第百七十二話


「シロ。準備はいいか?」

「はい!」


 準備と関連各所への連絡が終わって、今日からダンジョンアタックを開始する。

 チアルダンジョンの最下層にいると思われるダンジョンマスターとダンジョンコアのチアルに会いに行く。


 まずは60階層から挑むことにしている。

 各々の戦い戦闘は問題になっていない。戦力という意味ではばらつきがあるが、パーティーとして考えれば問題はないと思える。しかし、パーティー単体での戦いに不安が有るために少し余裕を見ようという事になったのだ。


 チアルダンジョンは中階層以降に入るときに毎回思うのだが、ダンジョンコアなのか、ダンジョンマスターなのかわからないがいい性格をしているのだろう。

 50階層まではそうでも無いのだが、60階層を超えると周期はわからないが、ダンジョンのマップやステージが変異するのだ。前回来たときには、一回しか踏破しなかったので気が付かなかったのだが、今回は繰り返し踏破しているので、戸惑ってしまった。


 ダンジョン側も今回は本気モードなのだろう。ダンジョンフィールドと呼んでいるが、RPG風のダンジョンが展開されている。

 罠も即死系はないが配置がいやらしくなっている。解除するために、天井付近に配置されているスイッチを押さなければならない罠を見つけたときには、本気で呪いの言葉を口にしたくらいだ。


 通路は狭くはないが、3パーティーが展開するには狭い。

 そのために、戦闘を行うのは1パーティーのみになっている。順番で戦闘を行う事にしているのだが、入れ替えが面倒なのと、相性の問題も発生するので、索敵時点で相手が解れば、相手に合わせた構成で望むようにしている。

 基本は、アタッカー4名と補助が2名の構成で、パーティーをシャッフルしている状態だ。


 この方法だと、俺とシロが殆ど戦わない。常に二列目に陣取っている形になっている。

 カイに指示を出して、新人の眷属に戦わせるように言っているので、アズリとエーファが前線に出て指示を出す形になっている。


 練習してきた事が崩れてしまったので、現状を理解しつつ新しい戦い方の確認をおこなっている。


 踏破に数倍の時間をかけているのも、道や罠が変わってしまった事もあるが、戦いの確認をしているためだ。

 必要な事なので、実地になってしまったが確認しておく意義は大きい。


 休憩しようとしたときに、ティリノとペネムが役立ってくれた。

 ペネムの一時支配で部屋を安全圏にした上で、ティリノのダンジョン化をおこなってみた。見事に失敗だったが、ティリノも一時支配ならできそうだという事で、支配時間を伸ばす事ができそうな状況だ。

 ダンジョンフィールドなので、部屋になっている所にいた魔物を片付けてから、一時支配を行って休憩する事にした。戦いながらできる食事はしていたのだが、しっかりした食事がまだったので、セーフエリアを作って身体を休めることにした睡眠を取ることにした。


 このペースだと攻略まで3ヶ月以上掛かってしまうだろう。

 話し合いの結果、連携の確認は一度終わりにして”サクッ”と80階層まで進んでしまおうという事になった。


「旦那様。奥様。食事の用意ができました」

「ステファナ。ありがとう。皆も一緒に食べよう」

「はい。皆を呼んできます」

「頼む」


 ステファナが皆を呼び集めてくれる。

 エリンとカイとウミとライは、近くにいる魔物を掃討しに出ている。安全地帯になっているし、結界も展開しているので大丈夫なのだが、戦い足りないのと万が一結界が破られた時のことを考えて近くの魔物だけでも倒しておこうということらしい。


「マスター」

「ん?」


 オリヴィエは、アズリとエーファとで休める場所を作っていた。

 風呂の作成も行ってくれていた。


「お食事の前に湯浴みをなさいますか?」

「うーん。シロ。どうする?」

「え?僕?カズトさんに任せる」

「そうだな」


 ちらっと作られた浴場を見る。

 手慣れた物だ。しっかりした脱衣所が付いた浴場ができている。


「ステファナ。今日のご飯はなに?」

「はい。野菜スープに卵を入れた物とボア肉を炒めて味付けした物をパンに挟んだものです」

「そうか」


 温かい物は、温かいうちに食べておきたいな。


「オリヴィエ。風呂にはゆっくり入りたいから、先に食事にしよう」

「かしこまりました」

「シロもいいよな?」

「うん!」


 俺の決定で物事が動き出す。

 食事のための準備が行われる。ライが運んできた物で、必要になるだろうと置いていった物だ。


 準備が終わる頃には、ステファナがエリンとカイとウミとライを連れて戻ってきた。


 カイの報告では、近くに居た魔物の掃討できたようだ。


 皆揃ったので、ステファナが作ってくれた夕飯を食べる事にする。自重しないで作ったスキル道具が役立ってくれていてよかった。

 肉に関しては、現地調達が可能だが野菜類に関しては、このままダンジョンフィールドが続くといずれ枯渇するのは目に見えている。攻略速度を上げるか、消費を抑えるかしなければならないだろう。


