第七十九話

/*** カズト・ツクモ Side ***/


「ツクモ殿」

「ゲラルト殿?」


 何やらすごい顔をしている。


「本当に、いいのか?」


 なんだ、鱗が本当に欲しいようだ。


「いいですよ?俺が持っていても価値は”綺麗な飾り物”以上にはならないが、ゲラルト殿たちが鍛えれば”素晴らしい剣”や”素晴らし盾”になるのだよな?それに、”優秀な職人”を雇える機会があるのならそちらを優先する。これ以上望むのは贅沢というものだ。それでも気がすまないのなら、俺が作って欲しいと思う道具を、ペネムで沢山作ってくれればいい。売れない物も出てくるとは思うけど、売れそうな物の大量生産とかもお願いすると思うからな」


 腕を組んで少し考えてから


「お!わかった。任せろ!生活を豊かにするための物ならいくらでも作ってやる!」


 嬉しい事を言ってくれる。


 武器や防具なんて、ダンジョンに入る時にしか使いみちがない位で丁度いい。あとは、壁に飾っるくらいでいい。それよりも、道具を沢山作って欲しい。今は、魔核にスキルカードを付与したりしているが、使いやすい形という物がある。それに魔核をセットして使えたら、便利になると思う。


 ゲラルト殿も、ペネムの街に居を移すことが決まった。職人にも長老衆がいるが、ゲラルト殿が筆頭なので、意見が通りやすいという事だ。それに、竜族の鱗の話もある。ドワーフ族は一族で移動する事になるだろうという事だ。そうなると、ほとんどの職人が移動する事になる。サラトガでは武器や防具を作っていた職人もいる。アンクラムには日用品を作っていた職人が居る。ミュルダには農機具を作っていたらしい。これらの職人をできるだけ連絡を付けて、ペネム街に移動する事になるそうだ。

 連絡のために、若い奴らを、サラトガとアンクラムに走らせて、集まってきた職人に説明してから、ペネム街に移動してくるので、商隊よりも遅れるという話だ。


 ゲラルト殿がヤルノに手紙を書くので、それを渡して欲しいと頼まれた。

 承諾して、ゲラルト殿と別れた。


 3名との難しくも前向きな話し合いは終わった。

 部屋に、カイとウミとエリンと一緒に戻る事にした。


 部屋に戻って、少しウトウトしていたタイミングでドアがノックされた。


 シュイス・ヒュンメルではないようだ。

 誰かが入れ知恵でもしたのか?自分で足を運ばないのは、俺を下に見たいという気持ちの現われか?


「ツクモ様。領主ヒュンメルがお会いしたいという事です」

「そうか、それで”ここで”待っていればいいのか?」

「いえ、領主ヒュンメルから、冒険者ギルドにご足労頂きたいと言っております」

「面倒だな。俺には話は無い。そういう事なら、帰らせてもらう。カイ。ウミ。ライ。エリン。帰るぞ!」


 思った以上につまらない人だったようだ。

 人数で押せばなんとかなるとでも思われたのだろうか?


 それとも、本当に”小僧”1人くらいなら痛めつければ言うことを聞くだろうとでも思われたのだろうか?


「貴殿には申し訳ないが、そういうわけでお引取り願いたい」

「少し待って下さい。それでは私の立場が・・・」

「知りませんよ。貴殿が、どんなやり取りをして、ここに来たのか知りませんし、私には一切関係ない事です。そもそも、昨日帰ると言うのを、伸ばして待っていたのに、場所を移動する?ふざけないでもらいたい。私がお願いしたわけではありませんよ。何か勘違いされているのでしょうから、はっきりいいます。私には話す事などありません。ミュルダの領主が、私に話があると言ってきたのです。滞在を伸ばした分の補填もしないで、冒険者ギルドに来て欲しい?それほど偉いのなら、勝手にすればいい。私も、私が望んだことを行います」


