閑話

 騒乱のその後

「何で貴方がここにまだ居るんですか?」


 グルメールの騒乱から二週間近く経った頃、“酒と宿の店セリー”を訪れたアカツキとルスカは、店に入った途端に唖然としていた。


「いらっしゃいませ~、アカツキさん、ルスカちゃん」


 アカツキ達を迎え入れた声は、いつものちょっと間延びした声ではない。


 この店の看板娘セリーの代わりにいたのは、ミラージュ。

アカツキ達と出会った頃ミラと呼んでいた女性だ。


「ミラ、なんでここにいるのじゃ!? お主、城で王女のお付きに戻ったのではなかったのか?」

「ええ、そうですよ。ですが国王様の命令で」


 ミラによると、このままだとセリーが学校に行けない為に以前お世話になった礼として、時折ミラが派遣されるとの事だった。


「パクの奴も粋なことするもんじゃ! ミラ、頑張って役に立つのじゃ! アカツキ、そろそろ……」

「そうですね、セリーの顔を見るついでに食事に来たのでした」


 アカツキ達は食堂へと移動しようと、一歩足を踏み出した所で止まる。

食堂では、なかなかの賑わいを見せており、そこにはフリフリのレースの付いたピンク色のエプロンをした目付きの悪い男が料理を運んでいた。


「「ナック!!」」

「ん? おお! アカツキに死神様じゃねぇか! いらっしゃい!!」

「いや、いらっしゃいじゃないのじゃ!! お主何しておる?」


 死神と呼ばれてスルーするルスカ。最早慣れてしまったのか、明らかに女性物のエプロンに身を包んだ姿に衝撃を受けたのか。


「いやぁ、俺も受付にいる奴と一緒だ! こっちに派遣されたんだよ。まぁ、お前達の知り合いの為とあっちゃ断れねぇさ」



◇◇◇



 アカツキ達はリンドウの街に戻って来る前に、エルヴィス国王にナックの職業の斡旋をお願いしていた。

ナックが裏の稼業をする必要を無くすために。


 その際に、転移者である事を除いて弥生の事も教えて、弥生を保護施設に入れる様にも頼んでいた。


 ナックは突然城に呼ばれて、戸惑いながらも警備兵として任命される。

直接任命したのはワズ大公だが、ルスカから腕は立つと聞いており、改めて目の前のナックを見ると、あながち嘘ではなさそうで感心するのだった。


 弥生も入る新しく建てられる麻薬患者の保護施設は、なるべく外界から離すべく城の中庭に建てられる。

ナックが気軽に弥生と会える様にする為、城内の警備兵として配慮したのだ。



◇◇◇



「それにな……お前達に礼を言っておきたくてな。……ありがとよ」


 ナックはそっぽを向いて頬が少し赤らめて、照れ臭そうだ。


「うむ、キモいのじゃ」

「確かにその格好で言われても……」

「な、なんだよ、せっかく人が素直に……!」


 ピンクの丈の短いエプロンを付けた目付きの悪い男に照れられるのは、女性なら怖がられるし男なら身の危険を感じる。

周りの客の手も止まるのも仕方なかった。


「ふー、まぁ席に座れよ。食べに来たんだろ?」


 アカツキ達が空いた席に向かい合わせに座ると、ナックがメニューと水を持ってくる。


「ルスカは何にします?」

「何って、この店ホロホロ肉しか無いのじゃ」


 すぐにメニューを開いたルスカに言われて、アカツキもメニューを開く。


一、ホロホロ肉の煮込み

二、ホロホロ肉のステーキ


 ランチのセットメニューが二つしかない。激辛炒めがメニューから消えていた。


「ホロホロ肉しかないですね」

「まぁ、いいのじゃ。ワシは一じゃな」

「それでは、一番を二つお願いします」


 ナックは注文を受けると厨房へと下がっていく。


「何故かたまにホロホロ肉が食べたくなるのじゃ」

「本当ですね。何故でしょう? 味は悪くないのですが噛みきれないですしね。クセになるとはこういう事なのでしょう」

「うむ。もしかしたら、麻薬でも入れてるのじゃ」


 アカツキとルスカの他愛の無い会話がきこえたらしく、客達がざわつき始める。


「こらーっ! 嬢ちゃん、嘘でも止めてくれ! そんなの入れてる訳ねぇじゃねぇかぁ!」


 厨房から顔を出したゴッツォに怒鳴られ、ルスカはしょぼんと落ち込んでしまった。



◇◇◇



「ただいまぁ」


 アカツキ達が食事を終えて疲れた顎を擦っていると、受付から聞き覚えのある声が。


