第二十八話

/*** 獣人族 Side ***/


「猫族よ。それは・・・いや、嘘を言ってもしょうがないな」

「エーリックたちは、知っていたのか?」


 今まで、話の成り行きを見守っていた、ロロットが口を開いた。


「いや、もしかしてという気持ちは有ったが・・・伝説級の魔物を眷属に従えている。いや、伝説級に進化したのか?」


 エーリックが、ロロットの問いかけに答える。

 事実としては、”伝説級に進化した”が正解なのだが、今は、どちらでも結果は、変わらない。


「ヘルズ。これでわかったか?」


 ロロットがヘルズに話しかける。


「ツクモ様は、我らに武器や防具やスキルカードを渡しても、なんとも感じないのだろう」

「そうじゃろうな。ヘルズよ。悪いが、儂ら、黒豹族は、白狼族らと同じで、ツクモ様に”絶対の忠誠”を捧げる事にする。種族の者には、後で説得になるがな」


 正確ではないが、カズトは、武装を渡す事を考えていた。それは、今後ダンジョンに入ってもらうときに、最低限必要だと思っていたからだ。”なんとでもできる”と考えていたのは、カイとウミとライと、ライの眷属たちだ。


「ロロット。黒豹族が、一番人族に殺されているのではないのか?前族長や巫女のこともある。いいのか?」

「あぁ我ら種族の中にも、”鑑定”が使える者が居る。カズト・ツクモ様を鑑定した者からの報告じゃが・・・”わからない”という返答だ」

「は?」

「”鑑定”できなかったわけじゃない。鑑定結果も、”人族”で間違いないだろうという事だが、それでも、本当に人族なのか疑問だという事だ」

「それは、”鑑定”で表示されなかったという事なのか?」

「儂は、鑑定を使った事がないのでわからないが、知っている物や、判明している事は、はっきりとわかるらしいが、ツクモ様の種族は、そうなっていなかったと言っていた」


 また、沈黙が場を支配する。


 部屋をノックする音がした。


「皆様。会議中失礼致します」


 ドリュアスが1人部屋に入ってきた。

 一番年長者のロロットが対応を行うようだ。


「なんじゃ?」

「スーンからの言付けです」

「スーン殿から?」

「はい。”大主様から、獣人族の住居に関して、準備するように言われたが、どのような物が必要なのか、教えて欲しい”と、言うことでございます」

「なにか、約束事などはあるのか?」

「あっはい。そうでした、”下水道は必ず設置すること、あと、できれば、集落に1つ以上の風呂を用意する事”です」

「下水道?風呂は、わかるがいいのか?薪がかなり必要と聞いたが?」

「下水道は、排泄物などを流す場所になります。これは、大主様から必ず実行せよと言われております。風呂に関しましては、薪は必要ありません。水が出る魔核と、お湯が出る魔核を、大主様が用意してくださる事になっております」

「は?魔核?スキルが付いている?」

「そうでございますが、なにか問題でもあるのですか?」

「かなりの数が必要になると思うのじゃが?」

「大丈夫でございます。大主様が用意できるとおっしゃっています」

「わかった、住処を作るのは、自分たちで行いたいと思うが、問題ないか?」

「はい。もちろんでございます。下水道だけお守りいただければ、どの様に作られてもかまいません」

「必要な物とは?」

「先程の魔核の様に、普段使われている物があれば、おしゃってください。必ずとはいいませんが、大主様からできる限り用意しろと言われております。また、木材や石材なども、必要ならおっしゃってください。用意いたします」

