第三十四話

 レベル7回復


 イサーク殿の話では、領主の孫娘が、産まれた時から身体が弱くて、咳が止まらない症状だと言っている。

 喘息?だとは思うが・・・違うのかな?


 咳を抑えるために、スキル治療を定期的に行っているが、治療を施した時には、症状は軽くなるのだが、数ヶ月もしたら、また咳が止まらない状況になってしまう。


 それで、領主は、”レベル7回復”を求めているのか。


「レベル7回復かぁ確かに貴重なスキルだけどな・・・どうした?ナーシャ殿?」

「あっツクモ殿。気にしないでくだされ、ナーシャの兄が、レベル7回復を探しに、サラトガのダンジョンに潜ってから行方不明になっているのじゃ」

「そうなのですか?」


「ツクモ殿。兄を知りませんか?」

「申し訳ない。ナーシャ殿の兄上様を、私は知りません。白狼族なら、居住区に居ますが・・・多分、違いますよね?」

「えぇ兄も、白狼族には間違いありませんが、領主の次男様と一緒に行動しているはずです」

「そうおなのですか?なにか特徴のような物はありませんか?ブルーフォレストの中にいらっしゃるのならわかると思います」

「特徴と・・・それに、サラトガのダンジョンを出てから行方不明になったと言われていまして・・・」


 なんとも頼りない話だな。


「最低でも、お名前がわからないと、それにできましたら、装備品が解れば」


「「「「速駆の指輪!!!」」」」


「速駆の指輪?」

「はい、兄アントンと一緒にミュルダから出た、カスパル様が、領主が持っていた、速駆の指輪を持ち出して、ダンジョンに向かったのです」

「そうなのですか?速駆の指輪を見れば、わかるのですか?」

「もちろんです。特徴的な指輪です」

「ちなみに、ミュルダの街から出てから、どのくらいになりますか?行方不明になってからでもいいのですが?」

「・・・約2年になります。3年近いかも知れません」

「そうですか・・・」


 うーん。どうしよう?

 心当たりがものすごく有る。隠していてもしょうがないからな。


「確認です。ナーシャ殿は、白狼族で間違いないですよね?」

「はい」

「居住区に来ている、白狼族との関係は?」

「・・・」

「そうですか、会いたくない関係なのですか?」

「いえ・・」

「ツクモ殿。ちなみに、白狼族の族長を伺っても?」

「かまいませんよ、ヨーン=エーリックと名乗っています」

「そうですか?ナーシャ!」


 イサークが、ナーシャの肩に手を置く。多分、なにか理由が有るのだろう。


「少し、お待ち下さい。スーン!」

「はい。一緒に、カイ様にも確認していただきたいのですが?」

「カイ。大丈夫か?ライの方がわかるか?」

『主様。僕が行きます。ステータスカードと、指輪を持ってくればいいよね?』

「あぁ頼む」


 スーンとカイが部屋から出ていった。


「申し訳ない。少し見ていただきない物があります。今、スーンが取りに行っているので、少し時間をください。それで、1つお聞きしたいのですが?」

「何でしょうか?」

「今までのお話を聞いていると、ミュルダの領主は、獣人族に寛大なような気がします。もしかして?」

「はい。ミュルダの領主は、白狼族です。私の伯父になります」


 やはり・・・。そうなるよな。冒険者をやっているから気が付かないが、お嬢様って事になるのだよな。

 白狼族でも、喘息になるのか?まぁなるのだろうな。


「咳が止まらない孫娘は、何歳なのですか?」

「えぇーと。今年で12歳だっけ?イサーク?」

「11歳だと思いますが、正しくはわかりません。でも、どうしてですか?」

「治療のスキルが効くという事ですが、病気を根本治療する事はできないのですか?」

「え?」

「ん?医者などは居ないのですか?」

「アトフィア教には、治療を固有スキルで持つ者が居ますが、獣人族に治療をしてくれません」


 あぁそうか、スキルがあるので、医療が発達していないのだな。


「今は、どうされているのですか?咳が出ていたりしたら、普段の生活にも支障が出ますよね?」

「一度だけ、レベル6を5枚と引き換えに、アトフィア教から派遣された者が言うには、喉が悪いのだろうという事で、部屋を湿らせて、喉を守れば良くなると言われて、レベル2の水を使って、部屋を湿らせているのですが、良くならないのです」


