第二十二話
「それで?」
「はい。奴隷商人も捕えております」
「そっちはいい。獣人族は?」
夕方の時間帯に、野営していた奴隷商人たちを急襲した。
戦闘は、10分もかからず終わったようだ。こちらには犠牲者はいないということだ。奴隷商人の側にも、怪我程度の者は居るらしいが死亡者はいないということで、参加した者たちを褒めることにした。
捕えられていた獣人族も最初は戸惑っていたようだが、食事を与えた所、落ち着いてきたと言う。
眷属たちが護衛している場所で一晩を過ごしてもらうことにした。奴隷商人は、全員に目隠しをして、こちらの素性に関する情報は与えないようにした。死なない程度の食事も与えている。
眷属たちが聞いた限りでは、奴隷商人の目的は、”戦闘に使える肉奴隷”を集めてくるように、指示が出ていたようだ。
肉奴隷とは嫌悪感を引き起こさせる言葉だ。戦闘の時に、先陣・・・ではなく、前線に張り付いて、壁にするための奴隷だという。アンクラム街とアトフィア教が結託して、ミュルダ街を攻めようとしているようだ。
助け出した獣人は、全部で、大人の女性が37名。子供が、97名。男性が、11名。
多いと見るか、少ないと見るか・・・俺としては、人数としては多いと見る。総数145名。奴隷商人や護衛が、15名。
獣人族の代表が俺に会いたいと言っているらしい。当然そうなるのだろう。代表をこちらに連れてくることになった。
念話のスキルが無くなってしまった事を受けて、カイとウミとライは、眷属を連れて、ダンジョンに向かうようだ。
スーンとドリュアスたちが、俺の共回りとして、会談に望むことになった。
翌朝、疲れ切って、すべてを諦めた表情で、獣人族の男性三人が、俺の前で座っている。あぐらだと言えばわかるだろう。
自分たちはどうなってもいいので、他の者たちには寛大な処置を・・・とか言って、頭を下げている。寛大な処置もなにも、どうしたいのか確認ができれば満足なのだけど、そう言っても信じてもらえないようだ。
「奴隷商人たちはどうした?」
話しの矛先を変えるために、スーンに問いかける。
スーンは、一歩前に出て
「こちらに、連行している最中です。どうされますか?」
「そうだな。俺にとっては、一切のメリットがない。殺すか?話は聞いたのだろう?」
「はい。しかし”自分たちは、アンクラムの住人だ”や”獣の一匹や二匹殺して何が悪い”や”アトフィア教が守ってくれる”を、喚くばかりで話になりません」
「そうか、情報が得られないのなら、殺すか・・・いや、ダンジョンに放り込むか?隷属化しておけば、逆らえないのだったよな?」
どうしようか・・・後腐れなく殺してしまうのは簡単だけど、後から必要になったら困るからな。
連れてこられた三人の獣人が、俺の顔を見て固まっている。
「どうした?」
「ツクモ殿は、ダンジョンを手中におさめているのですか?」
「ん?まだ攻略していないから、手中におさめているわけじゃないが、ダンジョンの入り口なら知っているぞ?」
「それは、人族の・・・サラトガ街の近くのですか?」
「どうだろう?スーン。どうだ?」
「大主。この者が言ったダンジョンとは違います。大主のダンジョンは、大主たちしか入っておりません」
「らしいぞ?」
失礼に当たるがと前置きされたが、獣人族だけで話がしたいといい出した。
許可を出して、ドリュアスの一人に、少し離れた部屋に案内させた。
/***** 3人の獣人 Side *****/
連れてこられた獣人族の男性3人が一つのテーブルを囲んで座っている。