「用意と言っても、限界があるじゃろ?」

「いえ、大丈夫ございます。遠慮なさらないようにしてください。私たちが、大主様やスーンから叱責を受けてしまいます」

「そうじゃな・・・驚いてばかりで、何が必要なのか考えていなかった、すぐに何が必要なのかわからないのじゃよ」

「そうでございますか?」


 ロロットは、少しだけ考えて


「5分だけ時間をもらえないか?皆に話したい」

「かしこまりました。表で待っております。ご相談が終わりましたら、お声がけください」


 ドリュアスが一礼して退室した。


「皆、儂は、ツクモ様にお目通りを願いたいが、どうじゃ?」

「俺もそれは考えていた」


 同調したのは、ヘルズだ。


「獣人族と言うよりも、ここで住まう者の代表を決めた方がいいのではないか?」


 ロロットが提案するが、それでは誰がなるという段階になると、手を上げる者が居ない。

 この場所の代表という事は、控えめに見て、ブルーフォレストの獣人族のトップに立つという事だ。それでも、カズトはいいかも知れないが、その後ろに控えている、眷属たちが怖い。だから、誰も手をあげないのだ。


「そうじゃな。代表を決める事を含めて、ツクモ様に打診してみるというのはどうだ?」


 ヘルズの提案に皆が乗った形になった。

 部屋の外で待っていたドリュアスに、スーンに先に面会を求めてから、カズトに取り次いでもらおうと思ったのだが、ドリュアスが、スーンにその場で確認をとり、カズトに取り次いだ。


 面会が実現した形だ。


/*** カズト・ツクモ Side ログハウス内 謁見の間 ***/


「大主。獣人族がご相談したいという事です」

「わかった、入ってもらえ」


 白狼族/熊族/豹族/黒豹族/獅子族/兎族/狐族/鼠族/鳥族


 順番に入ってくる。跪きそうになったので

「楽にしてくれ、話を聞きたい」

「はっ」


 全員がそうするように決めていたかのように、俺から一定の距離を取って座った。

 俺の膝の上には、カイが居て、肩にはウミが居る。ライは、足元にぷよぷよしている。

 スーンが選んだ者だろうか、右側に、執事服を着たエントたち、左側に、メイド服を着たドリュアスたち、エントの後ろには、ヌラと眷属たち、ドリュアスの後ろには、ヌルと眷属たち、ゼーロたちは、今ダンジョンに繋がる通路を作っている。それが出来上がったら合流してくると説明された。


 獣人たちが、震えているように見えるが、気温が合わないのか?


「あっそうか?エーリックたちと同じ状況なのだな?」


 3名以外を鑑定すると、

// 隷属化:主人なし

 となっている。


 これじゃ好きな事も話せないだろう。


 立ち上がって、隷属化がかけられている者たちに近づく、そして、スキルを発動して、解除していく。


「そう言えば、隷属化のスキルだけど、”主人なし”となっていたがどういう事だ?」


「ツクモ様。今、何をなされたのですか?」


 たしか、黒豹族のロロットだったかな?


