(8)噂の出所は不明です
結局、バアル・ゼブブを後任に選んだ自分の目がなってなかったということか。
前王は落ち込んでしまい、大きく肩を落とした。
魔コーヒーを飲んでみるが、苦味すら感じないほどのショックだった。
昨今の魔界衰退の一因を作ってしまった責任は自分にあるということだろうか。
やはり、早々に魔王に復職すべきなのかもしれない。
しかし、と前王は首を激しく振る。
まだまだ、自由にやってみたいことがたくさんあったのだ。
旅行もしたいし、アクティブな趣味にも興味がある。
再び五百年も、あの
「おいっ。おいったら、おい」
誰か後任に相応しい悪魔がいるはずだ。自分と現王、それに宰相との三人がかりで強く推薦すれば、反対する悪魔貴族も納得させられるかもしれない。
そうだと前王は閃いた。
ドラゴン族から選ぶ方法もある。ドラゴン族の中でも王族の血筋なら、人型に変化することも可能だ。すでに長い歴史を持つ一族、そろそろ王を輩出してもいい頃合いだろう。
「おいっ。聞こえてんだろ。俺の話を聞けっ」
ああ、うるさいな。人が重大な考え事をしているときに。
前王は仕方なく声の主に目をやった。棒人間がこぶしを振り上げている。
「なんなのだ、大勇者殿。それとも召喚勇者殿とお呼びしようか」
「ロンリーですよ、ロンリー」
デビーが声を上げる。
「こいつはロンリーって呼びましょう」
「おい、変な呼び名をつけるな」
勇者が怒鳴ると、デビーの可愛らしい口からちろっと牙がのぞいた。
「なんだ、偉そうに。デビーに命令していいのは、魔王さまだけだぞっ」
「知るか。いいか、よく聞け。俺は魔王を倒せば帰れると思ってたんだ。それが――」
「ああ、だったら帰ればいいだろう」
前王が口をはさむ。
「魔王を倒したんだろう。現王はバアル・ゼブブで違いない」
「だから、帰れねぇから困ってんだろ」
召喚勇者、またはロンリー勇者は顔を赤くして叫ぶ。
「魔王を倒しても何も起こらない。だから、俺は隠居した伝説の魔王とやらも倒さなくちゃいけないのか思って、こうして辺鄙な場所まで来たんだぞ」
さっぱり理解出来ん。前王は羊皮紙の上に目を戻す。
「宰相。きみはこいつの話すことが理解出来るか」
「はぁ、大まかには」
虚像の宰相は苦笑を浮かべると、わずかに声を落とした。
「召喚型勇者の中で流布している噂があるそうでして。どうやら魔王を倒せば転移前の世界に戻ることが出来ると彼らは信じているようなのです」
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