第百七十四話


 しっかりと朝食をとってから、武装の再確認をして、階層主の部屋の前にやってきた。


 俺とシロとカイとウミとライとアズリが、最初に扉の内側に入る。

 そこで扉が閉まったりしなければ、ステファナとレイニーが続いて、リーリアとオリヴィエとエリンが続く、ステファナとレイニーが先に入るのは、2人以外は眷属になっているので、スキル呼子で呼び出す事ができる。


「行くぞ!」


 順番に入っていく、正面の魔物・・・オルトロス・・・でいいのかな?まだ動き出さない。扉を閉めたら動き出すのか?

 空けたままスキル攻撃したら勝てないのか?


 扉を空けた状態だと、スキルも攻撃も通らない。上手くできているな。

 それなら、皆にスキルの詠唱を行って貰って、待機状態にしておく、ステファナとレイニーに皆が入ったことを確認したら扉を締めてもらう。


「いいぞ!ステファナ!レイニー!」


 重厚な扉が音を立てて閉まっていく、オルトロスは一体だけのようだ。お供はいない。それなら、集中攻撃をすれば良さそうだ。

 鑑定がまだ通らないから、強さがわからない。わからないのなら、全力だ!


「旦那様!」

「鑑定が通った!スキル発動!」


 ”ヤー!”


 それぞれが持っているスキルが発動する。

 同時に、オルトロスも動き出すが、俺達のスキルのほうが早い。


 弾幕のようにスキルが被弾する。


 オルトロスの両方の頭が絶叫する。


 終わった。あっけなく終わった。


 俺、鑑定して命令しただけだった。うん。まだ70階層。全体の半分を超えたくらい。

 鑑定結果は忘れた。全部読み切る前に、すごい勢いで被弾して見られなくなってしまった。次からもう少し考えよう。


 今回は一体だけだったから成功した戦法だろう。

 毎回これなら楽なのだけど、ダンジョンのいやらしい所は、こちらの戦術を学習する所にある。一度使って上手く言った戦術を潰してくる事が多い・・・。多分、そのうち人数制限はしてくると思うし、入ったら襲ってくるくらいの修正はしてくると考えておいたほうがいいだろう。

 実際に人数制限されたり、入ったら襲ってくると考えて、対処できるように準備をしておく必要が有るだろう。


 今回は完全に失敗だ。

 オルトロスの素材が全くと言っていいほど手に入らなかった。肉片が転がっているだけだ。しょうがないので、ライに掃除をしてもらった。

 ペネムとティリノが魔力の吸収ができたと喜んでいる。


 得られた物もしょぼかった


// レベル8:体調管理

// レベル8:清掃×3


 合計4枚のレベル8のスキルカードが入手できた。

 確かに、この戦闘一回でスキルカードの価値で考えれば黒字になるだろう。ただ、新しいスキルカードを得たり使えそうなカードを得る事は出来なかった。期待した魔核も・・・もしかしたら会ったかもしれないが・・・入手出来なかった。


 釈然としない気持ちを押さえつけて、71階層に向かう事にする。


 こうきたか・・・。

 厄介なマップを作ってきたな。


 71階層は、森フィールドの様だ。

 それも、ブルーフォレストや魔の森と同じ様に、魔物が徘徊している。フィールドもかなり広そうだ。視界も開けていないので、奇襲を心配しなければならない。70階層とかと違って、上下からの攻撃も同時に警戒する必要がある。


 なんて警戒していた自分が恥ずかしい。

 眷属達がすごく元気だ。当然だろう。今まで生活していた環境での戦いになる。種族的に戦いやすいのは当然だろう。


 それだけではなく、忘れていた設定だが、リーリアとオリヴィエは、ハーフだが”エント”と”ドリュアス”だ。樹木の操作は楽にできる。それだけではなく、樹木を使った探索もできるので、奇襲に怯える必要がなくなった。


 それに輪をかけてステファナがエルフが持つ特有の能力を発揮している。

 無敵状態だと言ってもいいくらいだ。


 簡単に言っているが、俺とシロとアズリとエリンが役立たずになっているという事だ。

 エリンは竜体になればいいのかもしれないが、ダンジョン内なので上空がどうなっているのかわからない。リスクを犯すべきではない。


 楽勝とは言わないが、70階層までと違った感覚になっている。

 眷属達が全方位を警戒しているので、奇襲だけではなく、魔物の位置を把握する事ができている。殲滅しながら行動したほうが、野営するときにいいだろうとの判断で殲滅を基本方針にダンジョン内を進んでいる。


 殲滅も、眷属達が楽しそうにしておこなっている。


 カイとティアとレッチェとエルマン

 ウミとティタとレッシュとエステル

 エリンとアズリとエーファ


 3組が前方と左右に別れて、魔物を探索しては殲滅している。戦力的には、ほぼ、カイとウミとエリンで倒しているのだが、順番で留めを他の者に譲っているようだ。


 俺とシロとライとリーリアとオリヴィエとステファナとレイニーで、抜けてきた魔物の相手をしている。数はそれほどでもないし、傷をおっている場合もある。

 ワーウルフ系やホース系の魔物が多いように思える。餌はどうしているのだろうと思ったら、ラビット系やボア系の魔物が居て捕食対象になっているのだろう。進化した魔物も居るようで群れのボスなどは進化している。

