第二十四話

/***** カズト・ツクモ Side *****/


「エーリック。戦闘場所に検討がつくのか?」

「すまん。いえ、すみません。話から、黒豹族辺りだとは思います」

「エーリック。別に、言葉遣いは、普段のままでいいぞ。それよりも、場所か・・・戦闘が行われている。そうか!」


『ライ。近くに、スーンの手の者がいるよな?』

『うん』

『逃げた獣人たちは保護しているのだよな?』


 近くに居るエントから念話が届く。


『はい。大主のお言いつけ通りに』

『案内はどうしている?』

『エントとドリュアスを付けています』

『わかった、他に、森の中に逃げた者が居ないか探しながら、洞窟周辺に誘導してくれ』

『かしこまりました』

『それで、まだ見張っているエントかドリュアスが居るだろう?カイに念話で場所を知らせる様に言ってくれ、いいか、安全第一だからな。エントやドリュアス1人で敵対しないようにしろよ』

『大主。かしこまりました。カイ様を誘導するようにいたします』

『頼む』


 カイが、エントからの連絡を受けているようだ。

 俺たちの前に出て、誘導を開始する。


「エーリック。カイが、先導する」

「え?あっわかった」

「カイ!人族がどんな陣形になっているかわかるか?」


 カイは、走りながら、エントたちに確認しているようだ。


「主様。エントたちが言うには」


 カイは、人族の陣形と、今までの状況を話し始めた。

 話を聞いてみたが、陣形と言うようなものではない。単純に、後方があって、戦力を逐次投入しているような形だ。


 何が目的かわからないが、奴隷にするためなら、囲んで心を折ればいいのに、そうしないと、お互いに犠牲者だけが増えていくだけではないのか?


「エーリック。フォレスト・スパイダーを3匹つける。獣人族の本陣に行ってくれないか?」

「おぉ。ツクモ様は?」

「人族の本陣で捕えられている者たちを開放する。同時に、できたら人族の目的が”何か”を確認してくる」

「わかった。俺が行きたいが・・・いや、足手まといだな。すまない。お願いする」


 移動しながら、方針転換を行う。

 30匹連れてきた蜘蛛の中から、3匹を選んで、一番身体が大きかった者をリーダーに指名た。フォレスト・スパイダーに、先導させて、獣人族の陣地に急がせた。


 エーリックと別れてから

「ウミ。フォレスト・スパイダーを3組連れて、東側から廻って、人族の本陣を急襲しろ。なるべく殺さずに、無力化しろよ」

『わかった。行くよ!』


 ウミは、9匹のフォレスト・スパイダーとともに、東側から廻るように指示した。これで、人族の後方が混乱すれば、多少は、獣人族に掛かっていた、圧力を減らす事ができるだろう。


「カイ!」『主様!』

「ん?」

『僕は、主様の傍に居ます』

「そうか・・・ライ!」

『はい』

「一番難しい事を頼む。人族と獣人族が戦っている所に、割って入って、両者を無力化してくれ」

『わかった』

「フォレスト・スパイダーは、残り全部を連れて行け。俺には、カイが着いているから安心していいだろう?」

『ライ。お願いします』『わかった。カイ兄。行ってきます。殺さないほうがいいよね?』

「あぁ殺さないように頼む」


「カイ。包囲しようとしている人族を捕えていくぞ」

『わかりました』


 状況が逐次伝わってくる。


『人族の後方に出た。今から、突入するよ』

『獣人族と人族の戦闘区域に着いた。配置完了。いつでも大丈夫!』

『逃げていた獣人族の数名を確保。安全な場所に移動開始』


 エントからも報告が入る。

 カイも、先程から、人族をスキルで無力化している。


『カズ兄。捕まっていた、獣人族が居たけど、どうする?』

『話が通じそうな奴は居たか?』

『うーん。ダメっぽい』

『そうか、ライ。エーリックに付いている、スパイダーに話が通じるか?』

『大丈夫!』

『リーダに指名した奴に、エーリックと話ができそうなら、ウミの話を投げておいてくれ』

『あるじ。ダメっぽい。リーダ・フォレスト・スパイダーにはつながったけど、エーリックにはダメみたい』

『それじゃしょうがないな。ウミ。獣人族が、逃げたり、反抗したりした場合は、スパイダーで拘束してしまえ』

『はーい』


 ウミと蜘蛛が、人族を拘束したからって、獣人族の味方だと考えるのは、無理があるだろうからな。

 早く、エーリックと合流して、獣人族を安全な所に逃してしまいたい。その後に、捕らえた人族から情報を聞き取ればいいだろう。


/*** エーリック Side カズトから別れてから ***/


 本当に、フォレスト・スパイダーか?