 喘息だって決まったわけではないが、それで良くならないとなると、逆効果だろうな。

 乾燥は良くないけど、湿らせすぎて、カビや菌が繁殖してしまっていたら、肺がやられてしまっているかも知れないな。


『ライ!』

『ん?』

『たしか、レベル7回復は合ったよな?』

『あるよ!持ってくる?』

『まだいい。ただ確認だけだからな。1枚?』

『うーん。どうだろう。カイ兄なら知っていると思う』

『わかった、カイが帰ってきたら、確認する』

『うん!』


 一枚だけかぁ

 レベル7となると、今の階層よりも、もう少し下の階層にならないと常時出てくるわけではなさそうだな。誰かに、固定して、それを使うようにすればいいかな?俺は別にして、カイやウミやライの空きを気にしなくて良くなったのは、良かったな。スキルを固定化した魔核を飲み込ませればいいだけだからな。でも、レベル7の魔核は確かまだ少ないよな?そうなると、空いている場所に割り当てる必要がありそうだな。


 スーンが戻ってきた。


『カイ。レベル7回復は、一枚だけか?』

『一枚だけです』

『そうか、ありがとう』


 スーンが持ってきた、ステータスカードと指輪を俺に渡してきた。受け取って、間違いないことを確認してから、ナーシャの前に置いた。


「!!」


 どうやら、間違い無いようだ。


「なに!」

「どうされた?」


 ガーラント殿が、ステータスカードを食い入るように確認している。


「ツクモ殿。このステータスカードはどうされた?」


「それは、私がここにたどり着いたときに、近くに、ゴブリンとコボルトが集落を作っていて、そこを潰した時に彼らが集めていた武器や防具と一緒に置かれていたものです」

「なっ・・・それなら、うーむ」


 なにやら、ガーラント殿が考え始めてしまった。


「どうした。ガーラント?」


 ナーシャ殿は、一枚のステータスカードを見て、涙を流している。お兄さんのカードなのだろう。


「あぁすまん。いや、ツクモ殿。申し訳ない。このステータスカードの、ザイデルという者は、アトフィア教の者でな、獣人狩りを専門にやっていたものじゃ」

「ガーラント。ザイデルは、あのザイデルか?」

「そうだ。儂も、公表されているステータスしか覚えていないが、間違いないだろう」

「そうなると、裏切り者のザイデルが、カスパル様とアントンを殺して、指輪を奪おうとしたのだろう。あの卑怯者ならそのくらいやるだろう」

「あぁ儂も、イサークの考えに賛成だ」

「あ!ザイデルってどっかで聞いたと思ったら、前副長のザイデル?白狼族なのに、獣人族を殺しまくって、アトフィア教の獣人狩り隊に入隊した裏切り者!」


 説明担当は、ガーラント殿とピム殿みたいだな。

 これで事情が解ってくる。ザイデルが、ナーシャの兄や領主の息子を、何らかの方法で殺害して、指輪を奪った。ハンティングトロフィーのつもりだろうか、ステータスカード持って、帰る所を、ゴブリンかコボルトに襲われた。ゴブリンかコボルトたちは、死体を戦利品として持ち帰ったって所だろうか?