 今日の反省点はそのくらいだろう。攻略速度も、今日は抑えていた部分があるので、抑えなくすれば速度はあげられるだろう。


 食事を終えて、今日はそのまま自由時間とした。

 エリンとカイとウミとアズリとエーファがもう一度近くを回ってくると言ったので許可をだした。寝る時間は確保するようにしっかりと言っておく、そうしないと寝ないで狩りをしていそうだからだ。


 俺とシロは今風呂のお湯が暖かくなるのを待っている。

 最初、オリヴィエがスキルを使うと言っていたのだが、せっかく作ったスキル道具があるので、スキル道具を使ってお湯をためる事にした。


 スキル水を使って、一定量の水を生み出す。水を出す部分に鉄を使って作ってスキル火で温めるようにした。

 スキル道具としては欠陥も多いが、自分たちだけで使うのなら問題ないだろと判断している。


「カズトさん。お湯が出るスキル道具は売らないのですか?」

「うーん。売ってもいいけど、風呂の文化がそれほど根付いていないからな。居住区と宿区にはすでに大浴場が有るし、自由区にも銭湯的な場所があるからな」

「そう言えばそうですね。気にしていませんでしたが、宿区のお風呂のお湯はどうしているのですか?」

「あぁあれは中央近くに大きな銭湯があるだろう。あそこからお湯を各宿にひいている」

「そうだったのですね」

「あぁ冷めないようにする仕組みが入っているから温かいお湯が出るだろう。あとは各宿で調整すればいいだけにしてある」

「フラビアとリカルダがすっかり風呂好きになって毎日入らないと気がすまないようなのですよ」

「ハハハ。確かに、風呂はチアル街だけの特権だからな」

「そうですね。カズトさんの近くだけの特権ですよね。フラビアとリカルダもだから遠出ができないと言っていました」

「そうなのか・・・そうだよな。こんな簡単に浴場を作る事はできないだろうからな」

「はい。ライ兄様が居ないと無理でしょう」


 そうだよな。

 ライの収納が”次元収納”に進化したので、制限がわからない状態になっている。

 それを良い事に、風呂だけじゃなくて、浴場一式を持ち歩くようにしている。


 パーツごとに分解して持ち運ぶので組み立ては必要だが、出先で風呂に入られるのは嬉しい。絶対に必要か?と聞かれたら違うと答えるしか無いが、無いよりは有ったほうが良い事には違いない。


「ご主人様。奥様。お湯が溜まってきました」

「ありがとう。シロ。どうする?別々に入るか?」

「カズトさん」


 シロが情けない顔をする。


「わかった。わかった。一緒に入ろう」

「はい!」


 脱衣所まで完備している。

 もちろん着替えまで用意されている。人数分だ。髪の毛を乾かすスキル道具もある。


 入る順番はもめなかった。正確には、揉める要素がなかった。


 俺とシロが最初に入って、カイとウミとライは、気分しだい。

 エリンはリーリアか、ステファナか、レイニーと入る事が多い。アズリは最初リッチだった事もあり身体を清める意味がわからないと言った雰囲気だったのだが、一度試しに入ってからは、必ず入るようになっている。エリンと同じで、リーリアか、ステファナか、レイニーと入る事が多い。

 エーファは、ティアとティタと入る。

 それ以外の眷属はお湯よりも水浴びのほうが良いとの事で、浴場で水浴びをしている。


 シロとは何度もそれこそ数え切れないほど風呂に入っているが、脱ぐ所を見たことはあまりない。

 全裸の状態を見られるのは恥ずかしいけど納得できるが、全裸になっていく過程を見られるのは恥ずかしいようだ。よくわからない理屈だったが、シロが恥ずかしいと言うので、俺が先に風呂に入って、あとからシロが入ってくるか、先にシロが入ってから俺が入る事にしている。

 今日は、俺が先に入るようだ。これは、シロの気分なのでシロにまかせている。


 防具を外して、服を脱いで下着も洗濯用のカゴに入れておく、ライがまとめて持って帰って、メイドドリュアスがまとめて洗う様にしている。今回は滞在が長くなるので、レイニーとステファナとリーリアが洗濯も担当する。最初、オリヴィエも参加していたのだが、レイニーとリーリアからシロの下着もあるので、男性であるオリヴィエは洗濯に参加しないように言って欲しいとお願いされた。

 シロは別に気にしないと言っていたのだが、レイニーとリーリアが強固に反対した。そのために、オリヴィエは洗濯から外された。

 洗濯と言っても、スキル道具が作ってあるので、それほど手間ではないようだ。

 洗うと脱水と乾燥がそれぞれ別々のスキル道具にしているので、順番を待っている必要がなく大量の洗濯物を処理できる。


 身体を軽く洗ってから湯船に浸かる。

 身体から疲れが抜け出ていくようだ。出そうになる声を抑えつつお湯に身体を委ねていると、シロが入ってきた。最初の頃は、タオルで隠していたが、今では隠さないで入ってくる。まだ少し恥ずかしそうにするのが余計に官能的に見えてしまう。

