第七話 幼女と青年、不覚をとる

 翌朝、ルスカとリュミエールにはベッドで休んでもらい、ハンスとアカツキは一階で椅子にもたれていた。


 まだ朝靄あさもやがかかり微かな日の光が乱反射する早朝、アカツキは外の騒がしい声に目を覚ました。


「ハンスさん、ハンスさん。起きてください」

「んー、どうしたんですか?」

「何やら外が騒がしいので見てきます。ルスカと王女様をよろしくお願いします」


 アカツキは、外へ出て騒がしい大通りへと向かって走る。

大通りには人だかりが出来ており、間を割って前の方に進むと、黒い旗を掲げた兵士が何やら叫んでいるのが目に入る。


 アカツキは兵士の叫び声を聞くと驚いた表情に変わり、一瞬固まった。


「国王様! 御逝去!!」


 信じられないと叫ぶ者、すすり泣く者、項垂れる者、多くのリンドウの街の住民が悲しみに暮れる中、アカツキはすぐにきびすを返して、家へと戻る。


「新国王様は、弟君のワズ大公!!」


 兵士の言葉に苦虫を噛み潰した顔をしながら。



◇◇◇



「あ、アカツキ様、一体何──」

「急いで準備してください。ギルドに行きます。ほら、ルスカも着替えて」


 家へ戻ってきたアカツキをリュミエールが迎えるが、アカツキの血相が変わっているのに驚き、何があったのか再度尋ねた。


「国王様が……亡くなられました」


 アカツキの言葉にリュミエールは、後ろに一、二歩下がり膝をつく。


「ああぁぁぁぁ!! お父ぉぉ様ぁぁ!!」


 リュミエールは喉が潰れるかと思われるほど、泣き叫ぶ。

アカツキは、ルスカを着替えさせながらリュミエールの慟哭を背中で聞いていた。


「アカツキ、それで次は誰が国王になるのじゃ?」

「……ワズ大公です」

「ぬぅ……やはり短期的な展望を見据えていたわけじゃないのじゃな」

「とりあえず今後どうするか、急がなければなりません。ハンスさん、私達はアイシャさんに会いに行きますので、王女様を宜しくお願いします」


 気落ちして涙にくれるリュミエールを介抱するようにハンスに頼み、アカツキ達は玄関の扉に手をかける。


「待ってください! 私も……私も行きます!」


 ヨロヨロとハンスに肩を借りながらも立ち上がるリュミエール。

その目には、新たに決意の光が宿っていた。


「わかりました。参りましょう。時間が惜しいです」


 リュミエールにフード付きのローブを渡し、ギルドへと向かった四人。

その足取りは重いが、気力で前へと進めるのだった。



◇◇◇



 ギルドへと到着すると、入口でアイシャと出会う。アイシャもアカツキ達の元へ向かう所だったらしい。


 平然と笑顔で迎えるナーちゃんに、苛立ちつつ無視をして二階のアイシャの部屋へと向かう。


「アイシャさん、早速ですがやられましたね。相手の動きが思っていたより早いです」

「はい。まさかワズ大公が引き受けるとは思いませんでした」


 ワズ大公は、亡くなった国王の弟で、次期国王と強く推されたが自分は弟だからと固辞してきた人物だ。

アカツキ達も、予想外だった。


「恐らく国民の為とかなんとか言って説得したんじゃろ。それより、相手の目的が見えたのじゃ」


 アカツキはある程度分かっているようだが、リュミエール達はルスカに注視する。


「第一王妃の目的は、やはり独裁じゃ。ワズ大公に取り入るつもりなのじゃ」

「ルスカ様、失礼ですがワズ大公には正妻がおります。取り入っても第二王妃になるだけでは?」


 ルスカの推測にリュミエールが割り込む。先ほどまで号泣していたのが嘘みたいだった。


「そこで麻薬の登場じゃ。国王を麻薬漬けにしたのは、食べ物か飲み物に混ぜたのじゃろ。

恐らく同じ手を使い第一王妃に収まる気なのじゃ。

周りは第一王妃の取り巻きだらけ、調理人や医師なんかも既に取り込んでるじゃろ。次は容易なのじゃ」

「問題は麻薬でしょう。麻薬の事を王女様やパクのせいにしているはずです。既にワズ大公には、そう伝えている可能性が高いですね」


 だからこそワズ大公は、国王になることを引き受けたのかもしれない。

アカツキ達は、アイシャから地図を借りる。