「ん。あぁお前たちにかけられていた、”隷属化”のスキル効果を打ち消しただけだぞ?解除しないと、好きに話せないだろう?」

「え?」

「違うの?」


「あっはい。聞いた事がございません」

「そうなの?まぁ隷属化なんて効果は無いほうがいいのだろう」

「えっはい。あっそれで、”主人なし”は、主人登録している者が、死んだりした場合になります」

「へぇそうなると、戦闘中に死んだのだろうな。まぁ考えてもしょうがないよな。実験しようにも・・・あぁいい検体が15名ほどいたな?スーン!」


 スーンが一歩出て、

「はい。奴隷商と、アトフィア教の司祭を名乗る者と、数名の護衛の兵士を捕らえています」

「どこに居る?」

「3階層に檻を作って監禁してあります」

「わかった、奴隷商と、司祭以外で、抵抗していない女や子供を殺していたやつはいるか?」

「全員でございます」

「わかった。あの階層だと、コボルトがいたよな?」

「はい」

「ライ。確か、ビーナの眷属で、操作のスキルが顕現したのがいたよな?」

『うん。この前、進化したビーナの中に居るよ』

「よし、ライ。そのビーナを連れて、3階層に降りてくれ、そして、コボルトをスパイダーで確保して、ビーナに操作させて、適当な人族を隷属化してみてくれ」

『わかった!』

「奴隷商と司祭以外の、奴らは全員試してみてくれ、隷属化されてから、暴れだすかもしれないから、別々の檻に入れて観察するようにしてくれ、スーン。頼めるか?」

「かしこまりました」


 スーンが目配せしたら、ドリュアスが二名とエントが二名、ライのところに向かった。そして、ビーナを数匹連れて出ていった。


「あぁすまん。それで?なに?どうした、ロロット?あっもしかして、護衛の兵士たちは、お前たちで殺したかったのか?今なら、やめさせるぞ?」

「いえ・・・大丈夫でございます」


「ロロット。エーリックたちの言っていた意味がわかった。儂も、お主たちと同じ気持ちだ」


 獅子族のヘルズが、ロロットに話しかける。

 俺としては、どんな感じの家がいいのかを聞きたいし、資材を用意する都合があるので、規模的な事も聞きたい。


 あと、できたら、知っているスキルの事とか、世間の事とかを聞きたい。


「えぇーと、それで、獣人族は、どうしたい?」


 この言葉をきっかけに、俺の前で、獣人族の族長と、族長代理が、跪いて”臣下の礼”をした。


 そして

『我らの主、ツクモ様。我らの忠誠をお受取りください』


 配下になると言うことだ。

 それは、泉でも聞いたのだが、おれが受け取るとでも言わないとダメなのかな?それとも、何かしらの儀式みたいなものなのか?

 彼らが気持ちよく生活して、安心してくれるなら、その儀式を受け入れる事もできる。


 スーンたちは、これが正しい姿だと言わんばかりの様子だし、カイやウミも同じだ。


「わかった。お前たちの忠誠嬉しく思う」

『はっ!』


 頭を下げている獣人族を見て思った。

 いきなり、2,000名近い扶養ができてしまうのは、大きな問題だな。


 ライは、送り出してしまった。

「カイ。ゼーロたちの工事は、いつくらいに終わりそう?」

『明日には終わると思います』

「そうか・・・スーン。ドリュアスに、獣人族との連絡係を頼みたい。後で、俺の所に越させてくれ」

「かしこまりました」


 さて、獣人たちはどうしようか?


「ロロット。何か、相談が有ったのだろう?」

「はっ」

「いいよ。言葉遣いなんて気にしないよ」

「そう申されましても・・・」

「いいよ」

「はい。わかりました」

「それで?」

「え?あっ、いろいろ有りすぎて忘れていましたが、我らをお救いくださってありがとうございます」


 皆が一斉に頭を下げる。


「いいよ。俺のわがままでもあるし、エーリックたちから頼まれた事でもあるからな」

「はい。それで、獣人族にここでの生活をお許しただければと思っております」

「え?」

「ダメでしょうか?」

「いや、違う。違う。岩山の麓の事を言っているのだよな?」

「もちろんです」

「好きにしてくれていいよ。俺からは・・・そうだな、病気とか怖いしから、下水道さえしっかりしてくれればいいよ。畑もちょっと勘弁して欲しいかな。あの辺りだと水が不便だろうし、肥料とかを使ったり、虫が入り込んだりしたら厄介だからな」

「え?あっ下水道はお聞きしております。畑もですか?」

「そうだな。できれば、いろいろ実験したい事もあるから、時間が有るときに手伝ってくれると嬉しいな」

「実験でございますか?」


 なにか、抜けているような気がする。


「そうか!」

「どうされましたか?」

「いや、すまない。大事な事を忘れていた。エーリックたちには、軽く説明したが、ダンジョンの入口を今作っているから、それができたら、肉は、ダンジョンの中で確保できるだろう。野菜とかは、ダンジョンの中でやっている農場に協力して欲しい」


 皆が呆然としている。

 あれ?ダンジョンの話って、まだしてなかった?