「あ、アカツキさん、ルスカちゃん、いらっしゃい」


 セリーが学校から帰ってきたみたいだが、中々の大荷物だ。大きく膨らんだ手提げのバッグに背中にはリュックまで背負っている。


「お帰りなさい、セリーさん。ずいぶん大荷物ですが、学校に行っていたのでは?」

「そうですよぉ。一週間分の着替えも入ってますからぁ」


 セリーが言うには、学校は首都グルメールにあり片道一日かけて相乗り馬車で向かい、学校の寮で五日間泊まり、また一日かけて帰ってくるそうだ。


「なるほど。それでセリーは中々学校に行けなかった訳ですね。あれ? だとしたらあの二人は……」


 セリーが厨房に行き、ナックが皿を下げにくる。


「ナックさん、一週間前に来てたならウチに顔くらい見せてくれれば良かったのに」

「いや、何度か行ったよ。でも、お前達留守だったじゃねぇか」


 どうやら、タイミングが悪くアカツキ達がクエストなどで留守にしている時に訪ねてきたらしい。


「ナックさん、ありがとうございましたぁ」


 セリーが白いエプロンを着けてナックの元にやって来ると、片付けをしようと空いた皿に手をかける。

しかし、ナックがその皿を取り上げる。


「疲れているだろ。明日まで俺らは居るんだ、休んどけ」


 セリーの腕を取り、無理矢理アカツキ達の席に座らせた。


「ありがとうございますぅ。ナックさん、優しいですねぇ」

「ふん!」


 ナックは、空いた皿を持ち厨房へ一旦消えていくと、再びコップを三つ席に持ってくる。


「ほら、これでも飲んでな」


 ナックはピーンの絞り汁の入ったコップをテーブルに置くと、すぐに厨房へと戻ってしまった。


 アカツキ達は、一口ピーンの絞り汁を口に含む。

相変わらず、酸っぱいが疲れた顎には心地よい。

やはりルスカは渋い顔をしているが。


「アカツキさぁん」


 セリーが一息つくとアカツキに話かける。


「ルスカちゃんて、学校行かないんですかぁ? ルスカちゃん位の年の子も通ってますよぉ」

「学校……ですか?」

「待つのじゃ! ワシが学校で何を学ぶのじゃ!」


 ルスカにとっては、学校の授業から学ぶ余地などない。

それだけの知識を長い年月かけて積み上げてきたのだ。


「えー、学校楽しいよぉ。友達も出来るよぉ」

「友達ならセリーがいるのじゃ! パクも友達なのじゃ!」

「わー、今度遊ぼうねぇ。でも、パクくんは……王様だよぉ」


 セリーが少し頬を赤らめつつも、どこか寂しそうな顔をしている。

しかし、すぐに気を取り直しルスカの説得を続ける。


「学校楽しいよぉ、皆で遊んだりぃ、一緒に寝たりぃ、甘いオヤツも出るよぉ」

「オヤツ……」


 ルスカが最後の言葉にピクリと反応を示す。


「あとぉ、相乗り馬車で行くんだけどぉ。お弁当とか皆で食べるんだよぉ」

「お弁当……」


 プライドが邪魔しているのか、口をちょっと尖らして興味無さそうな素振りをしているが、テーブルの下の足は楽しそうにパタパタと動かしていた。


「ルスカ、お弁当何がいいですか?」

「カレーがいいのじゃ!!……はっ!」


 アカツキの質問に咄嗟に答えてしまい、ルスカは俯き紅潮する。


 ルスカの学校行きが決まった瞬間だった。 



◇◇◇



 ルスカを誘導したものの、店を出る前にアカツキは、少し心配になりセリーに学校の様子を聞いてみる。


「イジメですかぁ? ないですよぉ。街毎で同じ学級ですしぃ、皆仲良いですよぉ」


 別にルスカが虐められるとは思ってはいない。

その逆なのだが、仲が良いのなら大丈夫だろうと少し胸を撫で下ろす。


「初日は私も行った方がいいですかね? セリーさん」

「えー? 親が付いてくるなんて聞いたことないですよぉ」

「親……いや、しかし手続きとかお金とか……」

「やだぁ、要らないですよぉ」


 セリーの話を詳しく聞くと、グルメール王国直轄で無償だそうだ。

他の専門的な事を教える学校は有償らしいが。


「それじゃ、来週一緒に行こうねぇ、ルスカちゃん」

「う、うむ」


 セリーに見送られ帰宅の途につく二人であった。

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