第百七十八話


 90階層の階層主の扉を開ける。

 今度は、階層主?が見える。


 なんと言っていいのか・・・・。

 うん。扉を閉めたくなるな。


 朝食の時に話したのは、階層主の部屋には”俺とシロとリーリアとオリヴィエとステファナとレイニー”で入る事になっているのだが、謝罪して撤回したくなってきた。


「シロ。どうする?」

「カズトさん。僕に聞かれても・・・。そうだ、ステファナ!」


 ステファナとレイニーは扉の方を見ていない。

 泣き出しそうな目で俺を見ている。


「ステファナ!レイニー!目をそらすな!シロ。お前もだ!」


『主様。僕たちが行きましょうか?僕とウミとライとアズリとエルマンとエステル。6名以上入られるのなら、レッチェとレッシュとエーファとティアとティタでどうですか?』


 確かに、目の前に居る奴らは、カイたちのほうが得意だろう。

 ほぼ間違いない。エルマンとエステルが森で食べていた主食に近いのかもしれない。レッチェとレッシュも食べるだろう。


 蟲が大量に居るのだ。

 中央に2m近くにもなる。黒光りする奴が居る。寒気さえも覚える容姿をしている。生前?に台所で見たことがある奴だ。


 残念な事に、殺虫剤はない。有ったとしても効くとは思えない。凍らせて倒すのがいいのか?

 ダメだ。戦える感じがしない。勝てないとは思わないが、勝つまでに俺の精神力がゴリゴリと削られそうだ。


「カイ。頼めるか?」


 丸投げ決定。


『かしこまりました』


 Gなる蟲の他にも、百足などが居る。

 バッタ・・・違うな蝗かな?多分、数だけなら今までの最高なのだろう。2-3,000は居るように思える。


 このまま動かしたら、蠱毒になってしまわないか?

 毒虫ばかりでは無いのは解るが、蠍とかも居るようだ。蜘蛛、蟻、蜂が居ない。ダンジョンコアも気を使ったのか?


 アズリを先頭にして、カイとウミとライとエルマンとエステルが入っていく。まだ、入られる様子なので、エーファとティアとティタとレッチェとレッシュが入っていく。エーファが扉を閉める。


 5分経ったのだろうか・・・、それとも、30分?

 短いようにも感じるが、長い時間が経過しているようにも思える。心配して待つとこんなにも時間がわからなくなるのだな。


「カズトさん」

「大丈夫だ」


 シロも同じ気分なのだろう。左側に立つ、シロの右手を右手で握る。左手でシロの肩を抱き寄せる。

 俺とシロの眷属が中に入っている。眷属との繋がりが健在なので、無事なのは解る。わかっているのだが、心配になってしまう。


 こんな事なら、俺達も入ればよかった。

 高威力のスキルを使えば殲滅できたかもしれない。


「大丈夫だ。カイとウミとの繋がりを感じる」

「うん。エーファやレッチェやアズリとの繋がりを感じる。レッチェなんか、歓喜している」

「そうだな。エルマンとエステルも同じだ。レッシュも喜んでいる」


 活躍できることを喜んでいるのか、食事ができるから喜んでいるのかはわからない。

 わからないが無事だという事は解る。


 それから、どのくらいの時間が経過しただろう。

 握っているシロの手に力がはいるのが解る。


「あ!」

「あぁ・・・」


 扉が開いた。

 戦闘が終わったのだろう。


 まるで、手術室の前で扉が開くのを待っていたかのような感覚だ。


「旦那様。奥様!」


 エーファが扉を開けたようだ。


「エーファ!」「エーファ。お疲れ様」


 大量に居た魔蟲が一匹残らず死に絶えて、死骸も処分されている。


「旦那様。奥様。申し訳ありません」

「エーファ。謝る必要はない」

「いえ、戦闘よりも、片付けに時間がかかってしまいました」

「どういう事だ?」


 エーファとアズリが説明してくれたのだが、戦闘は苦労する事なく完勝する事ができたようだ。

 ただ、その後でカイから倒した遺体を綺麗にすると命令が出された。俺が毛嫌いしているのが解って、遺体を見せるわけには行かないと考えたようだ。魔蟲たちの死体の処理に時間がかかってしまったというなのだ。

