第四十三話

/*** カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ Side ***/


「ふぅ」


 イサークたちも疲れてきているのだろう。


「おい。飲み物となにか持ってきてくれ」


 扉の近くに立つメイドに頼むことにした。


「ちょっと待ったぁ!イサークいいよね?いいよね?」

「あっあぁ。すみません。領主様。そうですね。カップを、執事長とメイド長の物を入れて、2セット6人分と、大きめな皿を4つ持ってきて頂けませんか?フォークとナイフは大丈夫です」


 なにか有るのだろう。ここは、イサークたちに任せる事にしよう。


「頼む。イサークたちの言う通りにしてくれ」


 何故か、ナーシャがウキウキしている。

 イサークたちは諦めの表情を浮かべている。ナーシャが絡む事だから、ろくでもないことになっているのだろう。


 カップと皿が用意される。


「ねぇ。メイプルシロップは?」

「後だな」「あとで」「後じゃな」


 何やら、ナーシャが言ったが、3人が止める。

 ナーシャはそれにブツブツいいながら、自分が持っているポーチから、筒のような物を取り出す。入る大きさではない。

 儂は、執事長を見るが、うなずいている。あれも収納袋・・・収納ポーチというべきなのだろう。


 筒のような物には、飲み物が入っていたようだ。

 黒いな?あれが飲み物なのか?ナーシャは、次に、小瓶を取り出す。真っ白だが、砂糖?なのだろう。あんな綺麗な砂糖は見たことがない。小さいカップに白い液体・・・あれは、乳なのか?わからん。ナーシャが何をしているのかわからない。

 それから、皿に、パンだろうか?それにしては固く焼かれているようだもう一つの皿には、今度は違う柔らかそうなパンが置かれる。甘い匂いがこちらまで漂ってくる。最後に、なにかわからない。黄色と茶色の間くらいの色で、薄く切られた物と、同じ色だふぁ、なんと表現していいかわからないが、細長い棒のようになった物が置かれて、なにかをふりかけている。最後に、焼かれたパンが置かれる。軽く焼いただけのようだが大丈夫なのか?


「ナーシャ。それは?」

「塩だよ?」

「塩?そんなわけ無いだろう?それに、そんなに無駄に」

「ほら、なめてみてよ!」


 ナーシャがひとつまみ。分けてよこす。儂と執事とメイドが小指の先に付けて舐める。

 塩だ。こんな白い塩が取れるのか?どうやって?


「うん。どうする?”こうちゃ”にする?”りょくちゃ”にする?」

「そうだな。”りょくちゃ”の方がいいだろう」

「うん。スッキリするしね。後でいいよね?」

「あぁその方がいいな」


 どうやらこれで全部らしい。


「領主様。まずは、この黒い飲み物。ツクモ殿は、コーヒーと言っていましたが、そのまま一口飲んでみてください」


 言われるがまま口に含む。


「かなり・・・いや、そうでもないな。口の中に心地よい甘さが残るな」

「そうですね。料理を選びますが、朝とかに目をさますのには、ちょうどよろしいかと思います」


 執事もメイドも同じ考えのようだ。


「それでは、その白い物。あぁ砂糖ですが、これを中のスプーンで1杯。ナーシャは3杯入れますが、1杯入れてからかき混ぜて飲んでみてください」


 言われたようにやってみる。

 これが砂糖だというのにもびっくりするが、それを飲み物の中にいれるのか?


 かき混ぜてから、一口飲んで見る、味がここまで変わるものなのか?苦味が抑えられている。


「甘みが足りなければ、もう一杯入れてみてください。その後で、そのミルクを入れてかき混ぜて飲んでみてください」


 ミルク?乳のようだけど、違うのか?


「ここまで・・・」「すごい」

「これは、うまいな。甘さと苦味がちょうどよくなっておる。それだけではなく、このミルクが入るからなのか?まろやかになっている」


「良かったです。ナーシャ」

「うん!」


 ナーシャが、ポーチからなにか取り出す。

 1つは、黒い粉だ。多分、このコーヒーの原料だろ、豆はなんだ?黒くも無いし、白っぽい色をしている。そして、最後は、赤豆ではないか?熟して木から落ちる時でも対して甘くならないから、子供が口が寂しい時に咥える程度のものだろう?