 もしかしたら、盗賊に襲わせて・・・とかも考えられるけど、状況的に、どっちでも構わないだろうな。


「ツクモ君」「ナーシャ!」

「あっツクモさま」


「あぁいいですよ。呼び名なんて気にしません。言いやすいように呼んでください」

「いや、ツクモさ、ま」


 あぁそういう事ね。


「カイ。ウミ。ライ。スーン」


 殺気がダダ漏れしていたのですね。


「うん。ツクモ様。この・・・兄のステータスカードと、指輪・・・」

「いいですよ。私が持っているよりも、ナーシャさんが持っている方が、いいようですからね」

「ありがとうございます!」


 ぴょこんと頭を下げる。

 それを見て、イサークが深々と頭を下げる。


「そうですか・・・カスパル殿のステータスカードも届けないとですね」

「あぁそう・そうですね」


 4人が憔悴しているのがわかる。

 一旦休憩をはさもうか?スーンを見ると、スーンがドリュアスに目配せをして、数名奥に入っていくのが見えた


 数分の沈黙。


 ドリュアスが戻ってきて、皆の前に、カップと温かい紅茶を出した。

 砂糖と蜂蜜とミルクと付け合せのクッキーを置いた。


「どうぞ」


 ガーラント殿と、ピム殿は、そのまま紅茶を口に含んだ。

 イサーク殿は、砂糖を少しだけ入れて、ミルクをたっぷりと入れるようだ。ナーシャ殿は、それでは紅茶の味がしないよね?と思うような感じになっていたが、飲んでから幸せそうな顔をしている。


 少しは落ち着けたようだ。


 俺が届けに行って、領主と交渉できれば一番いいのだろうけどな。

 ちらっと、カイを見る。ダメだろうな。ヒルマウンテンの竜族云々の話がうまく行けば、大丈夫か?大切に思ってくれるのは嬉しいけど、過保護じゃないのか?


 まぁいい。今は、ミュルダのことだな。


「ナーシャさん。いや、イサーク殿。どうですか?」

「どうとは?」

「仮に、私が、レベル7回復相当の物を用意できるとしてです。領主殿は、私の提案に乗ってくれると思いますか?」

「”借り”に思ってくれるのは間違いないと思います」

「そうですか?孫娘ということですが、症状は咳が続くだけですか?それに、白狼族の孫娘という事は、白狼族なのですか?」

「はい。咳が続く事と、身体がだるくなったり、微熱が続くと聞いています。あと、夫人が人族でして」

「あぁそうなのですね。喉が痛いとかは無いのですね。そうですか、それじゃ人族で、あぁそうなのですね。だから、アトフィア教が見に来たのですね」

「あっ痛みは、すみません。わかりません」

「うん。クリスティーネちゃん。クリスちゃんは、人族です」


 どうしたらいいのか、カイたちと相談だな。

 ミュルダの状況を改善させる事と、居住区の独立・・・両方共できそうなんだけどな。


 政治的な考えは、領主に聞いたほうがいいだろうな。アトフィア教がどう動くのか、獣人族やイサーク殿たちでは、判断できそうにないし、状況を考えても、一番やっかいな存在になりそうだからな。


 人族主義なだけなら良かったのだけど、獣人族を排除するために、獣人族の裏切り者を使う発想を持っているのは、厄介なことだ。


「イサーク殿。事情は理解しました。少しお時間を頂きたいがよろしいですか?」

「あぁ俺たちも少し整理したい」

「あっそうだ。もし、武器や防具が必要なら、フィリーネに言ってください。盗賊たちが使っていた物や、獣人族を襲っていた者たちから取り上げた物があります。それに、白狼族をはじめ、獣人族がダンジョンに入り始める頃です。すぐにミュルダにたたれる必要がなければ、どうでしょうか?」

「え?よろしいのですか?」

「えぇ問題ありません。スキルが少ないようでしたら補充もできると思います。食料や素材の補充も行ってください。お渡しする事もできますが、ご自分たちで、確保したほうがよろしければ、ダンジョンを使ってください」

「そうさせていもらいます」

「わかりました、フィリーネに、案内させます」


 今日は、ここで解散となった。

 少し、落ち込んで見える、ナーシャのために、帰り際に、フィリーネに向けて、パンケーキを差し入れするように指示を出した。


 ナーシャは喜んで帰っていった、イサークが、俺に一礼して部屋から出ていったんが印象的だ。

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