第二十話 幼女と青年、魔族と遭遇する

 ルスカの魔法で、一時敵味方関係なく混乱はしたものの、戦場はアカツキ達が優位になってきていた。


 ゴブリン討伐に向かったラーズ軍百名は、陣営から煙りが上がるのを見て、目の前にゴブリン達が居るにも関わらず、陣営に戻ろうという愚行を犯す。


 当然、チャンスと見た流星率いる百体のゴブリンは、追撃すると、あっという間に多くの兵士を捕縛するに至った。


 戦場となった陣営に、ナックは単独で奥深く侵入する。目的は指揮官である、小太りの将校。

彼を押さえれば、ほとんどの兵士は降伏するだろうと。


「いた! あの顔、間違いねぇ!」


 白馬に乗った将校の周囲には五人ほど守る様に兵士が立っていたが、片方からゴブリン、もう片方から謎の魔法が飛んでくると、右往左往しているだけ。

当然、ナックの相手にはならない。


 相手の死角から突入し二人の兵士を斬ると、一旦将校の白馬の陰に素早く隠れて残りの三人を斬り捨てる。


「ひいっ!!」


 将校の白馬の脚も斬り落とすと、ナックは揉んどりうって倒れた将校の首元に剣先を向ける。


「おい! 降伏しろ!!」

「ウヒ……ヒヒヒ……」

「チッ! 狂ったのか!? おい! 早く降……何っ!?」


 気が狂った将校は、奇妙な笑い方をすると何を思ったのか、自らの首をナックの剣に刺す。


 これで終わりだと確信したところに、将校が死んでしまっては降伏を呼び掛けても抵抗されかねない。

ナックは苦虫を噛み潰したような顔をするが、一気に肝を冷やす。


「ウヒヒ、ウヒッウヒヒ……」


 死んだと思った将校から漏れる笑い声。ナックはすぐに将校から剣を抜き構える。


「立ちやがった……」


 将校が首が座らない状態で、ゆらりと立ち上がるのを見て驚くが、次の瞬間ナックは顔面蒼白になる。


 将校の身体がどろどろと溶け始め、周りの兵士も将校に起きている異常さに思わず手を止めた。


「一体、何が……ぐわあっ!!」


 溶け出した将校だった液体の塊が、突然ナックを吹き飛ばす。


 攻撃で意識を失いかけたが、転がっている時に頭を打ち、奇跡的に意識を取り戻す。

ナックは咄嗟に剣を地面に突き立てるが、あっさり折れてしまった。


 危うく崖から落ちそうな所を陣営が立てていた木の柵を掴み回避する。


 足が震え、木の柵で身体を支えて立ち上がったナックが見たものは、将校の溶けた身体がみるみる膨らんでいき、五メートル近い人型の生き物だった。


「なんだよ、あれ……」


 この頃にはヤーヤーやハイネル、流星達も顔が蒼くそして白くなっていった。


「ウグルワアァァァァッ!!!」


 巨人が吼えた。



◇◇◇



「なんですの、あの化け物は!」


 “姫とお供たち”はヤーヤーを中心に陣形を作ると、巨大な肉の人形と化した将校に向け、魔法を放つ!


「なっ!? ……きゃああっ!」


 ヤーヤー達は吹き飛ばされる、自分が放った魔法によって。


「アカツキ、急ぐのじゃ! あれは魔法反射なのじゃ、魔法は効かぬ。ひとまずおばさんを救出じゃ!」


 ルスカを抱えたまま、アカツキはヤーヤーの元に駆け寄る。


“キュアヒール”


