第四十四話 最適解


 透明な扉は突破した。

 最下層のボスは討伐した。


 奥に進むための扉が開かない。


 扉は、鍵がかかっている状況には思えない。

 両開きの扉で、隙間があり、閂などが見えない。ダンジョンのギミックで、扉が閉められていると考えるのが妥当だろう。


 扉の近くを探していると、後ろに気配を感じた。


「兄ちゃん!」


 アルバンの声に驚いて、後ろを振り向くと、先ほど倒したオルトロスが現れた。

 まだ臨戦態勢ではない。


 時間の問題だろう。

 オルトロスが現れたと同時くらいに、調べていた扉が消えて、壁に変わる。やはり、オルトロスと扉は連動しているのだろう。オルトロスが階層主だと考えて大丈夫だ。それなら、なぜ扉が開かない?


 いや、今は、扉を考える時ではない。

 目の前に現れたオルトロスに対応しなければならない。


「アル!カルラ!」


 二人に声を掛けると同時に、オルトロスが咆哮を上げる。


 戦闘は回避できないのか?

 扉を探す時間にタイムリミットがあるのか?

 それとも、ボス戦を繰り返さなければ、扉が開かないのか?


 迎撃の準備をする。


 どうやら、初手はこちらに優先権があるようだ。オルトロスは、咆哮をあげてから動いていない。

 ボス部屋に居れば、初手は譲られるのか?検証はしたくないが、検証した方がよさそうな状況だ。


 まずは、倒してから考える。

 今の状況では、倒してもまた復活してくるだろう。


「いくぞ!」


「はい!」「うん」


「エイダ。補助を頼む」


『了』


 オルトロスは、先ほどと同じか、それ以下の時間で討伐ができた。

 初手がとれたのが大きい。不意打ちではないが、不意打ちに近い効果があった。ノックバックを起こしてダウンしたオルトロスを総攻撃した。


 大きなダメージは入ったが、倒すまでには至らなかった。

 しかし、安全に倒す事ができた。無理をしないで、倒せるのなら、安全に倒したい。

 安全なマージンを確保した上で、倒せるので大丈夫だろう。


 オルトロスが倒れると、扉が現れる。


 扉は、やはり開かない。


「兄ちゃん。扉の隙間が少しだけ広がっていない?」


 アルバンに指摘されるまでもなく、俺も広がっていると思っている。最初の隙間は、指が入る程度だ。隙間が広がっているのは目視でも確認ができる。

 広がった幅は目測で2-3cm程度。人が通られるようになるのには、50cmだと考えても、25回近くはオルトロスと戦わなければならない。初手で攻撃ができると言っても、必ず安全だとは言い切れない。


 何か、扉が開くトリガーが別にあるはずだ。


「マナベ様?」


 隙間を見て考え込んでいたら、カルラが近づいてきて、心配そうな声で話しかけてきた。

 別に落胆しているわけではない。


「悪い。カルラ。入口から壁を調べてくれ」


 ボスを倒して扉が開く仕組みなら、どこかにトリガーがあると思う。


 それとももっと単純な仕掛けなのか?


「はい?」


 カルラは、少しだけ反対の意見を持っている時の表情をしている。

 それとも疑問があるのか?


「疑問に思うのは当然だ。でも、フロアボスを倒し続けるだけが、扉を開ける為の方法だとは思えない」


「それは・・・」


 カルラの中でも、何が最適解なのか出ていないのだろう。

 まだボス戦も2回目だ。このまま調べないで、状況の推移をみまもるとしたら、ボスを倒し続けるしかない。最適解だとは思えないが、何もヒントがない状況では、ボスを倒しながら部屋を調べるしかない。


「カルラ。もし、フロアボスに連動しているのなら、ボスが次に出現する間隔が、短くてもいいと思える。部屋の探索サーチができるだけの時間があるのが、解らない」


 他にも、扉が出現してくるのは解るが、開いていないのが解らない。

 見落としている何かがあるのか?


