第四十話 別れ

「エヴァ。案内・・・頼めるか?」

「はい!」


 振り返って、まだ、袋を眺めて、ワイワイ言い合っているユリウスをみる。


「俺は、今から、ユリアンネとラウラとカウラに、少し、王都を離れる事になりそうだという報告をしてこようと思う。ユリウスたちはどうする?」

「もちろん。行く。多分、俺達のほうが、長く王都を離れる事になるだろうからな」


 他の皆も、陛下たちも含めて、挨拶をしてくれる事になった。


 ユリアンネたちが眠る場所は、寮から少し離れた場所にある森の中にあった。

 俺が、静かに眠らせたいという要望を聞いてくれた結果だ。その場所は、静謐という言葉がピッタリの場所だ。王都の喧騒もここまでは届いてこない。小さな神殿のような建物が立てられていた。


 一戸建てよりも少し小さいくらいの建物だが、教会と言うよりは、神殿という言葉が一番しっくり来る。


 エヴァに案内されて、前室に通された。

 ここには、眠る者たちが使っていたものが置かれている。ユリアンネたちが着る予定だった、服も置かれている。あとは、俺が贈った髪飾りと、ユリアンネの大量のぬいぐるみが置かれている。1つ1つ懐かしむように魅入ってしまう。


「アルノルト。余らは先に行くぞ。お主はゆっくりと語りたいじゃろうからな」

「アル。俺たちも先に行く」


 皆先に行くようだ。

 教会の作法には詳しくはないが、こういう場所では、身分の高い人が一番最後だったはずだ。ユリウスたちは別にして、陛下を先に行かせるわけにはいかない。


 そう思って、立ち上がろうとした。

「アルノルト・フォン・ライムバッハ。先程言った通り、余らは、”友”を懐かしむために来たのだ、この場では、お主が最上じゃよ。いいな?」


 最後の言葉は、俺に向けられているわけではない。

 エヴァと夫人に向けられた言葉だ。エヴァと夫人は、綺麗な礼をして、陛下たちを先の部屋に向かわせる。陛下たちの案内は、夫人がするようだ。エヴァは、黙って俺の後ろに控えるだけだ。


 ユリウスが、部屋から出ていく時に、

「アル。時間は気にするな。スカット」「いいのですわ。ユリウス様。早く行きますわよ」


 なにかいいかけたが、クリスに引っ張られるように、部屋を出ていった。俺は、後ろに立っている、エヴァをみるが、なぜか、耳まで赤くしている。暑いのだろうか?


 部屋から出ていく時に、クリスがユリウスを引っ張るようにして、ギードがザシャを、ハンスがイレーネを、ギルがディアナを、それぞれエスコートする形になっているように見えた。そして、皆がこちらを向いて、”しょうがない”という顔をしていたのが印象的だ。


「なぁエヴァ」


 返事がない。


「エヴァ?」

「はひ!」


 そんなにびっくりすることか?


「ここの物は、お前が選んでくれたのか?」

「は・・いえ、私だけではなく、イレーネ様とザシャ様とディアナ様にも選んでいただきました。私は、御三方が着ていらした服を飾らせて頂き、髪飾りを置かせていただきました」

「そうか、ありがとうな。皆にもお礼を言わないとな。ここも、毎日掃除してくれているのだろう?」

「はい。母と順番に・・・私は、もうすぐ高等部に行きますので、それまでの間になってしまいますが、時間が有る時には、お世話させていただきます」

「エヴァ。無理しなくていいからな」

「いえ!アルノルト様。私にさせてください!」

「”アル”だよ。エヴァ。エヴァが、無理でないのなら、お願いするよ。高等部に行くのなら、寮から通えるのなら、寮使ってくれよな。ちょっと広くて不便かも知れないけど・・・な」

