第四十一話 攻略


 カルラに聞いても、攻略組がこのダンジョンに拘っている理由は解らなかった。

 最難関と言われているダンジョンを攻略すれば、名誉なことだが、同時に攻略して、俺たちの様に永続させる方法が無ければ、ダンジョンの破壊に繋がる。最難関のダンジョンだ。同時にアタックしている人間は、10や20ではない。万に届く可能性もある。

 それらの人間がどうなるのか?俺たちがやっているように、ダンジョンを乗っ取っていくのなら、アタックしている者たちは何も気が付かない。しかし、ダンジョンが破壊されてしまったら・・・。俺たちだけなら、逃げるのは可能だ。エイダにウーレンフートやアルトワダンジョンに強制接続して脱出すればいい。


 考えても解らない事は多い。

 攻略中に考えることではないが、気になってしまう。頭の片隅に攻略組のことを押しやる。


 今から50階層の階層主との戦いだ。


 50階層の階層主は、オーガキングとオーガの変異種だ。

 確かに強敵だけど、倒せない相手ではない。


「カルラ!アル!」


 二人が飛び出す。

 俺とエイダは、後方支援だ。


 数は、オーガキングを入れて6体。パーティの人数と同じだ。

 俺たちのほうが数では少ない。しかし、対処を間違えなければ、負けない。完封も可能だ。


「アル!」


「大丈夫!」


 アルバンが、オーガキングを抑える。

 カルラは、アルバンが抑えているオーガキングの近い距離に居る変異種を牽制する。倒す必要はない。俺とエイダが、他の変異種を倒すまで牽制していればいいだけだ。


 オーガで怖いのは、膂力だ。

 腕の力で、重く硬い棍棒を、振り回す。当たれば、大ダメージ。一番の攻撃だ。技を使ってくれれば、モーションで判断ができるのだが、力任せに振り回されると、避けるしか対処方法がない。

 俺の武器なら、棍棒に合わせれば耐えられる可能性もあるが、試す気にならない。折れたらショックだ。


 魔法での攻撃は、腕に集中させる。

 オーガの最大の武器を破壊すれば、あとは作業だ。


 腕が切り飛ばされたオーガに残された攻撃手段は、自身の身体を武器として突撃するしかない。

 その場合には、足に攻撃を集中すればいい。猪と同じで直線での攻撃しかできない。避けるのも容易い。変異種を先に片づけるのは、オーガキングだけは可能性の一つとして魔法を使ってくる。低確率だが、魔法攻撃がある。自然回復も、変異種に比べれば早い。そのために、変異種を片づけてから、攻撃を集中させる。回復を許さないダメージを与えて倒す。


 俺とカルラが変異種を片づけている時に、アルバンはオーガキングを牽制している。倒す必要はない。牽制で十分だ。

 アルバンがオーガキングを引き付けて、俺とカルラが変異種を倒している。その間に、エイダは魔力の構成と詠唱を終わらせる。


 5体の変異種が倒れた。


「カルラ!アルのサポート!エイダ。トリガーは、アル!」


 俺の声で、アルバンが最大の攻撃を、オーガキングに浴びせる。オーガキングが怯んで、後退した所にカルラが魔法で牽制する。

 アルバンが、カルラの魔法で、体勢を崩したオーガキングから大きく離れる。


「エイダ!」


 アルバンの声に反応して、エイダが極大魔法を放つ。

 雷属性の魔法だ。エイダは、詠唱することで、威力が増す。制御されていた魔力を使って、詠唱された雷魔法は、一筋の光となって、体勢を崩しているオーガキングの脳天に直撃する。


