第二百七十九話


 俺は、カトリナと打ち合わせをするために、カトリナの事務所に残る事にした。俺に、話を聞く為に、ルートガーがついている。事後で話を聞いたり、まとめられた書類を読むよりも、最初から話を聞いていた方が良いと判断したようだ。


 シロは、フラビアとリカルダが待っていると、ルートに教えられて、カトリナに挨拶だけをして、湖の畔にある家に急いだ。馬車は、シロがそのまま使うことになったが、御者だけはカトリナから借りることになった。ルートガーが連れてきた御者は、ルートガーの護衛を兼ねている。


 俺の前には、カトリナが居る。

 ルートガーは、俺の後ろに控える形になるのが正しいのだが、将来の長老衆候補であるルートガーは、カトリナとしても無視してよい相手ではない。


 カトリナと詳細の話を始める前に、シロが家に向かった。湖の家に帰る前に、行政区でクリスティーネにルートガーの言葉を伝えることになる。伝言は、カトリナから借りた机で書いた物だが、口頭でも”ツクモ様の用事に付き合うことになった。詳細は、書簡にした”と言い訳とも愚痴とも取れる内容だ。シロは、俺の顔を見ていたが、別に困る内容でもない。事実だけなので、そのままクリスティーネに伝えてもらう。


 シロの見送りに出ていたカトリナが戻ってきて、先ほどまで座っていた場所に座る。

 メイドだろうか、飲み物を持って入室してきた。


「それで・・・。ツクモ様」


「玩具というか、娯楽用の遊びをいくつか流行らせてほしい」


 用意していたメモ書きをテーブルに出して、二人に見せる。


「それだけですか?」


 カトリナは、玩具の図案を見て、問題は無いと判断したのだろう。


「・・・。そうだな。ひとまずは、だな」


 流れが出来てしまえば、あとは、流れを加速させて、終着点を用意すればいい


「ひとまず?」


「最終的には、カジノ。そうだな。賭け事だけじゃなくて、イベントを執り行う場所を作りたい」


「え?」「は?」


 二人の表情は理解できる。

 一度は、麻雀やトランプを作った時に、計画して撤回した。ヨーンたちも賭け事は好きだが、家族を顧みない奴らではない。それに街の規模が大きくなり、皆が求める物が変わってきている。

 頭がいい奴は、行政区で働いたり、商人になったり、前よりは道が開けている。力がある者は、コアたちのダンジョンに挑戦してもいい。素早い奴も同じだ。しかし、人はそれだけではない。特技を活かせる場所を作りたい。カジノは、そのおまけだ。


「なぁ?」


 横から、ルートガーが俺を覗き込むように話しかける。横を向くのが面倒なので、ルートガーにはカトリナの横に移動するように目線で伝える。息を大きく吐き出しながら、場所を移動する。


「なんだ?」


「カジノはいいのか?」


「あぁ”カジノ”と言っているけど、実際に賭けるのは”コイン”にする」


「「コイン?」」


 実は、こいつら中がいいのではないのか?

 見事にシンクロしていた。


「あぁカジノの入口で”コイン”を購入する。そのコインで、カジノを楽しむ」


「ツクモ様。それでは、結局スキルカードがコインに変わっただけなのでは?」


「そうだな。スキルカードとコインの変換は、カジノの入口でできるけど、コインをスキルカードへの交換は行わない」


「「え?」」


 ほか、絶対にタイミングが合っている。


「なぁそれじゃ、賭け事にならないのでは?それに、遊ぶだけになるのだろう?意味があるのか?」


 今度は、ルートガーが質問なのか?

 交互に質問するルールでもお互いに作っているのか?