「よろしいのですか?」

「あぁエヴァと夫人さえ良ければな?信頼出来る人なら、教会から人呼んでもいいぞ?家は、人が住んでいないと傷んじゃうからな」

「え?あっわかりました。母に相談してみます」

「うん。本当に、悪いな。エヴァには頼り切ってしまって・・・本来なら、俺がやらなきゃダメだったのにな」

「そんなこと・・・ないです。(私ができた事が・・・嬉しかったです。家族の勤め・・・ですから・・・)」

「ん?なに?」

「いえ、なんでもありません。アル。私の事は、気にしないでください。私も、ラウラとカウラに挨拶していますから」

「あぁそうだな。ごめん」

「いえ(ごめん・・・って、なんで?)」


 エヴァの最後のセリフは聞こえなかったが、俺を非難する感じではない。エヴァに甘えておこう。


 ラウラとカウラが普段使っていた勉強道具も置いてくれている。

 これなら、アイツらもいつでも勉強できるな。


 本当に、ユリアンネは俺が贈ったぬいぐるみを全部残して、持ってきていたのだな。下衆どもの血で汚れてしまったのも、誰かが綺麗にしてくれたのだろう。最初に贈ったぬいぐるみが見当たらないが、あれはカールが抱きしめていたのだな。

 カールも、ユリアンネお姉ちゃんが大事にしていた物を守ったのだな。わかったのだろうな。沢山褒めてやらないとダメだな。そうだな。ユリアンネ。カールの事は、クヌート先生やユリウスやクリスたちが厳しく育ててくれるだろう。領地に残っている者たちも、甘やかすだけの育て方をしないだろう。それなら、俺は精一杯甘えさせてやろう。ユリアンネにできなかった事をするわけではない。カールにやってやりたい事を沢山やってやろう。


 扉が開く音がした。

 エヴァが扉の所に移動する。


「大丈夫です」


 エヴァの言葉に甘える事にした。

 もう少し、ラウラとカウラを感じていたい。普段着のほとんどは、俺と買いに行った物だな。さすがに、下着までは置かれていないと・・思いたいが、俺が用意した衣装ケースがおいてある。あの中に入っているのだろう。

 そうだよな。着替えるために、必要だよな。


「なぁエヴァ。ここに、衣装や下着を新しく持ってくるのは大丈夫なのか?」

「もちろんです。ユリアンネ様も、ラウラも、カウラも、寝ていらっしゃいますが、起きた時に、無いと困ってしまいますからね」

「わかった、食事とかは、夫人にお願いすればいいのか?」

「はい。大丈夫です。食べられなかった物は、お世話係が、食べさせていただく事になっています」

「そうか、ありがとう。それなら、帰ってくる時には、珍しい食べ物を持ってこないとな」

「そうですね。ユリアンネ様も、ラウラも、カウラも、楽しみにしていらっしゃると思います」


 それで、ユリアンネが持ってきた食器ケースが置かれていて、ラウラとカウラが愛用していた物も置かれているのだな。


「エヴァ。中で、俺が食事したりするのはいいのか?」

「もちろんです!ご家族でお食事をしてください」

「わかった・・・今日も頼めるか?」

「はい。母に・・・お世話係に、準備させます。4人分でよろしいでしょうか?」

「・・・そうだな。凝ったものじゃなくていいから、10人前頼めるか?」

「10人前ですか?」

「あぁ無理か?」

「いえ、大丈夫ですが、少しお時間が・・・」

「大丈夫だよ。待っている間、ユリアンネとラウラとカウラと話をしているからな」

「・・・わかりました」


 エヴァは、俺に一礼して、部屋から出ていった。

 世話係の部屋に行ったのだろう。今は、世話係が、夫人だけだけど、大丈夫なのか?