 数歩先を移動している、スパイダーを見る。フォレスト・スパイダーなら、俺でも対抗できると思うが、先頭を移動している、個体とは戦いになりそうもない。ツクモ様も、進化した個体と言っていた。

 先頭の特殊個体以外の二体が、時折振り返って、俺が付いてきているのか確認しているようだ。


 俺にもはっきりと獣人族--多分、黒豹族--の存在が認識できる。

 まだ、生き残っていた。特殊個体を除いて、二体が左右に分かれる。どうやら、近くに居る人族を捕えに行くようだ。


 特殊個体は、俺が、黒豹族の存在を認識したのがわかるのか、俺の肩に乗ってくる。怖くないかと聞かれたら、迷わず”とてつもなく怖い”と答えるが、今は、そんな事を考えているときではない。


 見えてきた。

 戦闘も今は行われていないようだ。


「今なら問題ないだろう」


 独り言のつもりだったが、肩に乗っている、フォレスト・スパイダーが、片足を上げて答えてくれている。問題ないようだ。


「白狼族の族長、ヨーン=エーリックだ。無事な者は居ないか?」

「おぉぉ白狼族の、儂は、黒豹族の族長、カミーユ=ロロットじゃ。貴殿だけなのか?」

「説明は、後だ。今は、戦線を縮小して、後方に下がるぞ」

「なっそんな事をしたら、人族が攻め込んでくる」

「大丈夫だ。そちらは、別の者が、対処に向っている」

「・・・あい。わかった」


 それからの行動は早かった。俺も協力して、黒豹族たちを、まとめて、移動を開始した。


「エーリック殿。あの、スパイダーは?」

「大丈夫です。味方です。今は、そう思ってください。後で、説明します」

「了解した」


 けが人を連れて、戦闘区域からの撤退を行った。

 生き残った者は、全部で10名を少し越えるくらいだ。黒豹族としては、500名程度の集団だったと思う。獣人族の中で、一番の集団だったはずだ。


 言葉少なげに、撤退していく族長を見るのは辛い。

 全滅の危機から救ったと言えば聞こえはいいが、実際には、全滅一歩手前の状態だ。


 他の族はどうなった。


 ブルーフォレストに、集団を作っていた獣人族は、獅子族と兎族があったはずだ。全滅したか?

 複数の種族がまとまっていた場所も有ったはずだ。


 肩に乗っている、フォレスト・スパイダーが、俺の頬を叩く、そして、足で方向を示す。


「そっちに逃げろというのか?」


 足を上に上げる。そうだという意味だと取れる。


「ロロット殿?こっちの方角には何がある?」

「そっちには、小さな泉があるが、人族が居たはずだぞ?」


「大丈夫なのか?」


 フォレスト・スパイダーは、大丈夫と言っているようだ。


「ロロット殿。泉に向かいましょう」

「大丈夫なのか?」

「わからない・・・正直、わからないが、大丈夫だと思う」

「わかった、貴殿に救われた命だ。従おう」


 それから、数時間、辺りを警戒しながら、泉に向った。

 近場に居住するだけあって、ロロット殿たちの案内は的確だ。


 声が聞こえる。どうなっている?


「え?」

「へ?」


 隣で移動していた、ロロット殿も俺と同じ様に、奇異な声を出してしまった。

 そう思わせるだけの事が目の前で行われていた。


「ロロット殿。一応、訪ねるが、あんな物有ったか?」

「・・・はっ。イヤ、戦闘に入る5日前には、本当に泉があるだけの場所だ」

「やっぱりか・・・」

「なにか、知っているのか?」

「知っているわけではない。でも、もしかしたら、獣人族は助かったのかも知れない。急ぐぞ!」

「おい。エーリック殿。あれが、人族が作った物でない保証は無いのだぞ!」

「大丈夫だ。あれは、我が主が作らせた物だ!」


 確信が有ったわけではない。

 でも、間違いなく、カズト・ツクモ様が作られた、命じた物だろう。泉があったと思われる場所を、覆うように石壁が作られている。その周りに、柵が幾重にも作られている。

 そして、石壁の周りには、水が張られている。

 橋がかけられている場所には、ツクモ様の所に居たのと同じ衣装を着た者が立っている。

 フォレスト・エントだ。


「エーリック殿。いろいろ尋ねたいのだが?」

「すまん。どこまで話していいのかわからない。ただ、間違いなく、あそこは安全だという事だけは、保証しよう」

「そうか、貴殿を信用しよう」


 俺と、10名の黒豹族は、フォレスト・エントが守る場所に入った。


 ロロット殿は、座り込んで、泣き崩れてしまった。

 そこには、全滅したと思われていた獣人族の女子供が種族ごとに集まって、過ごしていたのだ。


「エーリック様とお見受けします」


 フォレスト・エントが声をかけてきた。


「あぁ」

「ご無事で何よりです。大主より、”人族の8割は捕らえるか、切り伏せた。残りも、撤退している。捕えられていた、獣人族もできる限りは、確保して、泉に向かう。申し訳ないが暫く待って欲しい”との事です」

