第二話 賊
俺の合図で、シャープが賊に向かう。カルラは、距離を考えて、一拍の空白を入れてから、指揮官らしき者に向かう。
ユニコーンとバイコーンは、柵を乗り越えて、賊を挟むような位置に移動していた。
戦闘が始まると思ったが・・・。
確かに、戦闘が始まったが、すぐに終わった。
シャープは、4人を瞬殺している。命令通りに、殺してはいない。ユニコーンとパイコーンも、左右からスキルを発動して無力化に成功している。
カルラは、正面から近づいていきなり加速して、背後に回って、首筋を痛打して終わりだ。
戦力的に、過剰だったようだ。シャープだけでも大丈夫だったかもしれないが、逃げられたり、誰かが傷ついたり、賊たちを殺してしまうよりはいいだろう。3箇所を同時に攻略しなければならなかったのだが、しょうがないと考えておこう。
「カルラ!」
「旦那様。尋問をされますか?」
俺が尋問をしても、情報をうまく抜き出せる気がしない。
「カルラに任せる」
「かしこまりました」
カルラは、少しだけ口の端を上げて、頭を下げる。
諜報活動の部隊に属していて、情報の扱いには慣れているだろう。
「旦那様」
「クォートか?どうした?」
執事のクォートが俺の前に出てきて頭を下げる。
「私に、カルラ様の尋問を見学する機会をください」
クォートからの提案は、学習の機会を得るだけではなく、ダンジョンに残っている者たちが”尋問”の内容を把握できる。学習よりも、情報が共有される状況にメリットを感じる。ダンジョンの管理をしているパスカルが、尋問の内容を把握して、類似した情報を検索できる可能性が出てくる。ビッグデータの処理は、
「カルラ。クォートと一緒に尋問して問題はないか?」
「ありません」
「そうか、カルラ。クォート。捕虜の尋問を頼む。もし・・・。いや、いい」
尋問で、”あの方”に関する情報が出てきたら?俺は、我慢できるのか不安になる。エヴァとの約束がある・・・。
「マナベ様?」
「すまん。カルラ。解ったことを、報告してくれ、取捨選択も任せる」
「よろしいのですか?」
「あぁ」
俺が情報に直接触れるのは避けよう。まだ、その時ではない。俺が、戦って”勝てる”ようにならなければ、奴らと・・・。あいつと対峙してはダメだ。俺だけなら、天秤の反対側に乗っても問題はない・・・。俺の命だけなら・・・。今、俺がやられると、奴らは・・・。エヴァを、ユリウスを、カールを狙う可能性がある。あいつの目的がわからないが、奴らは俺の敵だ。俺が確実に仕留められるまで・・・。それまでは・・・。
「旦那様」
「・・・。なんだ?」
「情報は、パスカルと共有してよろしいのでしょうか?」
「尋問した内容や、尋問の方法は、パスカルたちと共有してくれ、エイダやシャープとの共有も許可する」
「はっ」
カウラが先に歩きだして、クォートが後に続いた。
襲撃者は、ユニコーンとパイコーンが見張っている。
「兄ちゃん!」「マスター」
アルバンとエイダが、戦闘が終わったと判断して、馬車から降りてきた。
「どうした?」
「今度は、オイラも!」
「うーん」
多分、捕らえた連中なら、アルバンでも相手にできた可能性がある。殺さずに捕らえられたのかは微妙なラインだが、十分に対応はできただろう。次も、同じだとは・・・。
「兄ちゃん!おいらも戦える!」
「そうだな。俺の指示に従う。そして、ユニコーンかバイコーンに乗って戦闘に参加するのなら・・・」
「うん!うん!」
アルバンが納得しているけど、いいのか?
ダメなら、カルラが止めるか?