 シロも身体を洗ってから湯船に入ってくる。


 白い肌がお湯で暖められてピンク色に染まる。


 湯船は広く作ってある。

 俺とシロが横に並んで足を伸ばして肩までつかれるようになっている。ただ横に並ぶと肩がぶつかるくらいの幅になっている。当初の設計では余裕が有ったのだが、の指示で少し狭められて、腕を組むような格好でないと横には並べない。

 向き合って入ればそんな事は無いのだが、シロが絶対に横に来て腕を絡めてくる。身体を見せないようにしているとは本人の言葉だが、なんとなく違うような気がしているが、突っ込んではいない。


「カズトさん」

「ん?」

「チアルダンジョンの攻略が終わったら・・・」

「あぁ。シロ。一緒になろう」

「はい!」


 シロが胸を押し付けてくる。天然でこういうことをしているのがわかっている。わかっているが納得しているわけではない。


「そう言えば、フラビアとリカルダの結婚の話は聞いていないけど?なにか無いのか?」


 シロがなにか知っているのはわかっている。

 アトフィア教の聖騎士になったときと、遠征の時になにか有ったことも知っている。


「カズトさん。2人は、一生独身で過ごすと言っています」

「そうなのか?」


 まだなにか言っているのは間違いない?

 シロが隠しているのか?


「はい」

「それだけなのか?」

「・・・。いえ、2人は、僕のために、カズトさんに尽くすと・・・」


 雲行きが怪しくなってきた。


「俺に尽くす?」

「はい。あの・・・。怒らないでください」

「大丈夫だよシロ」


 シロの頭を軽く撫でる。

 手を握ってやる。


「2人は、僕がその上手く出来なかったときに、教えてくれる・・・。カズトさんと4人で・・・。その・・・。あの・・・」


 そういう事か・・・。

 あてがい女になる事も覚悟しているのだな。シロが遠慮したりしないように、シロが一緒に居ても大丈夫な様に、自分たちが相手をすると言ってくれているのだな。


「シロ。大丈夫だよ。安心しろ」

「え?だって、カズトさん・・・。あっ!?」


 思い出したようだ。


「この身体では経験は無いけど、知らないわけじゃないからな。それに、シロ以外を抱く気はない」


 断言しておく。そうしないと、面倒な事になりそうだ。


 嬉しそうにしやがって、可愛いな

「カズトさん。僕、僕、嬉しいけど、カズトさんはダメです。沢山の子どもが必要です。だから、僕、我慢します」


 シロのおでこを指で弾く


「シロ。何度も言わせるなよ。俺は、シロ以外はいらない」

「でも、僕、子どもが出来ないかも・・・。寿命が伸びたから・・・」


 そんなことを気にしていたのか?

 確かに、跡継の問題は出てくる可能性が有るだろうけど、そんな物はクソくらえだ。


「シロ。気にするな。って言っても無理だろうな。シロに子どもが出来なくても、そうしたら、養子を迎えればいいわけだし、もっと言えば、跡継なんて無くても大丈夫な様にすればいいだけだ」

「え?」

「考えても見ろよ。俺達はかなりの寿命になりそうだよな」

「はい」

「子どもが出来なかったとしても、俺とシロが健在なら跡継問題は出てこないよな?」

「そうですね」

「いつまでも俺達が表舞台に立っているわけには行かないから、跡継は必要だけど、俺達が生きている限りは、後継者は形だけになるだろう」

「はい」

「それなら、実子じゃなくても、養子でも問題ないだろう?」

「そうですね」


 それから見つめ合って笑ってしまった。

 なにが面白いのかわからないが笑い始めてしまった。


「あっ!そうだ!」

「ん?」

「2人から言われた事があった!」

「なんだ、まだあるのか?」

「はい。カズトさんと僕の子どもが出来たら、自分たちが鍛えるとか言っていました」

「そりゃぁ競争率が高そうだな」

「え?」

「多分同じ事を、オリヴィエやリーリアが言い出すだろうし、スーンも黙っていないだろう、同じ様にヨーンたちも言い出すかもしれないし、エリン・・・じゃなくて、竜族も言い出すだろうからな」

「そう言われれば、そうですね。竜族は間違いなく言い出しそうですね」

「だろう?俺としては、俺とシロで育てたいのだけどな」

「僕もです!」


「まずは子どもが出来ないとだけどな?」

「・・・。カズトさん。僕・・・いつでも大丈夫ですよ?」


 可愛く言ってもダメ。

 すぐに押し倒したくなってしまうけど、我慢しないとならない。チアルダンジョンの攻略までは待ってもらおう。


「シロ。チアルダンジョンの攻略が終わってからな」

「うん!」

「今はここまでだな」


 シロを抱きしめてキスをする。

 お湯が冷めてきたので、2人でお互いをもう一度洗ってから風呂を出た。

 着替えをして、浴場を出るとテントが作られていた。寝室代わりにする物だ。


 中に入って、2人で布団に入る。

 ダンジョンアタックしている最中だとは思えない快適な環境で眠る事ができる。


 まだまだ先は長いが、シロと眷属たちとならなんとかなりそうだと思えてくる。

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