「あい。わかった。ツクモ様もこちらへ?」

「はい。カイ様とウミ様とライ様と一緒に、こちらに向かうとの事です」

「ここは、貴殿たちが?」


「はい。野ざらしで申し訳ないとは思いますが、まずは安全を確保する事を優先いたしました」

「そっそうか」


 確かに、野ざらしだが、石壁に覆われて、中央に泉がある。どうやったのかわからないが、平坦な場所になっている。

 人族は、1ヶ所にまとめられて、檻のような物に入れられている。その前に、獅子族だろう、獣人族の中でも戦闘に秀でた者たちと、エントが睨みをきかせている。武装は解除されている。あの様子では、スキルカードも没収しているのだろう。


 俺たちに気がついて、幾人かがこちらに駆け寄ってくる。

 ロロット殿と抱き合って喜んでいる。


「白狼族の族長とお見受けする」


 獅子族と、熊族が声をかけてきた。


「あぁ俺は、白狼族の族長、ヨーン=エーリック。エーリックと呼んでくれ」

「失礼。儂は、獅子族。族長代理のウォーレス=ヘイズだ」

「俺は、テイセン。ロータル=テイセン。エーリック殿。お聞きしたい。父は、父は無事だったのでしょうか?」

「ロータル殿は、無事だ人族に捕えられていた、熊族も開放されている」


 テイセン殿は、緊張の糸が切れたのか、その場に座り込んで、”よかった”を連呼している。


「エーリック殿。お聞きしたい事がある」

「何でしょう?」

「お主の肩に乗っている”スパイダー”は?」

「あぁ味方だと・・・しか言えない」

「わかった。それはいいのだが、どういう事なのか説明して頂けないか?」

「・・・すまな。俺も、詳細はわからないのだ」


「ヘイズ殿。俺からも聞きたい。あの人族は?」

「・・・それこそ、儂が知りたい。儂たちの集落に突然人族が攻め込んできた。最初は撃退していたのだが、徐々に押されて、崩壊しそうなときに、女子どもを逃したのだが、そうしたら、フォレスト・エントとフォレスト・ビーナが人族に襲いだして、無力化してしまった。その後で、フォレスト・エントの案内に従って、ここに来てみれば、あの状況だ。檻の前には、さっきの熊族が1人で立っていたから、儂も協力したという流れだ」

「そうか・・・ツクモ様に救われたという事だな・・・」


「エーリック殿。その”ツクモ様”は、フォレスト・エントが言っている、”大主様”なのか?」

「そうだ。そして、白狼族は、カズト・ツクモ様に忠誠を誓った」

「え?なぜ?白狼族全体の意思なのか?」

「俺は、ツクモ様に命を救われた。一族もだ。俺は、族長として判断した。ツクモ様の配下になると、長老衆の意見はまだ聞いていないので、まずは俺個人としての言葉だけだが、長老衆は説得する。カズト・ツクモ様の下に、白狼族は入る。熊族と豹族の族長も同じ意見だ」

「そうか・・・獅子族は、話を聞いていると、一番最後に襲われたようで、犠牲者は出ていない。他の氏族は酷いのだろう?」

「わからない。白狼族は、男の半数は・・・ダメだろうが、女子供は、奴隷に落とされて・・・隷属化された後で殺された者も居るが、無事な者も多い」


「本当か?」


 横から、熊族のテイセンが割って入ってきた。


「あぁ今頃は、ロータル殿の所に移動していると思う」

「よかった・・・それで、その場所は?」


 熊族の若者は、すぐにでも移動を開始しそうになっている。


「すまん。テイセン殿。少し待って欲しい、もうすぐ、カズト・ツクモ様が、こちらに来られる事になっている」

「え?白狼族?それは本当か?」

「あぁ」


 それから、3時間程度が経過しただろうか?

 フォレスト・エントたちが、石壁の入り口に移動し始めた。


「エーリック様。大主がご到着いたします。どうされますか?」

「あっありがとう。もちろん、出迎えます。ロロット殿。ヘイズ殿。テイセン殿。どうされる?」


 他にも、複数の種族が見受けられる。族長や族長代理で出迎える事にした。

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