カルラたちが向かった場所から、剣呑な声が聞こえるが、気にしないことにする。
「旦那様。お食事の準備をいたしましょうか?」
「そうだな。カルラたちは、少しだけ時間が必要だろうから、軽く食べられる物を頼む。アル!」
「何?」
「エイダと協力して、湯浴みができる場所の確保を頼む。川の水を使ってもいいし、魔道具を使ってもいいぞ」
「わかった!」
アルバンが、エイダを連れて、河原に向かった。
「良かったのですか?」
シャープが俺の意図を把握してなのか、疑問を呈した。
「そうだな。大丈夫だろう。このまま、この場所に留まるよりはいいだろう。エイダは、クォートと繋がって情報共有をしているだろうから、解っているのだろうけど、アルに聞かせる必要はない」
「出過ぎた真似を、お許しください」
シャープは、俺がアルバンに尋問を探らせないようにしたと理解したのだ。アルバンの情報は共有されて知っているのだろう。アルバンは、カルラと同じだから、尋問の心得があるかもしれない。でも、無理にやる必要は無いだろう。
シャープは、俺に向って頭をさげるが、謝罪されるようなことではない。
「いいよ。それよりも、食事の準備を頼む」
「かしこまりました。ホットサンドでよろしいでしょうか?」
「あぁそうか、情報が共有されているのだな」
「はい。旦那様がよく食べていらっしゃったものです」
「本格的な食事は、後になりそうだからな。ホットサンドを、2つ作ってくれ、一つはアルに持っていってくれ」
「かしこまりました」
シャープが馬車に向かった。
俺は、一人になって、腰を降ろした。
空には、星空が・・・。そうか、夜目が効くから気にしなかったけど、これほど暗くなっていたのか・・・。空を見上げても、知っている星座はない。もう、何度も、何度も、探してきた。星空は、よく見ていた。しかし、よく見ていた星空ではない。
「旦那様」
シャープが、近くに来て居た。
ホットサンドを持ってきてくれたようだ。
「アルには?」
「エイダが取りに来ましたので、持たせました」
「ありがとう」
立ち上がると、シャープが俺に魔法を発動した。汚れを落としてくれるようだ。自分でやろうかと思ったが、シャープに任せるほうがいいだろう。経験を積ませないと、これからのメイドとしての役割に支障が出てしまう。時期が来たら、エヴァだけではなく、他の者にも、ヒューマノイド・メイドを紹介して連れて行ってもらおう。情報共有が楽にできるようになる。そのためには、いろいろと説明しなければならないこともあるが、ユリウスたちから説明してもらえばいいだろう。
シャープが持ってきたホットサンドをかじると、チーズが出てくる。
チーズをもっと簡単に食べられるようにしたい。そのためには、畜産は必須だ。ユリウスが治世を担うまでに、もっともっと楽ができるようにしたい。面白い施設が手に入ったからには、あの施設に籠もって・・・。いろいろと作っていたい。魔法のプログラムも面白い。新しい魔法を開発できて、魔道具に落とし込めれば、もっと豊かになる。
そのためにも、あいつらを・・・。
「マスター」
エイダが、俺の足元に来てきた。
「どうした?アルに何かあったのか?」
辺りを見ると、シャープも居ない。
「いえ、湯浴みの場所ですが、お湯が湧いている場所が見つかりまして・・・」
「温泉か?」
「はい。シャープが、泉質を確認しております」
「そうか・・・。温泉か・・・」
「どうされますか?」
「問題がなければ、入るぞ」
「そう言われると思いまして、”湯浴み”ではなく、湯につかれる場所を作成しました」
「それは重畳」
「はっ。目隠しなどは、ありませんが・・・」
「カルラが入るのなら、馬車で目隠しをすればいいだろう?」
「はい」
エイダが、ちょこんと頭を下げて、馬車の方に向かっていく、尋問を行っていた場所から帰ってきた、ユニコーンとバイコーンになにやら指示を出している。エイダに全権を与えているから、ヒューマノイドタイプの制御は任せて大丈夫だろう。
気配を探ってみると、尋問はまだ続いている。
死んでいる者はいないようだ。俺たちを狙っていたのは間違いないが、どこから俺たちの情報が流れて、どういった情報だったのか気になる。
うまく、情報を抜き出してくれるだろう。パスカルたちからの情報も俺が見られるようにしておいたほうが良いかも知れない。膨大なログを見る気はないが、検索ができる状態にはしておこう・・・。
泉質の調査が終わったシャープが俺を迎えに来ている。
いろいろ考えなければならないが・・・。今は、アルとエイダが見つけてくれた、温泉を堪能しよう。
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