「・・・」

「早く出ていって下さい。飼い主に詫びでも入れたらどうですか?餓鬼1人連れてくる事ができませんでした・・・とね」

「パパ。この人なに?邪魔?」

「あぁ邪魔だな。着替えもできないからな」

「わかった!」


 エリンが、大の男を片手で持ち上げている。スキルを使っているのだろうけど、びっくりするだろう。

 近くの階段まで連れて行って、落としたようだ。怪我していなければいいけどな。飼い主が怪我の治療費を払ってくれる事を祈っておこう。


「エリン。着替えたら、ゆっくりと、悠然と、サイレントヒル側の出口から帰るぞ!」

「うん!」


 部屋を出ると、宿屋の主人が来ていた。


「お客様」

「あぁ申し訳ない。騒がせてしまった」

「それはかまいませんが、先程の男は領主ヒュンメルの執事です。裏から出ますか?シュナイダー様から、ツクモ様になにかあったら、協力するように言われています」

「そうでしたか・・・それでしたら、シュナイダー老に伝言をお願いしたいのですがよろしいですか?」

「はい。かまいません」


 冒険者ギルドと領主が愚行に出たかもしれない。

 それだけの伝言を頼んだ。


 裏口からではなく、表から帰る事にした。

 昼間の時間帯に大通りで襲ってくる勇気があるのかわからないが、俺が被害者ヅラできるかどうかに関わってくる。できるだけひと目がある場所を通るようにする。それでなくても、俺は目立つからな。街中で襲うような馬鹿だとは思いたくない。

 襲うのなら、街を出てから、サイレントヒルに入ってからであってほしい。


 矛盾するが、ひと目がなければ迎撃の難易度が下がるからな。カイとウミのどちらかが本気を出してもいいだろう。


『あるじ』

『ライか?どうした?後ろから見ている連中なら気がついているから大丈夫だぞ?』

『ううん。さっきの男だけど、領主の屋敷に向かったよ』

『そうか・・・わかった。その後は?』

『ん・・・と、慌てて出ていって、冒険者ギルドに向かったみたい』

『ありがとう。そのまま、魔蟲をつけておいてくれ』

『うん!』


 そりゃぁそうだよな。

 飼い主は、領主で良かったようだな。その後で、冒険者ギルドに走らせたって事は、襲撃があると考えて間違いないだろうな。残念だな。もういいか・・・ミュルダ老に、サラトガとアンクラムとミュルダ全部の面倒を見てもらおう。シュナイダー老も行政区に入る事になるから大丈夫だろう。

 商業区から、両方の街は距離的に同じくらいだという話だから、SA/PAの数も7個と6個だろう・・・全体で、SAが21個で、PAが18個、商業の中継する街が3つと、商業区と自由区と居住区があるだけで、あとはブルーフォレストとサイレントヒルとヒルマウンテンか・・・本家のサイレントヒルよりも広そうだな。


 あぁあと海があれば完璧だな。落ち着いたら、リヒャルトに聞いてみよう。


『主様』『カズ兄』

『あるじ!』

「パパ!」


 後方は20人くらいかな?前方を10人くらい。よくここまで集めたな。まだ、大通りでひと目もある。

 子供二人とフォレストキャット二体とスライム一体に対して過剰だとは思わなかったのだろうか?


 そもそもこいつら落とし所を考えているのか?

 俺を捕まえる事ができたとして、その後どうするつもりなのだろう?脅せば言うことを聞くとでも思っているのか?思っているからの行動だろうけど、俺を捕らえて、即座に隷属スキルでもかけない限り、反撃を食らうとは考えないのか?

 一時しのぎにしかならない事に命をBETできる事が羨ましい。


「まだ対応しなくていい。気がついていないフリをして歩いていよう」

「・・・うん。パパ。エリン。我慢できなくなりそうだよ」

『カズ兄。僕もだよ。カズ兄の悪口ばっかり言っている!殺していいよね?』

『エリンも、ウミも我慢してくれ。それから、殺さないで捕らえてくれ!全員だ』

『あるじ。魔蟲の配置終わったよ。何時でも、捕縛できるよ』

『わかった。1体で当たらせるなよ。必ず3体以上で対峙するようにしろよ』

『うん。そうしているよ』

『ありがとう。ライ』


 さて、どう出るのかな?