「問題は物的な証拠を一つも持っていない事です。ワズ大公の領地はここですよね」


 首都グルメールの遥か西に指を差すとリュミエールは頷く。

距離はかなりある。


「ワズ大公が王女様やアイシャさんの言う通りの方なら、すぐには出発せずに、準備を整えてからのはずです。急げば途中で会えるかもしれません」

「しかし、アカツキ。今は状況証拠、それもリュミエールの証言くらいなのじゃ。厳しいのじゃ」


 ルスカの反論に全員頷くしかない。アカツキも勿論その事はわかっていた。


「問題はワズ大公が城に入ればどうしようも無くなるという事です。そこで、アイシャさんは何とか証拠を見つけてください。私達はワズ大公をなるべく足止めします」


 アイシャは頷くが、かなり一か八かの賭けだ。


「アカツキ。いざとなったらワシが力ずくで、止めるのじゃ」


 ルスカは胸を張ってみせる。リュミエールが言っていたようにワズ大公がルスカのファンならば、もしかして……僅かな希望を抱き全員ギルドの一階に降りていく。


「アカツキさん、ワズ大公は自分が国王になることを、必ず街を通って知らせていくはずです」


 アイシャが小声で伝えるが、アカツキは聞こえていないのか外に出ようとせずに、一点を見つめ突っ立っていた。


「アカツキさん、聞いてま──」

「これだ!!」


 アカツキは、何かを思い付いたのか突然ギルド内で叫ぶ。


「アイシャさん、予定変更です! アイシャさんも一緒に来てください!」


 アカツキは思い付いた事を周りに聞こえないように、アイシャに耳打ちする。


「なるほど……それはいけますよ! 私が行くのはギルドマスターという、身元をハッキリしていて部外者としての立場が必要だから……ですね!」


 アカツキとアイシャは、外に先に出ていたルスカやリュミエールに話す。


「それでは、先にアイシャさんは馬の用意をして私の家に来てください。私達は先にゴッツォさんの店に行きます」


 アカツキ達はアイシャと別れ、パク達のいるゴッツォの店に向かった。



◇◇◇



 ゴッツォの店に着いたアカツキ達は、まずアカツキだけが中に入ると受付にはセリーがいた。


「あーアカツキさん、いらっしゃぁい。あれ? ルスカちゃんはぁ?」

「後で来ますよ。それよりゴッツォさんは厨房ですか?」

「はい、まだ朝早いから準備してますぅ。パクくんとミラさんは、二階に居ますよぉ」


 アカツキが食堂に入ると、早朝、そして国王の訃報のせいか、まだ客は居らず好都合だった。


「ゴッツォさん、ちょっといいですか?」

「おお! アカツキじゃねぇか! どうした?」


 アカツキは、パクの本当の身分をゴッツォに耳打ちする。


「えっ!!──ふぐっ」


 いつもの調子で声を出そうとしたゴッツォの口を咄嗟に塞いだ。


「声を抑えてください。それと、もう一つお願いが」


 アカツキはゴッツォにハンスとリュミエールを預かって貰えないか頼む。


「はぁっ!? 次は王──ふぐっ」

「だから、声が大きいですって!」


 アカツキはゴッツォ口を再び塞いだ。


 リュミエールの事も、ゴッツォは詳しく事は聞かずに、引き受けてくれた。


 アカツキは、ゴッツォに礼を言い、外から窓を覗いていたルスカに入って来るように、手で合図を送る。


 ルスカは両手で大きく丸を作ると窓から離れると、ハンスの背中の上から飛び降りる。

ハンスは今、ルスカに馬にされていた。

窓に背が届かないという理由から。


 ルスカは小さい手足を動かして宿へと入っていく。

それを後ろから見守っていたリュミエールとハンスは、その幼い外見からは、“大賢者”と称された人と同じ人物に見えずにいた。


「王女様、本当にあの方がルスカ・シャウザードなのでしょうか?」

「ハンスも見たでしょう。私もあの魔法を見ていなければ信じられませんもの」

「すいません。馬車の運転で、前しか見てなかったです」


 余所見している状況ではなかったのだ。むしろ後ろを見ていたリュミエールは、どこか恥ずかしくなって俯いてしまった。

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