第五話 報告

 副会長に、言われるがまま着替えをしているユウキと会長を、少し離れたベンチで眺める事にしている。


 豪語するだけあって、確かに、ユウキに似合っている。

 かわいいって感じではなく、素直に似合っていると思える服装が多い。俺にはできない事だ。副会長を召喚して正解だったと思う。


 会長は・・・いいか・・・。遊ばれている感じがする。だんだん露出が激しい物になっているのは、多分気のせいだろう。


 二人が試着室に入ったタイミングで、副会長が手招きする。

「キミ。ユウキの予算を教えてくれ」


 予算も気にしてくれるようだ。


「そうですね」

 指を3本立てる。

「このくらいでどうですか?」


 副会長は、にっこり笑って

「了解。愛しているね」

「ん?報酬ですからね」

「わかった。わかった。僕たちへの報酬は?」


 はぁやっぱりそういう展開になるよな。

 未来さんからは、言われていないけど、オヤジの雰囲気から言えば、10は入ってくるだろう。

 経費処理はできないだろうけど・・・。


 指を全部開いて

「全部でこれでどうですか?」

「おっいいのかい?」

「えぇ食事代は別でなら満足いただけますか?」

「十分だ」


 別に用意している長財布に、7万入れて、副会長に渡す。足りない時の事を考えておく

「これで、お願いします。領収書は必要ないですが、できればレシートはもらってください」

「あぁ大丈夫だ」

「お願いします。他にも何か買うのなら、その中からお願いしますね」


 ニヤッと笑って、財布を受け取る

「あっ昼飯はこの別館でいいですか?」

「そうだな。いいと思うよ」

「ユウキが居るので、ピザの食べ放題の店か、流れる寿司屋か、イタリアンバイキングにしますけど、問題ないですか?」

「梓が、寿司があんまり得意じゃないから、ピザかイタリアンバイキングがいいかな」

「了解しました。予約が取れそうな方にしますね」

「頼むよ」


 別館にある。飲食街に向かう。

 もうすでに営業は始まっていたので、店に予約ができるか聞くことにした。ピザの方は、もう一杯だという事だったので、イタリアンバイキングの方にした。幸いな事に、半個室が予約する事ができた。1時間後の予約になってしまったが、問題は無いだろう。


 副会長に、メッセージを送っておく。

 探してた本があるかもしれないので、本屋に行く事にした。副会長からは、服の買い物が終わって、今は下着を選んでいるとメッセージが来た。俺にどうしろというのだ?

 どうやら、全身コーディネートするようだ。


 時間になったので、予約した店に向かう。大荷物を持っているのかと思ったが、車に置いてきたと話していた。

 副会長が、会長に見えるように、俺に財布を返してきた。それを受け取って、バッグにしまう。会長が何か慌てていた。あぁ副会長がまた、耳元で何か囁いた。あぁ俺からだって、会長には教えないで選ばせていたな。ユウキは、財布を見れば、俺のだって事がわかったのだろう。


「タクミくん。あの」「いいですよ。副会長には言ってあります。それよりも、昼ごはんにしましょう」


 いろいろ面倒なので、会長の話は、スルーする事にした。

 予約名を伝えて、店の中に案内してもらう。店に入ってすぐに、デザートコーナがあり、その横に、ワッフルを焼く機械、ソフトクリームの機械と、かき氷の機械が並んで置いてある。

 その横には、イタリアンといいながら、和風な惣菜が大皿にもられている。手前には、パスタやペンネやラザニアも有るようだ。

 その奥には、肉料理やメインになるような物がある。今日は、カツレツとローストビーフのようだ。ユウキの目が光っている。本当に肉好きだな。


 角を曲がったところに、ドリンクコーナがある。ドリンクも充実している。

 その先に、半個室になっている場所が予約している席だ。どういう団体に見えるのだろう。気にしてもしょうがないので、案内された席に座る。バイキングコースのほかに、一品料理コースがあるが、全員バイキングコースにする。


 制限時間を告げられたが、そこまで食べるのには時間は必要ないのだろう。


 各々好き勝手に食べ始める。

 ユウキは、予想通り肉三昧だ。幸せそうな顔して頬張っている。意外だったのが、副会長が、ラザニアを少し食べて、あとは惣菜にしている。そして、一番早くデザートに向っていった。帰ってきた手には、フルーツが沢山乗ったワッフルを持っていた。一つは会長の分だろう。