「領主様。これはおわかりですよね?」

「あぁ赤豆だな」

「はい。ミュルダから少し行った所に自生して、子供のおやつにしかならない物。そういう認識ですよね?」

「あぁそうだ・・・まさか?!」

「そうです。その赤豆のたねの部分を乾燥させた物が、この白っぽい奴で、その白っぽい奴を”焙煎”した物をすりつぶして、できたのが、この黒い粉であるコーヒーの素です。あとは、お湯をかければ、コーヒーになります。次に」

「まだあるのか?」

「えぇナーシャ」

「うん!」


 今度は、ビートではないか?


「ビートだな」

「そうです。そして、これから砂糖を作りました」

「なぁぁにぃ!!え?お前、イサーク。今、”作りました”と言ったな」

「はい。いいました。その話はまた後でお願いします。ミルクに関しては、魔物由来なので、今は省略します」

「あぁいろいろ聞きたいが、今はいい。もしかして、ここに出されているものは・・・」


 そんな事が有るはずがない。

 有るはずがないが、そうであったらどんなに素晴らしいことか?


「はい。全部ではありませんが、この辺りで栽培したり、自生したりしている物です」

「!!!」

「順番に説明していきます。まず、この焼き固められた物ですが、クッキーと呼んでいました。1つ食べてみてください。思った以上に柔らかくて美味しいですよ。ナーシャ。お前は、さんざん食べただろう?」

「だってぇ・・」


 確かに、見た目ではもっと硬いかと思ったが、そんな事がなかった。


「ただ、残念な事に、このクッキーは、卵とバターを使うので、現状量産は難しいと思います。ただ、このクッキーは、小麦から作られています」

「!!!」

「次に、パンケーキと呼んでいますが、食べてみてください」


 !!!

 なんだこれは?

 残っていたコーヒーを飲むとまた格別だ。


「これも、すぐには無理ですが、小麦が原材料です。一個飛ばして、パンを1つ食べてみてください。あぁ大丈夫です。手でちぎれます」


 そう言われても、これは本当にパンなのか?

 焼けていないのではないか?食べても大丈夫なのか?


 手に取ると、指で抑えた所に、へこみが出来るくらいに柔らかい。イサークがいうように手でちぎれる。中は白い。ふわふわしている物を口にいれる。確かに、パンだが、パンではない。これは何だ!甘い。いくらでも食べられる。


「イサーク!」

「俺も、最初に食べた時には、びっくりしましたよ。でも、これ、塩と砂糖と小麦を粉にしたものと、少しなにか発酵した物を入れて焼いた物ですよ」

「なんだと?」

「最後は、ポテチとフライドポテトと呼んでいた食べ物です」


 ほぉこれは、なんだか、ほっとする味だな。

 止まらない。ナーシャが最後にふりかけていたのは、塩だったな。塩が振られる事で、旨さが違うのだろう。

 どんどん食べてしまう。イサークの言葉が正しければ、これも、この辺りで採れるものなのだろう。だが、知らない。執事もメイドも首をかしげているから心当たりが無いのだろう。


「次は、隠し玉というか・・・なんというか・・・ナーシャ」

「うん。メイプルシロップだね、クッキーも補充するね」

「ナーシャ。お前、クッキー全部食べたな!」「だってぇ・・・」


 ナーシャが小瓶をクッキーの近くに置いて、クッキーをまた取り出した。どれだけポーチに入れている。


「クッキーの味を確かめた後で、その小瓶の汁を少しだけ付けて食べてみてください。いいですか、少しですよ」


 イサークに言われた通り、少しだけつける。雨粒の倍くらいの大きさが。これくらいで味が代わるわけがない。

 口に放り込む。びっくりした。圧倒的な甘さ。目を見開いてしまったに違いない。


「イサーク!」

「わかっています。全部食べないで下さい。ナーシャの分が少なくなると怒るのですよ」


 執事もメイドもびっくりしている。

 儂も正直、わけがわからない。クッキーもそれなりに甘くてうまいが、メイプルシロップはそれを飛び越していく。


「イサーク。これもなのか?」

「はい・・・と、いうよりも、これが本命です」

「なに!」

「ナーシャ」

「はい!」


 ナーシャが、ミュルダの近くの森に生えている木の葉っぱを持ち出す。

 薪にするにはむかない木で何の取り柄もない。木の液がすごくて、魔蟲がよってきて困る木だ。地域によっては、伐採してしまっていると聞いている。ミュルダは、魔蟲がそれほどひどくないので、放置して、近づかないようにさせている。