「ダンジョンでございますか?」

「うん。そうだけど?」

「いえ、ダンジョンは、人族がすぐに確保してしまって、獣人族は奴隷や冒険者しか入らないのです」

「そうなのか?」


 周りを見回すが、それが当然の様子だ。


「ツクモ様は、ダンジョンを確保なされているのですか?」

「あぁ攻略はまだできていないが、この岩山の地下がダンジョンだぞ?」

「え?そこに、我らも入ってよろしいのですか?」

「そのつもりだけど、ダメなの?え?」

「いえ、そうではなくて、ツクモ様が独占されている所から、我らが恵みを頂いてもよろしいのかと・・・」

「うん。入って問題なければ、ダンジョンは好きにしていいよ」


 ヘルズが、ぐっと身体を持ち上げてきた

「ツクモ様。我ら、獅子族もよろしいのですか?」

「もちろんだよ。誰でもってわけには行かないだろうけど、ここに住んだ者ならいいよね?スーンどうかな?」

「問題ないかと」


 スーンの許可も取れたし、問題ないだろう。

 運用方法は、前に話した通りでいいだろう。


「ありがたき幸せ。それで、ツクモ様には、何を納めればよろしいでしょうか?スキルカードですか?素材ですか?」

「ん?そうだね。実験に付き合って欲しいときに、人手を貸して欲しい事と、珍しいスキルカードが出たら、交換に応じてくれればいいよ」

「え?それだけですか?スキルカードは、全部、ツクモ様の物なのでは?」

「えぇそんなにいらないよ。必要なら、自分で取りに行くし、素材も別に困っていないからな。そうだ、この辺りの事は、窓口になるドリュアスと決めてくれればいいかな」

「わかりました」


「あ!そうだ、倒した魔物だけど、できるだけ、食べられない物も含めて、持って帰ってきてもらえる?」

「え?あっわかりました。しかし、そうなると数が限られてしまいますが?」


「そうか・・・スーン。スキルスロットが着いた、袋って今何枚ある?」

「ヌラ殿が作られた袋でしたら、ほぼ100%だと、大主がおっしゃっていました」

「あぁそうだったな。今、その袋は?」

「全部で、30枚ほどだと言うことですが、必要ならすぐに作るそうです」

「いや、十分だろう。収納のスキルカードの枚数は?」

「レベル5でよろしければ、100枚ほどあります」

「そうか、10枚のレベル6にして、袋は、レベル7相当だったよな?」

「はい」

「それなら、大丈夫だろう。10枚の収納袋を作ろう。後で、材料を持ってきてくれ」

「かしこまりました」


「ヘルズ。悪かったな。収納袋を、10枚ほど作って渡す。それを持って、ダンジョンに入ってくれ、停止のスキルをつけるが、完全に停止じゃないから、あまり長く魔物を放置しないようにな」

「収納袋ですか?」

「あぁあるよな?」

「はい。商人が、使っていますが、時間が経過すると、普通の袋に戻ってしまいます。常に、収納のスキルを発動し続けなければならなくて、我らのような、魔力の少ない種族には使えない物です」

「あぁ大丈夫。スキルを固定化して、使えるようにしてあるから、かけ続ける必要は無いぞ」

「え?アーティファクトですか?」

「え?アーティファクト?」

「違うのですか?」

「アーティファクトは、言葉から、ダンジョンとかで見つかる物という意味で合っている?」

「え?あっはい。古代の、今よりもスキルが豊富だった頃に作られた道具の事をそういいます」


「へぇそれなら、違うよな?スーン。そうだろう?」

「そうでございます。皆々様、大主が言っている、収納袋は、そこのスパイダーが作った布に、大主が魔核を融合して作られる物です。効果も永続的です」


「大主。彼らも疲れたのでしょう。後は、私が引き受けます」


 獣人族を見回すが、皆なにか疲れた表情をしている。


「そうだな。その方がいいだろう。スーン。基本方針は前に話した通りで、後は、獣人族に負担にならないように頼む。それから、成人前の子供は、ダンジョンに入るのは禁止だからな。どうしても、入りたい場合には、スパイダーかビーナかアントの護衛を付けて、10階層くらいまでなら大丈夫だろうから、子供はそこまでな」

「はい。かしこまりました」


 俺の長い1日が終わった。

 洞窟の部屋に帰って、寝よう。カイとウミが気持ちよさそうにしているのが気に入らないが、起こすのも可愛そうだから、そのまま抱えて、部屋に戻る事にした。

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