親は付け加えた。



「それならば、教会で待ち伏せするのじゃ!」



 ルスカの提案は、こうだ。まず、教会を夜中に襲い神父を捕らえる。


神父の服を着たタツロウが神父に成り代わり、一人で入ってきた王女を捕まえるというものだった。



 チェスターとチェスターの母親は、再び青ざめる。そんなことしたらこの国に住めなくなると。



「何を言っとるのじゃ! どのみち帝国に力を貸したチェスターは住めぬし、問題無いのじゃ! それに戦争を止めないと父親が死ぬのじゃぞ!?」



 チェスターとチェスターの母親は、互いに顔を見合せる。どちらともなく頷き、やると決めたのだった。



 ならば早い方がいいと、決行は今夜行うことに決める。チェスターの母親も、馬を用意し父親のいる戦場にすぐに向かう用意をした。



 チェスターの母親にくれぐれも戦場から逃げ出すのではなく、後方にいるように伝える。逃げ出した場合、見つかったら大変だと。


コクりと頷き、チェスターの母親は馬を走らせていくのを、ルスカ達は見送った。




◇◇◇





 時間は少し遡る。ルスカ達がママカ村を出て王都に向かう頃、グルメールの城の会議室では、ワズ大公が机を力一杯叩いていた。



「グランツめ!! 嘘の理由で援軍要請をしてきおって! 舐めているのか!!」



 緊急と自領を部下に任せて流星と共にグルメールに戻って来ていたワズ大公。


カホのスキル経由で、グランツから来た手紙の嘘の内容に憤りを抑えることが出来なかった。



「叔父上、落ち着いてください。アカツキさんの事もあるのです。冷静に考えなければなりません」



 テーブルの上座に座るパクことエルヴィス国王は、怒りで顔を真っ赤に染めたワズ大公を制する。



「わかっておる! わかっておるが……アカツキの事を考えると!」


「大公。アカツキの事は何よりルスカちゃんが辛いんだ。アカツキのことばかり気にかけていると却ってルスカちゃんが辛いぜ」


「うぬぬ……確かにそうだな。流星」



 ドカッと椅子に腰を降ろしたワズ大公。そこにノックして一人の兵士が入ってくる。



「失礼します! アイシャ殿をお連れしました」


「お邪魔します。エルヴィス国王、ワズ大公。こちらは準備出来ました」



 いつになく真剣な表情のアイシャが、会議室へと入ってくる。中立の立場を取っていたアイシャとグルメール内のギルドだったが、同じくカホ経由で事情を知ると、自ら先頭に立ち独断でギルドを動かす。


帝国皇帝の指示も無く勝手な行動に一時反発するものもいたが、ファーマーで共に協力した、グルメール国内初のAランクパーティー“姫とお供たち”のヤーヤーや、“茨の道”のハイネルにアカツキの事情を話して協力を仰ぐと快く引き受けてくれた。


国内最高ランクのパーティーが協力するならと他のパーティーも続々と協力を引き受けてくれる。



 アイシャはパーティーをリンドウの街へと集めて、戦争で手薄のグランツリーへと攻め込む準備をしていたのだ。



「よし! ワシらも行くぞ!!」


「お待ちください、ワズ大公」



 張り切って立ち上がるワズ大公だが、今度はダラスに止められる。



「大公は、自領へとお戻りください。エルラン山脈から攻めてくる魔族を止める役目があるでしょう」


「う……そうだったな……」


「帰りの道中で、僕の師匠であるクリストファー様を説得してください。力になってくれるはずです」



 ダラスとワズ大公は、その後魔族への対策を練るために別室へと移動する。



「それでは、アイシャさん。あとは宜しくお願いします」



 エルヴィス国王は、アイシャの側に行き手を取って頭を下げる。恐れ多いと恐縮するアイシャ。



「実はその事で、エルヴィス国王に流星さんを借りたいのですが」



 アイシャ自らはグランツリーへと行かないと言う。そのために、多くのパーティーを纏める役目として流星を借りたいという話だった。



「俺は構わないけど、アイシャさんはどうするんだ?」


「ワタシは……ワタシは、神獣エイルに会おうと思います。勿論ワタシの話を聞いてもらえるかは、分からないのですがアカツキさんを救うのには必要な事だとルスカ様から言われたのですよね?」



 アカツキ達と別れてからというもの、アイシャはグルメール国内を奔走していた。


何時、何があったとしても対応出来るように。


今回、ギルドパーティーを素早く集める事が出来たのは、アイシャが準備をして連絡を密にしていたからである。



 出来る事はやった。あとはギルドマスターとしてではなく、アカツキ達の仲間として動くことを希望していた。



 エイル自身は、現在眠っているものの相手は未知の神獣。ルスカですら、手出しするなと言う相手である。


アイシャは、ルスカがグルメールへと戻って来るまでの間、出来る事は全てやりたいと、話をした。



「分かったよ。俺が連れて来たゴブリン達も連れて行こう。ルスカちゃんと会ったら伝えておくよ。こっちは心配無いってな」



 サムズアップで、任せろと胸を張る流星。


二人は早速と、エルヴィス国王に向け礼をして会議室を去っていった


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