第二十九話

/*** フィリーネ Side ***/


 私は、フィリーネ。大主様に仕える、ドリュアスの1人です。

 ドリュアスの中で、名前持ちは、私と、もう1人だけなのです!


 私たちは、ライ様の眷属である、スーン様の配下となるが、ライ様とスーン様から、大主様直轄になることを許されている。

 他の眷属も同じ扱いだ。その中で、名前持ちは、魔蟲がそれぞれ6匹。最初に進化した者だと教えられた。エントも同じく、スーン様配下で5体が名前持ちになっている。ドリュアスは、スーン様からのご命令で、ヒト型になって、大主様のお世話をするメイドとなった。


 そのために、名前が頂けなかった。


 ドリュアスで、名前をもらったのは、私が最初となる。

 しかし、役目は、大主様のお世話をする班から外されて、冒険者の世話係に任命された。その役目を仰せつかったときに、フィリーネという名前を大主様から頂いた。

 それから、カイ様から、進化のために、魔物を吸収しろと言われて、冒険者たちが、待機場所に入る前に、魔物形態に戻って、カイ様が持ってこられた、魔物を吸収した。魔核も、そのまま吸収して良いと言われた。大主様にお渡ししなくて良いのかとお尋ねしたら、こんな程度の低い魔核なら吸収してしまって問題ないと言われた。


 私から見ても、かなりの品質だと思うが、カイ様からは、大主様のために、進化する方が大切だと言われて、吸収する事にした。


 それから、カイ様が、大主様にお願いして、スキルを固定化した魔核をいくつか持ってきてくださった。

 それらの魔核を吸収して、スキルを覚えさせていただく事になった。


 私に付与したスキルは

// レベル4 清掃

// レベル5 念話

// レベル5 治療

// レベル5 収納

 の、4つのスキルが固定化された。メイドとして必要なスキルを優先してもらった結果だ。

 進化ができて、スキルが4つまで付けられると教えられて、選んだ物だ。


// 種族名:フォレスト・クリーン・ホワイト・ドリュアス


 これが、私の種族名だ。イリーガルには届かなかったが、フォレストの称号や、クリーン/ホワイトの属性には満足している。

 進化した事で、配下を付けてくださった。これで、大主様に恥をかかせないで、客人をもてなす事にしよう。


 大主様から言われた事を忘れないようにして、配下を導いていかなければならない。


 私は、フィリーネ。

 大主様に仕える。ドリュアスの1人。


/*** イサーク Side ***/


 ふぅ風呂から出て、すぐの場所に、冷えた飲み物が用意されていた。

 俺たちの世話と言うか、用事を聞いてくれるのが、フィリーネさんだ。メイド服を着ているが、ドリュアスだと言われた。言われなければ気が付かない。シスターズと呼ばれる配下の者も居るようで、俺たちの世話をしてくれている。


 カズト・ツクモ殿との面談は、明日になった。

 スーン殿が来られて、詫びられてしまった。なんでも、別件の用事が思った以上に大きな事になってしまったらしい。この待機場所で待っていてほしいと言われた。


 問題は一切ない。謝罪されるような事でもない。ナーシャは、ここに住みたいとまでいい出した。

 最終的にどうするのかは、ツクモ殿と話をしてからだが、やはり、ミュルダに一度帰るべきだとは思っている。

 この冷やした、ピチの汁が飲めなくなるのは、少しさびしいのだが・・・。ナーシャは、また来ればいいと言ってるが、ここに居ると忘れてしまいそうになるが、ここが、ブルーフォレストの奥地だという事だ。ミュルダからだと、サイレントヒルを超えて、ブルーフォレストに入って、直線でも150キロ以上離れた場所なのだ。その間、魔物も居る。目標があるので、道に迷うことはなさそうだが、距離の問題はどうしてもある。


「イサーク!」


 風呂の後で、食堂で集まる事にしていた。

 フィリーネさんが、食事を振る舞ってくれると言われていた。


「おぉ悪い。ナーシャは、風呂はいいのか?」

「入ってきたよ。服も新しい物にしてもらった!ピチの汁も美味しかった!」


 待機場所と呼ばれている場所で、”粗末な作りで申し訳ない”と言われたが、ミュルダやサラトガの高級宿屋と比べても、俺は、こっちの泊まりたいと思う。10倍のスキルカードを要求されても、俺は”待機場所”を選ぶだろう。


「イサーク。それで、なんじゃ?」

「いや、フィリーネさんが、食事を作ったので、意見が欲しいと言われたのでな。俺は、料理は・・・」


 そう言って、隣に座る。ナーシャを見る。


「そうじゃな。お主たちの料理は、”切って焼く、焦げた所を切り落として、食べられそうな部分を食べる”しか無いからな」

「ひどぉーい。塩があれば、塩もかけるよ!」

「そのかけた塩の部分が焦げて、切り落としていたら、塩の意味も無い!それに、塩が多くて、しょっぱくなってしまっている。お主のは、料理ではない!」

「そそ、イサークとナーシャは、料理をしていないからね」


 前は、それが普通だと思っていたし、それ以外の方法を知らなかった。

 スープにしたりするのは知っていたが、肉の使い方なんて、切って焼くか、切ってスープに入れる。それだけで十分だった。偉そうに言っている、ピムもガーラントも似たような物だ。ドリュアスたちと移動してみて、”料理”を知ったと言っても過言ではない。