 全部の種明かしをさせた。

 メイプルシロップにも驚いたが、悪魔の実が、あんなに美味い食べ物だったとは・・・同じように見えて、食べると死んでしまう事もあるから、領内では禁止令をだしていた。栽培もしていない。食べ方と調理方法が有ったとは・・・。

 それに、小麦だけではなく、大麦にもまだまだ可能性があるという事だな。


 ツクモ殿は、なぜ儂らにこんな大事な事を惜しげもなく教えてくれるのじゃ?それがわからん。


「イサーク。ツクモ殿は?」

「そう思いますよね?俺も聞きましたよ。そうしたら、スーン殿が・・・あぁツクモ殿につかえている執事ですがね。彼が答えてくれましたよ。ミュルダが穀倉地帯で、アンクラムやサラトガに商品が売れないのなら、居住区・・・獣人族が固まっている場所ですがね。居住区で買い取る事も出来る。獣人族からは、スキルカードや魔物の素材や肉を出せると思う。と、いう事なんですよ。俺としては、いいと思うのですけどね?」


 考えなければならない。

 そもそも、”なぜ”が解消されないと、話に乗れない。ツクモ殿に会って話を聞きたいが、これだけの事が出来る御仁だ。呼びつけるわけにはいかないだろう。


「ナーシャ。そう言えば、さっき、念話が来たとか言ってなかったか?」

「あっうん。中継されて来た話だけどね。見つかったって話だよ?」

「見つかった?」

「うん。あれだよあれ!」

「え?あれか?」


 どうした?

 ナーシャがなにやら見つかったと話している。あの喜びようでは、なにか重大なものなのだろう


「え?見つかったの?」


 ピムが驚くような事なのか?


「ナーシャよ。それで、こちらに来られるのか?」

「うーん。ヒルマウンテンに行ってかららしいけど、早ければ5日程度だって言っているけど、10日程度見てくれってさ。それから、リーリアちゃんが、無事潜入できて、後始末が終わって、ログハウスに戻るつもりだったけど、ツクモくんがヒルマウンテンに行っちゃったから、こっちで合流するから、取り計らってほしいそうだよ?」


 ツクモ


 しかし、そんな事を気にする雰囲気ではない。

 イサークがこちらを見る。


「領主様。お聞きして、想像していただけると思いますが、カズト・ツクモ殿が、ミュルダに来るそうです。最大級の土産を持って・・・」

「今までの物でも十分すぎると思うが?」

「いや、今までの物は、ミュルダの街を、領民のためのものでしょう。カズト・ツクモ殿が探していたのは、領主様カスパル=アラリコ・ミュルダ・メーリヒ様への土産です」

「それを今聞いて問題ないのか?」

「えぇいいよな?ナーシャ」


「うん。待ちきれなくなるかも知れないけど、教えておいて欲しいと言われたよ。それでもダメなら、それも考えておくって!」


「領主様。俺たちは、ツクモ殿に聞かれました、領主様が”借り”だと感じる最大の物は何だとね。皆で声を揃えて答えました」


 まさか、そんな事が?


「レベル7回復」

「っつ!」

「ナーシャ間違いないよな?」

「うん。ツクモくんが、レベル7回復を持って、ミュルダに来てくれるって、それに、リーリアちゃんは、治療のスキルがあるから、先行できたら、治療だけでも受けさせておいて欲しいって言っているよ」


 おぉぉぉ神よ!

 こんな事が有っていいのか?


 まだだ、まだ、レベル7回復を使ってくれるとは限らない。

 儂は、儂は、なんとしてでも・・レベル8偽装と交換でもいい。儂に、跪けといわれるのなら、それでも構わない。なんとしてでも・・・。あの娘の為なら・・・。

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