 オーガキングの断末魔は、エイダの雷魔法でかき消された。


 光の奔流がおさまって、辺りを優しい光が支配する。


 部屋の中央では、倒れたオーガキングが、光の粒になって消える。

 残されたのは、宝箱だ。


 宝箱の中身は、反りがある短剣が二本だ。


「アル。使うか?」


「おいら?」


「あぁ双剣だから、カルラ向きじゃない。アルだろう?」


 アルバンが使っているのは、不揃いの剣を使っている。揃いの剣の方が使いやすいだろう。


 双剣を鑑定すると、属性の付与が可能になっている。


「アル。その双剣は、カルラが持っている物と同じで、属性が付与できる。どうする?」


 魔石に属性を付与すればいいようだ。

 アルバンが属性を考えている間に、他に何かドロップがないか確認する。


 エイダが、魔石を集めてきた。

 それ以外には、ドロップは無いようだ。


 アルバンが希望したのは、雷と氷だ。属性を付与して、アルバンに渡す。


 50階層の攻略が完了した。


「エイダ!下層に向ったら、警戒範囲を広げてくれ」


『はい』


「相手に気が付かれてもいい。できるだけ、遠くで把握したい」


『わかりました』


 今まで、エイダの探索に気が付いた者は居ない。

 しかし、これからも現れないと思うのは間違っている。俺たちにできることなら、”できる者がこれより先には居る”と考えた方がいい。


 下層に向かう。

 カルラの仕入れてきた情報だと、オープンフィールドになっている。


 草原フィールドだと俺たちの存在が認識されてしまう。相手との距離感が大事だ。


 エイダの索敵を最大に利用して、戦闘とアタックしている人たちを避けて、下層に移動する。

 草原フィールドでは、戦闘を避けていたのだが、森林フィールドになれば、戦闘が避けにくくなってくる。


 なんどか戦闘を行いつつ、下層に進んだ。


 キャンプ地を見つけた。


 下層に向かう階段近くでキャンプを行っている。

 物資の搬入が行われていた。


 下層に向っている者たちへの物資なのだろう。56階層にキャンプ地が存在していることから、アタックしている階層が近い可能性がある。


 パーティ単位で動いているのは、このダンジョンの設定が影響しているのだろう。

 おかげで、下層に向かう階段に潜り込むことができた。


 パーティ単位で安全マージンを取った状態で、キャンプ地を設営しているのだろう。

 木々の隙間から、物資の集積場はしっかりと見えるような配置にはなっているが、外側への警戒はあまり強くしていない。索敵に自身がある者たちが外側の警戒をしているのだろう。


 カルラの警戒網に何度かヒットしたが、階段を使って下層に向かう事ができた。


 そこからは、エイダの索敵にヒットする魔物だけを狩って下層を目指した。


 58階層で、戦っている者たちがエイダの索敵範囲内に入ったが、こちらに気が付いた様子は無かった。


「エイダ。何人だ?」


『18名です』


「3パーティ規模か?」


『戦っている者たちとは別の場所に、24名が居ます』


「物資を運んできたものか?」


『わかりません』


 待機組なのか?

 新たなキャンプ地を作る為の者たちなのか?


「カルラ。キャンプ地の体制は?」


「はい。18パーティでした。フルメンバーか、判断ができません」


 キャンプ地に18パーティ。攻略の戦闘組が3パーティ?予備が4パーティ?多分、キャンプ地は、他に”ある”のだろう。同じ規模か?半分だとしても、9パーティか・・・。俺たちなら補給は大丈夫だが、補給を考えれば、2-3箇所は必要だ。すくなく考えれば、2箇所。18パーティか?


 258名?

 大所帯だな。これだけの人数の展開が可能な組織があるのか?地上での補給物資の搬送を考えれば、倍の人数でも驚かない。


 500名。

 大隊規模だ。


 どのくらいの期間、潜っているのか解らないが、資金がショートしないのか?

 食料が厳しくなってきている共和国で、ダンジョンの攻略を行うために食料を集めている?


 攻略組の戦闘は、暫く続きそうだ。

 相手の数が多い。俺たちなら、戦わない相手だ。


 レッサーフェンリル。

 ダメージを負うと回復を行う。そのうえで、眷属を呼び出すので、長期戦になりやすい。それでなくても、魔法への耐性が強めで動きも早い。特に、森林フィールドは、相手のホームのような場所だ。戦うのに適していない。

 ボス部屋の様に、制限された領域ならそれほど難しくもないのだが、オープンで足場がある場所では戦わないほうがいい。


 攻略組は苦戦している様子はないので、そのまま先に進ませてもらう。

 もしかして、攻略組は索敵で見つけた魔物を倒しているのでは?


 魔物を倒さなければ、ドロップアイテムは得られない。物資を運ぶためにも、資金が必要だ。資金の為には、深い階層の魔物の素材やドロップアイテムを換金するのが早い。

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