 それでも、まだ対応ができるようで苦戦する事なく戦っていける。


 他にも探せば居るだろうけど、眷属達が発見→補足→殲滅の流れで、作業の様に対応しているので、確認する事が出来ないでいる。


 リーリアは、時折ステファナと話をしながら、果物に代表されるような森のめぐみを採取している。食べられる野菜も採取している。増やせそうな物の相談もしているので、ログハウスの周りで増やせたら、居住区やダンジョン区で増やしてもいいのかもしれない。

 ライに保存してもらって、帰ってから確認する事にした。


 71階層の探索は、半日ほど経過したが進んでいるのか実感できない。

 リーリアとステファナの認識では、半分の半分程度だと思うという事だ。1/4程度しか進んでいない事になる。そうなると、全部を踏破するつもりは無いとしても、2日かかってしまう計算になる。

 ただ、魔物の確保や果物や野菜の確保ができているので、帰りが遅くなる以外のデメリットが発生しない。

 それ以上に、これからの食糧事情のためにこの階層は探索しておく必要を感じている。


 皆は俺の意見に賛同してくれているので、数日かけてこの階層を踏破する事に決定した。

 そうなると拠点が欲しくなる。ペネムとティリノにセーフエリアの作成を頼んだのだが、半日も持たないという事なので、休める場所の確保にとどめた。


 ハンモックを作ったら、思った以上に眷属達が喰い付いた。

 今まではテントの中で休んでいたのだが、この階層に居るときには、ハンモックで休みたいと控えめなお願いをされた。


 ここで問題が発生した。

 シロが少しだけ体調を崩したのだ。回復と治療で良くなるのだが、しばらくするとまた体調が悪くなる。見るからに体調が悪そうだ、俺に近づいてこないのが寂しいのだが、今はそれを言ってもしょうがない。


 確かに、ダンジョンに潜り始めて16日が経過している。

 体調が悪くなっても仕方がない。


「シロ。一旦戻るか?」


 首を横にふる


「俺も一緒に戻るぞ?」


 また首を横にふる


 リーリアが呼ばれた、ステファナとレイニーとアズリも呼ばれて、俺とオリヴィエは一旦テントから出るように言われた。


 リーリアが申し訳なさそうに、俺の所に来た。


 念話でも良かったと思うのだが、オリヴィエを外して、俺にだけ話をしたいらしい。


 子どもができるような行為はしていない・・・と、思う。シロが自分で慰めているのは知っているのだが知らないふりをしている。

 それじゃなかった。


 安心したが、確かに俺の配慮が不足していた。

 シロが普通にしていたし、何も言わなかった・・・違うな。俺が気がついてやるべきだったのだ。


 さてどうしようか?

 問題は2つ。こういう時に助言をくれる、フラビアとリカルダが居ないのが悔やまれる。


 はっきり言えばいいのだが、シロの今までの我慢が無駄になってしまう。

 特に今回は俺のミスなのだし、シロに恥ずかしい思いをさせるのは間違っている。


「カイ、ウミ、ライ!近くに人が入られるくらいの川はないか?」


 水が流れている状態で綺麗な川がいい。なければ作る!


 眷属達を使って捜索させた、1分でもシロを苦しめたくない。

 5分後に、エルマンとエステルから報告が入った。


 水量は少ないが川が見つかった。水量は、スキルで増やす。魔核にスキル水を付与した。レベル6の魔核だ。これだけで十分な水量が確保できるだろう。


 リーリアに念話で川の場所を教える。

 シロを連れて、川で魔物の血抜きを行うように頼んだ。グリーンボアを倒したので、その血抜きを行ってもらう事にした。普段は、ライに血抜きをしてもらっているのだが、川が見つかったので、川で肉を冷やしながら熟成させてみる方法を試してみる事にした。と、いう建前だ。


 リーリアは、それで全てがわかったんだろう、シロとステファナとレイニーとアズリを連れて行く、どうやらエーファは必要ないようだ。戦闘時に時々狐形態になってしていると言っていた。


 アズリも必要ないが、血抜きを手伝ってもらう。

 必要なのは、シロとステファナとレイニーだ。リーリアは、必要ないと言っている。同様に、オリヴィエも必要ないらしい。エリンは、必要だがどういう構造なのかわからないが1年や2年くらいは平気だと言っている。成竜になれば10年単位で大丈夫なのだと言っている。ない胸をそらしてドヤ顔をされて、悔しいが可愛かったので、頭を撫でてやることにした。