 あいつら、寝てばっかりで、自分の事もやらないからな。教会に行った時に、予算を聞いて、人員を増やせないか聞いてみよう。使わない金があるからな。


 部屋には、センスよく荷物が置かれている。

 教会のはからいだろうか、結界が張られて居て、直接触れないようにも出来るようだ。今は、俺だけだから、結界も張られていない。確かに、ここにはないが貴重な物を置く場合も有るのだろう。


 1つ1つ思い出しながら、語らっている。


「アルノルト様。お食事の準備ができました」


 夫人が入ってきた。


「エヴァは?」

「お食事会場で、給仕をしております」

「そうか・・・夫人も一緒に来てくれ」

「・・・はい。かしこまりました」


 その部屋は、広く天井が高く、温かいと表現してよい空間になっている。

 中央に、俺が作った籠に入ったまま眠る3人が居る。ラウラ・ユリアンネ・カウラの並びだ。ラウラ、カウラ、ユリアンネの事を頼むな。

 ユリアンネが2つの卵を、ラウラとカウラは、1つづつ卵を抱えている。


 結界が張られているのがわかる。それで、あれがアーティファクトなのだろう。時間停止の魔道具と説明を受けた。

 卵は生命の源で、命をつぐむという意味もあり、眠る者に持たせるのだと、夫人が説明してくれた。クラーラからの贈り物だ。大事にしないとダメだろうな。あいつを俺の前にひざまずかせて、ユリアンネに、ラウラに、カウラに、父に、母に、詫びさせる。


 大きめのテーブルが用意されて、10人分の食事と、椅子が用意される。

 ユリアンネと、ラウラと、カウラの前に椅子が置かれ、反対側に7脚の椅子が置かれる。


 ユリアンネの正面に俺が座る。

 エヴァは、俺の後ろに立っている。夫人は、閉めた入口の近くに立っている。


「エヴァ」

「はい」

「エールはあるか?」

「ございます」


 エヴァの代わりに、夫人が答えてくれる。


「手間かけて悪いが持ってきてくれないか?あるだけ全部だ」

「え?かなりの量になりますよ?」

「あぁ構わない」


 エヴァも手伝いに行くようだ。

 5分くらいして二人が戻ってきた、10個のコップを持っている。それぞれに、エールをついで、テーブルに置いていく。

 残りは、2リットルくらい入るデキャンタだろうか?それが、3つだ。うまくないが、今日だけは飲んでもいいだろう。いいよな。ユリアンネ。


「エヴァ!」

「はい」

「何、後ろに立っている。座れよ。夫人も座ってください」

「え?よろしいのですか?」

「えぇそのつもりです」


 エヴァと夫人が、一番離れた所に座ろうとしたので、俺の横に座るようにお願いする。ラウラの正面にエヴァを、夫人をカウラの正面にだ。


「アルノルト様。私は、お世話係です。申し訳ありませんが、エヴァンジェリーナ様を、アルノルト様の左隣に座らせてください。椅子を少しずらしまして、ユリアンネ様と、ラウラ様と、カウラ様の正面にお座りください」

「ん?どうした?エヴァ?夫人。もうしわけないのだが、そうしてくれ」

「はい。かしこまりました。エヴァンジェリーナ様。申し訳ありません。お手伝いお願いできますか?」


 どうして、夫人は、エヴァの事を”様”付にしている?


 耳だけじゃなくて、全身真っ赤になっているように思えるエヴァが準備を手伝う


「アル。それで、他の椅子は?」


 普段よりも、2オクターブ以上高い声でそう聞いてきた。


「あぁ父と母とルグリタとロミルダだ。そうだな。また変更させて申し訳ないが、ルグリタとロミルダの前に、ラウラとカウラを頼めるか?」

「もちろんです!」


 夫人と、エヴァが席を変更している。


「夫人。悪いけど、そろそろ、父たちが到着した頃だと思う。案内頼めるか?」

「かしこまりました」


 夫人が、控えの間に戻って、少し経ってから戻ってきた。父たちを迎い入れてくれたようだ。

 席に着いた事を確認した。


「ユリアンネ。入学おめでとう。主席だったな。さすがは、俺の妹だ。研究所にも入るのだろう?」



「そうだな。クヌート先生には、俺から行っておくよ。ロミルダ。ラウラ。あぁカウラはいい。カウラは、後で頼み事がある」



「ひどく無いぞ。カウラに部屋を任せたら、いつになってもできないだろう?」



「ロミルダ。ラウラ。ユリアンネの部屋頼むな。なんか、ぬいぐるみを大量に持ってきているから、大変だろうけど、頼むな」



「そうだけどな。ユリアンネ。全部持ってこなくてもいいよな?父上や母上から貰った物を置いてきたのだろう?」



「当然って・・・まぁいいけどな。そうだ。カウラ。明日でいいから、ユリアンネと買い物に行ってくれ」



「俺か?俺は、お前の入学の準備で学園に行かなきゃならない。あぁ解った、解った。昼は一緒に食べような。ラウラ。いつもの店・・・あぁそうそう、予約頼めるか?それと、ユリウスたちにはバレるなよ。あとがうるさいからな」