 後少しで門だけど、前方に居る奴らと接触するくらいの距離になってきた。愚策だけど、街の外に出ようとする時に難癖つけて、出さない様にして、街の人たちから遠ざけてから対処する・・・のだろうけど・・・。


 どうやら、俺の想像の範疇内の動きをしてくれるようだ。


 門の出口で並んでいると、俺たちの順番の直前で門番が変わった。

 どう見ても、冒険者風情の男たちだ。先程、俺たちをつけていた連中だろう。


「カズト・ツクモだな」

「違います。それでは!」


 失礼な連中には斜め上の対応をすれば大抵怒り出す。


「おい。待て!お前がカズト・ツクモだろう?わかっているのだぞ?」

「だから、違いますよ。人違いですね。”出る”時には、身分証の確認は必要ありませんよね?それとも、”力ずく”で俺がその”カズト・ツクモ”だと証明してみせるのですか?」

「この餓鬼ィィィ調子にのるなよ!?」

「はい。はい。私が悪かったですね。言葉がわからない人に難しい言葉を使ってもダメでしたね。ごめんなさい」


 こいつ何言っているって顔をされると、こっちが恥ずかしくなってしまう。

 時間をかければかけるほど、自分たちがまずい状況になるのが解っているのだろうか?


 領主やギルド長の権力でなんとかなると思っているのかね?


「おい!もういい。連れて行くぞ。腕の一本くらい折っても問題ないと言われているからな」


 後ろから来た奴らも俺たちの周りを囲んだことで、安心している様子だ。


「恥ずかしくないのかな?子供二人に大人が33人も寄ってたかっていじめて!」

「キャハハ。こいつ怖さで壊れたようだぜ、数も数えられなくなっているぞ!」


 馬鹿はこいつだ。

 前方に10名その後ろに1名。後方に20名で、領主様とギルド長で、33名だ。


「おいおい。あんまりいじめるなよ。かわいそうに・・・おい。お前たちを、領主のところにつれていけば、俺たちはたんまりスキルカードを貰える。早く行くぞ!」


 後ろからなにか人が理解できる言葉をしゃべるブタが手を伸ばしてきた。

 それも、エリンに向けてだ。


「カイ。ウミ。ライ。やれ!」


 カイとウミが一瞬だけ短く鳴いて了承の意思を伝えてきた。


 鳴き声と同時くらいに、魔蟲達が男たちの影から出て、蜘蛛が出した糸使って蜂と蟻が器用に男たちを拘束する。


 これで終わりだ。あっけない。ウミとカイは、腕の一本云々を言った奴の意識を刈り取っている。

 エリンは、自分に手を向けてきた奴を片手で締め上げている。


 さて、誰が1番この状況の説明ができるのだろうか?


「ツクモ様!」


 丁度いいタイミングで、シュナイダー老のところの執事が来た。

 宿屋の主人が動いてくれたのだろう。


「丁度良かった。コイツらの処分を頼みたい」

「かしこまりました。それから、主人が急ぎの用事がなければ、食事をご一緒したいとの事です」

「あぁ・・・そうだな。了解した。同じ宿屋で待っている」

「ありがとうございます。宿屋の同じ部屋を抑えてあります。主人が既に支払いを済ませております。勝手いたしまして申し訳ありません」

「わかった、ありがたく使わせてもらおう。あぁそうだ、少し離れたところで1人偉そうにしていた奴が居るけど、そっちは始末させてもらうぞ?」

「かしこまりました」


『ライ。頼む』

『わかった!』


 少し離れたところでワタワタしていた奴を魔蟲が捕まえる。


 雰囲気から、宿屋に来た奴だと思うけど、どうなのだろう?


 蟻に引きずられながら来た男は、やはり、宿屋に来た男だ。


「残念ですね。この様な形でまたお会いするとは思いませんでしたよ」

「おい。俺が何をした、離せ!今なら許してやる!」


 腹を軽く蹴る。


「なにか言ったか?許してやるとか聞こえたけど?」


 咳き込んでいる。

 そんなに強く蹴っていないだろう?このままでは話ができないな。


 水のスキルカードを取り出す。

 男の頭から水をかける。


「一度だけ聞く、よぉーく考えてから答えろよ。”お前に、俺たちを捕まえるように命令したのは誰だ?”」

「・・・・」


「ほぉ・・・言わないのだね。いいねぇしっかり考えろよ」

「知らない。俺は、何も知らない!」


「そうか、わかった、”何も知らない”のなら、役に立たないって事だな。それなら、殺しても問題ないな!」

「待て!」

「”待て”?勘違いしているようだから、あえて指摘するぞ。今、自由を奪われているのは”お前”だ。俺ではない。そして、お前を助けてくれそうなお友達はすべて拘束した」


 しょうがないな。


「最後のチャンスだ”お前に命令したのは誰だ?”」

「・・・プロイス・パウマンだ」


 ギルド長の名前をだすのか?