「白狼族よ。どういうことだ?」
「・・・すまん。少し、お主たちと話をしたかった」
「だから、どういうことだ。俺にもわかるように説明しろ」
熊の獣人の男が、白狼族と呼ばれた男の方を向いて怒鳴るように言った。
「熊族の・・・。少し声を落としてくれ、今から俺が思った事を話す。それが気に入らなかったら、気に入らないと言ってくれ。でも、儂の中では、決定事項だと思ってくれ」
「あぁ」「わかった」
白狼族の男は、自分の考えだと前置きをしてから、話しだした。
白狼族の長として、カズト・ツクモ殿の下に保護を求めることにするというものだ。そして、できることなら、支配地域を明確にする事を、進言して、そこに、カズト・ツクモ殿の街を作ってもらう。
その上で、獣人族が定住する事を許可してもらう。
白狼族の男が一息に言い切る。
「なぜそこまで?」
「あぁ熊族は知っているだろうけど、豹族は知らないようだが、”危険察知”という種族スキルがある。俺は、特にこれがすごくてな、一度会った種族なら、種族まで判断できる」
熊族の男はうなずいている。
「俺にそんな大事な事を言って大丈夫なのか?」
「構わない。種族スキルだからな」
「そうか・・・、あっそれで?」
「あぁ森の中に住んでいれば、エントと出会すことも少なくない。そうだな?」
「あぁ」「そうだな」
白狼族の男は、そこで、テーブルに置かれていた、水差しから液体をコップに注いで喉を潤した。
「この屋敷の前に居た、エント・・・あれは、エントではない。多分だが、エルダーエントか、エルダー・フォレスト・エント・・・もしかしたら、イリーガルか、デスの名前を持っているかも知れない」
「なっ!」「それ・・・は・・・ない・・・よな」
「それで、ツクモ殿の横に居た、スーンと呼ばれていた執事・・・あれは、人族ではない。それから、メイドたちもだ!」
一息入れてから、白狼族の男が
「ツクモ殿だが、人族には違いは無い、間違いなく人族だ・・・でも」
「なんだ、白狼族よ。何がいいたい?」
「わからないのだ、確かに、種族は人族だと思うし、そう判断できるが、それだけではなく何かが違うと出ている。そして、儂の感が、ツクモ殿に”逆らうな”と言っている」
「そうか・・・お主のその能力で、俺たちの村は救われたのだからな」
熊族の男は、白狼族の長が、人族の急襲を教えてくれたおかげで、少なくない同胞を、逃がすことができたと話している。
その後で、人族に捕まっていた同胞の開放を条件に、降伏したのだが、奴らはそれを守らなかったと憤っている。カズト・ツクモ殿が助けに向かわせなかったら、どうなっていたのかわからない状況だったのは間違いないようだ。
「白狼族は・・・いや、儂は、救われた同族と共に、ツクモ殿を主として従うことにする。お主たちにそれを強要するつもりは無いが、協力してくれると嬉しい」
/***** カズト・ツクモ Side *****/
「ふぅ・・・」
「大主。お疲れでしたら、後は、私たちが処理いたしますが?」
「いや、違わないけど、違う。あっそう言えば、こっちに向っている冒険者の中にも、獣人がいたな?」
「はい。リーダ格の男とその
「そうか、それなら、ここで恩を売っておくのも悪くないな」
獣人族を助ける事はできそうだけど、助けるためにも、建前や理由付けが必要になってくるな。
一石二鳥に・・・そうだな、助けた獣人族が主体となって、助かった獣人族の生活をサポートする。
俺たちは、それを”サポート”する。
これなら、問題が少なくて良くないか?