「ルートが言った遊びだよ。カトリナ。ボーリングの状況は?」


 カトリナが”はっ”とした表情を浮かべる。


「盛況です」


 予想通りだ。

 数字を見ていれば解るのだけど、それでもカトリナやルートガーが考えて、自分で言わせるのに意味がある。


「どうせ、低いレベルのスキルカードを賭けているのだろう?」


「はい」


「それは、問題ではないが、今後、それを仕切るような奴が出てくると困る」


「仕切る?」


「あぁルートは、ボーリングは?」


「時間がない」


「クリスたちは?」


「何人か、やっている」


「そうか、その中で、飛びぬけてうまいやつが居たとして、周りで見ている奴らが、クリスたちの誰が勝つのか賭け始めたとして・・・」


 二人とも、ここまで言えば解るのだろう。


「そうか、その賭けを仕切る奴が出るのがまずいのだな」


「そうだ。その賭けを仕切っている奴が大儲けしようと思ったら、ボーリングのうまいやつに負けるように脅したり、道具に細工したり、いろいろ考えられるだろう?」


「「・・・」」


 この世界は、よく言えば純粋だ。


「そうなる前に、賭け事を、カジノを作って、長老衆やルートや行政の仕切りにしたい」


「なぁそれなら、別にスキルカードで返してもいいと思うぞ?」


「ダメだ」


「なぜ?」


「楽を覚えてしまうからだ」


「”楽”?」


「そうだ。カジノで、スキルカードを稼いで、日々の生活ができる奴が現れるのは、しょうがない。しかし、一回の賭けで、レベルの高いスキルカードを得た者が、その成功体験がある為に、『今日は”運”が悪かった。明日なら・・・』と、のめり込むのが怖い」


「それは、コインでも同じではないのか?」


「そうだ。だけど、コインで得られるのは、少しだけ入手が難しい玩具だったり、家具だったり、ちょっと高めの食事処のチケットだったり、そういう物が入手できる」


「それなら・・・。ツクモ様。その商品は?」


「カトリナたちに用意してもらう。行政や運営団体が買い付ければいいだろう?」


「それで、この玩具との繋がりは?」


「それは、大会を開きたい。そのカジノ・・・。で!」


「「はぁ?」」


 また、タイミングがピッタリだ。本当に、お互いに嫌いなの?


「大会?ボーリングだけじゃなくて?」


「そうだ。例えば、カジノで、1,000枚のコインを時間内に誰が一番増やせるか賭けてもいい。もちろん、優勝者には賞品だけではなくスキルカードを出してもいい。それを、玩具ごとでやれば盛り上がるだろう?」


「・・・」


「ツクモ様。その仕切りは?」


「仕切りは、行政区か長老衆だな。賞品の仕入れや会場の設営や運営を、商人たちに頼みたい。もちろん、人が集まるのだから、食べ物や飲み物も必要だろう?」


「なぁ本当に、玩具が必要なのか?」


「必要じゃないと言えば、必須ではないけど、なるべく、多くのプレイヤーが産まれて欲しい」


「プレイヤー?」


「そうだ。ボーリングが得意な奴は、麻雀が強いか?違うよな?」


 二人とも黙ってうなずく。


「だから、沢山の玩具があれば、それだけ、その玩具を得意とする奴が出てくるだろう?行政で働けない。商人にも向いていない。でも、ボーリングはめちゃくちゃうまい。なら、最初は難しいかもしれないが、ボーリングで生活ができるようになったらいいと思わないか?」


「はぁ・・・。まぁいいです。俺は、貴方のやりたいことを、サポートするのが仕事ですし、頼まれていることです。今回は、先に教えていただけたので、対処が間に合いそうです。それで、計画書は?」


「ない。全面的に、ルートとカトリナに任せる」


「「はぁ?」」


「あぁあと、ノービスの連中に任せている、ロックハンドに、大きめのカジノを作りたい」


「ちょっと待て!」


「ん?できるよな?構想で解らないことは聞きに来てくれ」


「わかった。わかった。まずは、少しだけ、本当に、落ち着け。俺とカトリナに投げるのはいい。場所が、ロックハンド?いいのか?」


「ノービスの連中も、何か目玉が欲しいだろう?鍛冶をやっているから、音で住民も増えないだろうから、丁度いいだろう?歓楽街にしてしまえ」


「わかった」


「ツクモ様?」


「ん?」


「歓楽街というのは?食べ物や飲み物を提供して、遊びの場所で、合っていますか?」


「概ね、カトリナの考えている通りだ」


「わかりました。ノービスを巻き込んでいいですよね?」


「あぁ」


「わかりました。何が必要で、何をしたらいいのか、計画にまとめます」


「頼んだ。ルートもいいよな?」


「はい。はい。行政の手続きと、仕切りは”どこ”がいいのか調整する。多分、最初は長老衆になると思う」


「わかった。そうだな。最初は、長老衆で権利を委譲する方がすんなりと行きそうだな」


「そうだな。わかった。もう一つの平行になるから、優先はどっちだ?」


「カジノ計画は、カトリナの玩具開発が先行しないとダメだ。だから、カジノは後でいい」


「わかった」

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