 会長は、予想通りというか、パスタを中心に食べていた。副会長が持ってきたデザートを幸せそうな顔をして食べている。

 俺は、まんべんなく食べて、今はコーヒーをまったり飲んでいる。


 食事が落ち着いて、皆がドリンクを飲み始めてから話し始める。

 今回の件の顛末を話す事にした。高田さんの事は、話さないで、塾からの依頼だという事にした。


 一通りの説明を終えた。

「タクミくん、それで塾の事を聞いたのね」

「えぇそうです」

「これで終わりなのか?」


 副会長らしい疑問だ。

「えぇそうですね。あとは、塾側の判断になると思いますが、いじめと言っても、いじめられた本人がどう考えるのかを聞いてないですからね」

「そうか・・・釈然としないが、僕たちは部外者って事なのだな」

「そうなります。ただ、塾ですからね。何らかの処分はするのかもしれません」

「そうよね」「そうか・・・それで、キミは、どうするのだ?」


「へ?」

 間抜けな声を出してしまった。


「俺は何もしませんよ?夕方に、未来さんのところに報告して終わりですよ」


 会長と副会長がなにやら考え込んでいる。ユウキは、デザートを取りに行くようだ。

 ユウキが席を立った事を確認して

「キミ。それで、僕たちにしてほしい事はなんだい?」


 おっ感が鋭いね。

 確かに、会長と副会長には、できればやって欲しい事があった。ユウキが居るところだと、ユウキが自分もやると言い出しそうだったので、言わないでいた。


「そうですね。簡単な事ですが、一人の女子の相談に乗って欲しいのです」

「ん?ユウキ以外に、彼女が居るのか?」

「ユウキは彼女ではありませんよ。もちろん、今から説明する女子も違います。話を進めていいですか?」

「なんだ、少しは動揺するのかと思ったけど、駄目だったな」「梓!」


「はい。はい。それで、その女子が、あの塾に居るのですが・・・」

「あぁいじめられている子だな。それで、キミはどうしたい?」

「その女子の相談に乗ってあげてほしいのですよ」

「わかった、そのくらいなら構わないよな。いいよな。美優」

「えぇ問題ないわ。でも、タクミくん。その子の望みがわからないと、私たちでできるとは限らないわよ」

「大丈夫ですよ。税理士になりたいらしいですからね」

「そうか、そうなると、あの塾じゃだめじゃないか?美優?」

「そうね。私が行っている塾の方がいいかもしれないわね」

「やり方は、お二人に任せます。ユウキを通して貰えば接触もできると思います」

「わかった」「わかったわ」


 丁度、ユウキがワッフルを持って帰ってきた、2枚焼いて、一枚はアイスを上に乗せているようだ。

 もう一つは、生クリームとフルーツでデコレーションして、チョコレートを上からかけている。そして、器用に持っているもう一つの器には、下にかき氷を作って、上にソフトクリームを置いて、その上からジャムを大量にかけている。


 幸せそうに食べているユウキを見ながら、先輩方と他愛もない話をした。

 その後、ユウキが行っていた、タルトが美味しい店に移動して、6個と4個の合計10個のタルトを買った。6個は、未来さんの事務所に持っていって、4個は先輩方へのお土産になった。いろいろ回っていたので、待ち合わせ時間に近くなってしまったために、未来さんの事務所まで車で送ってもらった。


 少し早かったが、未来さんの事務所に向かう事にした。

 来客がなかったようで、早速話をする事になった。話といっても、すでに報告書も渡してあるので、内容の確認を行うだけになった。


「ミクさん。この”いじめ”をしていた子たちに何か罰則とかできないの?」

「うーん。気持ちは、わかるけど罰則となると難しいと思うわよ」

「えぇぇぇなんでぇぇぇ」


 未来さんが、ユウキに懇切丁寧に説明しているが、感情の部分では、未来さんも同じなのだろう。

 でも、今の法律で”無視”されたからと訴える事ができるかと言われると、できるけど、勝てるとまでは言えないのだろう。それに、無視するための方便で、何か誹謗中傷がされたら別だけど、そうでない状況では、勝つ見込みも無いだろう。証拠もつかめるとは思えない。