 アドリブなのか、本当の事なのか・・・それとも、最初から捕まることまで織り込まれているのか?


「それは、ギルド長と同じ名前だな。ギルド長で間違いないのだな?」

「あぁそうだ!俺に、お前たちを捕まえて来いと言ったのは、ギルド長のプロイス・パウマンだ」


 ほぉ・・・ギルド長だといい切った。


 それなら、ギルド長のところに行く事にするか。


「わかった。お前の飼い主はヒュンメルだと思っていたが、パウマンだったのだな。連れて行ってやるから感謝しろよ」

「なっ何をする!」

「あぁ?何をする?決っている、引きずって行く」


 カイとウミに、執事の男を拘束した状態で、引きずるように、冒険者ギルドに移動を開始する。


 かわいいフォレストキャットに引きずられている執事風の男。

 街中を冒険者ギルドまで移動しているのだが、目立つ。とてつもなく目立っている。


 引きずられている男もなにかわからない事を喚いている。余計に目立ってしまっている。


 冒険者ギルドに到着した。

 中は、外と違って静かな状況になっている。屯していた男たちが出払っているからなのだろう。


 さて、第二ラウンドを始めよう。


 受付に歩いていって

「ギルド長のパウマンに会いたい」


 敬っていないのだから敬称は必要ないだろう。


「貴方は?」

「カズト・ツクモが来たと伝えてくれればいい。それでわからなければ、俺を襲った奴ら30名はシュナイダー老に預けたと言ってくれ」


 受付の女性は、カイとウミが引きずっている男を確認してなにかを悟ったのだろう。


「かしこまりました」


 とだけ言って奥に入っていった。

 待つこと5分。


 帰ろうかなと思い始めた。

 先程の女性が駆け寄ってきた。何か、俺に手渡してから、奥に聞こえるように


「ツクモ様。ギルド長がお会いになるそうです。右の通路を通った先でお待ち下さい」


 少し大げさかと思われるくらいのボリュームで話してきた。

 俺に聞かせると言うよりも、奥に居るギルド長に従っていますという意思表示なのだろう。


 そして、渡された物には

『奥の部屋は、訓練場です。冒険者が貴方を捕まえるためにかまえています。部屋に入る前に、左に行けば逃げられます』

 と、書かれていた。


 親切心なのか、行動の根本理由はわからないが、逃したいと思っているのだろう。


 女性に会釈だけして、右の通路に入っていく。


『ライ。どうだ?』

『うーん。20人くらい?』

『主様。25名です』

『強そう?』

『イサークくらいかな?僕だけで倒せるよ』


 ライには、魔蟲を何時でも呼び出せる準備を頼む。

 カイには、25名以外で隠れている奴が居ないか確認してもらう事にする。

 ウミは少しストレスが溜まっているようなので、冒険者だと思われる奴らに少し遊んでもらう事にする。


「エリン。俺の後ろにいろ」

「えぇエリンも冒険者と遊びたい!」

「うーん。エリンには、トドメをお願いしたいからな。ダメか?」

「え?何をするの?」

「ウミが冒険者と遊んだら、最後はエリンの竜体で脅して欲しいけど、いいか?」

「うん!エリンが、パパのために冒険者を脅すね!」


 なにか違うが、可愛いので、頭をなでてやる。

 後ろから俺の服を握らせる事にする。


 ドアを開けて中に入る。


「おいおい。本当に子供だな。こいつが、本当に”えすえー”と”ぴーえー”の領主なのか?」


 はい。馬鹿が1人・・・。ウミが唸っている。手加減はさせているが、無事でいられることを祈ろう。


「真ん中まで歩いてこい。おい、フォレストビーナ種やアント種やスパイダー種を呼び出すなよ!呼び出したら、一斉にスキルが飛ぶからな」


 言われたとおり、中央まで歩くが、スキルと言っている段階でダメだろうな。

 引きずってきた奴は、受付の女性に預けた。蜘蛛達の糸が簡単に切れない事は既に実験済みだ。拘束している糸を切る必要があるができないだろう。逃げられても別に構わない。主犯格の1人が目の前に姿を現した。


