第百七十三話
「シロ!シロ!」
今日は、シロを起こす事から始まった。
ダンジョンの中にいることを忘れさせる日常の風景が広がっていた。
「カズト・・・さん。おはようございます」
「うん。おはよう」
「シロ。服着ろよ」
「え?あっ!」
またシロは服を脱いでしまっている。
上半身だけだが見えてしまっている状態だ。やはり、シロには温泉浴衣は早かったかもしれない。気分的に楽だから導入したのだが、俺以外で上手く着て寝られるのは、リーリアくらいだ。オリヴィエは早々に諦めた。アズリは気に入って着ているがいつもはだけてしまっている。
シロに至っては朝起きたら帯だけになっている事が多い。時々下着さえも着けないで寝る事があるので、朝起きたら全裸に近い状態になってしまっている。
シロ曰く”楽”だと言って気に入っているので何も言えない状態になっている。それに、見られるとしても俺だけなので、問題ないと思う事にしている。
ちなみに、一部の宿区や商業区の宿では、温泉浴衣を貸し出しているのだが評判はそんなに悪くない。
しっかり着られているのかは微妙な所だが・・・。土産物として買って帰る者がいるらしい。
「うん。カズトさん?」
「どうした?」
「ううん。僕の事見飽きた?」
「何を言い出すかと思ったら奥様。そんな事無いですよ。今まさに襲いたくなっているのです。ダンジョンの中なのだし、服着てくれると嬉しいよ」
軽く抱きしめてからキスをする。
シロが嬉しそうに抱きついてくる。
どんどん可愛くなってくる。
少しだけシロの体温と匂いを堪能してから、身体を離した。
「シロ!」
「はい!」
スイッチが入ったようだ。
テントを出ると、オリヴィエが待っている。
食事の支度は、ステファナとレイニーがしてくれているようだ。
朝食をとってから、野営地を引き払った。
ペネムとティリノに支配領域を解除をお願いする前に、カイとウミとエリンが近くを見て回ってくると言っていたので、片付けをして待っていた。
「パパ!」
「エリン。どうだった?」
「ん!」
エリンの説明ではわからなかったが、カイが念話で説明してくれた。魔物の数は昨日とさほど変わっていないという事で、一晩たったからなのかわからないが新しい魔物がポップしたようだ。
近くしか探索していないそうだが、マップにも違いは無いという事で少しだけ安心した。
魔物が元通りになっている状態で、マッピングまでやり直しだとかなりの時間が必要だ。
休む場所と方法もまた考えなければならなくなってしまう可能性だってある。
「よし、カイとウミとエリンも帰ってきたことだし、探索を再開しよう」
61階層にはすぐに降りられた、サクサク進む様にした。
ひと当たりして辛いと感じたときには、面倒だけど数階層戻って対応できるか確認を行うようにする。
69階層まではこのままの方針ですすむ事にして、71階層から魔物を時間をかけて探索を行うようになる。
一日で1階層突破を目標にして進むことにした。
予定通りに進めば、2ヶ月程度で120階層には到達できそうだ。3ヶ月で攻略出来なかった場合には、一旦戻る事も考える。街は心配していない。ルートガーがうまくやってくれると信じている。
さて考えていてもしょうがないので、先に進もう。
素材を期待されているが、この辺りの魔物の素材ならすでにペネムダンジョンの中級ダンジョンの最下層付近で採取が可能になっている。それに、進化後の眷属が倒す事ができる魔物なので、魔核がある場合だけ抜き取って、スキルカードと魔核だけを持っていく事にしている。
食用に関しては、ある程度の量を確保した後は眷属達が吸収して捨てていく事にしている。
62階層への階段が見つかった。手前で、セーフエリアを作成して休む事にした。
「ご主人様」
「ん?」
「しばらく、肉中心の食事になりますがよろしいですか?」
「あぁそうだな。リーリアに任せる」
「かしこまりました」
「マスター」
「どうした?」
「はい。アズリとエーファに浴場の設営を教えたいと思いますがよろしいですか?」
「かまわないけど、本人がいい出したのか?」
「はい」
「無理にやらせたりするなよ?」
「はい。無理にならないように教えます」
「あぁ頼む」
「かしこまりました」
しばらくは、リーリアが食事内容を考えるようだ。
実際に手を動かすのは、ステファナとレイニーだとは思うが、材料を管理しているのは、リーリアだからな。