「か、感謝ですわ。しかし、魔法が跳ね返るなんて……大体、あれはなんなんですの」


 傷が癒され奮い立つヤーヤーだが、魔法が効かなかったことにショックを受けていた。


「あれは改造魔族じゃ。意思のない分厄介じゃぞ。それに魔法反射まで備えておる」

「ちょっと待ってくださいな! それでは、あれは魔法じゃ……」

「倒せぬじゃろうな」


 ヤーヤーは、「そんな……」と膝をついて地面にへたり込む。


「ルスカ!!」


 アカツキが叫ぶと同時に、肉人形は腕を振りかぶるとその拳がアカツキやルスカ達を襲ってきた。


「任せて! 障壁!!」


 弥生が出した障壁が間一髪拳を防ぐ。しかし……弥生の身体は押されるようにジリジリと後退していく。


「お願い……耐えて!!」


 耐えることに精一杯で、弥生は気づいていなかった。


「ヤーヤーさん、ルスカをお願いします」


 アカツキは、ヤーヤーの胸元にルスカを放り渡すと同時に弥生の元に走り出す。


「くっ! 割れますわ!!」


 ヤーヤーはルスカを抱えたまま、逃げ出す。弥生の障壁にビビが入ったのに気付いた為に。


「弥生さん!!」


 アカツキが横っ飛びで、弥生の身体に抱きつくと同時に障壁が破られる。

ほんの、ほんの少しだけ、その威力が二人をカスった。


「うわあぁぁっ!!」

「きゃぁぁぁぁぁ!!」


 その威力は凄まじく地面を抉り、二人はそのまま転がっていき、ずっと後方の岩壁に激突する。


「アカツキ!!」


 ルスカはヤーヤーの胸元から飛び降りて、アカツキの元へと走っていく。


「あなた達は、他の人に今わかってるあの巨人の情報を伝えなさい! ワタクシはルスカ様を!」


 “姫とお供たち”は、ヤーヤーは再びルスカを掴まえて一緒にアカツキ達の元へと走っていき、他のメンバーは各々現状をみんなに伝えに走る。


「魔法が効かなかいって……あの拳を掻い潜って接近しろってことか。無茶苦茶だぜ」

「あんなの無理ですー、アイシャせんぱ~い逃げましょうよう」

「逃げたら、街を襲いかねないですね。あれは……って、こっち向いた!!」


 ナックの逃げろという合図で蜘蛛の子を散らすように逃げまどう。


 流星や、ハイネル達にも情報が伝わり絶望する。


 一方、アカツキの元に着いたルスカはすぐさま“キュアヒール”をかける。

アカツキの傷は、転がった時に出来た擦り傷と右足首が逆方向に曲がっていた。


“キュアヒール”


 ルスカがアカツキの応急処置を終えて、弥生の所へと思って弥生の方を見たら、弥生に“キュアヒール”をかけたカホがおり、こっちは任せてと目配せした。



◇◇◇



「アカツキ、大丈夫なのじゃ?」

「ありがとうございます、ルスカ。それより……」


 回復を施され立ち上がったアカツキは、肉人形の方を見ると、今は自分達ではなく、他の者を襲っていた。


「ルスカ、何とかしないと……」

「わかっておる! わかっておるのじゃ!」


 ルスカは対策を考える。しかし、ルスカには魔法しかない。高威力の魔法で魔法反射ごと、しかし跳ね返れば大惨事になる。


 いまいち踏ん切りがつかないルスカをアカツキが抱き抱える。

ルスカがアカツキを見上げると、優しく頭を撫でてくれた。


「アカツキ、行くのじゃ! あれを倒すのじゃ!!」

「はい!!」


 ルスカを胸に抱え、アカツキは肉人形に向かって走り出した。


「アカツキ、ひたすら走り回って欲しいのじゃ! 先ほどの攻撃で影が一つ吹き飛んでしもうた。影はアカツキに“フィジカルブースト”と“キュアファイン”をかけ続ける。だから魔法はワシ一人でやらなくてはならぬのじゃ! 時間を稼いで欲しいのじゃ!!」


 アカツキの身体が光に包まれ走る速度が増す。暴れていた肉人形が、アカツキの接近に気づくと、離れろと言わんばかりに拳を放つ。


「うおぉぉぉぉっ!!」


 足を止めずに拳の下を走り抜ける。拳は地面に当たり暴風を撒き散らす。

アカツキの身体は暴風に煽られ浮くが、地面を滑りながら着地する。


“風の聖霊よ あまねく魂の源よ その命をもって我が力と成せ”


 ルスカは緑の光を放つが肉人形には当たらず、その周りを衛星の様に回り出す。


“大地の聖霊よ あまねく大地の源よ その命をもって我が力と成せ”


 今度は同じように黄色の光が肉人形の周りを回り出す。


“火の聖霊よ あまねく成長の源よ その命をもって我が力と成せ”


 次は赤い光が。


「あと一つじゃ、アカツキ頑張るのじゃ!」


 拳が横を掠める度に、死の音が忍びよるような気分になり、アカツキの体力よりも精神力の方が厳しくなっていた。

しかし、アカツキは死に対する覚悟を既に持っている。

何を恐れる必要があるだろうか。


“水の聖霊よ あまねく癒しの源よ その命をもって我が力と成せ”


 最後の青い光が、肉人形を取り巻いた。


 そして、その瞬間魔法を扱う者はその異変に気づく。


「聖霊が……この辺り一帯の聖霊が消えていく……」


 ルスカはいよいよ最後の詠唱に入る。これを反射されたらこの辺り一帯は無事では済まないだろう。

ルスカは、覚悟を決めた。


“この世を統べし聖霊王よ 我が力を餌とし我に力を貸さん 我が声に応えしは。 ナイトオブホーリースピリット!!”


 ルスカが詠唱を終えた瞬間、肉人形の回りの光からそれぞれの色の鎖が肉人形を縛りつける。

直後、肉人形の眼前に肉人形の巨体を更に越える剣を携えた騎士の姿をした者が現れる。


 鞘から剣を抜いた騎士は、ゆっくり振りかぶり、振りかぶった速度と同じように振り下ろしていく。

剣で斬られるというよりかは、まるで剣に吸い込まれる様に肉人形の身体が一刀両断されていた。


 振り下ろし終えた騎士は、すぐに消えると、そこに肉人形は跡形も残っていなかった。

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