 初めてだろうか・・・もしかしたら、一度会っているかもしれないけど、思い出せない。

 一度見れば印象に残るから、会っていないのだろう。


 冒険者ギルドの”長”だという事だから、細マッチョや、太マッチョを想像していたが、太い事には間違いないが、マッチョではなさそうだ。もしかしたら、服を脱いだらすごいのかもしれないが、見た感じは”そう”は思えない。

 髪の毛は短くしているわけではないのに少なそうだ。威厳を出すためなのか、ヒゲを生やしているが、汚く見えるだけだ。


「ツクモ様。おいでいただき感謝いたします。私が、冒険者ギルドのギルド長」「そんな事どうでもいい。それで何が目的なのだ?」


 自分が優位な立場だと本気で思っているようだ。

 ざぁっと鑑定したが、レベル4程度のスキルカードしか持っていない。ギルド長だけは、スキル隷属を2枚持っている。


「ぐっ・・・本当に、可愛くない餓鬼だ。お前には、俺の奴隷になってもらう。お前の後ろで震えている幼女もだ。安心しろ、幼女が好きだと言っている”お方”を知っている。その方に献上すれば、俺のミュルダでの地位も約束されたも同じだ!」


 ロ○コ○?

 え?もしかして、ミュルダの新領主の狙いって、エリンだったの?怖いな。


「あの方も、本来なら、クリスティーネ嬢を嫁にする筈だったのに」


 え?

 はぁ?


「安心しろ。お前は私が可愛がってやるからな。女なんて、穢らわしい存在よりも素晴らしい世界を教えてやる。まだ清らかな身体なのだろう?」


 え?

 ・・・・俺?


 この世界に来てから、初めての”身体貞操の危機”を感じる。

 クリスやリーリアに迫られた時でも感じなかった恐怖だ。彼女たちは、俺が拒否すればそれ以上やらない事はすぐにわかった。事実、拒否の意思を示せばそれ以上はやってこない。


 目の前に居る奴は違う。

 俺を性的対象として認識している。


 少し冷静になろう。結界は二重に張っている。エリンが大きく結界を張って、俺が自分とエリンの周りを覆うような結界と防壁と障壁を張っている。


 気持ちわるい。心に防壁って張れないのかな?


 舌なめずりしているよ。

 そう言えば、出禁にした冒険者がしでかした事って・・・・頭が思い出すのを拒否した。


『ライ。スーンが、冒険者を出禁にしたけど、理由は知っているか?』

『主様。理由は、商業区での暴力行為です』

『その暴力の理由は?』

『獣人族の子供を攫おうとした事です』


 単なる暴力問題は許した気がする。

 許さなかったのは、獣人族が偉そうにしているとか言っていた奴らや、無理矢理連れて行こうとした奴らだ。


 考え事をしている間にも、なにか喚いているが、人の言葉とは思えない。


「もう。面倒だ!私がこれだけ優しくしているのにつけあがりやがって!」

「はぁつけあがっている?違いますよ。オークに話しかけられて、何を言っているのか理解できなかっただけですよ」

「・・・・私はオークか?!」


 おっ!解ってくれた。嬉しいね。オーク相手でも意思疎通ができると嬉しいものだな。


「あっこれは失礼した。オークに失礼でしたね。謝罪しなければならないですね」


 オークがわなわな震えだした。


「トイレですか?オークにトイレと言ってもわからないですよね。申し訳ない」


「お前たち!ツクモを捕えろ。顔は傷つけるなよ!私の物だからな!」


 気持ち悪いな。本当に・・・。


 では、”さようなら”だな。


「ウミ。好きにしろ!」


 ウミが飛び出して、ギルド長を吹き飛ばす。かなり頭に来ていたようだ。


 さすがは、イサーク並の冒険者というところか。すぐに臨戦態勢に入り、スキルの詠唱を行っている。


 だか遅い!