 高級宿屋の料理と比べても美味しかった。美味しい以外の言葉が無い。同じ肉なのに、こんなにも違うのだと、料理の意義を思い知った。


「そうか!そりゃ嬉しいな」

「あぁ俺たちのような者の口にあうのかを教えて欲しいと言われた」


「皆さんおそろいのようですので、始めさせていただきます」


 フィリーネ殿が、食堂に入ってきた。

 後ろに、同じような格好をした、ドリュアスなのだろう、何かを持っている。順番に俺たちの前に置いていく


「これは?」

「”ターラントフィッシュのマリネ”でございます」


 聞いた事がない料理だ。マリネ?薄く切られたターラントフィッシュの身を、軽く焼いてあるのか?

 それに、なにかわからないが、汁を付けたものなのか?下に敷いてある物はなんだ?野菜か?


「ふむぅ少し酸っぱい感じがするが、複雑な味でうまいな」


 ガーラントの評価だが、俺も同じ考えだ。

 ターラントフィッシュは、よく食べるが、少し泥臭くなりやすいが、これはそんな事がない。どうしたら、ここまで美味しくなるのか?レモネの汁をかけているのだろう。それだけではないような気がするが、わからない。

 二口程度で終わってしまった。量を作ることができないのだろうか?


 次の料理が運ばれてきた。

 今度は、スープのようだ。


「これは?」

「はい。”ベーコンのスープ”でございます。ブルーボアの肉を、燻製にいたしまして、クックの骨や野菜を煮込んで作ったスープに入れた物です。スプーンを用意しましたので、それをお使いになってください」

「はぁ?」


 何を言っているのかわからないが、目の前に置かれたスープからは、今まで嗅いだことがない匂いがしている。

 スープの横に、スプーンが置かれていて、それを使って”ベーコン”を掬って口の中に入れる。


「美味しィィィ!なにこれ?お肉?ボアってくさいよね?本当に、ブルーボアなの?」


 ナーシャが叫んでいるが、同じ事を俺も思った。

 ブルーボアの肉は何度も食べている。燻製というのがわからないが、干し肉に似ているが、臭さは一切感じられない。それだけではなく、黄金色というのだろうか、透明なスープにも、しっかり味が付いている。”ベーコン”がなくても、スープだけでもしっかりと味が付いていて、美味しい。

 一気に、飲み終えてしまった。

 これも、量が少ないのは、作るのが難しいからなのだろうか?


 そう思っていると、いつの間にか、次の料理が置かれている。

 今度は、茶色い物にとろみがある透明なソースが掛かっている。


「同じ、”ターラントフィッシュ”のフライになります」

「フライ?」

「はい。”ターラントフィッシュ”を切り身にして、衣を付けて、油の中で火を通した物です。そのまま、食べてください」

「うむ」


 見た目と違って、柔らかい。


「そう言えば”ターラントフィッシュ”は、骨が合ったと思うのだが?」

「ご安心ください。骨に関しては、切り身にしたときに、抜いております」

「そうか」


「!!」


 ピムが、身体を震わせて、一気に食べている。


「イサーク!イサーク!食べないの?僕がもらうよ!」


 ピムが、俺の皿に手を伸ばしそうになっている。

 ”ターラントフィッシュ”と言っていたが、どうなっているのかわからない。フォークで、茶色い物の真ん中を切ってみる。

 中から、”ターラントフィッシュ”が出てきた。そのままと言っていたので、茶色いものと一緒に、口に入れる。


 なんだこれは?

 びっくりした。周りの茶色いものは、汁で少し湿っているが、しっかりした歯ごたえがある。汁も透明な物だから、味がしないかと思ったら、先程のスープの様にしっかり味がする。その上で、茶色い物がアクセントとなって、中の”ターラントフィッシュ”を引き立てている。白い身にも味が付いていて、口の中で”ほろほろ”と崩れる身がすごく美味しい。ピムが、俺の物まで手を伸ばしたのがよく分かる。

 一気に食べてしまった。食べ終わって、皿を見つめてしまった。


 皆が呆然としている姿が目に入ってくる。

 ドリュアスは、すぐに次の料理を持ってきた。


 今度は、小さな器に、少しだけ盛られている。

「氷菓子でございます」


 これは見た目でわかった、ピチの身なのだろう。今、”氷菓子”と言ったか?凍らせてあるのか?


 フォークではなく、スプーンで食べるようだ。

 スプーンを、氷菓子に差し込む。確かに、凍らせてあるようだ。少し掬って、口に入れる。


 冷たい!