3ヶ月間は食料を持たせる気でいるのだろう。
カイとウミは、エリンと一緒に今日も近くを探索がてら魔物をまびいいてくると言っている。
今日はレッチェ、ティア、ティタ、レッシュ、エルマン、エステルが一緒に行くようだ。戦闘で役立っていないと気にしていたのでちょうどいい訓練になるだろう。レッチェ、ティア、ティタ、レッシュ、エルマン、エステルたちは、スキルの固定化をまだ行っていなくて、固有スキルと渡したスキルカードのみで戦っている状況なのである程度はしょうがないと思っているのだが、魔物の吸収を優先的に行っているので、成長はしているのは間違いない。
今日の食事は、リーリアが宣言した通りに、肉が多めになっている。
贅沢は言わないほうがいいだろう。通常、ダンジョン内で柔らかい肉や温かいスープが飲める事自体が贅沢なのだ。
食事が出来上がるくらいには、アズリとエーファがオリヴィエに指導されながら浴場とテントの設営を完了させた。
お湯のため方も教えてもらっているようだ。アズリとエーファは俺とシロのためという事も有るのだろうが、自分たちが楽しむためにも設営ができるようになっておきたかったのだろう。気に入っているのは間違いない。
ティア、ティタ、レッチェ、レッシュ、エルマン、エステルは、疲れているのだろう。夕ご飯を食べたら、すぐに寝たいといい出した。
オリヴィエとリーリアが少しだけ注意していたが、身体がなれるまではしょうがないと思ったようだ。そのかわり、エリンとカイとウミの
かなりのハイペースで魔物を倒していたようだ。
カイには、倒した魔物は皆で吸収するように言ってある。
今日は、ライはリーリアに付き合っていたようだ。ステファナとレイニーの料理も美味しいのだが、いろいろ仕込んだリーリアの料理のほうが美味しく感じてしまう。
戦闘に関しては困る事態には”まだ”なっていない。
シロが前線に出たくてウズウズしていることを除けば誰かが傷ついたりする事もなく順調にこなしている。
「シロ」
「はい?」
「武器の手入れをするのはいいが、まずは今日の話をしよう」
「はい!」
なにかしていないと、手持ち無沙汰になってしまうのだろう。
その気持ちは解るが、眷属だけではなく、ステファナやレイニーがシロの行動を見ている。
武器の手入れは自分でやりたいと言っているので、シロにやらせているが本来なら自分たちがやりたいのだろう。それでなくても、俺もシロも自分の事は自分でやるので、従者と言ってもやることが少ないと・・・。苦情なのかよくわからない文句を言われた事は一度や二度ではない。
今日の反省点はなしでいいだろう。
明日も同じ様に、階層を踏破する勢いで行く事が決まった。
食事も終わったので、風呂のお湯がたまるまでは雑談の時間となる。
雑談の時間は、ボードゲームを出して遊ぶ事にしている。
人化していた眷属達も器用に駒を動かして遊んでいる。
リバーシーや将棋は、駒が咥えにくいらしく、チェスのほうが人気だ。3セット持ち込んでいるが、常に誰かが対戦している。
「カズトさん」
「おっ・・・。そうか・・・。これで、俺の勝ちが確定だな」
シロと、リバーシーを楽しむ。
戦績は、シロの名誉のために伏せておこう。別にシロが弱いわけではない・・・と思いたい。ステファナやレイニーには勝ち越しているらしい。接待を受けているわけではないと思いたい・・・とシロは主張している。シロとステファナやレイニーの対戦を見ていると、どうやら接待疑惑を持たれても不思議ではない打ち方をしている。補足になるが、ステファナは俺といい勝負をする。
「うむぅ・・・また負けた。なんで、カズトさんにだけ勝てないの?」
「そうだな。角を狙い過ぎているからな。それに、序盤で位置取りをもう少し考えたほうがいいぞ?」
「わかっているけど、カズトさんに抑えられちゃう」
「そりゃぁ悪かったな。まだまだ、シロには負けないよ」
「うむぅ・・・わかった。ステファナ!僕の相手して!」
「奥様。洗い物が終わってからでいいですか?」
親に遊んで欲しい子どもだな。
どっちが子どもなのかは言わないほうが幸せになれるのだろう。
「うん!」
シロはそう言って、リバーシーを持ってステファナの方に行った。洗い物の手伝いをするようだ。その後で、接待リバーシーを受けるのだろう。
「マスター。明日なのですが」
「オリヴィエに任せる。全体を見て、決めてくれ」