「あ?なんだよ。ユリアンネ。エヴァの事か?教会の聖女様で、お前の先輩だぞ。礼儀を持って接しろよ」



「そうそう、さすがは、俺の妹だな」



「父上、母上。無事、高等部に進むことができました」



「もちろんです。これからも、自分が出来る事を行っていきます」



「ありがとうございます」


/*** エヴァンジェリーナ・スカットーラ Side ***/


 イレーネ様や、ザシャ様や、ディアナ様から、私が残るべきだと言われた。クリスティーネ様からは、私がしっかりとアルを、支えるのが、私たち全員の望みだと言われた。


 イレーネ様、ザシャ様、ディアナ様、皆、アルの事を思っていた。私と同じなのだ。

 皆、アルに救われたと思っている。だからこそ、アルが困っている時に、落ち込んでいる時に、なにかできないかと・・・。


 アルは、私に、ユリアンネ様とラウラとカウラの寝所を頼むとおっしゃってくれた。

 意味を理解されているとは思えない。ただ、単純に私が教会の人間で、眠る場所に関しての知識があると思って、頼んだと思う。皆さんも、それはご理解してくださった。私が頼まれたのは、私を伴侶とすると決めたからではなく、私が適任だろうと考えたからだ。


 思い上がってはダメ。アルのために出来る事をやらないと・・・。でも、皆の意見は違った。


 私の疑問に答えてくれた。

「エヴァ。私たちは、逃げた。だから、アルノルト様の隣に立つ資格はない」

「逃げた?」

「そう、私も、ザシャも、ディアナも・・・ううん。貴女以外の皆が、逃げた。そうですよね。クリスティーネ様」


「えぇそうね。エヴァンジェリーナ様以外の者。えぇ私も、ユリウス様も、ギルベルト様も、ギードもハンスも、悲しんでいる、アルノルト様を見るのが辛かった。現実から目をそむける、アルノルト様を見ている事ができなかった。でも、貴女は違った。いえ、私たちからは、違って見えた。貴女は、アルノルト様から目をそむけなかった。寄り添おとしていた。少なくとも、私にはそう見えた」

「そんな・・・私だって・・」


「いい。エヴァンジェリーナ様。私たちは、貴女に協力します。何をしたらいいのですか?教えてください。これ以上、私たちは、自分に失望したくないのです」


「・・・。私も逃げなかったわけじゃない。ただ、そう・・・寂しさで、悔しさで、何もできない自分を壊したくなった時に、誰かが側に居ない、そんな現実を、アルノルト様に味わってほしくなかっただけ、貴方は独りでないと知ってほしかっただけ、私では何もできない。アルノルト様に守られるだけの弱い存在かも・・・しれない。でも、私は、アルノルト様の側に居たい。居て欲しいとは・・・ちょっとだけは思うけど・・・思わない。アルノルト様が、そう、アルノルト様が、天馬の如く走られるのなら、その速度に追いつく努力をすればいい。私は、私は、私は・・・。私は・・・」


 ダメ泣いては、ダメ。アルノルト様も、私に笑いかけてくれた。一番悲しい、苦しんでいらっしゃる。アルノルト様が笑ったのだ、私が笑わないでどうする。もう決めたのだろう、エヴァンジェリーナ・スカットーラ!しっかりしろ!


 笑えたと思う。

 涙がこぼれてしまったかも知れないけど、私は、笑える。アルノルト様の隣で笑う。そう決めた。


/*** オルタンス・スカットーラ ***/


 娘の命の恩人で、私たち親子の恩人のアルノルト様のご家族が賊に襲われた。


 それから、何が起こったのかわからないくらいに混乱していた。


 ただ、解った事がある。

 恩人であり、娘が想いを寄せる方が、壊れそうなくらいに心を痛めている。どこか、大人を感じさせる視線や、純粋な子供のような、立ち居振る舞いを兼ね備える。不思議な方。


 そんな方から、娘が、ご親族。それも、妹殿と、従者の葬儀を任された。

 多分、意図していないのだろう。でも、私は、これを利用する事にする。恩人よりも娘の幸せを考えてしまう。もし、それでアルノルト様がご不快に思われたら、私の命で罪を償おう。


 娘の意思確認はするまでもない。

 娘も、アルノルト様のおっしゃった事を噛み締めている。その上で、私と同じ結論に達したのだろう。娘と同じように、アルノルト様に想いを寄せていらっしゃる女性が、娘と話をしている。どうやら、娘の気持ちが勝ったようだ。


 私は、娘に黙って教会に進言する。

 アルノルト・フォン・ライムバッハを教会として確保しないのか?・・・と、見事に司祭は乗ってくれた。だが、教会に属させるわけにはいかないとおっしゃっている。理由も説明してくれた。私のような者に本来ならありえないことだが、司祭はお考えを語ってくれた。私も納得できる話だ。教会に属する事はないが、教会に登録して神の洗礼を受けてもらう事は出来るだろうと話していた。たしかに、それならば、アルノルト様がこれから行うであろう事の邪魔にはならない、その上、教会がなにかしなければならない事もない。

 書類を整える。

 整えた所で、娘を呼び出して、説明する。驚いていたが、耳まで赤くして、うつむいてから、大きく息を吸い込んで、”お受けいたします”とだけ告げた。


 そして、最後の仕上げとなる。寝所への案内だが、娘が最後まで残って、アルノルト様を案内する事ができた。

 多分、アルノルト様以外の皆様は、ご存知なのだろう。


 そこで、娘から思いもよらない事が相談された。

 アルノルト様が、寝所で食事を取りたいということだ。


 無いことではない。そのための準備もしてある。本来、もう少し時間が経ってから、親しい人たちを招いて、眠っていらっしゃる人たちと話をするのだ。アルノルト様も、そのおつもりなのだろう。10人分の食事をご所望された。


 3名様と、アルノルト様。陛下と皇太子殿下。ユリウス様、クリスティーネ様。あとは、フォイルゲン辺境伯様と、クヌート先生だと思い。使いの者を用意した。呼び戻しは、不敬にあたるが、アルノルト様がお望みになるのであれば、行うつもりで待機していた。


 アルノルト様は、エールをご所望になった。あるだけ全部持ってきてほしいという事だ。

 持っていくと、娘と私に席に座ってくれといい出した。


 娘は動揺を隠せない。

 それもそのはずだ。この場で、アルノルト様の左隣に座るのは、正妻だという事の証になってくる。


 娘は、体中を赤くして、アルノルト様の隣に座る。

 私は、給仕を理由に、端の席に座る。奇妙な光景だ。アルノルト様は、ユリアンネ様やラウラ殿、カウラ殿と、会話をしていらっしゃる。それを、私の娘・・・違う、ライムバッハ夫人・・・たしか、マノベだったかな、違う、マナベだ、マナベ夫人が笑みを浮かべている。

 あの子は、決めたようだ。どういう結果になろうと、アルノルト様を支えると、私もそれに応えなければならない。失望させないように、この寝所をしっかりと守り抜く、私の命に変えてでも、ここは、娘のスタート地点でもある。


 私は見てしまった。

 アルノルト様の右頬に流れる。一筋の涙を・・・娘に笑いかけているその顔には、涙が隠されている。

 娘も、その涙を見ただろう。でも、涙ではなく、笑顔を返している。それが作り笑いだったとしても、今の二人には、それが精一杯なのだろう。

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