「それは、次のボスに備えて、体力を戻すための時間なのでは?」


 たしかに、カルラの考えも納得ができる。

 それなら、入口の扉が閉まっている理由にも納得ができる。


「そうかもしれない。でも、俺には、部屋を探索する時間に思える」


「わかりました。壁を調べます」


 俺たちは、休息が必要になるほどには疲れていない。

 そのうえで、ダメージも軽微だ。次が出現するまでの時間に、探索サーチを行えばいい。何もなければ、ボスを連続で討伐するだけだ。


「頼む。アル。カルラと協力して、壁を調べてくれ」


「うん!兄ちゃんは?」


「俺は、エイダと床を調べる」


 エイダと床にサーチを行う。

 階層主の部屋は、広いまだ入口近くしかサーチが出来ていない。


 それでも、3回目のボス戦が始まってしまう。

 ボスは、やっぱりオルトロスだ。


 3度目のボス戦を終えて周りを見渡す。


 通常なら、入ってきた扉が開かれるのだが、扉が開いた様子はない。


「アル。入ってきた扉は、開くのか?」


 気になっていたことを、アルバンに聞いておく、撤退の必要性はないが、撤退が必要になった場合に、何も手がないのでは困ってしまう。

 この状態でも、10日程度なら耐えられるとは思うが、寝る時間が必要だ。


 寝る時間の確保ができなければ、脱出を考える必要がある。


「うん。開く」


「そうか・・・」


 通常の部屋なら、ボスを倒すと、出口が示されるのと同時に入口も開く。

 アルバンが扉を開こうとすれば、開くようだ。


 3回目の戦いの後も同じ状況になっている。

 徐々に扉の隙間は広がっている。外に出なければ、大丈夫なのか?それとも、永続的に広がっていくのか?


 4回目/5回目と、続けてオルトロスを倒した。


 扉は広がっている。

 床にも壁にも仕掛けを見つけることが出来ていない。


 これは、カルラの説が正しいか?

 ボスの出現時間が徐々に伸びているように思える。やはり、連続でボス戦を行うのが最適解か?


 6回目で、出現するボスが変わった。

 腕が4本ある熊

 フォースアームズベア?初めて対峙するボスだが、カルラが特性を知っていたために、問題なく討伐ができた。


 壁や床を、もう一度だけチェックしたが、仕掛けは見当たらない。

 担当を入れ替えて、確認しても同じだ。


 ボスの撃破が、扉を開ける最適化なのだろう。


 4本腕の熊フォースアームズベアの相手は、予想通りに5回。


 次に現れたのは、レッサー・ベヒモス。

 対処は解っている魔物が続いているので、俺たちの負担も少ない。


 しかし、通常ならこんなにボス戦は連続で行わない。


 ボスの強さで扉の開く幅が違うのか、押し込めばエイダだけなら通過できるくらいには広がった。


 しかし、エイダが扉の先を見てみると、何もない空間が広がっているだけのようで、扉がしっかりと開ききるまで、扉の先にはいけないような仕組みのようだ。少しだけ考えれば解ることだ。俺が、このボス部屋のデザインをしても、既定の回数をこなさなければ先には進ませない。


 10回目からは、レッサー・ファイア・ドラゴン。

 初めて対峙したが、レッサーだけあって、動きも単純で、ダメージ蓄積でパターンの変更もなく、倒せた。モーションが大きく予測が簡単だった。

 レッサー・ファイア・ドラゴンからは、出現する場所に魔法陣が表示されるようになった。

 魔法陣の上に立っていると、レッサー・ドラゴンが出現しないことに、12回目の対峙で解った。


 レッサー・ドラゴン種は、属性が変わるが、攻撃パターンの変更はなかった。


 これで、疲れた場合には連続ボス戦を途中で休憩を挟むことができる。

 救済措置なのか、わからないが利用することにした。


 既に、15回目が終了している。

 深刻なダメージは負っていないが、精神は疲れ始めている。そこで、15回目が終了した時点で休憩を挟むことにした。


 順番に仮眠を取ってから、16回目に挑んだ。


 回数にして、25回目の討伐を終えて、魔法陣が表示されていた場所を見ると、鍵が出現した。


 そして、大きく広がっている扉の奥に鍵穴が出現した。

 鍵穴だけが宙に浮いているような不思議な情景だ。


 数日は覚悟していた。面倒なボス部屋のギミックだ。


 やっと次の階層に向う事ができそうだ。

 制御室に繋がる部屋だと嬉しいのだけど、通常だと地上に戻る方法が提示されるはずだから・・・。

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