 シロの体調不良は、恐ろしい物だった。


 便秘とおしっこも相当我慢していたようだ。

 それから、生理。


 両方共、スキル体調管理で抑える事ができるのだが、それでも2~3日が限界だということだ。

 もちろん俺には生理はないが、排泄の必要はある。必要はあるのだが、種族なのか、それとも別の要因なのかわからないが、1ヶ月くらいなら平気になっていたので、こっちの世界ではそれが普通だと思いこんでいた。


 生理に関しては完全に忘れていた。

 シロが俺と行動を共にするようになってから、数ヶ月間・・・。シロは、スキルで止めていたようだ。排泄は、ダンジョンに入る前は俺と一緒に居ない時間もあったために大丈夫だったのだが、ダンジョンに入ってからは四六時中一緒にいるのでタイミングがなかったようだ。


 スキル体調管理で抑えるのも限界になってしまったようだ。


 そこで、俺は血抜きをお願いする建前で、シロを少し離した。

 川を探したのは、排泄の時に川で洗い流せるとの助言を貰ったからだ。


 2時間後、グリーンボアの血抜きと肉を冷やした物を持って帰ってきた。

 シロの顔色がかなり良くなっている。


 シロが恥ずかしそうに戻ってくる。


 頭を軽く叩いてから軽く抱きしめて、頭を撫でてやる。

「シロ。悪かったな」

「・・・。カズトさん。僕」

「気がついてあげられなくてごめんな」

「ううん。リーリアに怒られた。カズトさんにしっかり言わないで、心配・・・・。だから、僕から謝らないとダメ」

「そうか、でも、シロ。今回のような事は辞めてくれよ」

「うん。恥ずかしいけど、しっかり言うよ」

「そうしてくれ。スキルを駆使して持ち運べるトイレを作るからな」

「え?」

「浴場と同じ様に、野営する時に設置すればいいだろう?」

「・・・。うん。でも・・・」

「なんだよ。さすがに入るのが恥ずかしいっていうのはなしだからな」

「え?あっうん。それは・・・。うん。恥ずかしいけど・・・。わかった。見られる事はないのだよね?」

「当然だよ。シロ。俺を、へんな性癖を持っているみたいに言うなよ」

「あっ違う。違わないけど、違います」


 何を慌てているのかわからないけど、まぁトレイの開発は必要だろう。

 ステファナとレイニーも必要だろうからな。


 生理はどうしよう?

 ステファナとレイニーは止めたりしていないようだから、シロもそうさせるのがいいだろうな。

 うん。考えてもわからない。スキルでどうにかなる問題ではないからな。うん。ステファナとレイニーに丸投げでいいな。もしかしたら、知識だけなら、アズリ辺りに相談すればいい解決策を知っているかもしれないな。


 結論だけいうと、アズリが対策を知っていた。想像した通りに、あて布をするだけのようだ。シロもそれは知っていたようだが、これも恥ずかしくて言い出せなかったようだ。裸で抱きついたり、一緒に風呂に入るのには慣れたようだが、女性特有の事にはまだ抵抗を覚えるようだ。

 今まではフラビアとリカルダが居たので、大丈夫だったようなのだ。


 ただ、あて布も肌触りとか吸水性?を考えなければならない。

 少し改良の必要はあるだろうが、アズリが言っている最高級な物が、ホーンラビットの毛皮なのだ。カイとウミにお願いして、ラビット系の魔物を乱獲してもらって、毛皮の加工をいろいろやってみた。自分なりに上手くできたと思えた物を、リーリア経由でシロとステファナとレイニーに渡した。


 シロの体調不良やら、その対策で時間を使ったが、71階層の森での採取と肉の確保は予定以上に進んだ。


 これからのダンジョンアタックには絶対的に必要なことだったのだ。

 シロの体調不良も、この階層で良かったと思う。70階層のような場所なら原因がわかっても対処が難して、もっとシロの負担が大きくなってしまったかもしれない。


 今、その当本人であるシロは、俺の腕の中で謝りながら、大泣きして、眠ってしまった。

 夜もあまり眠れなかったようだ。今は、スッキリした顔をして寝ている。


 俺とシロをテントの中に残して、眷属達は71階層の探索をおこなっている。

 ステファナとレイニーはライに渡した、簡易トイレの組み立てや片付けをおこなっている。全部で2つ作った。

 排泄物にスキル分解を使うかスキル火で燃やすか考えて、両方行う事にした。あとスキル微風で匂いが上がってこないように調整したり、水が出て洗う装置も付けた。妥協するわけには行かない。夜でも怖くないように、スキル発光も使っている。スキル清掃が付与されているので、清潔に保つ事ができるようになっている。

 2人は、そんなトイレを片付けして組み立てる訓練をしているのだ。


 野営の準備が増えてしまうが、こればっかりはしょうがない。慣れてもらうしか無い。


 下層に向かう階段はすでに見つけている。

 シロが起きたら、階段に向かおうと思っている。


 72階層も森ステージだと嬉しいな。

 採取できる物があるのがいい!

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る