 梟種であるエルマンとエステルが食べたり、イーグル種であるレッチェやレッシュが食べる事で数を減らす事はできたようだが、素材としてもあまり優秀ではないとアズリが判断したので、吸収して燃やしてしまう処理に時間が取られたようだ。


 そして、俺達は90階層の階層主の部屋を抜けて、91階層に降り立った。

 蟲が大量に居た部屋が安全だとは解っていても風呂に入ったり休んだりする気にはならなかった。


 俺とシロとオリヴィエとリーリアが、レベル9の完全回復/物理攻撃無効/スキル攻撃無効/状態異常無効/完全操作の入手に成功した。

 もしかしたら、初期踏破ボーナスや階層主の撃破が条件なのかもしれない。初期踏破ボーナスなら91階層や92階層の踏破で得られるだろうし、階層主撃破だとしたら、100階層の階層主撃破の時に得られるだろう。

 階層主撃破の時に貰えるのが一番いいな。そうしたら、90階層の階層主撃破や100階層の階層主撃破を繰り返せばいいだけだ


 俺のスキルで複写を作ろうとしたのだが、失敗した。俺のレベルが足りていないようだ。

 それに、今はできない事がわかっただけで十分だ。検証や考察は今考えても仕方がない。


// レベル9:完全回復

// 死亡以外のすべての怪我・状態異常を治す。

// 部位欠損も1ヶ所の修復が可能。

// 利用者のみが対象となる


// レベル9:完全操作

// レベル7操作の上位版。

// 操作対象者を完全に支配する。意識の有無は関係ない。

// 意識の複写が可能。操作を打ち切る時に、経験や記憶を本体にフィードバックする事が可能。


 レベル9:完全操作は考えて使わないとだけだな。

 意識を複写する事ができるのは嬉しいが、どっちが本体なのかを揉めるなんて事が発生する可能性さえある。


 レベル9:完全回復は、すぐにでもシロに付けたかったが固辞されてしまった。

 万が一の時に残しておきましょうという事だ。確かに、治療や回復と違って利用者のみが対象となると説明されている。この一文をどう理解するのかで大きく変わってくる。有用なスキルである事は間違いない。

 無効系のスキルにも対象者は本人のみとの注意書きがある。

 今までと明らかに違う。強力なスキルの為に、対象が本人のみになっている。


 1枚目の入手ができたが気楽に試せる状況ではない。

 あと1-2枚入手できたら、魔核に付与してスキル道具にできるか確認してみたい所だ。


 降りた91階層は草原フィールドのようだ。

 リーリアやステファナの報告では、珍しい植生ではないようだ。サイレントヒルと同じような感じだと説明された。


 俺達は、1週間かけて94階層に降りてきている。


 存在している魔物が少し厄介そうなだ。90階層と同じように、階層主の進化体や上位種がでてきている。それと同時に巨人種というべきなのか、トロールやジャイアントオークなどが単体又は数体ででてくる。


 戦闘になったら、遠慮なく大人数で当たらせてもらう。草原フィールドなので、大人数で戦えるのは嬉しい。消耗が少なくなるからだ。


 俺達の前に、トロールの進化体が2体と上位種が3体の合計5体が、大量のオークとゴブリンを引き連れて現れた。

 草原フィールドなので、索敵が比較的容易にできる。その上、レッチェやレッシュが上空から索敵をしてくれているので、かなり早い段階から状況が確認する事ができる。

 戦闘中も、レッチェとレッシュとエルマンとエステルが上空から他の魔物の動向を確認させている。


「リーリア。ティアとティタに補助」

「はい」


「エーファ。ティアとティタと下がれ。エリン。頼む!」

「はい!」「うん!」


 流石に巨人種が5体とオークとゴブリンの団体では苦労する。

 実入りが悪いわけじゃない。素材は期待できないが、魔核はかなりの確率で入手できている。


 カイとウミとアズリが、オークとゴブリンを殲滅した。

 これでかなり楽になった。トロールも上位種ならスキルは殆ど使わない。進化体を先に倒す。生意気にもスキル治療を使っている奴が居る。

「カイ。ウミ。白いトロールを頼む」

『はい』『わかった!』


「ライ。シロのフォロー」

『はぁーい』


「シロ。エーファとティアとティタに治療を!その後、白いトロールにスキル攻撃。リーリア。遠距離から攻撃!」

「はい」「はい!」

「旦那様。私達はまだ大丈夫です」

「ダメだ。シロから治療を受けろ。それから、終わったら、レッチェとエルマンと協力して、後方から迫ってきている、肉どもを頼む」

「かしこまりました」


 戦いの音なのか、血の匂いなのかわからないけど、この草原フォールドは戦っていると、かなりの確率で2回程度の連続戦闘を行うはめになる。今も後方からボア系とカウ系が仲良く200体ほどで襲ってきている。