 ピチじゃない。いや、ピチだ。でも、ピチを凍らせた物じゃない。


「これは?」

「ピチの汁を、砂糖と蜂蜜で煮詰めまして、その後で、アプルの身を細かく切った物を入れて、凍らせた物です」


 あぁそれで、ピチの味がするのだな。

 甘みもするが、凍らせてあるので、それがクドくないのだろう。アプルの身が入っているので、アクセントになっている。


 ナーシャが夢中で食べている。

 食べ終わって、呆然としている。俺やピムやガーラントの器を見て、無くなっているのを確認して絶望のオーラを発している。


 次の皿が運ばれてくる。

 さすがに、俺も解ってきた、これは、少しずつの料理を順番に食べさせる形式なのだ。


「これが最後の料理になります。この料理の後で、デザートをお持ちいたします」


 俺の前に置かれた皿には、肉になにか掛かった物が置かれた。皿の中には、他にも野菜だろうか、野菜は焼かれているようだ。


 肉料理なら、俺たちにも馴染みがある。

 しかし、目の前に置かれている肉はどうして焼いていないのだ?生で食べるのか?


「レッド・サラマンダーの肉を、まるごと回転させながら焼きまして、表面の焦げ目を切り落として、可食部分を取り出しました物でございます。そのまま、デミグラスソースを付けてお召し上がりください」


 今、サラッといったが、レッド・サラマンダーとか言っていなかったか?

 ピムもガーラントも固まっている。ガーラントを見る。目が合った、うなずかれてしまった。鑑定したのだろう。


 本当に、焼けているのか?

 ナイフを肉に入れてみる。生なら血が出てくるが、そうなっていない。焼いたときに出る、肉の汁が滴るだけだ。どうやったら、こんな事ができるのか教えて欲しいが、焼けているのは間違いないようだ。

 ナーシャも、ピムも、ガーラントも、俺を見ている。正確には、俺の手元を見ている。

 切り分けた、肉を--”デミグラスソース”と言っていたな--濃い赤色のソースを付けて、口に運ぶ。


 鼻がひくひくしてしまうくらいにいい匂いがする。


 口の中で肉が無くなってしまったかのような感覚だ。肉が溶けるわけがないのはわかる。わかるが、他に表現のしようがない。ソースの濃厚な味と、肉から出てくる汁が交わって、なんとも言えない味が口の中に広がる。

 今まで、至高だと思っていた、肉料理が平坦な物に感じてしまう。


「うまい」


 それ以外に言葉が出ない。

 俺が食べるのを見て、他の三人も食べ始める。一口目を飲み込んでからは早かった。あっという間に、出された肉料理を食べ終えてしまった。付け合せの野菜は、なにかわからなかったが、ホクホクした口当たりの物と、赤い実が印象的だが少しだけ甘みがある物だ。これも全部デミグラスソースと合わせて、美味しかった。


 一気に食べてしまって、皿の上が空になった事に絶望してしまった。


「皆様。どうですか?もう少し食べられるようなら、同じもので恐縮ですが、出させていただきます」


 おかわりが有るようだ。遠慮なく、もう一皿もらう事にした。


 運んできたドリュアスが少しだけ嬉しそうに見えた気がした。

 そして、今度は、パンなのだろうか?一緒に運ばれてきた。


「申し訳ありません。冒険者様でしたら、パンも一緒にお出ししたほうが良かったですね。パンは、沢山有りますから、遠慮なさらずにお手に取ってください」


 やはりパンのようだ。

 中央に置かれたカゴの中から1つ取る。楕円型で、よく見かけるパンと同じ形だ。圧倒的に違うのは、パンから出ている匂いと手触りだ。

 触るまで気が付かなかったが、柔らかいのだ。なぜ、こんなに柔らかくなっているのかわからないが、ナーシャの耳たぶよりも柔らかいかも知れない。


 ちぎったが、驚くほど、柔らかい。”ほのか”に甘い匂いがする。ちぎったパンを口の中に入れる。

「!!」

 柔らかいだろう事は解っていたが、パンが甘い。勘違いかも知れないので、もう一口だべる。確かに甘い。争うように、中央に置かれたパンを取り合った。


「ナーシャ!」

「何よ。ピムは、さっきパン取ったでしょ!」

「僕は、食べ終わったから取った!ナーシャは、両手で取るのは、はしたないよ!」

「うるさい。いいの!」


 何やら、騒いでいるが、フィリーネさんを見るとドリュアスになにか指示を出している。控えていたドリュアスが、新しいカゴを持ってこさせてくれるようだ。


「皆様。パンは、まだ沢山ご用意しております」


 そう言って、新しいカゴには先程の倍以上のパンが入っていた。


「少し、施行を凝らしたパンでございます。肉料理に合わせてありますので、肉料理と一緒にお召し上がりください」


 肉を食べてから、パンを食べる。

 食感の違いや、甘みの強いパンとの相性がすごくいい。デミグラスソースをパンにつけて食べても美味しい。


 先程の肉よりも大きく切り分けられているのがわかる。

 それにしても、なぜ俺たちに、これだけの料理を出してくれるのかわからない。


 2回のおかわりをして、3皿目の肉料理を食べた時には、腹も、心も満たされた。


 食事の後に、先程食べた”氷菓子”とは違う、アプルを使った甘い食べ物が出された。


「部屋を移動しまして、少し、お話をお聞きしたいのですがよろしいですか?」


 皆を見回すが、問題は無いようだ。


「あぁ大丈夫だ」

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