「タクミ。なんとかできないの?」

「俺?できないな。塾が注意するくらいじゃないのか?」

「ぶぅー」

「ユウキ。相手もそれがわかっているから、あまり過激な事をしてきていない可能性が有るのよ」

「そうだけど・・・」

「そうだ、タクミ。克己さんから聞いたけど、何かアプリが有ったらしいけど、そっちは?」

「え?あっアプリは別口ですね。たんなる小遣い稼ぎですよ」

「誰かわかったの?」

「当たりは付けました。ただ、確定じゃないですよ」

「それでもいいわ」

「王子と呼ばれていた男子です」

「そう・・・。それで、そのアプリは、何か悪さはしていないの?」

「俺が調べたところでは、アフィリエイト狙いですね。しょうもない物でしたよ。詳しい調査は、おやじが”やる”ことになっています」

「わかった。それは、克己さんからの連絡を待つことにするわ」


「ねぇねぇタクミ。そのアプリって何?」

「あぁユウキが、女子から渡されたQRコードは、アプリへの誘導だった。そのアプリを開くと、塾の裏サイトにつながるようになっていた」

「裏サイト?」

「そうだよ。そこで、早苗さんが、王子と言われている男子に色目使っているとか、塾の講師の誰それは教え方が下手だとか、講師のだれそれの香水がきついとか書かれていた」

「へぇそんな事、直接言えばいいのにね。なんで、裏サイトなんて作るの?」

「さぁ俺にもわからん」

「あっそれで、なんで裏サイト作ると、お小遣い稼ぎができるの?」

「あっ・・別に、裏サイトじゃなくてもいいのだけど、毎日アクセスするようなサイトを作って、そこに広告のバナーを設置して、そこから広告収入を得られるようになる」


 一気に説明したけど、未来さんも、ユウキも、頭の上にはてなマークを何個も出しているようだ。

 実例を見せながら説明した。これでわかってくれるといいのだけど・・・。


「うーん。理屈は理解したけど、それで、お金が入ってくるの?」

「多分な。このアプリだけど、同じヤツが、学校と部活でアプリを作っていた」

「へぇ」

「どのくらいの人数が使っているのかわからないけど、塾だけで、ユウキの話から、30人くらいは使っていると思う。学校用や部活用も同じくらいが使っていると想定すると・・・」


 紙に書いて説明する。

 アフィリエイトは2箇所。違う物が貼り付けられているが、両方ともクリック報酬のようだから、1クリック1円と計算する。

 30人全員が、一日一回二箇所の広告をクリックすると考えると、30×2で、60円の報酬になる。それが、3つのアプリがある、180円/日となる。面倒だから30日で計算すると、180×30で、5,400円/月となる。5,000円で下ろせるかわからないけど、毎月5,000円の小遣いが入ってくる可能性が生まれる事になる。


「へぇ5,000円かぁ・・・多いね」

「あぁ本人は殆ど何もしないで、5,000円だからな」


 ユウキが何か釈然としない雰囲気がある。


「でも・・・」

「でも、そうだな。違法でもないし、何も悪い事では無いけど、突き詰めていくと、問題行動である事は間違いないからな。まぁユウキはあんまり考える必要はないと思うぞ。それに、そんなに長く使う事はできないと思うからな。そうでしょ?未来さん」

「そうね。タクミのいうとおりね。学校側にも、塾にも、報告する事になるからね」

「え?それで何か変わるの?」

「多分だけど、塾や、市高は、工業とは違うから、放置して監視なんて事にはしないと思うからな。潰してくれと言ってくるか、作った本人を呼び出して、何らかの罰を与えると思うぞ」

「えぇそうね。塾は、多分サイトの方にログの提出と、アクセス者のリスト提出を求める事になるし、内容を精査して、法定手段が取れないか考える事になると思うわよ」

「へぇ・・・それなら、いいかな!」


 ユウキは、それで納得したようだ。

 請求書は、未来さん宛に出すことになるので、金額の詰めも行った。

 これからの事は、大人に任せる事になる。俺の仕事はこれで終わった事になる。


--- とある車の中の会話

「美優。どう思った?」

「え?何が?」

「タクミとユウキの事だ」

「あぁユウキは確実だけど、タクミくんは、もしかしたら、無自覚さんなのかも知れないわね」

「やっぱりそう思うか?」

「えぇほぼ間違いないと思うわよ」

「ユウキも、明らかに気があるのに、なんで気が付かないのかね。あの男は?」

「梓。無理だと思うわよ。タクミくんとユウキの距離が近すぎるからね。それに、もしかしたら、タクミくんは、何か思い違いをしているのかも知れないわね」

「それは?」

「タクミくん。インテリや工化の女子に人気あるの知っている?」

「え?そうなのか?」

「えぇそうなのよ。彼、顔は置いておくとして、目立つわよね?」

「そうだな。学校の件も、結局名前は伏せていたけど、タクミが行ったと話に出ていたからな。僕は、否定しておいたけどな」

「それだけじゃないのよね。梓知っている?彼、一年の時に、学校のパソコンがウィルスに侵されたのを指摘して、治したらしいわよ。それだけじゃなくて、ユウキからの頼まれてやったらしいけど、同級生の女子がパソコンを購入したいってときにアドバイスを送ったり、スマホで困っているのを助けているらしいわよ」

「僕たちの時のように?」

「そうね。似たような事だと思うわよ。あと、本人は簡単な表計算だと言っているらしいけど、部活の勝敗表や勝率計算なんかを提供したり、マネージャーの子に頼まれて、部活動の記録のためのアプリを作ったりしているそうよ」

「そりゃぁモテるな」


「そうね。それで、ユウキへの気持ちに自分で気が付かないのでしょうね」

「そうだな」

「今日だって、別に私たちは必要ないでしょう?」

「あぁ」

「でも、あれだって、ユウキが楽しむために考えたのでしょうからね」

「そうだな。全部、ユウキのためなのだよな」

「えぇそう、それで、まだ付き合っていないらしいからね。今日も、自然と横に座って、お互いに好きな飲物を持ってきて、食べ物もシェアしていたからな。見ているこっちが恥ずかしくなってしまいそうだったわよ」

「そうだな。それで、お互いの気持ちを確認している、僕たちだけど、今日はどうする?幸い。タクミの資金から、新しい下着やかわいい下着も手に入ったし、泊まっていくか?」

「バカ、梓・・・でも、そうね。家に連絡して問題なかったら、今日も泊まらせてもらうわ」


---後日談

「タクミ!タクミ!」

「なんだよ。うるさいな。ここ暫く、遅かったから、今日くらい寝かせてくれよ」

「いいから、タクミ。聞きたい事がある!」

「だから、なんだよ?」


 朝からユウキに起こされた。

 リビングに降りて、朝のコーヒーを飲みながら、興奮したユウキの話を聞く事にした。


 ユウキが、早苗さんや、友達経由で聞いた話らしいけど、王子と呼ばれていた男子が、学校を退学になったようだ。

 どうやら、市高ではバイトは禁止されていたが、アフィリエイトとは言え収入を得ていた事がバレて、クビになったようだ。それだけではなくて、彼のスマホから、学校や塾や部活の盗撮画像が出てきて、それも問題になったようだ。


 どうやら、彼はアフィリエイトアプリを改良して、カメラが自動起動して、無音でシャッターを切って、彼のアドレスに転送するようにしていたようで、それらが、なぜか学校側や塾にバレてしまったようだ。

 学校も塾も、大事にはしたくないという大人の事情で、警察には届けないようにしたようだ。

 そのかわり、自主退学という形を取った様だ。


「でも、不思議だよね?」

「なにが?」

「その王子って、そんな事ができるアプリが作れるのなら、もっと別の物を作ればよかったのにね」


 無音シャッターはそれほど難しくない。

 実際に、作ろうと思えば、簡単に作る事ができる。俺も、サンプルを作った事がある。

 作ったサンプルを間違って、知らないアドレスに送付してしまったのが、1週間位前だったはずだ。組み込みに、何日かかったのかわからないけど、アップデート通知が着たのが、3日前だから、組み込みに4日かかった計算になる。それほど優秀でも無いのだろうな。

 組み込みが行われた翌日にはバレてしまったのだから、塾も学校も優秀なのだろうな。


「そうだな。それでどうなった?」

「ん?あっ早苗ちゃんは、なんか、美優先輩と梓先輩から紹介された塾に移ったみたいだよ」

「へぇそうか、それは良かったな」

「タクミ?なんかやった?」

「なんにも」

「へぇ・・・まぁ誰も困らないからいいよ。それよりも、梓先輩に選んでもらった服着て、遊びに行きたいから、どっか連れて行って!」

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