 戦力的には少し厳しいが、エーファたちに抑えてもらう。トロールの進化体が片付いたら、エリンとアズリを援軍として送り込む。


 最後まで抵抗していたトロールの進化体が沈んだ。

「エリン。アズリ。後方で戦っているエーファのサポートを頼む」

「了解」「うん!パパ!」


 上空のレッシュとエステルからは連絡が入ってきていない。見える範囲に魔物がいないのだろう。

 今はそれでいい。目の前に居るトロールと後ろから来ている肉の討伐を行うトロールたちは素材も肉も美味しくない。魔核がでてくれば嬉しいくらいだが、後ろから来ている連中は食用肉として優秀だ。

 上位種や進化体がいれば味ももっと良くなっているはずだ。


 エリンとアズリも肉確保の事は認識しているだろう。


「ライ!後ろの奴らが倒れたら回収を頼む」

『はぁーい』


「シロ。オリヴィエ。リーリア。一気に行くぞ!」

「はい」「かしこまりました」「はいっ!」


 トロールの上位種だけになった正面の魔物たちを倒す。

 振り下ろされる、棍棒を交わして、皆が攻撃している膝を攻撃する。


 硬えな。

 膝に確かにヒットしたが、弾かれる感覚だ。肉を切っているというよりも、岩かなにかに刀を当てているような感じだ。

 刃こぼれが心配になってしまう。


 ウミが、トロールの肩までジャンプして、更に肩を踏み台にして、目を攻撃し始めた。カイもそれに続く。


『エーファ。エリンとアズリが参加したら、レッチェとレッシュをこっちに戻してくれ』

『はい!レッチェ。レッシュ。旦那様の所へ!』


 レッチェとレッシュが戻ってきて、俺とシロの肩にとまる。


「レッチェ。レッシュ。カイとウミが攻撃したトロールの目を狙ってくれ。絶対に無理するなよ」


 2人は短く鳴いてから上空に向かった。

 そこから、目を狙って急降下を開始した。


 トロールの上位種の一体が膝から崩れ落ちた。

 攻撃が通った。片目も潰せたようだ。


「シロ。俺と、もう一体の牽制。レッチェとレッシュも手伝ってくれ、膝を付いた奴の始末はオリヴィエとリーリア、頼む」


 もう一体残っている上位種を俺とシロで抑えている間に、倒れかかっている奴を倒してもらう。


 頭上をレッチェとレッシュが牽制しているのが効いている。

 俺とシロへの攻撃はそれほどではない。


 5分くらい耐えていたら、オリヴィエとリーリアが倒して合流してきた。

 こうなったらあとは作業のような感じだ。


 振り下ろされる棍棒を交わしつつ、膝に攻撃を集中させる。

 ひざまずいたら攻撃が通りやすい顔周辺を集中的に攻撃する。


 トロールたちの討伐が終わった。


「マスター!」

「解っている」


 後方で戦っているエーファ達が苦労しているだろう。

 エリンとアズリが居ても、数の暴力は簡単に覆らない。


「急ぐぞ!」

”はい!”


 肉の集団は、まだ150頭くらい残っている。

 作業になっているが、皆で手分けして倒していく、倒した先から、ステファナとレイニーがライに渡して収納してもらっている。


 20分くらい戦っていたのだろう。

 肉の集団も全部倒せた。


 さすがに疲れた。

 休んでいるとまた魔物が出現してくる事がある。ペネムとティリノに支配領域の展開をしてもらってもいいのだが、支配領域の調整が難しくなってきているという事だ。チアルダンジョンに対策を考えられているのかもしれない。

 そう考えると、必要最低限の展開にとどめておいたほうがいいだろうというのが、皆で相談して出した結論だ。


 そのため、戦闘時にもステファナとレイニーか、リーリアとオリヴィエのどちらかは直接の戦闘には参加しない事にして、休憩時の最初の見張り役を頼む事にしている。


 軽く食事をしてから、仮眠を取ることにした。

 テントは出さないで、皆で集まって寝る事になる。最初はテントを用意すると言っていたが、魔物が襲ってきた時に対処が遅れる事から、テントを出さないでまとまって寝る事にしたのだ。