「かしこまりました。今日と同じ布陣では確認にもならないので、アズリとエーファとティアとティタに前線に出てもらいます。エルマンとエステルには、斥候として隊から離れた位置取りをしてもらいます」
「わかった。本人たちへの伝達を頼む」
「かしこまりました」
明日の基本構想が決まった。
方針は変わらないので、その中でどう動くのかを、オリヴィエに考えてもらっていた。
「旦那様。浴場の準備が出来ました」
「そうか、ありがとう。俺は先に入っているから、シロにすぐに来るように言ってくれ」
「かしこまりました。でも、奥様は・・・」
エーファの目線の先を見ると、シロがステファナとリバーシーをやっている。
近づいて盤面を見てみるが、シロが優位にすすめているようだ。ステファナが俺を見たので、頷いて浴場を指差すと、ステファナもわかったようでうなずいている。シロに勝たせて終わらせるようだ。
これなら、5分くらいで決着が付きそうだったので、俺は先に浴場にいく事にした。
身体を洗っていると、シロが浴場に入ってきた。
「カズトさん。ごめんなさい」
「ん?いいよ。シロ。身体洗ってやろうか?」
「え?いいのですか?」
「あぁ背中だけだぞ?」
「・・・はい。あっ僕も、カズトさんの背中洗っていいですよね?」
「頼むよ。そんなに戦っていなくても汗は出ているし、背中もかゆいからな」
「わかりました!念入りに洗いますね」
お互いの背中を流してから、湯船に入った。
「シロ。どうだ?」
「戦いですか?」
「あぁ」
「物足りません」
奥様は戦闘狂のようだ。
実際の所、戦っていない上に、戦いになったとしても瞬殺に近い状況なので、”物足りない”と感じるのは本音だろう。だけど、即答しなくてもいいと思うのだよな。
「そうか、まぁまだ60階層だしな」
「はい。これから楽しみにしています」
「そうだな」
下層に到達すれば総力戦になっていくかもしれない。
全裸で抱き合いながらする話でもない事は認識しつつも、戦い時のスキルの使い方やタイミングの話をし始めた。
シロは俺の腕に柔らかい出っ張りを押し付けながら話をしてくる。どうやら、恥ずかしさよりも、俺と話ができるこの時間が好きなようだ。
あまり風呂に浸かっていてものぼせてしまうし、後がつかえている。
そのまま温泉浴衣を着て、テントの中に用意されている布団に潜り込む。
眠くなるまで、話のつづきをする事になった。
探索は順調に行えている。
俺達は、一日で階層を踏破して下の階層に降りる前で休憩する様にしている。69階層までペースを変えないでたどり着く事ができた。
だいぶ余裕がある状態だが無理してもしょうがないだろうという事で、一日の終わりを下層に降りるための階段の近くで休む事にしている。どんなに時間があっても、その日の探索は終わりにした。
シロを除いた戦い足りない者は、セーフエリアの作成が終わってから近場で魔物の討伐を行う事は許可した。
最前線を支える役目は交代でおこなっている。
明日は70階層になる。
未知の領域だがこのメンバーならなんとかなるだろう。
70階層の奥には階層主がいることが想像できる。
まずは、手前までたどり着かなければならない。
今日の最前線は、シロとリーリアが担当している。
補助として、シロにはライが付いている。昨日の夜に行った反省会で、シロが戦っていないと感が鈍ると強弁した事もあり、シロが最前線で戦っている。見ている感じではまだ余裕がある。シロはスキルをまだ使用していない。そのことからも余裕があると判断できる。
そして夕ご飯をそろそろと思っていた時に、エステルからの連絡が入って、少し先に階層主の部屋があるらしい。
まずはセーフエリアが近くに無いのか確認して、なければペネムとティリノに作ってもらう必要がある。
今回もなかったのでセーフエリアを作ってもらって、野営の準備に入った。
食事をして、明日の確認を行う。
明日は、階層主へアタックする。
全員で行けるか、パーティー単位になるのかは不明だが、どちらの場合でも問題ないように対策を考えておく。
第一陣で、俺とシロとカイとウミとライとアズリが階層主の部屋にはいる。
他にも入られそうなら全員入ってきて戦闘に加わることになる。できれば、18名で戦いたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます