第二話 処分


 何も成果が出ないまま2日が経過した。


 放課後に、津川先生と話し合いが行われる。


「あれ?戸松先生?」


「篠崎くん。急に、来てしまって・・・」


「いえ、戸松先生が出席されるのは、問題は無いのですが・・・。なぜ?」


「それは、これです」


 戸松先生が一枚の紙を俺に見せてきた。


 最初から目を通す。


「え?これって・・・」


「北山くんの処分は、津川先生が一人で決められないのです。だから、学校側の代表として私が来ました」


「やはり、退学ですか?」


「どうでしょう。体育教師や機械科の教師からは、退学が相当だという声が多いのですが、前任者にも問題があったので、停学が妥当だという声もあります」


「ん?」


「どうしました?」


「いえ、今の言い方だと、その会議に津川先生が出ていないと思いまして・・・」


「出ていませんよ。彼は当事者ですからね。北山くんを庇う可能性だってあります」


「まぁそうですね」


「来たようですよ」


 津川先生がドアから入ってきた。

 戸松先生が居るのは解っていたのだろう、会釈して俺の前に座る。戸松先生は、立ち上がって俺の横に座る。


「津川先生。調査の結果は?」


 戸松先生が場を仕切ってくれる。俺としてはありがたい。


「部費の使い込みを認めました」


「津川先生!」


 戸松先生が強い口調で津川先生の名前を呼ぶ。


「北山くんです。でも、彼も命令されていただけです」


「誰に?ですか?」


「彼は、命令されたとだけ言って、誰に命令されたのかは言いませんでした」


 目が泳いでいる。

 多分、誰に命令されたのか言ったのだろう。あの北山が誰かを庇うとは思えない。


「津川先生。俺は、処分に関して、口を出す権限はありません。しかし、生徒会の代表として聞きます。SDカードはどこに行ったのですか?彼がセキュリティ大会に持ってきたのは、備品ではありませんよね?備品で買ったパソコンはどこにあるのですか?帳簿では、ノートパソコンが3台あるはずですが、生徒会は1台も確認出来ませんでした。使い込みはわかりました。それで備品はどこにありますか?」


「・・・」


「津川先生」


「パソコン倶楽部には、ノートパソコンはすでになかった」


「どういうことですか?備品管理は、顧問の役割ですよね?SDカードやUSBメモリは、部長が管理していても不思議ではありませんが、ノートパソコンは違いますよね?金額は、10万を切っているからと言って、盗まれましたでは済まないですよ?」


「わかっている」


「解っているのなら、納得できる説明をお願いします」


 だんだん、イライラしてきた。


「北山も、わからないと答えた」


「わからない?それは、ノートパソコンですか?SDカードですか?USBメモリですか?」


「・・・。全部だ」


「わかりました。戸松先生。どうやら、学校内に窃盗犯が居るようです。生徒会から警察に連絡します」


 もう付き合っていられない。

 大事にしたくないようだけど、知ったことではない。桜さんに連絡をすればいい。


 スマホを取り出すと、戸松先生は諦めた表情を見せるが、津川先生は慌てだす。

 今更だ。


「ちょっと待て。学校内の事だ。学校内で」


「はぁ?窃盗ですよ。総額で、30万円以上が盗まれているのですよ?それも、”彼”が部長になってから購入申請が出たものばかりです。彼が知らないのなら、彼も被害者ですよね。だったら、もう警察に相談するのがいいと思うのですが?」


「だから、学校内での解決を・・・」


「どうやって?北山は、何も知らないのでしょ?誰か他に知っている人が居るのですか?津川先生ですか?あぁ元パソコン部の後輩達に聞いたら、ノートパソコンの存在もSDカードもUSBメモリも知りませんでした」


「・・・」


「本来なら、パソコン倶楽部から、備品の盗難があったと届け出るのが筋ですが、今回は生徒会から警察に届け出ます。校内の備品が盗まれたと訴えますので、大丈夫です。安心してください」


「安心できるか!!!あっすまない。篠崎くん。少しだけ待って欲しい」


「もう一週間待ちましたよ?あと、3日までは良いですか?それとも、10日ですか?ノートパソコンは、型番まで書かれています。もう数年前に販売が終わっている機種でしたよ?誰から買ったのでしょうかね?SDカードも、丁寧に型番が書かれていましたよ。同じ物が見つかれば良いのですけどね。あっ俺は、決済した書類を見た時から疑っていましたよ。上地が決済していましたからね。津川先生。どうしました?」


「篠崎くん。やりすぎです」


 戸松先生が俺を注意するがもうすでに遅い。

 まだ切ってないカードはあるが”上地”の名前を出したのだ。言い逃れをしようと思っても駄目だ。


「あっ!もう一つ、一台は、上地の決済ですが、残り二台は、値段が抑えられて部長決済になっていました。SDがカードは、部長決済でした。どっちですか?」


「え?」


 激高して、立ち上がってから、自分の立場を思い出して椅子に座り直した、津川先生が俺を見る。


「だから、北山は、決済だけして金を横領したのですか?それとも、実際に購入して横流ししたのですか?」


 津川先生の言葉を戸松先生も待っている。

 イライラはするが、知っていることを話してもらわないと何も進まない。


「はぁ・・・。北山くんは、上地くんに言われて、彼のパソコンを買ったそうです。その時の代金は払ったそうですが、ノートパソコンは生徒会で管理すると言われたそうです。もう一台は、同じように部活連から言われたと言っていますが、私が部活連に確認したら、そんな事実はないと言われた」


「そうですか。もう一台は?」


「彼が、自分のパソコンを購入する資金に使ったと言っている」


「SDカードやUSBメモリは?」


「全部は覚えていないと言っていますが、殆どが部活連に渡したと言っている」


「そうですか、実際には、何枚かは自分で使ったのでしょうけど、部活連は知らないと言っているのですよね?」


「そうだ。これで全部だ」


「津川先生。彼に、買った事になっている物を補填させることは出来ますか?親が出てきてもいいです」


「無理だ。私も、彼に同じ事を聞いたが、自分は悪くないと言葉ばかりで、何も話さない・・・」


「あぁそうですか・・・。あとは、戸松先生におまかせします」


 補填ができれば、生徒会からの訴えは取り消してもいいと思っていたが、無駄だった。

 戸松先生の裁定は、後日に持ち越しとなったが、退学なのだろう。


 そうなると、もう一つの調査も急いだほうがいいだろう。


「そうだ。津川先生。北山に関して、少しだけ教えて下さい」


「なんだ?」


「奴が、セキュリティ大会にも持ってきていたパソコンは、本当に彼の個人所有なのですか?」


「え?」


「部費を流用したとしても買えるような物ではありません。それに、親に補填を頼めないのなら、奴が持っているパソコンを売れば多少は補填が可能です。やらない理由はないと思うのですが?」


「私も、それは気になって、聞いたのですが、足りなかった分はバイトして買ったと言っています」


「そうですか・・・。彼は、学校にバイトの申請を出していません。何のバイトをしたのでしょう?」


「え?」


「もう一つは、彼が大会に持ってきたメモリは、どこから入手したのですか?大会の為にわざわざ購入したのですか?」


「え?パソコン倶楽部に有った物を持ってきたのでは?」


「それは無理です。メモリの規格が違います。学校に、あのメモリはありません」


「そうですか・・・。まだ、何か隠していると思っているのですね」


「そうですね。彼が自分の意思で隠しているとは思っていません。”言うな”と言われていると考えています。だから、退学となったりしたら、喋りだすと思いますが、そのときに彼が”誰に向かって”しゃべるかで事情が違ってしまいます。俺は、どちらでもいいとは思っています」

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