 事実これまでも5回ほど休憩中に魔物が襲ってきた。

 かなり前から索敵ができていたので、スムーズに戦闘状態に移行する事ができたのだが、近くに来るまでわからない場合が無いとは限らない。

 そうなった時にテントを放置して戦闘に入る事になってしまう。壊されても困る事はないが、少し惜しい感じがするので、小休憩のときには、テントも浴場も出さない。トイレだけは出すようにしている。そうしないと、またシロが我慢しだすかもしれないからだ。


 91階層に降り立ってから、3週間かかったが階層主の部屋の前にたどり着いた。

 ここまで支配領域の展開をしたのが最初の一回だけでそれ以降はしてこなかった。


 今日は、ゆっくり休む為にも支配領域を展開する事にした。


『主上様』


 ティリノは俺のことを”主上”という呼び方が気に入ったようだ。

 別になんと呼ぼうが気にしないのだが、本人?曰く個性を出したいという事だ。


「なんだ?」

『はい。ここの支配領域の展開は、今までと違います』

「そうか?なにか問題か?」

『いえ、逆です』

「どういう事だ?」


 その後、ペネムも会話に加わって説明してくれた事によると、草原フィールドでは何かに邪魔をされていた支配領域展開が、階層主の部屋の前では、問題なく展開ができているという事だ。

 抵抗が無いだけではなく、スムーズに領域を確保できたという事だ。


 チアルダンジョンとして、この場所で休む事は了承してくれていると考えていいようだな。


 久しぶりに浴場とテントも出す事にした。トイレも2ヵ所にだす事にした。


 食事は、大量に確保できた肉が中心だ。

 草原フィールドでも数は少ないが、野草なども採取できている。果物と言っていいのかわからないが、野いちご?のような物も確保しているので、ステファナの期待に応えようと思う。


 久しぶりに、俺がデザートを作る事にした。

 ヨーグルトの在庫も時間を見て作っていた事もあって、ある程度は確保できた。ナーシャやカトリナがいたらすぐに終わってしまう量だが、俺達が節約しながら食べれば10回程度は食べられる。


 野いちごを潰して、砂糖と軽く煮詰めて、ヨーグルトにソースとして垂らした物を食後のデザートとした。


 肉食でも問題は無いが、やはり腸内環境を整えるつもりでヨーグルトも適時食べる事にしよう。

 腸内環境があまり良くないシロがすぐにトイレに飛び込んだ。その後で、ステファナが続いた。レイニーは平気なようだったので、リーリアとレイニーで風呂にお湯を溜めてもらう事にした。


 シロが戻ってきた。

 丁度お湯が溜まったという事なので、シロと風呂に入る事にした。


 スキル清掃で綺麗にしていたといっても、3週間の汚れだ。

 簡単には落ちない。一度洗い場で身体を洗ったが、綺麗になった感覚にはなれなかった。シロも同じ様だ。しょうがないので、一度湯船に浸かってしまう事にした。そのあとで再度身体を洗う事にした。スキル道具のおかげでこんな乱暴な方法が取れるようになったのだ。


 シロがふざけて、俺の上に乗ってきた。

 後ろから抱きしめる形になったので、頭を軽く殴ってから、抱きしめた。手がシロの双丘にふれる。


”あぁん”


 わざとだろけど、そんな声をだす。

 悪い子には罰が必要だな!


 先端部分を摘んだのが悪かったのか、シロのスイッチが入ってしまって、俺を跨いだ状態になった。

 こちらを向いて、キスを求めてきた。首に手を廻してキスを求めて、片手で俺の大きくなった物を握っている。浴槽から出て、洗い場の明かりを消してから、お互いに触り合って、キスを繰り返している。シロが果てた事で今日は終わりにする。少し余韻を感じるように抱き合っていた。


 少し冷えてしまったお湯をスキル道具で綺麗にする。

 その間に交互に身体と頭を洗ってから、もう一度熱くなったお湯に身体を預ける。


 シロが俺の横に入って、腕に抱きついてくる。

 身体の芯から疲れが抜け出す感覚に委ねた。

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