それに、生活が不安定なら、岩山の周りを開拓して住んでもらえばいい。エントに協力してもらえば、開拓もそれほど時間がかからないだろう。ダンジョンの攻略は別にして、低階層で農園の管理も任せられるかも知れない。
エントやドリュアスに頼むと、俺の世話は競って手を上げるのに、作物の収穫を頼むと、イヤイヤ従っている雰囲気をろこつに出しやがる。俺が食べたいというと、喜んで収穫してくれるのだが、収穫が近いから収穫しておいてくれというと、順番を押し付けあっているように思える。
それなら、獣人族に収穫の一部を渡す条件でやってもらえないか交渉できるのではないか?昔で言う小作農だな。
そうしたら、もう少し実験を広げてもいいかも知れない。収穫した物を腐らせたり、魔物に食べられたりしてもったいないので、広げる事はしていなかったが、食べてくれる人が居るのなら、広げても問題ないだろう。
「よし、スーン。助けた、獣人族の3人を連れてきてくれ、交渉したい」
/***** 3人の獣人 Side *****/
3人が通された部屋には、3人以外誰も居ない。
テーブルの上には、水差し以外にも、箱が置かれていた。
「おい。白狼族の?」
「なんだ。熊族」
「あぁその箱から、甘いいい匂いがしていないか?危険なものだとは思えないが、お主の意見が聞きたい」
箱の中身は、カズトが用意させた、果物が入っている。
何を食べるのかわからないので、果実を用意させたのだ。
「問題ないと思うぞ」
「そうか・・・アプル?ピチもあるのか?食べていいよな?」
「さぁな。でも、置いてあるから食べていいのではないか?」
豹族の男が、アプリを一つ取り口に運ぶ
「!!」
「どうした?豹族の?」
「白狼族も、熊族も、食べてみろ。とんでもなくうまいぞ!」
恐る恐る口に運ぶ熊族と白狼族。
ひとくち食べて、無言で全部を食べてしまった。
「なんだこれは?本当に、アプルなのか?」
「わからんが、アプリなのだろう。驚いたな。こんな一級品を・・・」
「白狼族よ。儂も、貴殿の意見に賛成だ。ここに同族と住めないか打診しよう」
「熊族も、同じ意見じゃよ。でも、長老衆を説得しないとならないな」
ドアがノックされた。
「よろしいでしょうか?大主のカズトが、御三方とお話がしたいと申しております」
「スーン殿か?すまない。入ってきてくださらないか?少し、貴殿に聞きたい事がある」
(大主。獣人たちが、私と話しがしたいと言っています。どういたしましょうか?)
(いいよ。俺の事を聞きたいのだろう。スキルの事以外なら話していいよ)
(かしこまりました)
「かしこまりました」
スーンは、カズトに念話で許可を求めてから、獣人たちが待機している部屋に入った。
「はい。なんでございましょうか?」
「スーン殿。いくつか確認したい事がある。時間はとらせない。疑問を解消したい」
白狼族の男が仕切るようだ。
「大丈夫でございます」
「それは良かった。まずは、ツクモ殿は、どこかの街に属しているのか?」
「いえ、我が、大主様は、どこの街にも属しておりません」
「そうか、この辺りの支配は、ツクモ殿だと思っていいのか?」
「どの様な答えが適切かわかりませんが、大主様が、”支配せよ”とご命令いただければ、この辺り一帯は、大主様の支配地になります。いえ、そうなるように動きます」
「可能なのか?」
「質問に、質問で返しますが、不可能だと思いますか?」
「いや、失礼した。謝罪する」
「いえ、解っていただければ幸いです」
「ツクモ殿は、我らを保護してくれるだろうか?」
「わかりません。わかりませんが、大主様は、『善悪の判断は難しいが、子供が殺されそうになったら介入しろ。子供を殺すようなクズたちは殺されても・・・いや、子供を殺そうとした奴らは全員捕らえろ』とおっしゃいました。私たちはそれを実行しています。そして、あなた達を救出いたしました。それは答えになっておりませんか?」
「そうだな。くだらない事を聞いた」
豹族の男が口を開いた
「ツクモ殿から、スーン殿が、ここの管理を任されているのか?」
「質問の意図がわかりません。私は、大主様に仕える執事のまとめ役でしかありません」
「執事?ツクモ殿は、何をやっているのだ?」
スーンから殺気が漏れる。
白狼族の男が
「スーン殿。申し訳ない」
「いえ、こちらこそ申し訳ない。しかし、一つだけ私からも良いでしょうか?」
「なんでしょうか?」
スーンは一息入れてから、3人を見つめる。
「大主様が望んだことですから、あなた達を助けました。しかし、私たちに取って、あなた達は、路傍の石程度の価値もありません。つけあがらないようにお願いいたします。私たちが、大主様の前では、言いつけを守り、”大主”と呼んで、あなた達の前で”大主様”と呼んでいる事で悟ってください。大主様のお心を騒がせるようなら、私たちは、大主様の言いつけでもあなた達一族を抹殺する事に躊躇いたしません」
スーンは、言葉を紡ぎながら、殺気を部屋の中だけに充満させていく、”歴戦の勇者”な獣人族の族長と族長候補が、一歩どころか、指先一つ動かせないで居る。言葉を発する事もできなくなってい待っている。
「ふーう。申し訳ありません。大主様を待たせています。他に何も無ければ、先程の部屋までご移動お願いいたします」
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