 ウミがまず詠唱している奴らを攻撃する。殺すなという命令を守っているために、1~2発のスキルが発動したが、エリンの結界を破れない。剣を持った数名が突っ込んできたが、スキル詠唱した奴を攻撃していたウミが戻ってくる。

 後方に居た連中が弓矢で攻撃してくるが、結界で阻まれる。剣を持った男が、ウミに倒されている。ウミは、軽く体当たりをした程度だが、かなりの距離吹き飛ばされている。


 弓矢を持った奴も、俺に矢が届かない事を悟って、前に出ているウミに狙いを定めるが、動きについて行けない。

 そのまま翻弄されて、1人、1人と倒されていく。スキル詠唱を諦めたのかスキルカードの詠唱を諦めた奴が俺に突っ込んでくる。


 カイもライも動かない。


 本当に、ウミだけにやらせるようだ。

 弓を持った奴らが倒されて、残っているのは、5人だ。


「ライ。倒れているオークを拘束しろ。カイ。他に隠れているやつらを殲滅してこい」


 そんな命令を出す時には、残っていた5人も倒されていた。

 ウミが俺のところに帰ってきた。


「ライ。倒れている奴らを全員縛って1ヶ所に集めろ」


 仕上げに入ろう。


 スキル水を使う。

 ついでにスキル氷を使って水を冷やしてやる。次に、スキル炎で水を熱くしてからぶっかける。

 最後に、スキル風とスキル氷を併用して、冷風を拘束されている奴らに吹きかける。


「おい。起きろよ!」


「おおおおお、はははははななななせせせせせせ。おれれれれをををだれだととおもももっててている」


 歯が噛み合わないのか、かわいそうに震えてしまっている。

 温めてやろう。


「寒いようだな。温めてやろう」


 何も言わない。本当に、寒いようだ。


「エリン。コイツら寒いようだから、ブレスで周りを温めてやれ!そうだな。ギリギリの結界を作られるか?」

「うん!わかった!やってみる!」


 エリンが竜形態になる。

 知らされていなかったのか?そんなにびっくりする事か?


 結界を展開してから、ブレスを放つ。


 エリンもうまく調整できるようになってきたようだ。

 結界が壊れない程度の強さでブレスを放っている。ブレスが結界で阻まれるたびに安堵ともとれるオークの鳴き声が聞こえる。


 訓練場のドアが開けられた。

「ツクモ様!」

「おぉシュナイダー老!どうした?」


 ため息ともとれる声が聞こえた。


「ツクモ様。後は、儂らに任せてもらえないだろうか?」

「あぁいいぞ。そうだ、そこのプロイス・パウマンとシュイス・ヒュンメルは、去勢は必須だ。後は、殺すなりなんなり自由にしろ」

「はっ」

「あっそうだ。シュナイダー老。ミュルダや近隣の村で、幼い女児や男児が行方不明になったりした事は有るのか?」

「え?あっあります」

「この数ヶ月増えていないか?」

「・・・・増えております」

「そうか・・・こいつらの屋敷を調べろ、まだ間に合うかもしれない」

「はい!」


 シュナイダー老は、後ろに控えていた連中に命令を出している。

 生き残るのと、殺されているの・・・どっちがいいのだろう?俺にはわからない。わからないけど、生き残っていて欲しい。そうしたら、忘れるくらいに楽しい事を教えてやろう。記憶を司るスキルがあったはずだ。それでなんとかできるのなら、スキルカードを探そう。


「シュナイダー老。すまない。プロイス・パウマンとシュイス・ヒュンメルは殺さないでくれ、もし、子供の件で主犯だと認められたら、村々を回らせよう手足を縛って磔の状態にして・・・死ねないように、回復や治療を行おう」


 自己満足なのだろう

 他にやり方がわからない。シュナイダー老を見る。


「まずければ言ってくれ。俺を思っての助言なら聞く」

「いえ、ツクモ様。調査して手配いたします」

「あぁ頼む」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る